米Microsoftは16日(現地時間)、「Office 2010」の後継となる「Office 2013」を含む次期Officeのカスタマープレビューを同社サイト上で無償提供開始した。対応OSは、Windows 7/8で、言語は英語、スペイン語、日本語に対応する。
カスタマープレビューは、誰でも利用できるベータ版。現在使っているバージョンを残したまま、インストールし、並列利用することもできる。Microsoftでは、今後何種類のベータ版を提供するのか明らかにしていないが、このプレビューからのフィードバックを元に、製品版へと昇華させる。
次期Officeも前バージョン同様、ストリーミングインストール機能であるClick-to-runに対応。ユーザーが立ち上げるソフトや、利用する機能を判断し、それを優先してストリーミングインストールすることで、ダウンロード開始から数分以内に各ソフトが利用可能になる。
●次期Officeは新デバイス、クラウド、ソーシャルでの利用に特化ロアン・カン氏 |
今回の公開に合わせ、日本マイクロソフト業務執行役員Officeビジネス本部本部長のロアン・カン氏が、次期Officeの概要などについて説明した。
次期Officeの製品構成は個人向けの「Office 2013」と企業向けの「Office 365」に大分される。Office 2013はWord、Excel、Outlook、PowerPoint、OneNoteといった次期クライアントソフトの総称で、プレビューとしてはOffice Professional 2013が提供される。一方のOffice 365はサブスクリプション(契約)モデルとなっており、クライアントソフトに加え、クラウドサービスや、Exchange、SharePointなどのサーバー製品も含まれる。こちらは、中小企業向けの「Office 365 Small Business Premium」、エンタープライズ向けの「Office 365 ProPlus」と「Office 365 Enterprise」の3つが提供される。
なお、実際の製品構成や、発売時期、価格は現在未定で、秋に発表予定。
カン氏はまず、日本におけるOffice事業の業績について、Office 2010が過去最高の販売ライセンスであったこと、大企業のExchange採用率が50%を超えたこと、過去10年連続でSharePointのライセンスが2桁成長だったこと、Lyncの導入顧客数が昨年比で4倍増だったことなど、日本が世界の中でも有数の市場であることを説明した。こういったことから、前述の通り、プレビューが提供される3言語の内の1つが日本語となっている。
そういった好成績の中、なぜ次のバージョンを投入するのか。これについてカン氏は、技術の急速な変化に対応するためだと述べた。具体的には、次期Officeは新しい種類のデバイス、クラウド、そしてソーシャルといった急成長を遂げている、3つの分野について徹底的な最適化を図っている。
デバイスについて、次期OfficeはノートPC以外に、タブレットやスマートフォンでの利用も念頭に開発されている。例えば、タブレットやスマートフォンでは、タッチ操作が前提となるため、スクロールバーが太くなったりするし、タブレットは両手で抱えて操作するため、メインの操作UIが画面の両端に現われるようになる。過去のバージョンのOfficeでは、ユーザーの作業状態に応じて表示が変化するリボンUIが採用されたが、次期Officeではそれをさらに推し進め、デバイスによってUIが最適なものに変化する。また、後述するリングメニューを新たに実装したほか、高速化も図られている。
クラウド対応について、次期Officeでは標準の文書保存先がSkyDrive、あるいは今後SkyDrive Proに改名されるSharePoint Onlineになる。次期Officeは1ユーザーにつき、5台までのPCと5台までのモバイルデバイスで利用できるが、このクラウド保存機能により、どのデバイスからでも常に最新の文書にアクセスできるだけでなく、最後に文書のどの場所を開いていたかもクラウドに記録されるので、会社でPCを使って作成しかけた文書を、屋外でタブレットで開けば、編集していた画面が現われる。従来通り、オフライン作業にも対応しており、オフライン状態でも操作でき、オンラインになると自動的に同期が行なわれる。
ちなみに、Windows 8では、Microsoft IDによるシングルサインインが実現されているので、あまりユーザーが気に懸ける場面はないが、次期Office自体もMicrosoft IDによるサインインを使って、SkyDriveとの連携を実現している。次期OfficeではSkyDrive以外のクラウドストレージにも対応するが、その場合はユーザーがアカウント設定や、ソフト/ドライバのインストールなどを別途行なう必要がある。
ソーシャルについては、連絡先の内容にFacebook、Twitter、LinkedInのアップデートを表示できる機能もあるが、どちらかというとSharePointや先頃同社が買収したYammerのサービスを使った企業内ソーシャルネットワーク機能や、コラボレーション機能が充実している。
これら3分野での機能追加以外に、大企業向けに管理面での強化/改善もなされている。
Office 2010は日本で好調な成績を収めた | 企業向けのOffice 365も大手企業で採用 | 次期Officeでは、新デバイス、クラウド、ソーシャルへの徹底した最適化を図り、管理性も強化した |
●各アプリの特徴
カン氏の概要説明に続き、Officeビジネス本部エグゼクティブプロダクトマネージャの内田修氏が各クライアントソフトの特徴などをデモを交えながら説明した。
まずはOutlook。次期Officeでは、「妥協なきシンプルさ」を設計思想としており、例えばOulookであれば横線などの表示を廃止するなど、極力シンプルなUIにし、メインのコンテンツ(Outlookなら各メール)に集中できるようにしたという。タブレットでの操作時には、把持した手で扱いやすいよう、右端に返信、削除、フラグ付けといった主なアイコンが表示。また、ソフトキーボード利用時の見やすさを考慮し、返信時は新規画面でなくインラインで返信するといった配慮もされている。新機能としては、左下の予定表や連絡先などへのナビゲーションバーにマウスオーバーするだけで、プレビューを表示する機能が追加された。
内田修氏 | Outlook 2013 | タブレットでは、右端に返信、削除、フラグ付けなどのアイコンが表示 |
ソフトキーボードを考慮して、返信はインラインに | ナビゲーションバーにマウスオーバーで、予定表などをプレビューできる | カレンダーはピンチ操作で日/週/月表示を切り替えられる |
Excelの新機能として、「フラッシュフィル」という機能が追加された。これは、ユーザーが入力したデータパターンを認識し、数式やマクロを設定することなく残りのデータを補完する機能。例えば、従来1つのセル(列)に、番号/分類/名前といった複数の内容が含まれている時に、それを個別のセル(列)に分離するには手作業が必要だったが、Excel 2013では新規セルに名前を2つ入力するだけで、名前だけの列を作りたいのだと判断し、残りのセルに対して名前だけを抽出/補完する。
「クリックプレビュー」という機能も追加され、任意のセルを範囲指定した際に、それらに対して書式変更や、グラフ/テーブルの作成などを行なうための小ウインドウが表示され、各スタイルを適用するとどのように変化するかをリアルタイムでプレビューできる。これにより、従来バージョンでは熟練ユーザーでないと難しかったピボットテーブルの作成も簡単にできるという。
Excel 2013 | ここで列Bには1つのセルに複数の要素が記述されているが | 別の列にそこに含まれる名前の要素を入力していくと |
3つめ以降は自動補完される。ちなみに、列Bでは「姓-名」となっているが、列Eには「姓名」の書式で入力したことも認識されている | クリックプレビューで、書式の変更や、テーブル作成などをプレビューできる |
PowerPointでは、「発表者ツール」が追加。この機能を利用すると、プレゼン時に発表者の画面にだけ、現在のスライド以外に、経過時間、次のスライド、原稿などが表示される。この画面では、タッチ操作による各ペインのサイズ変更や、スライドの拡大縮小、全スライドのサムネール表示もできる。また、他のソフトでも共通するが、スライド上にオブジェクトを配置する際のガイド機能が強化されたほか、スライド上に配置した写真などのオブジェクトから、スポイトで色を抽出できるようになった。
PowerPoint 2013 | ガイド機能が強化され、オブジェクトのセンタリングや位置/サイズ合わせが楽に | ようやくといった感もあるが、スポイト機能による色指定も可能に |
新しい発言者ツール | スライドや原稿の拡大縮小や、スライドの一覧表示などもできる |
次期Officeは基本的に、Windows 8でも従来のデスクトップUIで利用するデスクトップソフトとなっているが、例外としてOneNoteだけ(企業向けでは、コミュニケーションツールのLyncも)がWindows 8ネイティブ版も用意される。ネイティブ版では、Windows 8のチャームから、OneNoteに対する検索をかけることができ、OneNoteに貼り付けた写真に含まれる文字を自動的にOCRしたものが、検索結果に表示されるというデモが行なわれた。
さらに、タッチでさまざまな操作ができる「リングメニュー」もWindows 8ネイティブ版の新機能となる。これは、文字列や、オブジェクト選択時にその右下に表示されるアイコンをタップすると、そのオブジェクトに対してかけることのできる主な操作が同心円のメニューとして表示されるもの。例えば文字列の場合、フォントサイズや、色、太字といったメニューが円形に表示され、そこからフォントサイズをタップすると、ダイヤルを回すような操作で、フォントサイズを変更できる。また、リングメニューにはカメラ機能の呼び出しもあり、これを使って、デバイスに内蔵されたカメラで写真を撮影し、文書に貼り付けることが簡単にできる。
ちなみに、Windows 8ネイティブ版OneNoteはダウンロード内容には含まれておらず、別途Windows 8のWindows Storeからインストールする。また、OneNoteは現在、iOSおよびAndroid版アプリも提供されているが、これは新バージョンでも継続される予定。
Wordでは、Bingとの統合により、アプリから簡単にBing検索を行ない、検索結果の動画を選択し、文書に貼り付ける様子がデモされた。このほか、テキストを自動的に回り込ませながら、動画などのオブジェクトを自由な位置に貼り付けるライブレイアウト機能や、タッチに最適化された閲覧機能が紹介された。
企業向けの機能についてはここでは割愛するが、目立った機能を1つ紹介すると、Outlookでの情報漏洩防止機能が強化された。これまでも、Exchangeと組み合わせて、特定の文字列を含むメールを送信させない機能があったが、次期Officeでは、文字列のパターンにおいてもこれを実行できるようになった。これにより、クレジットカード番号のように、パターン化は容易だが、任意の文字列として事前に指定できないものに対してまで送信制限をかけられるようになる。
Word 2013 | クラウド機能により、PCやデバイスを変更しても、直近に開いた文書や、作業内容が記録される | Bing検索との連携も可能 |
ライブレイアウトで、オブジェクトを任意の位置に配置可能。ここでも強化されたガイド機能が役に立つ | 企業向け管理機能として、Exchangeのポリシーで文字列のパターンに対して送信制限をかけることが可能になった |
(2012年 7月 17日)
[Reported by 若杉 紀彦]