【IDF 2010展示会レポート】
Moorestownを搭載したMIDやIAベースのカーナビなど

基調講演の会場横で行なわれるショーケース

会期:4月13日~14日
会場:中国国家会議センター(China National Convention Center)



 Intel Developer Forumのメインイベントは、これまでのレポートにもある通り基調講演で、その中でIntelのエグゼクティブから同社の戦略などに関する説明が行なわれる。

 しかしIDFの魅力はそれだけではない。基調講演についで大事なのが、Intelの現場の責任者により技術的な詳細などが語られるテクニカルトラックだ。主にマーケティングの話が中心となる基調講演とは違い、テクニカルトラックでは実際に製品を開発しているエンジニアなどが技術的詳細を語ってくれるからだ。

 そしてもう1つ忘れてはならないのがショーケースと呼ばれる展示会だろう。展示会では基調講演でデモに利用された製品を実際に触ることができたり、基調講演では紹介しきれなかったような新技術を採用した製品なども展示されている。

 本記事ではそうしたIDFの基調講演以外の側面についてレポートしていきたい。

●テクニカルセッションではより深い技術的な詳細が語られる

 IDFの朝は早い。Intelの人たちが早起きが好きなのはどうかは知らないが、米国で行なわれるIDFの場合には、朝8時から基調講演が開始される。このため、基調講演の前の方の席を確保して、少しでもいい写真を撮りたいと考える我々報道陣は、開始の40~50分前から並んで、30分前に行われるゲートオープンに備える。今回のIDFでは、基調講演は朝9時からになっていた。それでも、開始の40~50分前から並ぶという行為そのものは変わらないので、結局朝8時には会場に着いている必要がある。

 米国で行なわれるIDFの場合、基調講演に登場するエグゼクティブは2人で、多いときには3人になることがある。1人に用意されている時間は1時間~1時間半になるので、そのレポートはかなり大変な作業になる。今回のIDFは、Intelスタッフにとって遠征先であることもあるのか、時間は1人50分と若干短めだった。有り体に言ってしまえば、時間が短いだけ、内容も薄かったというのが率直な感想だ。

 11時頃に基調講演が終わった後は、テクニカルセッションと呼ばれる、セミナーが行なわれる。テクニカルセッションは、テーマ毎に複数の部屋で同時進行で行なわれるため、参加者は自分の興味がある分野を選んで参加することになる。テクニカルセッションでは、実際に製品を開発しているエンジニアや、マーケティングの担当者でもダイレクター(日本で言えば部長に相当、基調講演に登場するのは事業本部長)レベルの担当者で、基調講演に比べてもう少し詳しい説明を行なってくれる。講演の最後にはQ&Aの時間も用意されており、彼らに直接疑問をぶつけるいいチャンスだ。

テクニカルセッションの1コマ。このセッションはMoorestownに関するセッションで、米国Intelのマーケティングディレクターが実際の機器を見せながら技術的な解説をするこのように複数の部屋でそれぞれのテーマに合わせたセミナーが行なわれる

●ショーケースでは基調講演などで利用された機器が展示

 テクニカルセッションは午前の基調講演が終わった後の1時間と、午後2時~午後6時までの約5時間にわたって行なわれる。お昼に相当する午後0時~午後2時、晩の午後6時以降にはショーケースと呼ばれる展示会が開かれる。ただし、今回は若干異なっており、午前11時~午後5時までの間、テクニカルセッションと平行してショーケースが行なわれた。

 そのショーケースだが、基本的には基調講演で利用した機器やシリコン、さらには基調講演には利用していないが、テクニカルセッションなどで紹介された製品などが展示されており、実際に触って動作などを確かめることができる。

 なお、ショーケースではないが、別のAdvanced Technology Zoneと呼ばれるエリアも用意されているが、このエリアではIntelのPC向けの最新プロセッサや内蔵グラフィックスなどの機能が紹介されるエリアとなっている。秋にアメリカで行なわれるIDFでは、新製品のPC向けプロセッサなどが紹介されることがあるのだが、2010年の製品リリースは1月に行なわれており、それから時間がたっていることもあり、デモされているのは実際に市場に存在する製品ばかりで特に新しい製品はなかった。

Advanced Technology Zone。Intelが1月に投入した2010年Coreプロセッサ・ファミリーのデモなどが行なわれていたIntel HD Graphicsを利用した3D立体視の再生デモ今回はエコなIDFを目指しているとのことで、電球がLEDになったり、ゴミ箱が紙製になるなどしていた。でもまずはCPUの消費電力を下げることが先では? と心の中でつっこんだことは秘密だ
参加登録の会場。入り口では簡単な荷物チェックが行なわれていたが、これはIDFに限ったことではなく、北京では人が集まるところ(例えば地下鉄の駅や紫禁城などの観光地)では一般的に行なわれていたので、普通の光景のようだIntelのおなじみのスローガンも中国語で書かれている。これはSponsers of Tomorrow(日本語訳は、その好奇心で、未来をつくろう)だろうか?

●Moorestownに対応したポータブル端末が展示

 一方ショーケースの方にはいくつかの新製品が展示された。中でも注目なのは、Intelが今年半ばまでにリリースするとしている、Atom Zシリーズ(Menlow)の後継となるMoorestown(ムーアズタウン、開発コードネーム)を利用したポータブルターミナル。展示したのはFlatOakという日本のベンダだ。

 「Peartree II」と呼ばれるその端末は、Moorestownを搭載した製品向けにソフトウェアを開発するためのリファレンスプラットフォームで、CPUはLincroft(MoorestownのGPU)、メモリはDDR2 256MB、8GBのSSD、タッチパネル機能を持つ5型のWVGA液晶、WiMAXやWi-Fi、3Gの通信カード向けのPCI Express Mini Cardや、ワンセグチューナも内蔵しており、日本での利用も意図した設計になっている。OSはMeeGoなどが利用可能になっている。

 ただし、すでに述べたように開発者向けの開発キットで、エンドユーザー向けに販売されるようなものではない。Moorestownに対応したソフトウェアを開発したいが、開発環境がないという開発者の方であれば同社に問い合わせてみるといいのではないだろうか。

FlatOakのPeartree II。Moorestownの開発キットで、開発者向けのリファレンスキットメーカー名、製品名とも不詳のWindowsタブレット。Windows XPを搭載しており、縦長の液晶と、下部には小型のキーボードも用意されている。趣はKindle Windows版という感じだ
HANVON F10は、Menlowプラットフォームベースの10型液晶を搭載したタッチパッド。OSはWindows XPHANVON B10もMenlowプラットフォームベースの10型液晶搭載タッチパッド。OSはWindows 7AigoのBYD M09AS。VAIO Pによく似たデザインだが、ポインティングデバイスなどが異なっている

●WIND RIVERは車載システム向けハイパーバイザーを展示

 今回のIDFでは、組み込み向けの話題がイベントの中心で、基調講演も4つのうち2つまでが組み込み向けの話題が中心になっていた。ショーケースもそうした動向を反映しており、ブースのうち半分近くが、組み込み向け関連の展示になっており、PCの話題は少なかった。Intelという会社はマーケティングメッセージに本音が透けて見える会社なので、今はIntelが全社を挙げて組み込み市場を取りに行っているという状況なのだろう。

WIND RIVERのハイパーバイザーのデモ。ハイパーバイザーの上でVxWorksとWindowsが並列して動作しているので、Windows OSに問題が起こっても再起動しても、VxWorksは問題なく動き続ける

 そうした組み込み系の展示の中にも、PCユーザーであっても注目の展示はある。例えば、Intelの子会社で組み込み向けのソフトウェアを開発しているWIND RIVERの展示はユニークだった。WIND RIVERの組み込み用ハイパーバイザーを展示しており、同じ1つのプラットフォームの上で、VxWorksというリアルタイムOSとWindows XPを同時に動かしていたのだ。VxWorksは完璧な安定性が必要とされる自動車の制御などにも利用されるOSで、この仕組みを利用することで、1つのプロセッサだけで、メーターなどのミッションクリティカルな制御はVxWorksで行ない、オーディオやビデオ再生など性能などが要求されるエンターテインメントはWindowsで制御するなどの使い方が可能になる。車のシステムにWindowsやAndroidなどのプログラマブルなOSを採用する場合には安定性が問題になるが、この仕組みを採用することで車が止まってしまうなどのトラブルを防止しつつ、ユーザーがカスタマイズ可能なプログラマブルのOSを自動車で利用することができる。

●車載用Atomプロセッサに対応したカーナビのサンプルが展示される
基調講演でHaw Tai Automobileが発表した中国向け高級セダン車のB11

 昨年、中国は世界一の自動車市場になったこともあり、自動車関連の話題は非常に多いが、今回は畑違いともいえるIDFでも自動車関連の発表があった。別途基調講演のレポートでもお伝えしたとおりで、基調講演ではHaw Tai AutomobileのB11という車載向けAtomプロセッサを搭載した自動車が発表された。基調講演の後には、Intelのダグラス・デイビス副社長、Haw Tai Automobileのワン・ディンミン副社長のほか、B11に搭載されたIVIを開発したBLUESTAR TECHNOLOGY、OSを開発したRedflag Linux、中国政府の高官などが招待されて発表のセレモニーが行なわれた。

 そうした状況を反映してか、ショーケースでもAtomプロセッサを搭載したカーナビなどが多数展示された。前出のBLUESTAR TECHNOLOGYは、Windows XP+Atomで動作しているIVIシステムを展示した。B11に搭載されているIVIシステムは、OSとしてRedflag Linuxを搭載しているが、今回のデモで利用されたのはWindows XPベースのシステムで、GPSのほか、オーディオやビデオ再生、ハンズフリー機能など一通りの機能を備えており、終了ボタンを押してWindowsデスクトップに降りない限りはWindows OSが動いているとはわからないほどだ。

 Hazen Auto Electornicsも、同じくWindows XPベースのIVIシステムを展示した。プロセッサには車載向けのAtom Zシリーズ、OSはWindows XP Professionalで、その上でカーナビ用のソフトウェアが動作しているという仕組みになっている。外部ディスプレイ出力を2つ備えており、リアシート用のディスプレイを2つ接続することができるようになっていた。

 このほか、WIND RIVERのブースでは、OSにMeeGoを採用した車載用Atomを採用した2DIN用のカーナビも展示された。こちらは7型液晶を採用した製品で、タッチパネルでさくさくと操作し、WebサイトやYouTube、Twitterなどにカーナビからアクセスできるようになっていた。もちろん運転中には危ないので操作はできないが、停車している時間にちょっとTwitterにアクセスしたり、YouTubeにアクセスしたりが可能になれば便利なのはいうまもでなく、ぜひとも日本のカーナビベンダーでも採用して発売していただきたいモノだ。

基調講演の後で、各社の関係者と中国政府高官が出席して行われたB11の発表セレモニーBLUESTAR TECHNOLOGYのIVI。Windows XPベースで動作している
Hazen Auto ElectornicsはWindows XP Professionalが動作するIVIシステム。後部座席用ヘッドレストのディスプレイもAtomの基板から出力WIND RIVERが展示したCOMPAL製のカーPC。OSはMeeGoで、ブラウザやTwitterクライアントなどを備えている

●ArcSoftはBDA認証のBlu-ray 3D対応TotalMedia Theatreをデモ

 Blu-ray 3Dへの対応はPC業界にとっての次の大きな技術トレンドになりつつあり、OEMメーカーはその実装に腐心している。すでにサイバーリンクはPowerDVD 10でBlu-ray 3Dへの対応を明らかにしているが、それに続いて対応を明らかにしたのがArcSoftだ。

 ArcSoftは4月8日に、同社のTotalMedia TheatreがBDの規格を策定しているBDA(Blu-ray Disc Association)からBlu-ray 3Dの認証を取得したことを明らかにしており、IDFではそのTotalMedia Theatreを利用したデモを行なった。デモでは、ウインドウのままで2D/3Dの切り替えを行なうことできる様子などが公開され、現時点では3D立体視を有効にするとフルスクリーンになってしまうPowerDVD 10に比べて使い勝手が優れていることなどがアピールされた。

 ただし、展示員に環境などを聞いてみたのだが、残念ながら誰も英語が話せないようで、環境(どのGPUを利用しているのか)は明らかではなかったが、今年の後半にも登場するといわれるBlu-ray 3Dに対応したタイトルの登場に向けて、選択肢が増えるのはユーザーとしては嬉しいことといえるだろう。

ArcSoftのTotalMedia TheatreのBlu-ray 3Dの再生デモ3Dの操作パネル。デモでは偏向方式の3Dグラスが利用されていたが、NVIDIAの3D Visionにも対応可能

(2010年 4月 16日)

[Reported by 笠原 一輝]