最近のIDFでは、毎回ソフトウェア&サービス事業部長のリネイ・ジェームズ氏による基調講演が組み込まれる。今回は、今年1月のInternational CESで発表されたソフトウェアディストリビューションサービスの「AppUp Store」や、2月のMobile World Congressで発表されたプラットフォーム「MeeGo」の進捗や、こうしたプログラムへデベロッパの参加を呼びかける内容となった。
ジェームズ氏は講演の冒頭、開発者や自分たちは、テクノロジを使う人と考えがちだが、ユーザーに新しい体験を作っていく、促していく人になると考えるたほうがよいのではないかと提案。ただ、こうした新しい体験を促していくのは時間がかかる。
その例として、2つの歴史を挙げた。1つはいわゆる顔文字の歴史で、初めて文字を用いた顔を表現したのは1881年の雑誌「Puck」においてのことだったという。その後、PCで多用されたコロンや括弧を組み合わせた顔文字が登場したのが1982年。実に101年の時間が流れて、ユーザーの体験が一定のクオリティに達したという例だ。現在のメッセンジャーツールでは、アイコンで表情を表せるようにまで進展している。
もう1つの例がタブレットである。初めてのタブレット型製品とされるGridPadが登場したのが1989年。その後、コンピューティングパフォーマンス、タッチパネルの技術の改善が進み、今後3年間で1億台のタブレット製品が出荷される見込みとなっている。
もちろん、リネイ氏の主張は、こうした新しい体験を促し、ユーザーに提供していくうえでインテルアーキテクチャ(IA)を使って欲しいということである。IAはさまざまなデバイスに提供されており、一つの分野・市場だけでなく、さまざまなコンピューティング分野へアプリケーションが広がっていける。これが大きな影響力を及ぼすとした。
さらにリネイ氏は、Intelはパフォーマンス&スケーリング、ビジュアルコンピューティング、接続性について大きな投資、買収を行なってきたとして、そのいくつかの成果を紹介した。
Wind Riverは約1年前に買収した企業だが、SoCのエミュレーションプラットフォームであるVirtutechのテクノロジの販売や、ネットワークのアクセラレーションプラットフォームの例を紹介。後者はパケットプロセッシングとシステムタスクを複数のコアへ分散することでスループットを向上させることができる。
またセキュリティに関する問題はデバイスに関わらず基本的なニーズとして存在するとして、先月発表されたMcAfeeの買収についても言及。すでに買収前からパートナー関係にあり、買収以前から協力して開発してきた成果を2011年に披露できるだろうとしている。
文字のコミュニケーションで表情や感情を表す顔文字は1881年に最初に誕生し、100年以上の時を経て浸透。いまは右端のようなアイコンを用いるようにまでなった |
●Intelが開発者向けに提供するリソース
リネイ氏は世界中にIAプラットフォームの開発者が1,400万人、235カ国にデベロッパプログラムのメンバーがいるなどの統計データを示し、この分野への投資を引き続き行なうことや、より簡単にフルパフォーマンスを発揮できる開発ツールの提供に力を入れていくこともアピール。
その一例として、3年前に買収したHavokを挙げた。HavokはIntelに買収されたあと製品数が2倍に増加し、さまざまなプラットフォーム上で同社のミドルウェアやライブラリを使えるようになってきたという。さらに物理処理に関するいくつかのデモを示し、これらをAtom上で最適化し、開発ツールを無償提供することを表明した。
これは、ネットブックやハンドヘルドデバイスなどAtomプラットフォーム用のソフトウェアディストリビューションサービスであるAppUp Storeで提供される。このHavokのツールを活用したソフトウェアを、またAppUpで公開してもらおうという意図がある。
AppUp Storeに関しては、チャレンジプログラムの優勝者が登壇。Windows上で動作するサッカーゲームをMeeGoで動作するよう移植したプログラムを披露した。MeeGoへの移植にあたっては、サウンド周りで課題が出たが、デベロッパプログラムのフォーラムで答えを得て、1週間程度で移植作業を完了させたという。
リネイ氏はこの事例から、開発プロセスや移植プロセスをシンプルにすることもIntelの使命の1つであるとアピールしている。
【動画】Havokのデモ。トロルの皮膚やクロスを表現したものを多数表示したもの。下部のバーで6つのCPUコアの動作も見て取れる |
【動画】Havokによるスカートをはいた多数のダンサーのデモ。スカートの部分に物理演算をつかっている |
【動画】こちらは破壊表現。前半は物理演算を用いないもの、後半が物理演算を用いたものとなる |
●世界初のMeeGoタブレットを披露
MeeGoについては、今年2月のMobile World Congressで発表して以降、賛同者が増えているといい、PCに縁が深いところでは、ASUSTeK製品に組み込まれた高速ブート技術のSplashTopもMeeGo版が登場しているという。また、ネットブックやメディアフォンなどの例も展示している。
また、来週の火曜日にドイツで4tiitooから発売されるという、世界初のMeeGoベースのタブレットを披露。登壇した4tiitooのStephan Odoerfer氏によると、3年前にプロジェクトを開始した当初はUbuntuで開発を始めたが、Atomベースのアーキテクチャに最適化されているMeeGoに変えて開発したという。結果、非常に軽量なOSで、ブートアップに16秒、スタンバイからの復帰は1秒を実現したという。
UIの面では、右手の親指にあたる部分にメインナビゲーションを配置。ここでアプリケーションの切り替えなどを行なえる。また、左側にも画面スクロールなどを行なえるサブナビゲーションを用意。これにより、両手で保持したままの操作を実現した。アプリケーションはAdobe AirやJava、Androidアプリケーションをサポートしているという。
また、MeeGoを使ったスマートTVのデモも紹介。イギリスで提供されているもので、オープンスタンダードでありながら、コンテンツ保護、ビデオのスムーズなレンダリングなどを実現したシステムを6カ月で開発。UIについては6週間で完成したという点をアピールした。
MeeGoの賛同企業は発表以降、増加を続けているとする | MeeGoをベースとしたネットブックやタブレット、ネットワークデバイスなど | 世界初のMeeGoベースのタブレット「WeTab」。ドイツで来週から発売される |
【動画】4tiitooのStephan Odoerfer氏によるデモ。左右にナビゲーションを用意し、両手で持ったまま操作ができるUIが1つの特徴 |
MeeGoベースのスマートTVのデモ。これはミュージックライブラリ。静止画などの表示ももちろん可能 | TVの視聴デモ。こうしたUIを6週間で開発したことを強調した |
最後にAppUp Storeの現状であるが、Atomデベロッパプログラムと組み合わせて勢いを増しているとした。AppUp Storeはこれまでベータとして提供されてきたが、いよいよ正式稼働へ移行する。
IDF会場であるモスコーンセンターウエストの向かいにあるショッピングセンターには、AppUp Storeの店舗出店。ここでは多数のネットブックが並び、AppUp Storeを体験できるコーナーが用意されている。
AppUp Storeのパートナーについては、BestBuyなどでAppUp Centerをプリインストールしたネットブックが販売されるほか、ASUSTekはAppUp Storeをベースに独自のカスタマイズを加えたネットブックを発売。SEGAもゲームプログラムをAppUp Storeで提供していくことを表明している。
リネイ氏は最後に、ユーザーの体験をより豊かなものに変えていくために、将来にわたって最新の技術を使いデベロッパをサポートしていきたい、と述べて講演を締めくくった。
IDF会場の向かいに開かれたAppUp Storeの店舗 | 店舗内にはネットブックが並び、AppUp Storeを体験できる | 展示機はFujitsuのネットブックが用いられ、AppUp Centerの画面が表示されていた |
AppUp Store関連のパートナーも増加。AppUp Centerをプリインストールするネットブックなどが発売される | SEGAもパートナーに参加。同社が以前にリリースしたゲームなどをAtom上で動作するよう移植して提供される予定 |
(2010年 9月 16日)
[Reported by 多和田 新也]