7月10日から10月8日まで、東京都現代美術館の企画展「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」(以下、特撮博物館)が開催される。開館時間は、午前10時~午後6時(入場は閉館の30分前まで)で、休館日は月曜日である(ただし、7月16日、8月13日・20日、9月17日・24日、 10月1日・8日は開館。7月17日、9月18日は休館)。
開催前日に、記者発表会と開会式セレモニーが行なわれたので、その様子を写真を中心にレポートしたい。
東京都現代美術館と日本テレビは、2003年夏から毎年スタジオジブリの企画協力のもと、アニメーションに関する企画展を開催してきたが、その記念すべき10回目として「特撮」をテーマにした展覧会を開催することになった。
開会式では、樋口氏、庵野氏、鈴木氏の3人が、「巨神兵東京に現わる」の製作裏話を語った |
この企画展の館長を務める庵野氏は、エヴァンゲリオンシリーズで有名だが、庵野氏の創作活動の原点であり、多大な影響を与えたのが、幼少期からこよなく愛してきた「特撮」である。特撮は日本の誇る映像技術であるが、近年CGをはじめとするデジタル技術の発展により、その貴重な財産であるミニチュアや小道具などが失われつつあるという。庵野氏は、そうした状況をなんとか打破したいとかねてから考えており、ジブリの鈴木氏と相談し、今回の企画展のコンセプトを立案したという。
開会式で庵野氏は「特撮は日本が誇る映像技術であり、是非、みなさんの目で実際に見ていただきたい」と語っていたが、本展覧会では、数々の映画やTVで活躍したミニチュアやデザイン画など、貴重な資料が約500点も集められており、非常に見応えがある。記者発表会で撮影が許可された展示物はごく一部であり、デザイン画や絵コンテ、特撮技術の解説映像などの多くは撮影が許されていないので、庵野氏の言うとおり、是非、展示会に訪れて実際に自分の目で見ることをお勧めしたい。
●全部で10のコーナーに分けて展示されている
特撮博物館は、テーマや内容別に、全部で10のコーナーに分けて展示が行なわれている。最初のコーナーは「人造 原点I」と題され、メカゴジラ2や惑星大戦争、怪獣総進撃などに登場したスーツやミニチュアなど、主に東宝特撮映画に関する展示が行なわれている。次のコーナーは「超人 原点II」で、ウルトラマンシリーズやスターウルフなど、主に円谷プロ作品に関する展示が行なわれている。
●日本沈没の国会議事堂もミニチュアだった
3つめのコーナーは「力」で、平成ガメラシリーズや日本沈没などで使われたミニチュアなどが展示されている。この日本沈没は2006年に公開された映画であり、当然CGが使われているのだが、国会議事堂が崩れるシーンなどではミニチュアも使われていたのだ。また、ガメラ3で使われた渋谷パンテオン(東急文化会館)のミニチュアも筆者のような40代には懐かしい光景だ。現在、渋谷パンテオンは取り壊され、跡地はヒカリエとなっているわけだが、小学生の頃見た五島プラネタリウムのイメージは脳裏にはっきりと焼き付いている。
3つめのコーナーのタイトルは「力」で、平成ガメラシリーズや日本沈没で使われたミニチュアなどが展示されている。これは、「ガメラ3 邪神<イリス>覚醒」で使われた渋谷パンテオンのミニチュア(c)1999 角川映画 TNHN | 「ガメラ2 レギオン襲来」で使われたガメラスーツ(c)1996 角川映画 NHFN | 「日本沈没」で使われた国会議事堂(c)2006 映画「日本沈没」製作委員会 |
●特撮短編映画「巨神兵東京に現わる」とそのメイキング映像は必見
力のコーナーの最後には、本博物館の目玉ともいえる、特撮短編映画「巨神兵東京に現わる」で使われた折れた東京タワーが展示されている。「巨神兵東京に現わる」は、この博物館のために作られた新作映画であり、CGを一切使わないという条件で、特撮の限界に挑戦したものである。ひょっとしたら、「最後」の特撮映画となるかもしれない。
映画の上映時間は9分ほどだが、昭和の特撮技術をそのまま使っているのではなく、新たに考案された手法でビル爆破の新しい表現やビル溶解の表現など、超一流スタッフの経験とアイデアが詰め込まれた映画となっており、その映像は見慣れたCGとはまた別のリアリティを持って眼前に迫ってくる。その内容についてはここでは触れないが、もちろん、「巨神兵」はナウシカに出てきたあの巨神兵である。また、ナレーションは林原めぐみさんが担当しており、エヴァンゲリオンの綾波レイを彷彿させる。
昭和時代の特撮映画は、当然フィルムで撮影され、映写機を使って上映されていたのだが、「巨神兵東京に現わる」はさすがにデジタル撮影であり(ただし前述したようにCGは一切使っていない)、プロジェクターを使って上映されている。ここで使われているプロジェクターが、エプソンの高光束プロジェクター「EB-Z8455WU」である。EB-Z8455WUは、エプソンのプロジェクターの中でもフラッグシップに位置する製品であり、WUXGA(1,920×1,200ドット)の高解像度と7000lmの明るさ、コントラスト比5,000:1という、高いスペックを誇る。今回のスクリーンサイズは300型だが、色鮮やかでコントラストの高い映像は、「巨神兵東京に現わる」の素晴らしさを最大限に引き出しているといえる。
「巨神兵東京に現わる」を視聴した後のコーナーのテーマが「軌跡」である。この映画ができるまでの軌跡であり、庵野氏のラフ原画や樋口氏の絵コンテなど、貴重な資料を見ることが出来る。また、このコーナーでは、「巨神兵東京に現わる」のメイキング映像を見ることができる。この映像は約15分だが、いかにしてCGを使わずにあの迫真の映像を作り出すことができたか、その試行錯誤の様子がまとめられており、非常に面白かった。本編ともども必見である。
本博物館の目玉である特撮短編映画「巨神兵東京に現わる」で使われた折れた東京タワー | 「巨神兵東京に現わる」の上映にはエプソンの高光束プロジェクター「EB-Z8455WU」が使われている |
EB-Z8455WUは、通常用とバックアップ用の2台が設置されている | 4つめのコーナー「軌跡」では、「巨神兵東京に現わる」に関する展示が行なわれている。巨神兵のひな形の精密な造型には驚かされる(c)2012 二馬力・G |
●特撮スタジオ・ミニチュアステージでは写真撮影が可能
軌跡まで見ると、1Fの展示は終わりで、エスカレーターでB2Fに下る。B2Fには、「特殊美術係倉庫」、特撮の父・円谷英二」、「技」、「研究」、「感謝」というコーナーがあり、ここでも、貴重な資料やアイテムが展示されているほか、特撮技術の仕組みを知ることができる。
なお、ここではいくつかのスクリーンが用意されており、映像が表示されているが、この投影にはエプソンの「超」短焦点プロジェクター「EB-435W」が使われている。EB-435Wは合計5台使われているのだが、超短焦点を活かし、スクリーンの背面にプロジェクターを設置し、リアプロジェクション的に使われていることが特徴だ。EB-435Wは全部で5台使われているが、リアプロ的に投影されているため、来場者の影などによって映像の表示が妨げられることはない。
感謝に続く最後のコーナーが「特撮スタジオ・ミニチュアステージ」だ。ここは、一般来場者でも唯一写真撮影が可能なコーナーであり、撮影することでリアルな奥行きを感じさせる内引きセットと、「巨神兵東京に現わる」の撮影に使われたミニチュアステージを再現した大ジオラマから構成されている。大ジオラマは、中の通路に入ることが可能で、自分が巨大化した感覚が味わえる。大ジオラマの中で記念撮影をすることができるので、グループで来場して、みんなで写真を撮りあうのも楽しそうだ。
●日本の特撮技術の素晴らしさを体感できるまたとない機会
大ジオラマで、特撮博物館の展示は終わり。その先には、図録や関連書籍、グッズの販売コーナーがある。図録は2冊セットで2,700円 |
最後は、ショップがあり、図録や関連書籍、グッズなどが販売されている。図録は「巨神兵東京に現わる」のパンフレットと特撮博物館の図録の2冊がセットで販売されており、資料としての価値も高い。また、ここでしか売っていない巨神兵カプセルフィギュアなも記念品には最適だ。
最初に述べたように、ここで写真を掲載したのはごく一部の展示だけであり、その質と量は想像以上であった。じっくり見て回れば、1日たっぷり楽しめるだろう。ウルトラマンシリーズやゴジラなど、特撮映画やテレビで育ってきた人はもちろんのこと、リアルタイムにそうした映像に触れていない若い世代や子どもたちも、是非見てもらいたい展覧会である。庵野氏は、こうした特撮博物館を常設したいとのことだが、現時点ではそうした計画は全くの白紙だ。この機会を逃すと、もう二度と見れない可能性もある。
なお、記者発表会では、協賛しているエプソンによるEpson iPrintの実演コーナーなどもあったが、今後、記念撮影コーナーや大ジオラマで撮影した写真を、その場でプリントして持ち帰れるようなサービスも行なう予定だという。
グッズ販売コーナーも充実している | 本博物館に協賛しているエプソンがEpson iPrintの実演も行なっていた。今後、記念撮影コーナーや大ジオラマで撮影した写真を、その場でプリントして持ち帰れるようなサービスも行なう予定だという |
Epson iPrintを利用すれば、iPhoneやAndroidスマートフォンから無線LAN経由でカラリオによる印刷が可能 | 今後、記念撮影コーナーも用意される予定 |
(2012年 7月 10日)
[Reported by 石井 英男]