ニュース

NTT、大規模災害時に通信を回復する「ICTカー」を開発

ICTカー
1月28日 発表

 NTTは28日、大規模災害時に電話ネットワークなどの通信の回復や被災者の情報を登録することを目的とした「ICTカー」を開発したと発表した。

 ICTカーは、交換器やWi-Fiホットスポット機能、サーバー機能、外部通信機能、そして発電機、サーバー用空調などを搭載した自動車。外部電源や通信インフラを必須とせず、ICTカー本体のみでローカル通信機能が完結する点が最大の特徴。

 主要機能は、半径500mエリア内をWi-Fiでエリア化し、エリア内の被災者にICT利用環境を提供するもの。通話はユーザーが契約している通信キャリアに関係なく利用でき、電話番号を登録して専用ソフトをダウンロードすれば、ユーザー自身のスマートフォンと電話番号をそのままにエリア内通話が可能。また光回線や衛星回線を通じて広域網に接続することで、エリア外との通話やインターネットの利用が可能になる。

 もう1つの機能は「被災者データ収集システム」で、タブレットで避難所などにいる被災者の写真とIDカードを撮影し、個人情報として結びつける。これによって救援物資の分配管理や、怪我/病気の治療カルテなどに役立てられる。また外部と接続すれば安否確認サービスなどを利用できるようになる。

 最小限の知識でICT基盤を展開できるよう設計されているのも特徴で、例えばローカル基地局としての利用だけならば、本体の電源を入れるだけで済む。ユーザー側ではWi-Fiの設定とアプリのインストールを行なうだけで、検証によると10代~20代などスマートフォンに慣れているユーザーであれば1分以内、40代~50代ユーザーでもアドバイスなどがあれば5分以内で設定が済むという。

 さらに、被災者データ収集システムに関してもExcelの入力などの複雑な知識を必要とせず、タブレット端末のタッチ操作だけでデータベースへの登録が可能。流れ作業的には1人あたり15秒程度で登録できるという。

ICTカーの開発コンセプト
過去に開発した移動式ICTユニット
ICTカーの位置づけ
ICTカーの概要
ICTカーの提供機能
スマートフォンでの通話の設定。これはAndroidの場合で、iPhoneの場合はAppStore経由でしかインストールできないため、今後の課題となる
専用アプリをインストールする
これまで利用していた電話番号での通話と着信が可能になる
デモで発信しているところ。操作しているのは主幹研究員 坂野寿和氏
別の端末で着信し、通話できる
ローカルでの通話は内線というイメージ。外部との通信には別途ネットワークが必要だが可能で、この場合外部からはICTカーに電話をかけ、内線に転送するというイメージになる
被災者データ収集システムの利用イメージ
システムの構成
避難所でのデータ登録
データ登録のデモ。タブレット端末を利用して写真を撮影する
別のPCから被災者のデータを参照できるようになる
外部システムとの連携も可能
NTT未来ねっと研究所 所長 高原厚氏

 NTT未来ねっと研究所 所長の高原厚氏は、「東日本大震災後に、総務書から災害対策について考えて欲しいというお声がかかり、開発するに至った。NTTはキャリアとして冗長経路などを用意したが、東日本大震災ほど大規模な災害は想定しておらず、結果として多くの基地局機能を失った。しかしながら、被災者の多くはスマートフォンといった情報通信機器が手元に残っており、これを活用しない手はないと思っている。とりあえずスマートフォンでローカル通信、そして情報を収集/発信させられるのならと思い、今回のICTカーの開発に至った」と述べた。

 また、このICTカーの構想をさらに切り出して小型化した「アタッシュケース型ICT-BOX」も用意した。これは無線LANアクセスポイントユニット(ルーター)と小型交換器(IP-PBX、PC技術がベース)、バッテリのみで構成されている。外観を見る限りIntelのNUCやバッファローの小型ルーター「WMR-300」をベースにしているようだが、「PCの処理能力が年々向上しているため、このサイズでも約5,000台の収容が可能。今のところネックはアクセスポイント側で、これが改善すればより多くの端末をこのサイズで対応できる」(主幹研究員 坂野寿和氏)という。

ICTユニット
ICTユニットの概要
被災者データ収集システムの特徴

 2013年10月に会津大学の学園祭で約300人程度を対象に実証実験してもらい、アンケートやヒヤリングを通して感想を聞いたところ、概ね活用できるだろうという回答を得た。また被災者データ収集システムの実証実験においても、ICTカーの活躍が評価された。今後は2月下旬に高知県南国市/黒潮町でICTカーのIP電話機能を使った避難所間通信、自治体のアプリケーションなどの実証実験を行なう予定としている。

大学での実証実験
被災者データ収集システムの実証実験
フィリピンの台風被害時の利用イメージ
展示されたICTカー
3人乗りで、「3人程度でもシステムを展開できる」という
本体内部
上部にはアンテナを多数装備する
レールが備わっており、ユニットを外に出して利用することも想定している
ソーラーパネル付きの電源や、通信エリアを拡張するユニットなど
この菱型のアンテナでICTカーと外部ユニットを接続し、エリアを広げることが可能
電源を管理するユニット
発電装置とみられる
汎用のコンセントも出ており、被災者のスマートフォンを充電できる
サーバーやスイッチ、ストレージ群
空調用の管が通っている
空調にかかる電力をなるべく減らすように、保冷断熱材を備える。外部から取り入れた空気がここを通ると26℃程度となり、サーバーを冷却する
用途は不明だが、Shuttleのベアボーンも置かれていた
アタッシュケース型ICT-BOX
PC、アクセスポイントバッテリと構成は簡単だ
IntelのNUCやバッファローの無線LANルーターが使われており、パーツの汎用化で価格はそれほど高くなさそうである

(劉 尭)