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災害対応用ヒューマノイドのデモを見られる2015国際ロボット展開催

 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2015年12月2日、開発中の「災害対応用ヒューマノイドロボット」によるトンネル災害を想定した実機デモンストレーションを、東京ビッグサイトで開催中の「2015国際ロボット展」NEDOブース内で実施した。アメリカ・カリフォルニアで今年6月に開催された「DARPA Robotics Challenge(DRC)」にも出場した、産業技術総合研究所「HRP-2改」、東京大学「JAXON(ジャクソン)」がデモンストレーションを行ない、「HYDRA(ハイドラ)」が展示された。

障害物をどける「JAXON」
開発された3体のヒューマノイド

「ジャパン・バーチャル・ロボティクス・チャレンジ(JVRC)」の実機版

デモが行なわれたトンネル災害模擬フィールド

 今回の実機デモは、NEDOブース内に設けられた「トンネル災害模擬フィールド」で行なわれた。10月7日〜10日に「CEATEC JAPAN 2015」内で、国内10チームによって行なわれた災害対応ロボットのコンピュータシミュレーションによる競技会「ジャパン・バーチャル・ロボティクス・チャレンジ(JVRC)」の実機版という位置付け。JVRCは「環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト/ロボット分野の国際研究開発・実証事業/災害対応ロボット研究開発(アメリカ)」プロジェクトの一環として実施された。普段のインフラ点検と非常時の活動を想定し、ミッションは打音検査代わりのQRコードの読み取り、不整地歩行や横転したトラックの調査、消火用ホースの扱いやバルブ開けなどだった。

 シミュレータ上での競技だが、JVRCの模様は、YouTubeの公式チャンネルで閲覧できる。JVRCの優勝は株式会社MIDアカデミックプロモーションズの「MID」、2位は大阪府立大学工業高等専門学校の「TEAM NADO」、3位は大阪電気通信大学の「ODENS-B」だった(産総研や東大のチームはプロジェクト当事者のため順位からは除外)。

 なお、アメリカのDRCで優勝したのはロボット「DRC-Hubo」でエントリーした韓国・国立科学技術院の「Team KAIST」。動画はこちらなど。日本は産総研の「TEAM AIST-NEDO」が10位、東大「NEDO-JSK」が11位、同「HRP2-TOKYO」が14位だった。単なる遠隔操作ではなく、オペレーターとロボットの間の通信に人工的なノイズを設け、かなり劣悪な状況でロボットを操作させるというところに特徴があったロボット競技だった。2011年の東日本大震災による福島第一原発事故を受けて企画されたロボコンであり、多くのロボットが転倒してしまう様子を編集した動画なども話題になった。

トンネル事故想定デモ

デモの様子

 デモでは事故が起きたトンネル内を想定した不整地での歩行、横転トラックの調査を模擬した調査が行なわれた。産総研「HRP-2改」と東京大学「JAXON」、2体のロボットがデコボコした不整地や、瓦礫によって天井が低くなってしまった場所などを歩行し、狭隘な平均台や未知の重量物を除外したりしたあと、バルブを回し、トラックから棒を抜くというシナリオ想定だった。

 途中までは順調に進んでいたが、最後にパイプを引き抜くはずのところで「HRP-2改」の電源が落ち、残念ながらそのまま終了となってしまった。なお、デモは一般向けにも1日1回~3回行なわれる予定。

「HRP-2改」(左)と「JAXON」(右)
デモの様子

 各ロボットについては下記の通り。

産総研「HRP-2改」

 産総研の「HRP-2改」は、「人間協調・共存型ロボットシステムの研究開発(HRP:Humanoid Robotics Project)」の一環で2003年に研究用プラットフォームとして開発されたヒューマノイド「HRP-2」をベースに改造した機体。身長170cm、重さ65kg。自由度数は32。外見は「HRP-2」とあまり変わってないが、中身はほとんど別物になっている。外見上もレーザーレンジファインダーや3Dセンサーなどを追加されているほか、腕、脚と首が伸びている。手先も作業用の手とカメラが付けられている。バッテリは長時間の作業ができるリチウムフェライト電池に変えられている。

【お詫びと訂正】初出時にHRP-2改の重さを70kgとしておりましたが、正しくは65kgとなります。お詫びして訂正させていただきます。

HRP-2改
バストショット
ハンド
HRP-2改仕様

東京大学「JAXON」

 東京大学 情報システム工学研究室(JSK) 稲葉・岡田研究室による「JAXON」は、身長188cm、重さ110kg。自由度数は33(腕8×2、脚6×2、腰3、首2)。ハンドと頭部カメラは必要に応じて交換可。人が出せる力とスピードをカバーすることを目標にしており、高速高トルク水冷モータードライバー、ロボット開発用ミドルウェアである「RTミドルウェア」と「ROS」の相互運用、ダンス動作生成研究などをベースにして開発された。人は近づけないが、人にしかできないタスクをこなすことを目指している。ナックルウォークもできるようにハンドは想定されている

 紫色の初号機と、赤色の2号機がある。もともとはダンスをさせることを目標に開発されていたヒューマノイドで、名前は「ダンスのうまい人間の男性」に由来するとのこと。なお機体データなどは公開されており、JVRCで優勝した松坂要佐氏のチーム「MID」のロボットは上半身がJAXONで下半身がタンク型だった。

JAXON
バストショット
液冷モータードライバーを使用
ナックルウォークでも歩行可能
JAXONの仕様

東京大学「HYDRA」

 東京大学 中村研究室のほか千葉工業大学、大阪大学、神戸大学による「HYDRA」は油圧を使ったヒューマノイド。身長180cm、重さ110kg。自由度は41(腕8×2、脚6×2、腰2、首1、ハンド5×2)。名前は油圧のHydraulicsに由来し、首以外は電気静油圧アクチュエータ(EHA)で駆動され、バックドライバビリティを持つため外力に適応しやすい。手首、足首、肩関節、股関節は2自由度の閉リンク機構でユニバーサルジョイント(自在継手)を駆動する。予定では水素を使った燃料電池を背中に搭載するはずだった。

 電装系そのほかすべてゼロから作ったためか無理があり、DRCでは棄権した。そのため、今回が動作する様子は初お披露目となる。簡単なデモを行なうとのことだ。

Hydra
Hydraの仕様
Hydraに用いられている静水圧アクチュエータ

「2015国際ロボット展」は過去最大規模での開催に

 一般社団法人 日本ロボット工業会と日刊工業新聞社が主催する「2015国際ロボット展」は、2年に1度開催される世界最大規模のロボットトレードショーで、今回で21回目。会場は東京ビッグサイト東ホール。会期は12月2日から5日の4日間。今回の出展者数は446社・団体(前回334社)と、過去最大規模での開催となっている。

 テーマは『RT ロボットと共に創る未来』。産業用ロボットの大規模展示のほか、介護・福祉ロボット、農業ロボット、災害対応ロボット、その他サービスロボット各種が出展される。トレードショーだが一般入場も受け入れており、一般来場者も楽しめる「超人スポーツ体験」も企画されている。入場料は1,000円(事前登録で無料、中学生以下は無料)。

 NEDOは「2015国際ロボット展」内で、橋梁・ダムなど社会インフラの点検や災害現場の調査を支援するロボット試作機も出展。12月3日には「NEDOロボットフォーラム2015」を開催し、パネルディスカッションでは元DARPA Robotics Challengeのプログラムマネージャーで、トヨタ自動車株式会社がアメリカ・シリコンバレーに設立した「TOYOTA RESEARCH INSTITUTE」の最高経営責任者(CEO)に就任したことが11月に発表されたばかりのギル・プラット(Gill Pratt)氏らが登壇する予定だ。

NEDOブース
農業用ロボットの展示も

(森山 和道)