NVIDIA GTC Japan 2012が開幕

開演15分前の基調講演会場

7月26日 開催



 NVIDIAは26日、GPU関連の技術カンファレンスであるGPU Technology Conference (GTC) Japan 2012を東京ミッドタウンで開催した。

 GTCは、GPUコンピューティングをテーマとした開発者イベント。基調講演で挨拶した日本法人代表のスティーブ・ファーニー・ハウ氏によると、GTC Japan 2012には計47のセッションが用意され、日本最大規模のGPUコンピューティングイベントとなる。このような大規模なものだけでなく、同社はこれまでにもトレーニング情報サイトの開設や、日本語化された入門動画の公開、同社オフィスでの月例トレーニングなどの開発者支援を行なってきており、GPUコンピューティングの認知度、普及度は国内でも確実に高まってきている。実際に10時から行なわれた基調講演は、ほぼ満席の状態でスタートした。

 基調講演では、米NVIDIA Teslaビジネス担当CTO(Chief Technology Officer)のスティーブ・スコット氏がプレゼンテーションを行なった。その内容は、5月に米国で行なわれたGTCを踏襲するものだったが、スコット氏はまず、5月以降に発表された製品や、日本国内での採用事例などの最新情報を紹介した。

 GTC直後、米国ではGoogleとMicrosoftが相次いで、初の自社ブランドタブレットを発表した。Googleの「Nexus 7」については既知の通りだが、MicrosoftのWindows RT版「Surface」もTegra 3を採用しているという。Nexus 7は199ドルからという価格になっており、スコット氏は、これらを弾みに今後、高性能なTegra 3端末が安価に入手できるようになると述べた。日本では、富士通がスマートフォン「ARROWS X/Z」を発売。GPUについては、2,880×1,800ドットのRetinaディスプレイを搭載する「MacBook Pro」でGeForceが採用された。

スティーブ・スコット氏SurfaceとNexus 7はTegra 3搭載
日本でもTegra 3搭載スマートフォンが発売Retina MacBook ProはGeForceを採用

 主題であるHPCについてスコット氏は、現在のスーパーコンピュータにおいて、トランジスタ数ではなく、電力が性能引き上げの制約になっている現状を指摘。今後、さらに性能を上げるには電力効率を上げる必要があり、そのためにはCPU+GPUのハイブリッド構成の重要性がさらに増していくと説明した。これは、IntelやAMDもそれぞれ同様の主張をしており、過去何度も取り上げているのでここで詳しくは説明しないが、電力効率は良くないが逐次処理の得意なCPUと、電力効率が高く並列処理の得意なGPUを組み合わせることで、性能と電力のバランスを取りながらスループットを上げるというアイディアだ。

 その国内事例の1つとして、筑波大学大学院システム情報工学研究科CUDA Research Centerの朴泰祐教授が壇上に招かれ、同校に設置されたスーパーコンピュータ「HA-PACS」について紹介した。

 HA-PACSは、Highly Accelerated Parallel Advanced system for Computational Sciencesの略で、1,072台のTeslaを搭載する大規模なGPUクラスタ。理論ピーク性能は802TFLOPSで、そのうち9割がGPUによるもの。TOP500では41位にランクインしている。特徴的なのは、ノード間の通信に独自に開発した「PEACH2」と呼ばれるチップを搭載している点だ。

HPCはハイブリッドへ朴泰祐教授HA-PACSの概要

 続いてスコット氏は、「Kepler」の特徴を説明した。Keplerでは、192基のSPをひとまとめにしたSMXという構造になっている。SMXでは、1つの制御ロジックが受け持つ演算ユニットを減らし、周波数を引き下げることで、実行効率を前世代のFermiから3倍に引き上げた。また、第4四半期に登場予定の「GK110」と呼ばれる新Keplerでは、32個までのキューを同時実行できる「Hyper-Q」、そしてGPU単独で次に行なう処理を決定する「ダイナミック並列処理」と呼ばれる機能が追加されている。これらにより、N-body演算性能は7倍に引き上げられている。

 なお、GK110は、オークリッジ国立研究所の次世代スーパーコンピュータ「Titan Cray XK6」での採用が決定しており、18,000個のGK110を使い、全体で20PFLOPSを超える性能の実現を予定しているという。

 また、Keplerは、GPUとして初めて仮想化に対応する。これにより、Quadroベースの仮想マシンを実現する「VGX」、そしてストリーミングゲームを実現する「GeForce GRID」という新たな機能/サービスが利用できるようになった。VGXとGeForce GRIDについての詳細は、関連記事を参照されたい。

 続いて、ファーニー・ハウ氏の紹介で、東京工業大学学術国際情報センターの青木尊之教授が登壇した。

 同校が擁する「TSUBAME 2.0」は、すでにTOP500の常連とも言えるスーパーコンピュータだが、同システムを用いた樹枝状凝固成長のフェーズフィールド法を用いたペタスケールシミュレーションは、理論性能の5割近い実効性能を発揮し、2011年にスーパーコンピュータ界のノーベル賞と呼ばれるゴードンベル賞を受賞した。その功績もあり、青木氏は2012年に世界に10人程度しかいない「CUDA Fellow」にも選出された。

 青木氏は、これらの栄誉は個人のものではなく、チームや周りの人々の援助があってこそのものと謝辞を述べた。また、学術国際情報センターでは、GPUコンピューティング研究会と呼ばれる組織を運営しており、TSUBAMEのGPUを用いた講習会などのほか、8月30日に行なわれる高校生向けの「CUDAサマーキャンプ」にも協力していることなどを紹介した。

スティーブ・ファーニー・ハウ氏青木尊之教授
TSUBAME 2.0の研究がゴードンベル賞を受賞青木教授らはGPUコンピューティング研究会も主催している

 最後にNVIDIAジャパンマーケティング本部マネージャーの林憲一氏が、1台のワークステーションにQuadroとTeslaを共存させる「Maximus」について紹介したが、実は基調講演中にスクリーンに映し出されていた講演者の顔には、Maximusを使った「リアルタイム美肌機能」が使われていたことを明かし、公演を締めくくった。

締めくくりに登場した林憲一氏。実は冒頭から、人物の映像にはリアルタイムで美肌補正をかけていたことを明かした。左が補正後、中央が補正前

(2012年 7月 26日)

[Reported by 若杉 紀彦]