Macworld ASIA 2011が北京で開催
~アジア地域では東京以来9年振りのMacworld

会期:9月22日~9月25日
会場:北京市・中国国家会議中心
(China National Convention Center)



中国国家会議中心(China National Convention Center)で開催されたMacworld ASIA

 日本では秋のシルバーウイーク終盤にあたる22日~25日の週末に、中国の首都、北京市において「Macworld ASIA Beijing 2011」が開催された。アジア地域においては2002年3月の東京以来、およそ9年半振りの開催で、もちろん中国では初めてとなるMacworldの名を冠したイベントだ。主催は米国でMacworldを開催するIDGの中国支社となるIDG World Expo China。イベント開催にあたっては、北京市人民政府が協賛している。

 会場は北京五輪の中心地となった競技場「鳥の巣」やオリンピック公園に隣接する中国国家会議中心(China National Convention Center)。会議棟とイベントホールを収容する大規模なコンベンション施設で、Intel Developer Forum 北京などの弊誌レポートでも度々紹介される中国を代表する国際的会議施設である。Macworld ASIAはここを会場として、基調講演を含めたカンファレンスが前半の2日間に、展示会は4日間を通じて開催された。主催者発表によると、展示会へは中国国内をはじめとして、台湾、香港、シンガポールなどの地域や国、そして日本からの出展を含めて計97社が出展したという。

 本誌でも何度かお伝えしているとおり、米Apple自体は2009年を最後にMacworldを含めた展示会への出展を見合わせており、米国と同様に今回の北京開催においても出展や協賛は行なっていない。とは言え、現在の中国はAppleにとっても急成長市場となっており、直営店の数も急速に増えている。実は同じ週末には上海そして香港においてそれぞれ直営店が開店した。現在、中国には北京市に2店舗、上海市に2店舗、そして香港に1店舗、計5つの直営店が存在し、2003年の銀座店開店から計7店舗を展開する日本に数の上でも急速に迫りつつある。

 ほかにも認定代理店となるAuthorized Resellerを各地で展開して製品販売を行なっており、Appleは中国国内においてもブランドとして広く認知されている。もっともブランド価値の向上にともなって、いわゆる偽ブランド品も跋扈しており、北京市の電脳街である中関村には、こうした正規認定代理店と並んで、偽Apple Storeや同社のラインナップにない製品にAppleロゴを付けて販売するいかがわしい周辺機器なども存在しているのが実情だ。


北京市内、三里屯Villageという高級ショッピング街にある直営店のApple Store
北京市の電脳街である中関村。いくつも立ち並ぶ大型ショッピングモールに無数の販売店が入居している。なかには正規代理店ではないApple製品の販売ショップもあるこちらは中国におけるiPhoneキャリアであるChina Unicomのショップ。いわゆる認定代理店にあたる

 こうした清濁をあわせたApple製品と関連製品への興味と需要、そして身近にある巨大な市場をターゲットにして、Macworld ASIAは開催の運びとなった。しかし、開催のアナウンスがあった3月前後から公式サイトなどを中心に情報収集はしてきたものの、開催直前まで正確な開催規模などはわからずじまいだった。当初はApple、Samsung、Nokiaなどが名を連ねていて、“ほぼあり得ない”出展社リストは後日に現実的な出展社ロゴに変わったものの、実際の展示会出展リストがメールで届いたのは開催の前々日のこと。果たして現状はどうだろうと不安ながらに会場へとおもむいたのだが、そこには意外にも米国のMacworldとさほど変わらない洗練されたイベントが準備されていて、かえって拍子抜けするほどだった。

 基調講演が行なわれたカンファレンス用のホールは十分に広く、中国語と英語の同時通訳用レシーバーが希望者に貸与された。以前のAppleのように主役を張る講演者がいないために、基調講演はハードウェア、ソフトウェア、キャリア、リサーチ会社などが、およそ20分刻みでプレゼンテーションを連続して行なうスタイル。講演者は中国人は中国語、欧米人は英語でプレゼンテーションを行なうため、海外から訪れたメディアだけでなく、国内メディア、そしてカンファレンスの聴講者も同時通訳のレシーバーを利用する必要があった。

●中国で注目を集めるMacworld。いっぽうで主催者、出展社のジレンマも

 展示会場はコンベンションセンターの1階フロアにあるホールの半分の面積が使われており、残りの半分では別の展示会が行なわれていた。前述したとおり主催者発表によれば展示会場には計97社の出展があったとのことだが、これは主催者側にとっても十分感触の得られた結果だったようで、IDG World Expo Chinaは早々に来年の開催予定を発表している。Apple関連製品の更なる市場拡大も見こしてか、2012年の開催は今回の倍にあたる1階ホールの全面積を展示会場に用いるとのこと。ただし会期については前倒しされて、2012年の会期は8月2日から5日の4日間となる。

 ここ数年はAppleが9月上旬を1つのメドに音楽系イベントを開催しており、iTunesのバージョンアップやiPodの新製品が発表されてきた。今回のMacworld ASIA 2011の会期設定にあたっては、おそらくそうしたスケジュールから思慮が働いたものと推測される。例年どおり9月上旬にiPod関連の新製品などが発表されていれば、この時期はこれらの関連周辺機器で賑わうであろうことを想像したであろう。しかし結果としては、ご存じのとおり音楽系イベントが開催されていないだけではなく、WWDCで発表されたiOS 5の正式リリース時期や、噂が先行する次期iPhoneに関してもAppleからのアナウンスはまだ一切なされていない。

 これは主催者であるIDG World Expo Chinaも完全にあてがはずれたに違いない。以前のようにAppleが出展者だった頃とは違って、未発表の製品に対して歩調を合わせていくことが困難になったことをあらためて感じただろう。そこで来年の開催はAppleのリリーススケジュールを考えるのではなく、コンベンションセンターの確保や集客に都合の良い時期を優先させるという判断に切り替えたものと思われる。

 このジレンマは主催者だけでなく出展者側にもあるようで、カンファレンスにおける講演や展示会場においても、出すに出されぬ葛藤は見え隠れした。実際、中国におけるiPhoneのキャリアであるChina Unicomの講演では、プレゼンテーションスライドに製品写真こそないもののiPhone 5の文字と、現行のiPhoneではサポートされていないはずのHSPA+ 21Mbpsという表記が見られた。また、前述のとおり展示会場もかなり洗練されてはいたものの、iPhone 5あるいは次期iPhone対応をうたうカバーなどが数点出展されていたり、展示こそないがブースの演出で「5」をうかがわせるものもあった。

 これらに関しては、Appleが製品発表を行なっていない以上、真贋を問うことができず、出展社側がそうと言えばそう受け取るしかない。もちろん出展社側の思い込みや、あるいは完全なフェイクである可能性も否定できない。本誌が現時点でお伝えできるのは、Macworld ASIAの展示会場にそのように称するものが展示されていたという事実だけである。

初日の基調講演でChina Unicomが示したスライド。右側にiPhone 5とHSPA+、そして下り最大21Mbpsという現行製品には未搭載のスペックが記載されている米国に本社があるiPearlのブースに展示されていたプロテクトカバー。帯には大きくiPhone ?と書いてあるが、小さくiPhone 5とも書いてある。これまでのiPhone 4よりひとまわり大きく、ラウンドした形状になっている
韓国のiCoverのブースにあるガラスケース内に展示されていたプロテクトカバーケースやバッテリパックでお馴染みのmophieをはじめiHome、dexim、Lingo、PowerMATなどを取り扱う販売代理店。ブース内に関連する展示はないものの、謎の5の文字を掲示こちらは香港のAnytone。実際の展示こそされてはいないないものの、ブースにはiPhone 5の文字が書いてある

 しかし、実はこれらは事前に想像していたよりも圧倒的に少数であった。中国で
の展示会ということで、もう少し危ない出展内容もあるのではないかと考えていたのだが、それはこちら側のあてがはずれた。Macworld ASIAは米国開催とほぼ同じように展示会は現地の消費者に向けて行なわれており、OEM、ODM先を探したりあるいは海外の販売代理店を求めるような出展はほとんど見られなかった。むしろ、中国に直接の販路を持たない欧米企業の製品を、中国側の正規販売代理店がブランド価値を保つべく整然と展示する様子の多いこと、そしてその出展規模に驚かされたほどである。

 また台湾系の企業はすでにある程度のブランドを確立しており、弊誌におけるApple関連展示会レポートで紹介してきたような台湾系企業は独立したブースを構えていることが多い。こうした企業を中心に、出展された関連機器は「Made for iPhone/iPad/iPod」といったAppleによるライセンス認証を受けたものが目立った。特にiOSデバイスに対応する周辺機器については、単純なものほど差別化が難しくなっている。

 そこで、アプリケーションによる差別化を図るわけだが、iOSの場合はアプリケーションの配布元がiTunesのApp Storeに一元化されている。そこで上記ライセンス認証が必須となるわけだ。勝手周辺機器を作るよりも、ライセンス認証を受けてソフトウェアでの差別化を図った方が有利と多くのメーカーが考えるほうに向かうなら、それはAppleの考えるエコサイクルがうまく回っているということになる。いっぽう、前述したような偽ブランド品については、勝手周辺機器に対しても勝手に偽の「Mad for ~」まで付けてしまうわけだから、正規ライセンス側を保護するためにもAppleによる強い対処が求められることにもなるだろう。

中国におけるiPhoneキャリア、China UnicomのブースAppleのAuthorized Distributorとして出展していた企業の1つ。Microsoft Office for Mac 2011はここで紹介されていたこちらはHarman/KardonやCaseLogic、Griffin Technologyなどの製品を取り扱う現地販売代理店のブース
本誌でも何度か紹介している台湾系企業。Just|Mobile、iBone、OZAKIなどは自社ブランドのブースを出展している

 展示会場をざっと見わたしてもiOSデバイスに関連する展示が特に多い。これは欧米の展示会でもさほど変わらないが、ケースと外付けバッテリが多種多様にある。来場者の目的もそこにあるようで、それらのブースはいつも賑わっている。

 一方、Mac向けの周辺機器はハイエンドなものほど、興味の対象とはなっていないように見える。このMacworldに訪れるような消費者は言うなれば富裕層に属するわけだが、やはりMacやPCは1人に1つというところまではなかなか難しいようだ。その点、1人に1台手の届くiPhone、広くはスマートフォン関連製品が巨大市場となるのもうなずける。ちなみにMacworld ASIAの入場券だが、展示会の1日券が50元(日本円にするとだいたい700円)で、4日間通しの入場券は100元。カンファレンスは1日300元で、2日間通しが500元に設定されている。

 日本ではiPhoneキャリアのソフトバンクモバイルによる取り扱いがないため印象が薄いが、米国では低所得層に向けて、最新のiPhone 4ではなくiPhone 3GS 8GBというモデルが現行製品として存在する。前世代では16/32GBで構成されていた3GSを8GBモデルとして新たに提供することで製品価格を落としたものだ。中国でも同様に、iPhone 3GS 8GBという製品が北京市内の高級ショッピング街にある旗艦店にあたるApple Storeでも販売されている。展示会におけるケースやバッテリの多様なニーズは、こうした広い消費者層から生まれて、低価格帯の製品を大量消費というビジネスモデルをうかがわせるものだ。

 基調講演の概要や、展示会場に出展された注目の周辺機器などは別稿で紹介する。

(2011年 9月 28日)

[Reported by 矢作 晃]