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10Wで1TFLOPSを実現する小型スパコン「Jetson TX1」

~ディープラーニングとの併用で自律ロボット運用の要となる

「Jetson TX1」を手に持つNVIDIAのジェシー・クレイトン氏

 NVIDIAは3月1日、組み込み向けの小型スーパーコンピュータ「Jetson TX1」の日本国内での提供開始を発表した。2014年に発表されたTegra K1搭載のJetson TK1の後継モデルとなり、ARM Cortex-A57ベースのクアッドコアCPUを実装。Maxwellコア256基による1TFLOPSものGPU性能を備えながら、10Wという低消費電力を実現しているのが特徴となっている

 「Jetson TX1開発キット」と「Jetson TX1モジュール」の2通りで提供され、価格はオープンプライス。米ドルでは前者が599ドルで3月中旬に、後者は1,000個注文に付き1台当たり299ドルで2016年上半期から入手できるようになる。国内では菱洋エレクトロが正規代理店として取り扱い、オムロン直方社製の汎用キャリアボードと組み合わせて提供されるとのこと。

 Jetson TX1モジュール自体は上述のCPUのほか、4GBのLPDDR4、16GBのeMMC、IEEE 802.11ac対応無線LAN、Bluetooth、Gigabit Ethernet機能を備えている。一方の開発者キットにはこれら容易に活かすためのインターフェイスボードが含まれており、500万画素カメラ、USB 3.0、Micro USB 2.0、HDMI、M.2、PCI Express x4、Gigabit Ethernetポート、SDカードスロット、SATA、GPIO、I2C、I2S、SPIを利用できるようになっている。

ドローンの自律飛行などで期待される「Jetson TX1」の能力

 今回の発表に伴い、NVIDIAはJetson TX1の説明会を開催。米NVIDIAでロボットやドローンといった自律機器向けプラットフォームのプロダクト・マネージャーを務めるジェシー・クレイトン氏が登壇し、解説を行なった。

 クレイトン氏は自律型ロボットの時代が到来しつつあるとし、ドローンやロボットの自律性を確保するには、ディープラーニングが鍵を握っているという。しかし、実際にディープラーニングで構築したモデルを動かすには高い処理能力が必要と指摘。クラウドでは高い演算結果が得られたとしても遅延の問題が発生し、数mm秒の遅れによってドローンが壁に衝突するといった問題が起きかねないこと、処理能力の高いCore iといったCPUでは冷却システムが大型化してドローンへの搭載が困難になるといった問題点などを挙げた。

 そうした問題を解決する手段として「Jetson TX1」を示し、1TFLOPS以上の性能を10W以下の消費電力で実現しながら、クレジットカードサイズ並みの大きさで実装可能とする点を強調。自律機器のために設計されたモジュール型のスーパーコンピュータとなっており、40ピンの互換インターフェイスを使うことで、ドローンを始めとしたさまざまなデバイスに搭載できるとした。

Jetson TX1は組み込み向けのスーパーコンピュータ
自律ロボット時代の到来
Jetson TX1のスペック。256基のMaxwellコアによる1TFLOPSの処理能力を備える。ボードサイズは50×87mm(幅×奥行き)で、クレジットカード並みとしている
NVIDIAの「DIGITS DevBox」でディープラーニングを行ない、モデルを構築。それをJetson TX1搭載デバイスが活用。さらにJetson TX1が集めたデータをまたDIGITS DevBoxでディープラーニング……と精度が高められる
IntelのCore i7-6700KがJetson TX1との引き合いに出された。画像処理でのワットパフォーマンスは10倍もの開きがある
NVIDIAのGPUコンピューティングの区分け。クラウドはTesla、PCはTitan X、車載はDRIVE PX、組み込みはJetsonという役目を与えている
株式会社エンルートで開発部長を務めるイェン・カイ氏

 会場には、産業用ドローンの設計や製造を手掛ける株式会社エンルートのイェン・カイ開発部長が同席し、実際にJetson TX1を搭載したドローンを披露。Jetson TX1の優位点を語った。カイ氏はこのサイズと消費電力でトップクラスの性能を誇るのはJetson TX1が唯一であるとし、それに加えCUDAによるエコシステムをシームレスに組み込める手軽さも大きなメリットであると開発者側視点での意見を述べた。実際にカイ氏がJetson TX1開発者ボードを手にしてからドローンを飛ばすまで2時間と掛かっていないことを述べ、チップだけでなくモジュール単位でも提供されている点が魅力であるとした。

 このJetson TX1搭載ドローンにはケンブリッジ大学が開発した画素解析技術の「SegNet」が使われており、VGG16ベースのディープラーニングモデルを利用。屋外にて障害物を認識しつつ、自律飛行するデモ映像が披露されたが、ここではビジュアルコンピューティングとしてJetson TX1活用されている。カイ氏は既存のGPSベースの自律飛行では精度が低く、ステレオカメラでは解像度の低さが問題になることを言及し、現状ではディープラーニングによって得たモデルを活用することで、高い運転精度が得られるとした。

 ちなみにこうしたディープラーニングベースの1つのモデルを作るのにどれくらいの時間が必要とするのかという質問がなされたが、カイ氏はドローンで3TB分の映像を撮影して、1つのモデルを作って学習させるのにGTX TITANを5つ搭載したサーバーで大体2週間が必要になるとした。そこからさらに精度を上げていくには莫大な時間がかかるという。

 カイ氏はJetson TX1が産業、研究、コンシューマ向けのドローン開発におけるパズルの最後ピースになると述べ、自律飛行を行なうドローン設計において、Jetson TX1の有用性を説いた。

産業用ドローンの活用場面。エンルートのドローンは、農業における農薬散布、高架の検査、噴火口の監視などで使われている
SegNetを利用した画像解析でドローンが自律飛行している。赤や紫は障害物
城の周りをドローンが空撮。Jetson TX1のビジュアルコンピューティング能力を活かし、安全な自律飛行を行なう
救助用途でもドローンを利用。画像内の赤い囲みには人が倒れている。人間の上空からの目視では発見は困難だが、ディープラーニングの成果によって発見が容易になる

Jetson TX1実機写真

 以下、Jetson TX1のボードと、Jetson TX1搭載ドローンの実機写真を掲載している。

Jetson TX1の開発キット
Jetson TX1のモジュール
Jetson TX1を搭載したドローン

(中村 真司)