イベントレポート

売上高の急拡大で勢い付くCommon Platform陣営

Santa Clara Convention Centerの外観(手前の建物)
会期:2013年2月5日(現地時間)

会場:米国カリフォルニア州シリコンバレーSanta Clara Convention Center

Common Platformを構成するIBMとGLOBALFOUNDRIES、Samsung Electronicsのシリコンファウンダリ売り上げ比率(2012年)

 Common Platform(コモンプラットフォーム)は、IBMとGLOBALFOUNDRIES、Samsung Electronicsのシリコンファウンダリ(半導体製造請負事業会社)3社によるコンソーシアムである。Common Platformの共同開発拠点はIBMの拠点内にあり、先端技術の研究開発に果たすIBMの役割は非常に大きい。ともすれば、IBMを中心とするコンソーシアムのように見える。

 しかしシリコンファウンダリの事業規模で比べたときには、GLOBALFOUNDRIESとSamsung Electronicsの方がIBMに比べると圧倒的に大きい。市場調査会社のIC Insightsが2013年1月15日に公表した2012年のシリコンファウンダリ売上高ランキングによると、GLOBALFOUNDRIESは世界第2位で45億6,000万ドル、Samsung Electronicsは世界第3位で43億3,000万ドルとなっている。これに対してIBMのシリコンファウンダリ事業による売上高は4億3,500万ドルで、前2社のおよそ10分の1しかない。世界ランキングでは10位である。

シリコンファウンダリ業界の常識が塗り変わる

 シリコンファウンダリの世界ではこれまで、2つの常識が存在していた。1つは、台湾TSMCが売り上げトップ、台湾UMCが2位というものである。もう1つはTSMCの事業規模が同業他社に比べるとはるかに大きく、2位以下を大きく引き離しているという図式である。技術力と生産力でTSMCが同業他社を圧倒しているというのが業界地図だった。

2012年の半導体売上高成長率ランキング。市場調査会社のIC Insightsが2012年11月7日に公表した推定値

 ところがCommon Platformの誕生と成長により、業界地図が塗り変わり始めている。2011年まではシリコンファウンダリの売り上げ2位はUMCだったのだが、先ほど述べたように、2012年は売り上げ2位がGLOBALFOUNDRIES、3位がSamsung Electronicsとなった。UMCは4位に下がってしまった。

 また最近までは、年間売上高の伸びでTSMCを上回るシリコンファウンダリは、ほとんど存在しなかった。言い換えると、TSMCが同業他社をどんどん引き離していた。ところが、2012年のGLOBALFOUNDRIESとSamsung Electronicsはいずれも、成長率でTSMCを上回った。

 Common Platform Technology Forum 2013の基調講演でGLOBALFOUNDRIESのエグゼクティブ副社長をつとめるMike Noonen氏は、2012年に最も成長率の高かった半導体企業はGLOBALFOUNDRIESであると誇らしげに説明していた。これは市場調査会社のIC Insightsが2012年11月7日に公表した半導体売上高ランキングを引用したものである。2012年の推定値なのだが、トップがGLOBALFOUNDRIESで31%成長、2位がQualcommで30%成長、3位がTSMCで17%成長というランキングだった。

2年で売上高を3倍強に増やしたSamsung

GLOBALFOUNDRIES、Samsung Electronics、IBMのシリコンファウンダリ売上高推移

 Common Platform Technology Forum 2013のキーノートセッションでは触れられなかったのだが、シリコンファウンダリ事業の成長率という点で見れば、GLOBALFOUNDRIESよりもSamsung Electronicsが凄まじい。2011年は82%成長、2012年は98%成長という爆発的な伸長を示した。この勢いが2013年も続けば、Samsung ElectronicsはGLOBALFOUNDRIESを追い抜いてしまう。

GLOBALFOUNDRIESは2015年に10nm世代の製造を提供へ

GLOBALFOUNDRIESが2012年9月に発表したロードマップ。Common Platform Technology Forum 2013のキーノート講演では、2015年に「10XM」という10nm世代のスケジュールが追加されていた(撮影禁止のため講演スライドは掲載できない)

 話題をキーノートセッションに戻そう。既報の通り、GLOBALFOUNDRIESのMike Noonen氏は2013年に20nm世代、2014年に14nm世代の半導体製造を提供するとしていたロードマップに加え、2015年には10nm世代の半導体製造を提供していくとのスケジュールを示した。これは相当に性急なスケジュールで、例えばトリプルパターニング露光技術を駆使すれば10nm世代のFinFETと第1層金属配線は加工できるだろう。しかし製造コスト増大との兼ね合いで実需が生じない可能性が少なくない。

 Noonen氏は現在、GLOBALFOUNDRIESが量産中の最先端CMOSロジックは28nm世代であると説明した。速度と消費電力のバランスの違いにより、下記のようなさまざまなプロセスメニューを用意している。速度の高い方から低い方に並べると、おおよそ以下のようになる。

高性能コンピューティング向け:32/28SHP(Super High Performance)
有線アプリケーションとネットワーキング向け:28HPP(High Performance Plus)
ワイヤレスとモバイルコンピューティングとデジタルコンシューマ向け:28SLP(Super Low Power)、28LPH(Low Power High Performance)、28LPS(Low Power PolySi)

 上記のメニューの中で最後の28LPSだけはゲートが多結晶シリコンと酸化膜のプロセス、そのほかは金属と高誘電率材料のプロセス(HKMGプロセス)である。

【お詫びと訂正】初出時に、HKMGについて、「高融点金属と高誘電率材料のプロセス」としておりましたが、「金属と高誘電率材料のプロセス」が一般的な呼び方ですので、そのように訂正させて頂きました。

 次の世代である20nmプロセスは、現在のところは2013年後半に量産開始予定の20LPM(Low Power Mobile)だけがメニューとして用意されている。それから2014年前半に量産開始予定の14nmプロセスで14XM(Extreme Mobility)と、2015年後半に量産開始予定の10nmプロセス10XMが続く。

 トランジスタ構造は14XMと10XMはプレーナ型ではなく、3次元構造のFinFETになる。講演ではARM Cortex-A9デュアルコアの実装例で28SLPプロセスと14XMTプロセスを比較し、同一性能では消費電力が62%低下し、同一の消費電力では性能が61%向上すると、14XMプロセスの優位性を披露していた。

GLOBALFOUNDRIESが提供している(あるいは提供予定の)主な最先端プロセス。2012年12月に東京で開始されたARM Technology Symposium 2012 Japanの展示ブースで示されていたパネル
20nmのプレーナ型トランジスタと14nmのFinFETの性能比較。GLOBALFOUNDRIESが2012年9月に発表した14XMプロセスに関する資料から

Samsungは低消費ロジックを指向

 Common Platform Technology Forum 2013の基調講演では、Samsung Electronicsのファウンダリ事業担当エグゼクティブ副社長を務めるK. H. Kim氏も講演した。前述のようにSamsungのシリコンファウンダリ事業は急成長している。にも関わらず基調講演では業績には触れず、ファウンダリ事業の方向性を解説していた。

 Samsungのシリコンファウンダリ事業が提供するプロセスの方向性を一言でまとめると「低消費電力プロセス」である。モバイル機器のプロセッサやロジックなどに向けた消費電力低減を重視したプロセスで、GLOBALFOUNDRIESのメニューに比べると性能重視の比重は低い。これは顧客層の違いを反映しているとみられる。Samsungの顧客層はモバイル機器の開発企業が中心で、講演では触れていないものの、同社の中心顧客がAppleであることは業界では公然たる事実だからだ。

 SamsungのKim氏はキーノート講演では、14nmでFinFETを導入することと、FinFET導入による20nmのプレーナトランジスタとの性能の違いをまず説明していた。この辺りはGLOBALFOUNDRIESのキーノート講演と同様で、同じ動作周波数であれば消費電力が大幅に下がり、同じ消費電力であれば、動作周波数が大幅に上がるというものである。

 ただしFinFETの導入は良いことばかりではない。Kim氏はFinFETの課題として寸法ばらつきの依存性が大きくなること、トランジスタ設計の自由度(チャネル幅の自由度)が低下すること、寄生抵抗が増加すること、シミュレーションのモデリングが複雑化すること、といった点を挙げていた。

 Samsungが量産中の最先端プロセスはGLOBALFOUNDRIESと同様、28nm世代である。提供しているメニューは、コンピューティングおよびネットワーキング向けの28LPH(Low Power High Performance)とモバイルおよびコンシューマ向けの28LPP(Low Power Plus)。いずれもHKMG技術を採用している。

 今年のCommon Platform Technology Forumは、会場の印象では昨年に比べると来場者が大幅に増えており、休憩時間には移動する来場者で廊下が大混雑、そしてトイレも大混雑だった。Common Platform陣営の勢いが感じられた。ただ、AppleのSamsung離れが指摘されるなど、シリコンファウンダリ事業の行方には不透明感がある。今年はCommon Platformが一段と飛躍できるかどうかの、正念場となりそうだ。

(福田 昭)