【COMPUTEX 2009レポート】
2009年後半にはAMD以外の企業からの半導体製造受託を開始
~GLOBALFOUNDRIESインタビュー

GLOBALFOUNDRIES 製造システム・技術担当副社長 トム・ソンダーマン氏

会期:6月2日~6日(現地時間)
会場:Taipei World Trade Center Nangang Exhibition Hall
   Taipei World Trade Center Exhibition Hall 1/3
   Taipei International Convention Center



 GLOBALFOUNDRIESはAMDの製造部門がスピンアウトし、AMDとアブダビの投資会社であるAdvanced Technology Investment Company(ATIC)により設立された企業だ。製造施設はAMDのFab36/38を受け継いでいるほか、今年の7月には米国ニューヨーク州に新しい製造施設の建設も予定しており、急ピッチで新体制への移行を進めている。

 COMPUTEXの会場においてGLOBALFOUNDRIESの製造システム・技術担当副社長のトム・ソンダーマン氏は本誌の取材に応じ、現在の主事業となっているAMDから製造委託されているマイクロプロセッサの製造だけでなく、AMD以外のベンダーからの製造委託も今年後半から受託する計画で進めていることなど、具体的なプランを説明した。

●AMDの精神を受け継ぐGLOBALFOUNDRIES、AMDのFab36/38はFab1に

 GLOBALFOUNDRIESは今年の3月に正式な会社としてスタートした。その前身はAMDの製造部門であり、実際トップを務めるのもAMDの出身者が占めている。会長はAMDの前会長兼CEOであるヘクター・ルイーズ氏であり、ドイツザクセン州ドレスデンにある製造施設のトップを務めているのはやはりAMD時代にドレスデンのFab30開設などに深く関わったジム・ドーラン氏であるなど、AMD色は今のところ強いと言ってよい。

 実際にソンダーマン氏はこのことを隠していない。「我々は基本的なスピリットはAMDの製造部門のそれを引き継いでいる。そしてスタッフの多くはAMDで製造部門に関わった関係者でやはり経験豊富であり、スタートアップしたばかりの会社といってもすでに成熟していると言ってもよい」と述べ、AMDの製造に関する資産を受け継いだことで、順調に立ち上げが進んでいると強調した。

 現在GLOBALFOUNDRIESが運営している工場は、Fab1と呼ばれるGLOBALFOUNDRIESにとっての1つ目の製造施設となる。といってもそれ自体は新しい製造施設ではなく、元々はAMDがFab36とFab38(Fab30を300mmウェハ用に改装したもの)と呼んでいた製造施設である。Fab36はFab1 Module1、Fab38はFab1 Module2と呼ばれることになる。

 元々Fab36だったModule1では、GLOBALFOUNDRIESがHP(High Performance)と呼ぶサブストレートにSOI(Silicon On Insulator、リーク電流などを防ぐためにシリコンの中に絶縁膜を設ける手法)を利用したウェハが製造される。このHPは、これまでAMDのマイクロプロセッサ製造に利用されてきたものそのもので、現在は45nmプロセスルールを利用してマイクロプロセッサの製造が行なわれている。現在のキャパシティは月産25,000ウェハで、開発コードネームIstanbul(イスタンブール、開発コードネーム)で知られる6コアのOpteronもここで製造されている。

 そしてFab38となる予定だったModule2では、GP(General Purpose)という、バルクと呼ばれるサブストレートにSOIを利用しない、より一般的な半導体向けのウェハが製造される予定となっている。現在は、従来の200mmウェハの製造ラインから300mmウェハのそれへと移行中で、今年の末までには実際に製品として出荷されるウェハの製造が開始される予定だという。なお、現在の予定では、最大キャパシティは月産25,000枚となる予定だという。

GLOBALFOUNDRIESのFab1は従来のAMDのFab36/38のこと(出典:GLOBALFOUNDRIES)Fab1の説明、従来のFab36ことModule1はマイクロプロセッサの製造などに利用されるHPプロセスを利用して製造される。Module2ではGPのプロセスルールが製造される(出展:GLOBALFOUNDRIES)

●ニューヨークにはAMDのFab4Xになる予定だったFab2を建設、完成予定は2012年

 さらにGLOBALFOUNDRIESでは、米国ニューヨーク州サラトガに新工場を建設する計画を持っている。完成は2012年を予定。これはGLOBALFOUNDRIESの2番目の工場という意味で「Fab2」と呼ばれる予定となっている。余談になるが、AMD時代には、Fabの番号は“AMD設立から何年目に完成したか”を示しているものだった(例えばFab30はAMDの設立後30年目に完成したからFab30)のだが、GLOBALFOUNDRIESでは1つ目、2つ目……という数え方をする方向に変えたそうだ。

 ソンダーマン氏によれば「Fab2は今年の7月に起工式を行ない、2012年に完成する予定だ」とのことで、すでに建設に向け具体的な動きが始まっているのだという。会社ができてからわずか3カ月で、新しい工場の計画ができているなど不思議に思われるかもしれないが、もともとこのFab2はAMD時代にFab4X(つまり40周年以降のどこかで完成する予定の工場)として計画されていたもので、すでに2007年からニューヨーク州の関係者などとの折衝は始まっていたのだという。AMDはこの計画を昨年には明らかにしており、このFab2の計画もそのFab4Xの計画を受けついだものなのだ。

 Fab2には3つのモジュール、つまり製造施設が3つ用意され、それぞれで異なったプロセスルールなどの製造も可能になる。これはより柔軟に製造が可能になるということだ。さらに、Fab2では28/22nmプロセスルールでの製造が予定されており、スタートアップ時には月産22,000ウェハ、完全に動き出せば月産35,000ウェハのキャパシティが実現されるという。

ニューヨークに建設されるFab2では、28/22nmプロセスルールでの製造が行なわれる。完成予定は2012年(出典:GLOBALFOUNDRIES)Fab2の完成予想図、起工式は7月に行なわれる(出典:GLOBALFOUNDRIES)Fab2の全体図。3つのモジュールが用意されており、柔軟な製造が可能になる(出典:GLOBALFOUNDRIES)

●3種類のプロセス技術を提供することで、幅広い顧客のニーズに応える

 GLOBALFOUNDRIESは、3種類の製造プロセス技術を顧客に対して提案していくという。1つは同社がHPと呼ぶ、サブストレートにSOIを利用した高性能なプロセスルールだ。現在は45nmだが、今後2010年に32nmが導入される予定であり、32nmプロセスルールではHigh-Kメタルゲート(ゲート電極にHigh-Kメタルという金属を利用する技術、リーク電流などを押さえる効果がある)も採用され、高性能かつ消費電力を押さえることができるようになるという。

 ソンダーマン氏によれば「HPはAMDのマイクロプロセッサ向けに利用するほか、ゲームコンソールのベンダーなども興味を持っている」とのことで、近い将来にはソニーや任天堂などの高性能なゲームコンソール向けのマイクロプロセッサも潜在顧客として想定しているのだという。また、同社はこのHPで、GPUを製造することも視野に入れている。同氏は、「AMDはすでにFusionの計画を明らかにしている。そうした製品はこのHPで製造されることになるだろう」という。

 これに対して同社がGPと呼ぶ一般的な用途のプロセスルールも導入が計画されている。このGPに関してはバルクと呼ばれるSOIではないサブストレートが利用され、2010年に32nm、そしてその後にゲート長改良版となる28nmプロセスルールで製造が行なわれる。こちらでもHigh-Kメタルゲートの採用が予定されており、前述のFab1 Module2で製造される。このGPでは、組み込み用の半導体、ネットワークコントローラ、DSP、グラフィックス、性能を必要としないような半導体向けとなる。

 さらに、消費電力が重視される半導体向けにはLP(Low Power)と呼ばれるプロセスルールが投入される。LPは45nmおよびそのゲート長改良版となる40nmプロセスルールで製造される予定で、High-Kメタルゲートの技術が採用される。LPは低消費電力でかつ低コストで製造できるので、無線LANコントローラや携帯電話のマイクロプロセッサ、さらにはTVのコントローラなどの家電向けなどが用途となる。

 ソンダーマン氏は「こうして複数の選択肢を用意することで、幅広い顧客のニーズに応えることができるようになる」とし、従来のAMDのマイクロプロセッサ向けだけにハイパフォーマンスのプロセスルールだけで製造していた時代とは一線を画し、本格的に委託製造ビジネスをしていくという同社の姿勢を強調した。

32nmプロセスルールではHigh-Kメタルゲートの技術が導入される(出典:GLOBALFOUNDRIES)顧客のニーズにあわせて3種類のプロセスルールが導入される(出典:GLOBALFOUNDRIES)HP、GP、LPという3つのプロセスルール(出典:GLOBALFOUNDRIES)

●今年の後半にはAMDのグラフィックスチップや他社の製造委託を受託する可能性

 このように、GLOBALFOUNDRIESは、AMD向けのマイクロプロセッサを製造する“AMDの子会社”という位置づけから、徐々に脱却を図っている。例えば、当初ATICが55%、AMDが45%だった株式所有の割合は、現在はATICが66%、AMDが34%となっており、徐々に低下している。「重要なことは、コストだ。製造施設への投資は非常に膨大になっており、それを1つの半導体メーカーで負担することは不可能になりつつある。そこで、複数の会社でこれを分担する、これが弊社の基本的なコンセプトだ」(ソンダーマン氏)という言葉の通り、最終的にはAMDだけでなく他の半導体メーカーにも利用してもらわなければ、GLOBALFOUNDRIESが回らなくなることは明らかだ。

 では、GLOBALFOUNDRIESのアドバンテージはなんだろうか。1つにはAMD時代に培ってきた、高い製造技術だ。IBMと協力して開発してきたAMDのプロセス技術はそのままGLOBALFOUNDRIESに受け継がれており、IBMとのパートナーシップも引き続き継続されていくという。

 ソンダーマン氏によれば、45nmプロセスルールの立ち上がりでは、Intelとの差は従来よりも縮まってきているという。特に45nmプロセスルールボリュームの立ち上がりはIntelより早く、32nmプロセスルールでも引き続きその傾向は続いていくだろうとした。なお、今回のCOMPUTEXでは、Fab1において32nmプロセスルールで製造されたSRAMチップ、IBMのファブを利用して製造された28nmプロセスルールのテストチップなどが公開された。

 すでにGLOBALFOUNDRIESは、半導体メーカーなどに対しての働きかけを行なっており、今年の後半には、AMDのグラフィックスチップ製造を受託できるように働きかけを続けている他、AMD以外の半導体メーカーからの製造委託を開始する予定だという。

 こうした非常に速いGLOBALFOUNDRIESの動きにより、半導体製造の市場には大きな地殻変動が起きる可能性もあり、今後もその動向には目を離せそうにない。

プロセスルールの開発状況。45nmプロセスルールに関してはすでに生産に入っている。現在は32nmプロセスルールの開発を続けており、すでにFab1でテストチップを生産している。2010年の製品出荷にむけてスケジュール通りに進んでいる(出典:GLOBALFOUNDRIES)45nmプロセスルールの状況。Intelに比べて出荷開始時期は遅いものの、立ち上がりはIntelよりも早くなっている(出典:GLOBALFOUNDRIES)GLOBALFOUNDRIESの45nmプロセスルールで製造された次世代Opteronとなる6コアのIstanbul(イスタンブール、開発コードネーム)
GLOBALFOUNDRIESがFab1でテスト生産した32nmのSRAMチップ28nmプロセスルールで生産されたSRAMのテストチップ。こちらはIBMのファブで生産されている

(2009年 6月 2日)

[Reported by 笠原 一輝]