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IRID、福島第一原子力発電所向け「上部階用除染装置」を公開

~4連連結、三菱・日立・東芝の3社が分担共同開発

上部階用除染装置

 技術研究組合 国際廃炉研究開発機構(IRID)、三菱重工業株式会社、日立GEニュークリア・エナジー株式会社、株式会社東芝、東京電力株式会社は共同で、2015年12月9日、東京電力福島第一原子力発電所向けに開発された「上部階用除染装置」の公開デモンストレーションを、検証用モックアップのある株式会社ヤマナカ千葉工場で開催した。

【動画】IRID/東京電力による解説動画

除染装置の開発目的

三菱重工業株式会社 建設・保全技術部 鬼塚博徳氏

 東京電力福島第一原発では、原子炉圧力容器、原子炉格納容器から燃料デブリを取り出すための除染/遮蔽/線源除去などによる線量低減が必要な状況が続いており、現在有力視されている水棺工法の準備のための漏洩箇所調査や補修等の作業を進めるためにロボット技術/遠隔操作技術を活用した装置が開発されている。高線量エリアでは遠隔操作技術の確立が必要で、既に開発/運用されている1階低所用除染装置のほか、1階高所、上部階など、作業場所ごとにそれぞれ別途の装置が開発されている。なお環境改善目標は作業エリアで3mSv/h以下、アクセスルートで5mSv/h以下となっている(作業員の線量限度は年間50mSv、5年間で100mSv)。

 放射性物質による汚染の形態も付着性汚染のほか、コンクリート躯体上のエポキシ素材への固着性汚染、コンクリートの中まで染み透ったような浸透性汚染などそれぞれ異なっているため、それぞれに対して異なる除染技術が必要だ。遊離性汚染には高圧水、建屋床や天井の固着性汚染には圧縮空気でドライアイスを吹き付けて表面を削って(はつって)回収したり、建屋躯体に対しては研削材(スチールグリッド)を吹き付けて、やはり表面をはつって回収する。ドライアイスの場合は、ドライアイス自体は昇華してしまうので母材を傷つけにくいことが特徴だ。「4つの方法を使えば様々な汚染に対応できる」と三菱重工業株式会社 建設・保全技術部の鬼塚博徳氏は述べた。

 また、異なる3社それぞれが、互いに技術を持ちよって開発することにはインターフェイスや機材開発の考え方の違いなどもあり、ある程度は現物合わせの部分もあったと苦労を語った。

除染装置開発の目的
開発方針
装置の概要

「上部階用除染装置」の概要

上部階除染装置は4連連結のシステム

 平成25年度補正予算 廃炉/汚染水対策事業費補助金「原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発」の一環として開発されている「上部階除染装置」は、原子炉建屋の2階と3階部分の壁面および床面の除染のために開発された装置である。作業台車、搬送台車、支援台車、そして中継台車が組みになって作業する。それぞれ、作業台車は三菱、搬送台車と支援台車は日立GEニュークリアエナジー、中継台車は東芝製である。

 上部階自体へのアクセスは「昇降リフタ」を用いて機器搬入口から入れる予定だ。そのため寸法や重量は小型軽量化に制限され、小型台車を連結するという方式を採用することになった。昇降リフタは既存のものを改良して用いる予定。4階以上は除染ニーズの有無や上からのアクセスが可能なことなどを鑑みて、今回の開発の要件からは外したとのこと。4台のケーブル長は合計で165m。

 除染方式は吸引、ブラスト、ドライアイスブラスト、高圧水ジェットの4つを選択でき、必要に応じて除染ユニットを交換する。台車の上に乗せられる除染ユニットも、吸引は三菱重工業、ドライアイスブラストは東芝、高圧水ジェットは日立GEニュークリアエナジーとそれぞれ分担開発となっている。

作業台車
後方の搬送台車と支援台車、中継台車
各車両間はケーブルで結ばれている
操作は遠隔操作ルームから行なう
それぞれの台車ごとに別々の担当者が操作を行なう
共用台車からのカメラ画像
ケーブル巻取り装置もそれぞれ別のPCから操作する。台車部と上の装置の操作はそれぞれ別
【動画】4連での走行の様子

作業台車、共用台車

作業台車

 作業台車は、低所用除染装置で使用した作業台車(三菱重工業のMHI-MEISTeR)が基本ベースとなっている双腕方式のロボット。全長1,200mm(除染走行時1,700mm)×幅750mm×全高1,700mm。重さは約550kg。移動方式は独立4クローラ方式。通信方式は有線で、非常時対応として無線も搭載している。非常用電源としてバッテリも内蔵しており、バッテリだけで4時間駆動可能。前方、工法にそれぞれ3台、側面に左右合計2台のカメラを装備している。カメラ画像を使って、ロボット上方向から見た擬似的な画像をリアルタイムに作り出すことができるほか、レーザーレンジファインダで障害物との距離を検出している。

 搭載している左右の腕はそれぞれ7自由度で、どちらも同じ構成。今後の作業を考え、余裕のある構成にしたとのことだ。複数の除染ヘッド(吸引、ドライアイスブラスト、高圧水、ブラスト)に対応できるように、ヘッド取り合いはツールチェンジャーを採用。2本あるアームの可搬重量も先端取扱質量25kgに強化した。位置精度は0.5mm。

作業台車。双腕を持つ
正面
後方
左腕はカメラと線量計(デモ時の構成)
右腕はブラスト装置(デモ時の構成)
作業用台車のレーザーレンジファインダーを使った障害物との距離画像
搭載カメラを使って上方からの映像をリアルタイムに作り出すことができる

 日立による、除染ユニットを載せる搬送台車(2台目)と支援台車(3台目)は、電動モータ駆動左右独立クローラ走行式で、車体重量は750kg。最大積載荷重は950kg。分速20mで移動し、最大乗り越え段差は5cm。乗り越え登坂傾斜は15度。通信インターフェイスは有線1系統(IEEE 802.3ab/u/i(1000BASE-T/100BASE-TX/10BASE-T)、無線2系統(IEEE802.11n/a/b/g(2.4/5GHz帯両対応)。Spanning Tree Protocolで冗長化されている。

 搬送台車は、除染ユニット及びケーブル/ホース送り装置(高圧水用)の搬送を行なう。支援台車は、ブラスト除染用のコンプレッサ及びケーブル・ホース送り装置(高圧水用)の搬送を行なう。本体下面には「衝撃緩衝機構」を前/後に配置。段差やスロープ乗越え時のピッチ方向の揺動を抑制することができる。

搬送台車(2台目)。中央が除染ユニット
搬送台車。各社メーカーのロゴが貼られている
支援台車(3台目)。コンプレッサとケーブル送り装置を搭載
支援台車を前から
搬送台車のカメラ。SLIKの雲台が使われていた

 東芝による無線LANアクセスポイントやケーブル巻取り装置類や電源関連ユニットを搭載した中継台車(4台目)は、吸引/ブラスト除染および高圧水ジェット除染方式において、基地局から除染作業台車までの各装置への動力と通信を中継する台車。車重量は約680kg。走行形式は電動モーター駆動左右独立クローラ走行式。最大積載荷重は約950kg。なお台車部のLEDが光っているのはサーボが入っていることを示す。東芝の考え方だという。異常が起きた時は点滅させる。履帯は農作業用機器のものなどを転用しているとのことで、そのため不整地に強いという。

中継台車(4台目)。動力と通信を中継
中継台車の無線LAN装置
後方から
ケーブル巻取り装置なども故障のないようなるべく簡易な構成にしたという
台車部のLEDが光っているのはサーボが入っていることを示す。

除染ユニット

 台車に搭載されている「吸引・ブラストユニット」は金属などの研削材を表面に吹き付けて、表面をはつって回収する装置である。今回、アクセス性向上のため、吸引ブラスト機、圧縮空気供給ユニット、吸引ブラストヘッド、吸引回収専用ヘッドなどからなり、低所用装置に比べると各ユニットを小型化した。

 ドライアイスブラストとは支援台車から供給される圧縮空気に、ドライアイスブラスト装置内で生成したドライアイス粒子を混ぜて、対象に吹付、汚染物質を回収する方式だ。ドライアイスブロック1個あたり、約20分の施工が可能で、この除染ユニットは3個を装填し除染作業を行なうことが可能となっている。

 高圧水ジェットユニットは高圧水を噴射して遊離性汚染を除去する機材だ。高圧水は除染ヘッド部で真空吸引するので、汚染水を、ほぼ漏らさずに除染可能だという。

ブラスト除染ユニット
ドライアイスブラスト装置

デモ:遠隔操作、除染

ブラスト除染のデモを行っている様子

 いくつかのタイプにアーム先端を変えることができるが、デモ実演では遠隔操作による地上走行の様子、ブラストによる除染作業、そして上部階への昇降作業台デモが行なわれた。現在はデモに用いられたモックアップを用いて平成27年度末を目標に実証試験を実施中で、福島第一原発への適用性を評価している段階だ。今後は改善を続け、開発終了後は平成28年度以降、順次原発に投入される。具体的な適用場所はまだ決まっていない。東京電力株式会社 原子力・立地本部 岡村祐一氏によれば「今後、東京電力と各社で検討していく」とのことだ。

作業台車のアーム先端部によるブラスト除染の様子
除染作業時の操作画面。3点を指定して傾きなどを計測したあとに除染していく
搬送リフターに乗り込む様子
検証用モックアップ
【動画】上部階除染装置の除染作業デモ

(森山 和道)