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モノづくりの街、米沢にコ・ワーキングスペース「たのし荘」がグランドオープン

~「トキワ荘」をイメージ。地域と若者を結び、新たな雇用を生み出す人材を創出

山大工学部キャンパスからほど近いロケーションの一軒家を丸ごと借り切ったたのし荘

 山形県・米沢市に若者や学生を主体としたシェアスペース「たのし荘」がオープンした。かつて有名漫画家を数多く輩出した「トキワ荘」をイメージしたというこのスペースだが、地域と若者を結び、地域に新たな雇用を生み出す人材を創出するという願いが込められている。

 米沢市にキャンパスを構える国立山形大学工学部。かつての名門、今も本館の建物が国指定重要文化財として残されている旧米沢高等工業学校のあった場所でもある。そこからほど近いところにたたずむ一軒家メゾン春日山。「たのし荘」はその2LDKを借り切ったスペースだ。

米沢市にある山形大学工学部のキャンパス
キャンパスの一画には旧米沢高等工業学校本館の建物は国指定重要文化財として残されている

 「たのし荘Project」リーダーであり、発起人でもある高木直人氏は、山形大学工学部の3年生だが、現在は大学を休学して、とある構想を実現するべく活動中だ。もともとは観光用ARアプリの開発拠点として考えていたものが発展して「たのし荘」に繋がっているという。

 人材の流出は地方にとって深刻な問題でもある。そして起業家もまた都市へと向かうことで、地方都市の雇用機会も減少し、それはすなわち自治体の税収にも大きく影響を与える。こうした悩みを抱える地域と、モチベーションを持ちながらかなえられないでいる、あるいはモチベーションさえ持つことができないでいる学生との間を取り持ち、パイプとしてその結びつきを拡張することが「たのし荘Project」の目的だ。

たのし荘の企画を立案して奔走、実現にこぎつけた発起人でありリーダーの高木直人氏

 彼らは次の3つの“L”を理念として掲げる。

  1. Learn 新しい知識との出会い
  2. Link 新しい仲間との出会い
  3. Leap 新しい自分との出合い

 米沢と言えば、NECパーソナルコンピュータの開発拠点が置かれていることで知られているが、プロジェクト発足のきっかけになったのは、山形大学工学部に招かれて講演したNECパーソナルコンピュータ執行役、小野寺忠司氏の話を高木氏が聞いたことだ。モノづくりの原点と取り組み、そして白色有機ELや化学繊維の故郷として知られる米沢の地域性を改めて認識した高木氏は、まず山形大学内でのこうしたスペースの設置を目論んで小山学長を筆頭に大学関係者との相談を重ねてきたが、その相談議論の過程で大学外との関係性の構築には、学外にこのスペースを設置した方が良いことに気付く。

 そして、地域産業を活性化するイノベーションを目指して設立されたNPO法人「ワイ・リサーチ・イノベーション」の代表理事でもある小野寺氏のもとを訪れる。そこで、小野寺氏のブレーンとして、また、NECの協力企業として数十年にわたって貢献してきた株式会社サイラボ代表取締役小俣伸二氏と出会い、両名の賛同を得て「たのし荘Project」への協力をとりつけることに成功した。言わばあしながおじさんが見つかったわけだ。両氏もまた米沢という地域の活性化のために努力を続けている。方向性が一致した形だ。

 学生同士は近しい関係にあっても地域と学生は実は遠い位置にあると「たのし荘」管理人の難波竜次氏は言う。同氏は工業高校を卒業後、東北電力株式会社へ入社したものの、自身での起業を目指すために退職、現在は、たのし荘に集まる学生たちのよき理解者として指導にあたっている人物だ。

 なぜ地域と学生は遠い距離にあるのか。そこには大人の学生に対する偏見があり、若者に何ができるかという地方独特の先入観がある。その分かってもらえない側面をたのし荘が仲介することで、これらの問題を解決するという(難波氏)。

管理人としてたのし荘に住み込む難波竜次氏。

 「たのし荘」は、8月にプレオープンし、既に延べで50名を超える学生とコンタクトをとってきた。たのし荘Projectの今後の課題として、利用者の増加、信頼度の増加、学生へのコネクションの生成、社会人、企業人とのコネクション連携、利用者に提供する勉強会といったコンテンツの増加などに注力し、とにかく学生と社会、地域を結ぶパイプとしての土台を確立したいという。シリコンバレーを実現した材料で山形にないものはないと鼻息も荒い。

 その一方で、テレワークなどの方法論で、いわゆるワークスタイルの変革が叫ばれる昨今、物理的に同じ場所に人が集まることに、それほど意味があるのかという議論もある。コミュニケーションのためだけならITを駆使すればあらゆることができるからだ。

 だが「ネットはおもしろいけれども何かつまらない。直接的に、物理的にたくさんの人と会って気持ちを共有することが価値のあることだと気が付きました。今だからこそリアルの場が必要」と彼らは考える。

 同Projectは、現時点では複数個人からの寄付を頼って小俣氏のサイラボの管理のもと運営されているが、今後3年間で軌道にのせ自立することをもくろんでいる。小俣氏や小野寺氏らも、ここから生まれるであろうスタートアップとビジネスができるようになることを願っている。両者がWin-Winの関係になれるかどうか、それは埋もれた才能の発掘にかかっている。

玄関を入るとこれから始まる何かを予感させるムードが
要するにトイレ
デスクが並ぶワーキングスペース。活発な議論が戦わされるはず
「たのし荘」の看板を掲げた前で幹部二人が記念写真

(山田 祥平)