イベントレポート

【詳報】Microsoft、Windows HolographicをOEMメーカーなどパートナーに開放へ

~日本のOEMメーカーも前向きに評価、製品化の可能性も

Microsoft Windows/デバイス担当 上級副社長 テリー・マイヤーソン氏

 Microsoftは、COMPUTEX TAIPEI 2016の基調講演にて、Windows/デバイス担当 上級副社長 テリー・マイヤーソン氏、OEM部門担当 副社長 ニック・パーカー氏、HoloLens発明者・技術フェロー アレックス・キップマン氏が登壇し、同社がこの夏にリリースを予定しているWindows 10のアップデート版となるWindows 10 Anniversary Update(開発コードネーム:RedStone1/RS1)に関する説明、同社のOEMメーカーからリリースされた各種製品などに関しての説明を行なった。

 この中で、Microsoftのマイヤーソン氏は「Windows Holographicを我々のパートナーにも開放する」と述べ、これまではMicrosoftの自社製品だけだったHoloLensのようなデバイスを作るのに必要なプラットフォームを、他社(サードパーティ)にも開放する新しい戦略を明らかにした。これにより、Microsoftのパートナー企業は、HoloLensのような製品の他、MicrosoftがMR(Mixed Reality)と呼ぶAR、VRの両方をカバーするような製品を開発、製造することが可能になるため、市場が大きく広がっていくことになりそうだ。

 また、基調講演後に行なわれた日本の記者向けの説明会で、日本のOEMメーカーの幹部がその評価について聞かれ前向きに検討していると発言して注目を集めた。

2020年に8,000万台の需要が見込めるMRデバイス

 今回Microsoftが発表したのは、同社がHoloLensとしてアピールしているMRデバイスのプラットフォームとなる「Windows Holographic」をOEMメーカーやODMメーカーといったパートナー企業に対しても公開するという新戦略だ。

MicrosoftがWindows Holographicをパートナーに公開へ

 Microsoftは、Windows 10では“One Windows”という新しい戦略を打ち出しており、PC、モバイル、ゲームコンソール、そしてIoTが同じWindows 10が動作するようになっている。その中の新しいカテゴリとして紹介されてきたのがHoloLensで、透過している画面にホログラムが写る仕組みにより、ARような新しいユーザー体験をもたらすデバイスだ。

 既にMicrosoftはHoloLensを北米の開発者向けに3,000ドル(日本円で約33万円)近い価格で提供を開始しており、HoloLens向けのUWPアプリというのが配布されつつあるという段階だ。HoloLensの用途は現在のVRがそうであるようにゲーミングデバイスとして用途や、日本航空が公開しているように運行乗務員や整備士の教育・訓練に利用する業務用途など、さまざまな使い方が考えられる。

日本航空などがビジネス向けの用途を提案するなどHoloLensの用途はコンシューマ向けだけではない

 これまでMicrosoftはそうしたMRを自社のHoloLensでのみ展開してきたのだが、Windows Holographic公開により、OEMメーカーが自社ブランドでHoloLensのような製品を設計/製造/販売することが可能になる。

 またそれ以外にも、Windows Holographicに対応したPC、ディスプレイ、アクセサリの製造も可能になると、マイヤーソン氏は基調講演後に公開したブログの中で説明している。

Windows Holographicの詳細は、中国の深センで行なわれるWinHEC 2016などで公開される予定
Microsoft HoloLens発明者・技術フェロー アレックス・キップマン氏
COMPUTEX TAIPEIで行なわれたMRのデモ

 基調講演後に行なわれた記者会見の中でマイヤーソン氏は「パートナーは我々とは異なるビジョンを持っている。Windows Holographicにより、HoloLensとは異なるスペック、異なる価格帯で製品を投入できるようになる」と述べ、Windows Holographicを展開するメリットを説明している。例えば、ユーザーによっては、現在HoloLensで採用しているような高解像度のディスプレイは必要ないかもしれないし、SoCも低価格でいいというユーザーがいるかもしれない。もちろんその逆も然りだ。そういう多様なニーズに応えることができるようになることが狙いだという。

 実際、マイヤーソン氏は前述のブログで、MRデバイスの需要が2020年には年間8,000万台規模になると見込んでおり、そうした大きな需要に応えるためには、現在PCやスマートフォンで普通に行なわれているようなエコシステムの構築が重要だと考えたわけだ。

 ただし、マイヤーソン氏は現時点でMicrosoftがどのようなビジネスモデルを組み立てているのかについてはコメントを拒否した。それがPCのようにライセンスモデルになるのか、あるいは別の形になるのかはまだ明確ではないが、順当に考えればPCやスマートフォンのそれと同じように、OEMメーカーからライセンス料を徴収する形のビジネスモデルを考えている可能性が高いのではないだろうか。

日本のOEMメーカーの幹部も前向きに検討していると発言

 今回マイヤーソン氏は具体的なパートナーの名前として、Intel、AMD、Qualcommといった半導体メーカーと、HTC、Acer、ASUS、CyberPowerPC、Dell、Falcon Northwest、HP、iBuyPower、Lenovo、MSIといったOEMメーカーの名前を挙げた。

COMPUTEX TAIPEIで公開されたパートナーのリスト

 Intel、AMD、Qualcommの3社が半導体メーカーのパートナーとして挙げられているのは、言うまでもなくWindows HolographicがWindows 10の一部として提供されるからだ。現在のWindows 10は、CPUとしてIA32/AMD64というx86のISA(命令セット)と、ARM ISAに対応している。x86はIntel/AMD、ARMはQualcommのSoCでサポートされていることを考えれば、この3社がパートナーとして挙げられるのは自然な流れだろう。なお、HoloLens自体にはIntelのSoCが採用されている。

 OEMメーカーに関しては、台湾で行なわれているCOMPUTEXで発表されていることを反映して、HTC、Acer、ASUSという台湾ブランドが先に来ている。その後にMicrosoftの地元米国のOEMメーカーが続き、Lenovo/MSIといういわゆるグレーターチャイナ(中華圏)のメーカーが来ている。マイヤーソン氏はこうしたOEMメーカーのWindows Holographic対応製品について「数年先ということはない」とした。

 日本のOEMメーカーについてはこの中に入ってはいないが、既に積極的な姿勢を打ち出しているメーカーもある。株式会社マウスコンピューター 代表取締役社長 小松永門氏は「弊社はVRについてもいち早くサポートを進めてきた。それと同じようにMRについても大変興味を持っており、現在調べている段階。どういう形で皆様に提供していくのか検討して、できるだけ早くお客様にお届けできればと思っている」と述べ、Windows Holographicについて前向きに検討していると発言した。

株式会社マウスコンピューター 代表取締役社長 小松永門氏

 その一方で、VAIO株式会社 執行役員副社長 赤羽良介氏は「非常にワクワクしているが、ビジネスとしてどうなのかはまだ不透明」と述べる。OEMメーカーとしては、そうしたWindows Holographicが利益を生むビジネスであるのかどうかは、まだ評価が済んでいないということだろう。しかし、どちらの幹部も技術そのものに関しては興味があるとしており、ビジネス的にいける可能性があればぜひとも取り組んでみたいと発言していることは注目に値するだろう。

VAIO株式会社 執行役員副社長 赤羽良介氏

 また、小松氏の会見に同席した株式会社マウスコンピューター ゼネラルマネージャー 平井健裕氏は「MicrosoftのHoloLensは北米でしか販売されていない。日本の開発者が開発に使えるようなデバイスに取り組むことができれば」と発言しており、マウスに関してはかなり早い段階から取り組みたい意向があるようだ。日本でWindows 10 Mobileのスマートフォン市場が他の市場に先駆けて立ち上がった理由の1つとして、マウスがWindows Phone 8.1の時代に「MADOSMA Q501」をリリースしたことが大きく貢献していることは否定できない、それと同じことがWindows Holographicでも繰り返されることに期待したい。

 いずれにせよ、Windows Holographicには、2020年に年間8,000万台と予想される大きな市場だ。そしてこれから立ち上がる市場ということで、現在我々が予想もしていないような製品が登場してくる可能性もある。ぜひとも日本のOEMメーカーも、その潮流に乗って、MicrosoftのHoloLensを吹っ飛ばすようなものすごいデバイスを期待したいところだ。