イベントレポート
VLSI回路シンポジウム、深層学習や自動運転などを技術講座で解説
2017年6月6日 11:34
VLSIシンポジウムを構成する学会の1つ、「VLSI回路シンポジウム(Symposium on VLSI Circuits)」が6月5日にはじまった。既報の「|VLSI技術シンポジウム(Symposium on VLSI Technology)」と同日にはじまり(VLSI技術シンポジウム、微細化が止まった世界やポストFinFETなどを議論参照)、同じ8日に閉幕する予定である。
VLSIシンポジウムはアジアに優しい
わざわざ「同日にはじまり」と記述したのは、前回(2016年)まで、VLSIシンポジウムを構成する2つの学会は、日程をずらして開催されていたからだ。
デバイス技術をカバーする「VLSI技術シンポジウム」が先行してはじまり、1日遅れて、回路技術をカバーする「VLSI回路シンポジウム」がはじまっていた。言い換えると、カンファレンスの最終日も、1日のずれがあった。
ところが今年(2017年)は、両者の日程を一致させてきた。同じ日に2つの学会がはじまり、同じ日に最終日を迎える。これには長所と短所がある。
長所は、2つのシンポジウムをより少ない日程で聴講できるようになったことだ。VLSIシンポジウムの参加登録システムでは、1つのシンポジウムに登録すると、もう1つのシンポジウムを無料で聴講できる(もう1つのシンポジウムの論文集は別売り)。プロセスからデバイス、回路、システムまでの技術動向を同じ場所で得られる、貴重な機会となっている。
この長所は、VLSIシンポジウムを半導体技術の三大学会の一角に押し上げる、重要な役割をはたしてきたと言える。なぜならば、残りの2大学会、「IEDM」と「ISSCC」はいずれも、米国でのみ開催されてきたからだ。
アジアと欧州の半導体研究開発者にとって、12月のIEDMと2月のISSCCの両方に出張することは、かなりの負担となる。ところがVLSIシンポジウムに参加すると、1回の出張で両方の分野の技術動向をある程度は把握できる。
しかも最近の開催地は、日本の京都あるいは米国のハワイである。これはアジアの半導体研究開発者にとって、米国本土に出張するよりもかなり、負担が少ない。とくに日本の京都はアジア各国から見て時差がほとんどなく、ハワイよりも距離が近く、またハワイ開催(会場のヒルトンハワイアンビレッジはワイキキから離れていて宿泊先の選択範囲が制約される)と違って京都開催のときは、会場周辺の格安ホテルを利用しやすい。
このことの傍証となっているのが、投稿論文数と参加者数の逆転現象だ。関係者によると、最近の参加登録者数はハワイよりも京都のほうが多いという。近年は米国西海岸に近いハワイ開催での投稿数が相対的に多く、京都開催の投稿数は少ないことが公表されている。しかし参加者数は京都開催が多い。学会の収入は参加登録者数に大きく依存するので、イベントとしての収入そのものは、京都開催のほうがハワイ開催よりも多いと推測できる。
技術シンポジウムと回路シンポジウムの完全一致
ただし、前回までは日程がずれていたので、2つのシンポジウムの両方に参加することは、若干の負担増を伴っていた。具体的には、全体をカバーするためには滞在期間が4日間以上になってしまうことだ。今年(2017年)は開催日が完全に一致しているので、カンファレンスの聴講に絞れば、3日間の滞在で全体をカバーできる。
短所は、参加者が忙しくなることだろう。平均すると、重複するセッションの数が増えるので、聴講したいテーマの幅が広い参加者は、あちこちのセッションをこまめに回らなければならない。またセッションの重複増により、聴講したくとも不可能な講演の確率が増えるというリスクが生じる。
今回の決定は技術発表を3日間に一致させることによって、2つのシンポジウムの「同時同場所開催」を実現した。2つの学会の相乗効果を高めることを優先した、と言える。
ディープラーニングと自動運転の技術講座を実施
VLSI回路シンポジウムもVLSI技術シンポジウムと同様に、最初の1日が技術講座セッション(「ショートコース」と呼ぶ)、続く3日間がカンファレンス(開発成果の発表講演)となっている。したがって6月5日にはじまったのは、ショートコースである。
VLSI回路シンポジウムでは2件のコースを用意している。1件は最新の人工知能(AI)技術に関する講座、もう1件はクルマの自動運転技術に関する講座である。
320件の投稿論文から115件を採択
翌日の6日から、メインイベントであるカンファレンスがはじまる。前述したとおり、カンファレンスの会期は8日までの3日間である。
カンファレンスでの発表講演を目指して投稿された要約論文(投稿論文)の数は320件。VLSI技術シンポジウムの投稿論文数が160件なので、ちょうど2倍の数の投稿がある。
発表講演に選ばれた論文(採択論文)の数は115件である。採択率は36%とあまり高くないが、前回の京都開催が33%だったので、それでも3ポイントほど増加したことになる。やっとVLSI技術シンポジウムの平均的な採択率である約40%に近づいてきたとも言える。
一般的には35%~40%くらいが、半導体関連の国際学会としては適切な水準だと考えられているようだ。
分野別トップの「センサ・バイオ・ヘルス分野」で投稿数がさらに増加
投稿論文を分野別に見ると近年の傾向と同じく、「センサ・バイオ・ヘルス分野」と「データコンバータ分野」の投稿が多い。とくに分野別トップの「センサ・バイオ・ヘルス分野」の増加が最近は目立つ。2015年が48件、2016年が61件、今年は66件と増えてきた。逆に「データコンバータ分野」の投稿は減少しており、昨年(2016年)の57件から今年は41件と16件も減らしている。
国別の発表件数では米国が強い
採択論文の数を国別に見ていくと、トップは米国で42 件と全体の37%を占める。2位は韓国で20件、3位は日本で14件、僅差の4位で台湾が13件と続く。米国とアジアのこれら4カ国で合計77%と、8割近くを占める。VLSI回路シンポジウムでは、欧州の存在感があまりないことがわかる。
採択論文数のトップは5年連続で米国ミシガン大学
採択論文の数を発表機関別に見ていくと、トップは13件の米国ミシガン大学(University of Michigan)が維持した。5年連続の首位であり、米国の国別採択論文数トップに貢献してきた。2位は韓国KAIST (Korea Advanced Institute of Science and Technology)で、11件とトップに迫る勢いを見せた。韓国全体の採択件数が20件なので、KAISTだけで半分以上を占めていることがわかる。3位は台湾TSMCで5件、4位は国立台湾大学(National Taiwan University)と米国テキサス大学オースチン校(The University of Texas at Austin)でいずれも4件である。
気になるのはIntelの退潮である。昨年(2016年)に7件で2位につけたIntelは、今年は上位10機関に入らなかった。Intelは一昨年(2015年)に5件で5位、その前年(2014年)には4件で3位と上位の常連企業だっただけに、学会発表に対して消極的になってきたとの懸念がよぎる。
企業の投稿が減少する一方で研究機関が台頭
大学と企業の論文数を比較すると、投稿数では大学が242件と全体の4分の3を占めている。大学が圧倒的な多数という状況はVLSI回路シンポジウムではもはや当たり前と言える。気がかりなのは、企業の投稿数が減ったことだ。昨年が107件、一昨年が95件であったのに対し、今年は64件と激減した。
採択数でも企業は29件と前回京都開催の28件からあまり増えていない。6年前の2011年(京都開催)と比較すると、大学の採択数が69件から77件と増加しているのに対し、企業の採択数は46件から29件へと大きく減らしている。
企業に代わって台頭してきたのが、研究機関による発表である。2011年には投稿数はゼロ件(当然ながら採択数もゼロ件)だったのに対し、今年は投稿数が14件、採択数が9件と増えている。とくに採択数は過去最多を記録した。
分野別の採択数では「センサ・バイオ・ヘルス分野」がトップ
続いて、分野別の採択論文数と日本の採択論文数を見ていこう。分野別では投稿数と同様に、採択数でも「センサ・バイオ・ヘルス分野」がトップにつけた。採択数は27件である。ついで採択数が多いのは「データコンバータ分野」で、17件の発表を予定する。それから「プロセッサ・アーキテクチャ分野」が16件、「有線通信分野」が13件と続く。
日本の採択論文は「センサ・バイオ・ヘルス分野」で3件、それから「プロセッサ・アーキテクチャ分野」と「デジタル回路分野」、「無線通信分野」、「メモリ分野」でそれぞれ2件ずつである。そして「有線通信分野」で1件の発表を予定している。電源分野を除くと、全体に一定数の貢献を成していると言えよう。
以前にプレビューレポート(6月開催予定のVLSIシンポジウムで7nmロジックや8Tbitフラッシュなどを披露参照)でお伝えしたように、VLSI回路シンポジウムでは注目すべき論文が少なくない。発表内容は現地レポートで順次ご報告していくので、ご期待されたい。