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MATLAB EXPO 2015 Japan、基調講演でドローンの近未来が明らかに

 「MATLAB EXPO」は、米MathWorkが開発する世界最大のシェアを誇る数値解析ソフトウェア「MATLAB」製品ファミリに関するカンファレンスだ。同カンファレンスは世界各国で開催されており、最新機能や事例の紹介が行なわれている。日本でも毎年秋に開催されており、10月16日に14回目の開催となる「MATLAB EXPO 2015 Japan」が開かれた。

MATLAB EXPO 2015 Japanは、東京・ホテル グランパシフィック LE DAIBAで開催された
最初に、MathWorks Japan社長の梨澤利隆氏が開会の挨拶を行なった

 MATLAB EXPO 2015 Japanは、東京・ホテル グランパシフィック LE DAIBAで開催されたが、ここではその中から、千葉大学特別教授/株式会社自律制御システム研究所代表取締役社長の野波健蔵氏によって行なわれた、「ドローンによる空の産業革命と近未来」と題された基調講演の様子を紹介する。

 ドローンはもともと軍事用として開発されたものだが、日本では1980年代後半から1991年にかけて、キーエンスが「ジャイロソーサー」というクアッドコプターを発売しており、民生用ドローンでは先進国であったのだ。また、自律航行可能な農薬散布用ヘリコプターも、ドローンの一種といえる。ドローンは2016年あたりから、整備および点検、災害調査、測量、警備の4分野での普及が始まると考えられているという。

 野波氏らが開発・販売している純国産ドローン「ミニサーベイヤー」は、重量は3kgだが、最大6kgまでのモノを載せて飛ぶことができる。ミニサーベイヤーには6つの羽根があり、その回転速度を変えることで、エルロン/エレベータ/ラダーに相当する制御が可能だ。この制御の数式を解くことにMATLABを活用しており、効率良く開発が進められたという。

 また、実機を飛ばさずに、さまざまな検証が行なえるドローンのエミュレータを開発した。エミュレータには周囲の建物の3次元データも入っており、風などの設定も可能だ。

千葉大学特別教授/株式会社自律制御システム研究所代表取締役社長の野波健蔵氏が「ドローンによる空の産業革命と近未来」と題した基調講演を行なった
千葉大学特別教授/株式会社自律制御システム研究所代表取締役社長の野波健蔵氏
基調講演の講演内容。本来は1時間以上かけて行なう内容だが、時間が40分しかないため、かなり駆け足となった
ドローンはもともと軍事用として開発されたものだが、1980年代後半から1991年にかけてキーエンスが「ジャイロソーサー」という製品を発売しており、民生用ドローンでは日本は先進国であった
また、農薬散布用ヘリコプターも自律航行可能であり、ドローンの一種だ
ドローンの国内市場の動向。2016年あたりから、整備・点検、災害調査、測量、警備の4分野への本格投入が始まる
国内市場のシェアの動向。今後は農薬散布の割合が減少し、測量や整備・点検などの分野が安定して伸びていく
野波氏らが開発・販売している純国際ドローン「ミニサーベイヤー」。重量は3kgだが、最大6kgまでのモノを載せて飛ぶことができる
ドローンの自律制御の基本構造。6つの羽根の回転速度を変えることで、エルロン・エレベータ・ラダーに相当する制御が可能だ
ミニサーベイヤーの心臓部であるオートパイロット。姿勢演算用のプロセッサと3軸加速度、3軸ジャイロ、3軸方位センサが実装されている
ミニサーベイヤーの飛行経路作成アプリの画面
こちらはミニサーベイヤーが飛行中に送信されているリアルタイム映像
ドローンのエミュレータの開発について。実機を飛ばさずに、さまざまな検証が行なえる
エミュレータの動作の様子。最初は自動制御なしで飛ばしており、次は自動制御を入れて飛ばしている

 ドローンは既にさまざまな分野で実用化されており、その例として、「ソーラーパネル点検」、「精密農業」、「ダムのコンクリート壁面の損傷目視点検」、「福島第一原発原子炉建屋内の調査」などが紹介された。福島第一原発原子炉建屋内の調査では、GPSによる測位が行なえず、レーザーセンサを利用して周囲の地図を作りながら飛行していく。

ドローン実用化例の1つ「ソーラーパネル点検」。上空からソーラーパネルの異常箇所を素早く特定できる
精密農業でもドローンの活用例。近赤外線画像を撮影することで、作物の生育状況を知ることができる
これが畑の近赤外線画像。赤や濃いオレンジの部分は生育状況が悪い
こちらはダムのコンクリート壁面の損傷目視点検での活用例
ダムのコンクリート壁面の損傷目視点検を行なっているドローン。民生用デジカメで写真を多数撮影し、PCで処理をしてつなぎ合わせる
これがつなぎ合わせた画像。3D化されており、自由に回転や拡大縮小が可能だ
GPSでの測位ができない建物の内部の調査にも活用されている。こちらは、福島第一原発原子炉建屋内の調査の例
GPSでの測位ができない建物の内部は、レーザーセンサを利用して周囲の地図を作りながら飛行していく

 今後の発展については、ドローン特区の第1号として認定された秋田県仙北市田沢湖スキー場など、国内でもドローンを自由に飛ばせるドローン特区の申請が相次いでいる。米国のMATTERNETは、ドローンを利用して交通インフラの整っていない世界10億人に物資を配送する計画を推進中である。また、Amazonもドローンを配送に使う計画であり、10マイル離れた場所へ5ポンド(約2.27kg)の荷物を配送する場合、ドローンを利用すれば、コストは1ドルになり、到着時間は30分に短縮されるという。

 さらに、ドローンによるAED搬送の実証実験が行なわれているほか、アメリカのデザインファームArgodesignは、ドローン救急車のコンセプトモデルを提案している。未来都市空間では、道路のようにドローンの飛行区域が決定されると考えられており、NASAもドローン航空管制システムの研究を行なっている。

 自律制御システム研究所が目指すのは、従来の飛行ロボットを遙かに凌ぐ、超堅牢な生物型飛行ロボットの開発である。地上300mまでの超低空間は、人類に残された最後のフロンティアであり、大都市上空を飛行可能な安全かつ信頼性や耐久性の高い飛行ロボットの実現により、ライフスタイルが3D型へと進化する。そうした飛行ロボットの実現まで5~10年と見積もっている。

国内でもドローンを自由に飛ばせるドローン特区の申請が相次いでいる。ドローン特区の第1号として認定されたのが、秋田県仙北市田沢湖スキー場である
MATTERNETは、ドローンを利用して交通インフラの整っていない世界10億人に物資を配送する計画を推進中である
Amazonもドローンを配送に使う計画である。10マイル離れた場所へ5ポンド(約2.27kg)の荷物を配送する場合、ドローンを利用すれば、コストは1ドルになり、到着時間は30分に短縮される
ドローンによってAEDを搬送し、人命救助に使おうという計画も考えられている
アメリカのデザインファームArgodesignが提案しているドローン救急車のコンセプトモデル
急病患者を乗せて病院まで搬送するドローン救急車のコンセプトモデル
未来都市空間では、道路のようにドローンの飛行区域が決定されると考えられている
NASAが公開したドローン航空管制システムのイメージ図
自律制御システム研究所が目指すのは、従来の飛行ロボットを遙かに凌ぐ、超堅牢な生物型飛行ロボットの開発である
地上300mまでの超低空間は、人類に残された最後のフロンティアであり、大都市上空を飛行可能な安全かつ信頼性や耐久性の高い飛行ロボットの実現により、ライフスタイルが3D型へと進化する。そうした飛行ロボットの実現まで5~10年と見積もっている

展示会場ではロボットの制御やRaspberry Piでの活用例などが紹介

 MATLAB EXPO 2015 Japanでは、セッションだけでなく、パートナー企業による展示ブースも設けられている。展示会場はそれほど広いわけではないが、MATLAB/Simulinkを利用したさまざまなソリューションが展示されていた。ここでは、その中から特に興味を惹かれたものを紹介する。

 ロボティクスアプリケーション開発ソリューションに関する展示では、産業用の双腕ロボット「Baxter」を利用したデモが行なわれていた。このデモは、画像認識とハンドの制御によってチェッカーをプレイするというものだが、MATLAB/SimulinkのRobotics Sysytem Toolboxを活用することで、より短期間でのアルゴリズム設計および実装が可能になるという。

 ロボットビジョン開発ソリューションに関する展示では、TurtleBot2を利用して、地図作成と画像認識を行なっていた。こちらはMATLABから直接ROSネットワークにアクセスし、連携を行なっているもので、ロボットビジョン開発を効率良く行なうことができる。さらに、NVIDIAはコンパクトなMATLAB用ワークステーション「MATBOX」を展示していた。MATBOXは、Core i7とTesla K40Cを搭載したキューブ型ワークステーションであり、GPU演算を利用することで処理速度が大きく向上する。そのほか、Raspberry PiとArduinoを利用した画像処理やMATLABのオンライントレーニングに関する展示なども注目を集めていた。

展示会場のブースマップ。多くのパートナー企業が出展している
展示会場の様子
ロボティクスアプリケーション開発ソリューションに関する展示
双腕ロボット「Baxter」を利用してデモを行なっていた
Baxtarがチェッカーをプレイするデモ
ロボットビジョン開発ソリューションに関する展示
TurtleBot2をRobot OS(ROS)経由でMATLABから操作し、地図作成と画像認識を行なっているところ
NVIDIAが展示していたMATLAB用ワークステーション「MATBOX」。Core i7とTesla K40Cを搭載
GPU演算による性能向上の様子。グラフの上の曲線がGPUによる演算、下の曲線がCPUによる演算である
Raspberry PiとArduinoを利用した画像処理の例。緑色のボールを追いかけてカメラが動く
MATLABのオンライントレーニングのデモ

記者説明会でMathWorksの基本戦略や最新MATLABの強化点などが解説

 MATLAB EXPO 2015 Japanの開催にあわせて、「データ解析分野におけるMATLAB活用に関する記者説明会が行なわれた。この記者説明会では、MathWorksのMATLAB開発エンジニアリング担当副社長であるロイ ルリエ氏がプレゼンを行ない、データ解析分野におけるMathWorksの戦略、ならびにMATLABの優位性が解説された。その要旨は以下の通りだ。

 MathWorksは、1年に2回ソフトのリリースを行なっており、2015年9月10日に発表されたR2105bが最新版となる。主な市場は、航空分野から自動車、金融、医療、半導体にいたるまで幅広く、教育にも力を入れており、世界の5,000以上の大学で導入されているほか、MATLABとSimulinkの書籍は27カ国語で1,500冊以上刊行されている。

 世界の工業と市場の3大トレンドは、「データ関連の爆発的な成長」、「組み込みセンサーの解析市場の立ち上がり」、「その両社を組み合わせたIoT」で、そのトレンドに沿ったMATLABの基本戦略は「MATLABをどこにでも」、「データ解析と機械学習に注力」、「プラットフォームの強化」の3点である。

 最初の戦略については、PCだけでなく、スマートフォンやタブレットで動作する「MATLAB Mobile」やブラウザベースの「MATLAB Online」などを提供、MathWorks Cloudでデータの一元管理が可能にする。また、クラウドストレージサービスの「MATLAB Drive」のテクニカルプレビューも開始しており、デバイス間でのMATLABデータの自動同期などを実現している。

 2つめの戦略については、MATLABでは表形式のデータや時間系列のデータ、ビッグデータなど、さまざまなデータを扱うことができ、機械学習もさまざまな領域の専門家が簡単に使えるようになっている。最新のMATLABでは、統計と機械学習、ディープラーニング関連の機能が強化されており、ディープラーニングを利用した物体認識なども簡単に実現できる。

 3つめの戦略については、最新のR2015bではMATLAB実行エンジンがフルスクラッチで書き直されており、全てのMATLABコードでJITコンパイルを採用。76種類のユーザーアプリケーションで、平均40%も性能が向上した。さらに、アドオンエクスプローラーが搭載され、MATLAB上から直接アドオンを閲覧、選んでインストールすることが可能になったほか、可視化機能やグラフとネットワークアルゴリズムなどが強化されている。

記者説明会では、MathWorksのMATLAB開発エンジニアリング担当副社長であるロイ ルリエ氏がプレゼンを行なった
MATLAB開発エンジニアリング担当副社長のロイ ルリエ氏
MathWorksの主な市場について。航空分野や自動車から金融、医療にいたるまで幅広い分野で使われている。また、教育にも力を入れており、世界の5,000以上の大学で導入されているほか、MATLABとSimulinkの書籍は27カ国語で1,500冊以上刊行されている
MarhWorksの組織図。社長の下に2人の副社長がおり、それぞれMATLAB担当とSimulink担当となっている
工業と市場のトレンド。データ関連が爆発的に伸びており、組み込みセンサーの解析技術の市場も立ち上がった。さらに、その両者を組み合わせたIoTが話題となっている
MATLABの基本的な戦略は、「MATLABをどこにでも」「データ解析と機械学習に注力」「プラットフォームの強化」の3点である
MATLABをどこにでもという戦略の具体的な解説。PCだけでなく、スマートフォンやタブレットで動作する「MATLAB Mobile」やブラウザベースの「MATLAB Online」などを提供、MathWorks Cloudでデータの一元管理が可能に
スマートフォンで動作するMATLAB Mobileをデモするロイ氏
クラウドストレージサービスの「MATLAB Drive」のテクニカルプレビューを開始した
MATLAB Parallel Cloudは、クラウド上のサーバを利用して並立処理を行なう技術だ
2つめの戦略である「データ解析と機械学習に注力」について。MATLABでは、表形式のデータや時間系列のデータ、ビッグデータなど、さまざまなデータを扱うことができ、機械学習もさまざまな領域の専門家が簡単に使えるようになっている
最新のMATLABでは、統計と機械学習のツールボックスが強化されている。R2015aでは、分類学習器が追加され、R2015bでは分類学習器がさらに強化されたほか、ノンパラメトリック回帰のサポートや65の関数がGPUアクセラレーションに対応するなどの改良が行なわれている
R2015bでは、ディープラーニングのためのニューラルネットワークツールボックスも追加された
ディープラーニングを利用した物体認識。1,000のカテゴリーから数百万の画像を学習させた
Webカメラの映像に写っている物体をリアルタイムで認識するデモ。棒グラフの長さが、その物体である確率を示しており、かなりの精度で認識していることがわかる
3つめのプラットフォームの強化については、R2015bではMATLAB実行エンジンがフルスクラッチで書き直され、全てのMATLABコードでJITコンパイルを採用。76種類のユーザーアプリケーションで、平均40%も性能が向上。
さらに、R2015bではアドオンエクスプローラーが搭載され、MATLAB上から直接アドオンを閲覧、選んでインストールすることが可能になった
R2015bではグラフとネットワークアルゴリズムが強化されており、複数のグラフレイアウトのサポートやグラフ生成のための新しい関数が追加された
またR2015bでは、可視化機能も強化されており、カスタムプロット軸や2変量ヒストグラムもサポートされた
その他のR2015bのアップデートとしては、ヘルプドキュメントの見直しやRaspberry Pi 2やiOSセンサー、BeagleBone Blackといった新規ハードウェアのサポート、MEXコンパイラのサポート、サイズが大きい画像データをインポートする機能などが挙げられる
コンピュータビジョンシステムツールボックスも強化され、3次元点群の処理をサポートした

(石井 英男)