【ET2009 会場レポート】その1
大増殖のAndroid

【写真1】ET2009

会期:11月18日~20日
会場:パシフィコ横浜



 国内の組み込み向けイベントとして、5月に開催されるESECと並んで大きいのが11月のET(Embedded Technology)だ。今年もそのET2009が11月18日~11月20日の予定でパシフィコ横浜で開催されている。

 このタイミングにあわせて新製品を投入するメーカーもあるし、19日にはIntelの招待講演が行なわれるといった話題もあるほか、展示会場の隣でETロボコン2009も開催されるなど、ネタも色々あるのだが、筆者は展示会場のレポートをお届けする。ちなみに参加者の出足、初日の午前中はいまひとつといった感じだったが、午後にはずいぶん増えて盛況という感じになった(写真3)。

【写真2】おなじみパシフィコ横浜。やや通路の広さは目立つものの、ほぼホール全部を使い切っての展示であり、ブースの数もそれなりに多かった【写真3】筆者は午後4時位に会場を退散したのだが、その時点でもまだ受付に列が出来ており、遅めに会場入りする参加者が結構多いのが目立った(ちなみに18・19日は午後5時まで)

●いたるところにAndroid

 もともとETはESECなどに比べると、ソフトウェア寄りの参加者がやや多い傾向であり、これにあわせて展示内容もソフトウェア系の開発ツール類だったり、あるいはすぐにソフトウェア開発を始めるためのハードウェアキット類といったものが比較的多く目立つイベントであるが、今回はそうしたものがAndroid対応を進めているのが目立った。

 そうした中で比較的目立ったのがOESFのブース(写真4)。Eゾーンという会場の割と端にあったが、このブースに多くの企業が細かく製品やサービスを出展しており、観客の関心も高かった。もっともOESF自体が、端的に言えばAndroidに関心のある企業ならばどこでも参加できるという間口の広さだけに、展示内容もさまざま。STBワーキンググループ(Androidを使ってSTBを構築するためのフレームワークや共通プラットフォームの策定)のデモ(写真5、6)、VoIPワーキンググループ(Androidを使ったVoIPフォン構築のフレームワーク策定)のデモ(写真7、8)などのワーキンググループそのものの展示の他、Embedded VRT for Android(写真9、10)などの製品のデモや、こんなもの(写真11)まであった。

【写真4】丁度ゾーンEの出入り口真横という、それなりに良い場所を確保したことも目立った理由の1つかもしれない【写真5】Android STBの構成。STB用のJNIというのがちょっと面白い【写真6】こちらは展示されていたボード。とりあえずはまだ開発ボードのレベルであって、商品化とかそういうレベルのものではないらしい。出展協力にはアドバンスド・コミュニケーションズ、シグマデザイン、MIPS、ミツミ電機の名前が挙がっていた
【写真7】こちらはすでにD2 TechnologiesがmCUEという製品をリリースしていることが示された【写真8】そのD2 Technologiesがデモシステムを出展。MIPSベースの開発ボード(搭載されていたのはRMIのAlchemyのようだった)上にmCUEを移植してルーター経由でVoIPフォン(ボード左の黄色い電話機)や、更にAndroidベースの携帯電話(電話機の更に左。T-mobileのものだった。ルーターとはWiFiで繋がっているそうだ)と通信できるデモを見せてくれた【写真9】これはウェルインテクノロジー(旧社名ウェルビーン)が提供する、I-TRON上でAndroidを動かすための実行環境。今回はアットマークテクノのArmadillo-500を使っての展示
【写真10】デモシステムの構成【写真11】確かに教育ビジネスというのは必ずついて廻るし、Androidはこれから立ち上がることが有望視されている。具体的にどんな内容なのかはちょっと興味あるところ
【写真12】同社はルネサステクノロジと共同でSHへのAndoroidのポーティングを行なっており、このため提供は同社ではなくルネサステクノロジからになる、という話であった

 Androidそのものの移植、というニーズもまだ高いようで、イーゲルはルネサスのSHシリーズへのAndroidの移植をデモしていた(写真12)。説明によれば、やはり初期のAndroidは特定のアーキテクチャにかなり依存した作りになっていたそうで、それを(特定のアーキテクチャから)「ひっぺがし」、SHなどに移植、最適化するのは結構大変だったとか。先日Android 2.0の“Eclair”が発表されたが、こちらでは移植が簡単になった反面、まだ安定していない部分があるとのことで、このあたりの選択は難しいことになりそうだ。

 また(これはARMやMIPSベースのSoC、あるいはx86のボードにもいえる話だが)OSのコアとかはともかく、全ての周辺機器をもれなくカバーするのは大変な作業で、また一部のデバイスについてはドライバ類が非公開(ApacheやGPLv2に準拠していないドライバコードなどが存在する)の場合、その部分は各ベンダー自身がドライバを用意してくれないとどうにもならないといったケースがままあり、このあたりもなかなか大変という話であった。

 ちなみにルネサスのAndroidソリューションとしては、SH-Mobile R2E対応のIPCAM(デジタル監視カメラ)用評価ボードやソフトウェアパッケージがまもなく提供開始となるほか、この11月からルネサス オープンソースポータルサイトが公開されるという話であったが、今のところまだポータルサイトは未公開(パスワード認証がかかった状態)となっている。

 そういえばAndroid対応開発キットとしては、かなり初期からアットマークテクノのArmadillo-500(写真13)を使うケースが多かったと記憶するが、その廉価版というか小型版として新しくArmadillo-440が展示された(写真14)。CPUはi.MX25に変わっているほか、当然I/Fも多少省かれているが、ただここまで小型化しながらも必要なI/Fはオンボードで搭載しているので、これをそのまま機器に組み込んで使う、なんてことも可能だとの事。これについてもやはり同社が既にAndroidの移植を完了したとの事だ。

【写真13】Freescaleのi.MX31Lを搭載したCPUモジュールがArmadillo-500で、これに液晶モニタを組み込んだ写真のものがArmadillo-500FXとなる。ぷらっとホームなどで通信販売で購入できるタッチパネルや無線LAN機器の組み込み開発もArmadilloでこともあり、また同社が早くからAndroidのポーティングを行なってきたのも人気の理由の1つだろう【写真14】Armadillo-500FXではやはり大きすぎるが、だからとしてArmadillo-500を買って周辺回路を載せたベースボードを作るのは面倒、という向きに、液晶こそ省いたものの周辺回路を搭載することで小型化を図りつつすぐに開発に使える構成にしたのがこちら、とのこと

 Androidの移植としては、他にユビキタスがAndroidを高速起動するミドルウェアを発表しているが、これは別記事でまたご紹介したい。

 こうしたソリューション以外に、コンポーネントを提供するベンダーも現れた。例えばオムロンソフトウェアは、Androidそのもののインテグレーションサービスの他に、Android上で動くiWnnの展示を行なっていた。同種のものは富士通でも提供しており、Androidを使った地デジ(写真16)やDLNAデバイス(写真17)に加え、あくまでも参考出展としながら、手書き入力機能を移植したデモを公開していた(写真18、19)。もっとニッチかな? というのはモリサワの展示(写真20)。同社のKeiTypeをAndroidに移植という話で、これを使うことで表示できるフォントの幅が広がるということだった。

【写真15】Android対応iWnnといっても、従来携帯電話向けに提供してきたiWnnの延長にあるものだとか【写真16】同社のJADEシリーズのSoC(MB86R01)に地デジモジュールを組み合わせ、Android 1.6をポーティング。その上のアプリケーションも構築したという参考出品。JADEシリーズは元々車載インフォテイメントシステム向けを想定したSoCで、2画面(運転席とバックシート)の出力とか、最大6面のオーバーレイなど、ちょっと独特な仕様を持っている。今回も、画面下部のチャネル選択や上側のチャネル表示は、映像と別レイヤで表示しているとか【写真17】ここにも出てきたArmadillo-500FX。ここでの内容は、同社のIspirium HomeNetwork LibraryというDLNA用のミドルウェアをAndroidに移植することで、Androidで簡単にDLNA対応機器が構築できますというもの。デモでは右のバッファローのメディアサーバーからDLNAを使い、写真や音楽、動画などの再生が行なえていることを示した
【写真18】システムの構造。ふと思いついて「仮名漢字変換エンジンがOASYSだったりしませんか?」と聞いてみたが、さすがに違うとのこと【写真19】タッチパネルでの動作デモ中。ちなみに携帯電話機にもインプリメントしたところ、こちらの方がタッチパネルの感度がいいためにむしろ入力がしやすかったとのこと【写真20】KeiTypeは携帯機器向けに、データ容量の少ないフォントと軽量なフォントエンジンを組み合わせたもの。これをAndroidに移植したことで、より綺麗な文字表現とか、異なるフォントを選択するといった事が可能になる。恐らく第一世代のAndroid採用機器ではそこまで気が回らないだろうが、それに続く世代では差別化のためにこうした表現品質も関係してくるのだろう

 もっとも、こうした中小ベンダーがAndroidへの傾倒を深めてゆく傾向が見える一方、大手ベンダーはもう少し冷淡な態度だった。例えばMentor GraphicsはAndroidの開発環境をサポートといった事を表明していたが、ブースに行って見るとNucleus/Linux/Androidが並んでいて、Androidに注力というよりは「望むなら提供できます」といった程度。東芝もAndroidの一貫サポートを掲げていたものの、具体的な内容がいまいち見えてこなかった。NECやIBMは、そもそもAndroidという文字がブースで見当たらないといった状況で、中小ベンダーとの明確な違いが感じられた。

(2009年 11月 19日)

[Reported by 大原 雄介]