米IBMは28日(現地時間)、標準的半導体プロセス上で、カーボンナノチューブで形成されたトランジスタ1万個以上を使って1つのチップを製造することに初めて成功したと発表した。
カーボンナノチューブは、炭素原子で構成された薄板を丸めて円筒状にしたもの。薄板の厚さは最薄で炭素原子1個分で、ナノメートル規模であることからこの名がつけられている。
現在のトランジスタ材料であるシリコンは、これまで製造プロセスの縮小により、消費電力の引き下げ、性能の向上、製造コストの抑制といったことが可能だったが、物理的制約から、その縮小は後数世代で限界に達すると言われている。そのため、半導体業界では、新しいトランジスタに向けた技術や素材の研究開発が急ピッチで進められている。
カーボンナノチューブは、シリコンよりも電気特性に優れ、5~10倍の性能を実現できるため、代替材料の1つとして期待されている。ただし、カーボンナノチューブによる製品レベルの回路形成には、純度と配置精度を向上させるという課題があった。カーボンナノチューブは、半導体と金属の混合物として製造されるため、半導体に用いるには金属部分を除去する必要がある。また、大規模な回路形成には、カーボンナノチューブをウェハ上に非常に高い精度で配置する必要がある。
今回IBMの研究員は、イオン交換法を用いて、この2つの問題を打開し、今年初めに試作したものより2桁以上大きい、1万個以上のトランジスタによるチップ製造に成功した。同社では、カーボンナノチューブの配置に使った科学的手法と、ウェハなどの製造技術は既存のものを用いているため、今回の成果は実用化に向けた大きな弾みとなるとしている。
(2012年 10月 29日)
[Reported by 若杉 紀彦]