イベントレポート
VLSI技術シンポジウム、微細化が止まった世界やポストFinFETなどを議論
~VLSI 2017レポート
2017年6月5日 19:27
半導体の研究開発成果を披露する三大国際学会の1つ、「VLSIシンポジウム」が今年(2017年)もはじまった。三大国際学会とは、デバイス技術に関する国際学会IEDM(国際電子デバイス学会)と回路技術に関する国際学会「ISSCC(国際固体回路学会)」と、「VLSIシンポジウム」を指す。IEDMは毎年12月、ISSCCは毎年2月に開催されてきた。
これに対してVLSIシンポジウムの開催時期は毎年6月であり、ほかの2つの学会からは発表のタイミングがほぼ半年、ずれている。研究開発のペースが速い半導体の世界では、半年ごとに発表機会があるというのは、非常に重要である。このためVLSIシンポジウムはIEDMおよびISSCCに比べるとはるかに後発ながら、最近では前2者と並ぶ重要な国際学会としての扱いを受けるようになってきた。
VLSIシンポジウムが三大学会の一角を形成するようになった理由はもう1つある。それは、半導体の“デバイス技術”に関する研究成果を発表する国際学会「Symposium on VLSI Technology」(VLSI Technology、あるいはVLSI技術シンポジウム)と、半導体の“回路技術”に関する最新の研究成果を発表する国際学会「Symposium on VLSI Circuits」(VLSI Circuits、あるいはVLSI回路シンポジウム)で構成されるからだ。
前者はIEDMのカバー範囲、後者はISSCCのカバー範囲とほぼ重なる。つまり、両方の国際学会に関係する研究者や技術者などにとって、半年に一度の発表機会(および聴講機会)を提供していることになるのだ。
VLSI技術シンポジウムとVLSI回路シンポジウムはともに、6月5日~8日にかけて日本の京都で開催される。近年、開催地は西暦の奇数年が日本の京都、偶数年が米国のホノルル(ハワイ州)というのが恒例となってきた。今年は奇数年なので日本の京都で開催される。会場は前回の京都開催(2015年6月)と同じ、「リーガロイヤルホテル京都」である。
160件の投稿から64件の論文を採択
本レポートでは「デバイス技術」に関する国際学会「VLSI技術シンポジウム(Symposium on VLSI Technology)」のカンファレンス概要をご紹介する。「回路技術」に関する国際学会「VLSI回路シンポジウム(Symposium on VLSI Circuits)」の概要は、稿を改めてご報告するのでお待ち願いたい。
VLSI技術シンポジウムでの発表講演を目指して投稿された要約論文(投稿論文)の数は160件である。京都開催だけで比較すると前回(2015年)が171件、前々回(2013年)が164件だったので、ほぼ同じ水準を維持している。なお、VLSI技術シンポジウムの投稿数はハワイ開催年が多く、京都開催年が少なくなる傾向がある。
発表にふさわしい水準に達していると認められた論文(採択論文)の数は64件である。採択率は40%と過去10年でほとんど変わっていない。競争率2.5倍の狭き門をくぐり抜けた質の高い論文が発表されると言って良いだろう。
中国の投稿件数が18件で過去最高、韓国と並ぶ
投稿論文は最近では、新興国からの投稿が目立つようになってきた。中国やインドはもちろんのこと、アラブ首長国連邦、サウジアラビアといった中東からの投稿もある。といっても中心は米国と欧州、アジアである。米国の投稿件数は36件、欧州の投稿件数は34件、台湾の投稿件数は26件となっている。なお中国の投稿件数が18件と過去最高に達した。韓国と同じ投稿件数である。日本の投稿件数は16件で、アジア地域では第4位に転落した。
採択件数の地域別は米国と日本が多く、韓国と台湾、ベルギーが続く
採択論文を地域別に見ると、欧州が17件でもっとも多く、米国が15件で続く。3位は10件の日本である。それから韓国と台湾が8件で続く。欧州のなかではベルギーが8件と、半分近くを占める。
大学と企業の論文件数を比較すると、投稿論文数では大学が多く、採択論文数では企業が多い。この傾向は近年と同じである。大学の投稿件数は82件、採択件数は23件で採択率は28%と低い。企業の投稿件数は78件、採択件数は41件、採択率は53%である。
採択件数の機関別はimecがトップを維持、IBMとSamsungが続く
採択論文の件数を発表期間別に見ていくと、トップは前年と同様、ベルギーの研究開発機関imecが占めた。採択件数は7件である。前年の10件、前回京都開催の9件からは減らしたものの、トップを維持している。
2位は6件のIBMとSamsung Electronicsである。IBMは前年が7件、前回京都開催が6件で、安定して上位に食い込んでいる。3位のSamsungはここ3年ほど、発表がほぼ途絶えていた。昨年(2016年)が1件、一昨年(2015年)が0件、その前年(2014年)が1件である。
4位はGLOBALFOUNDRIESで5件、5位はフランスの研究開発機関CEA-LETIで4件と続く。そして3件の発表を予定しているのが、TSMC、台湾の国立交通大学(National Chiao Tung University)、東京大学、シンガポール国立大学である。日本企業で複数の発表を予定しているところはない。昨年まで国内企業では唯一、東芝が複数の発表を続けてきた(2016年が4件、2015年が2件、2014年が4件など)。今年はいささか寂しい状況になってしまった。
微細化の先とFinFETの次を議論
VLSI技術シンポジウムでは6月6日の夜に2件のパネル討論会を予定している。今回は「微細化の先」を議論するテーマが目立つ。
1件は技術シンポジウムと回路シンポジウムの合同パネル討論である。テーマは「ポストスケーリング時代をどのようにして生き延びるか(How will we survive the post-scaling era?)」である。微細化が止まった世界での生き残り策を議論する。パネリスト(討論者)にはARM、IBM、Samsung Electronics、東京大学、imecの研究者が予定されている。
もう1件は技術シンポジウム単独のパネル討論である。FinFET以降のトランジスタ技術を議論する。テーマは「トランジスタの将来:FinFET以降の進化はどのように推移するか(Transistor Future: How does it evolve after FinFET era?)」である。パネリスト(討論者)にはGLOBALFOUNDRIES 、Qualcomm、imec、IBM、Soitecの研究者が予定されている。
5nm世代の製造技術と次世代集積化技術のセミナーを開催
初日である6月5日は、1日がかりの技術講座セッション(「ショートコース」と呼んでいる)が開催された。「ショートコース」のテーマは「5nm世代の実現技術と次世代の集積化技術(Technology enablers for 5nm and next wave of integration)」である。
メインイベントであるカンファレンスは6日~8日にわたって実施される。プレビューレポート(6月開催予定のVLSIシンポジウムで7nmロジックや8Tbitフラッシュなどを披露)でお伝えしたように、興味深い論文が相次いで発表される。具体的な内容は順次、現地レポートでお伝えするので、ご期待されたい。