無接点充電の世界規格を策定している世界団体Wireless Power Consortium(WPC)は12月2日、東京で記者会見を開き、同団体が現在行なっている標準化への取り組みについて説明した。
WPCは2008年12月17日に設立された、無接点充電に関する世界共通規格を策定している団体。幅広い業界からサポートを得ており、有名な所として三洋電機やEnergizer、Samsung、HTC、Nokia、Philips Electronics、Texas Instrumentsなど67社が参加している。
同団体は、無接点充電の規格として「Qi」(チー、中国語で気を表す)を策定し、2010年7月23日に最大5Wの低電力向けインターフェイスを策定。規格書は無償で公開しており、参加メンバーはロイヤリティフリーで製品を開発/製造できる。用途としては主に携帯電話などの携帯機器を対象としている。
●無接点充電の世界的標準化の意義記者会見の冒頭では、同団体 議長のCamille Tang氏が挨拶。「Qiが策定されてから、すでに対応製品が発表されているが、WPC発足からわずか23カ月ここまで辿りつくことができ、この業界において最も速く製品化を実現した規格だろう。また、本日デモを行なえる製品が16製品と、10月に香港でデモした製品の2倍の数を用意できたことも嬉しく思う」と述べた。
Menno Treffers会長 |
続いて、Menno Treffers会長が、世界標準化規格の必要性を説明した。同氏は、市場調査会社のiSuppliの調査結果を紹介し、2011年以降、無接点充電市場が急速に成長挙げ、その成長のためには世界で共通した規格が必要であると述べた。
同氏は過去の事例を挙げ、「市場が拡大し、製品が普及するためには、ネットワーク基盤が共通である必要がある。その一例が電話とFAX。電話とFAXは単体では機能しない。共通化した規格が存在するからこそ、ユーザー間の相互接続が可能になって利便性が向上し、市場の拡大と製品の普及を実現した」。
「無接点充電においても同じである。例えば無接点充電ができる携帯電話を持っていたとしても、それがもし独自規格で、海外の出張先のホテルで無接点充電を行なうシステムと互換性がなかったら、ユーザーにとってまったく無意味になってしまう。無接点充電の規格を共通化しなければ、特別なニーズを持つユーザー向けのニッチな製品にとどまってしまうだろう」と述べた。
無接点充電市場の拡大 | 世界標準規格の意義 | 現在参加しているメンバー |
そこで、同団体はワールドワイドで展開する会社を中心にメンバーを集め、Qiを策定。これにより消費者はユニバーサルな充電器に新たな価値を見出すことができ、さらにメーカーも製品の低コスト化、新たな競争を促進できるとした。
無接点充電機器の普及のフェーズとしては、まずは既存製品へのアドオン(交換用バッテリやチャージングステーション)から始まり、これらを携帯電話とともにバンドル販売する体系へと遷移する。その次のステップとして、製品としてメーカーから単品販売や、机などのインテリア、インフラへの統合があるだろうとした。
なお、現状では5Wという小電力デバイス向けであるが、ノートPCなどの中電力デバイス(120Wクラス)へ充電が行なえる規格も策定が進んでいるとした。
Qi規格の現状 | Qi規格の効果 | 普及までのフェーズ |
●三洋電機のポジショニング
遠矢正一氏 |
続いて、WPCのメンバーでも三洋電機株式会社の遠矢正一氏が、三洋電機としての取り組みを紹介。「我々は2007年に無接充電を行なうコンセプトを発表したが、WPCにメンバーとして参加したのはPhilipsから話を持ちかけられたことから始まった。我々は世界環境を改善するための企業として、Think GAIAのビジョンを掲げているが、そのビジョンに則って考えた無接点充電システムは、“充電台のどこに置いても充電できる”というフリーポジショニングだった。そのフリーポジショニングの製品を我々が独自に開発できるということをWPCに約束してもらい、参加するに至った」と振り返った。
従来の充電は、デバイスごとにほぼ充電器が異なっていた | 無接点充電では複数の機器を1つのチャージステーションで充電できる | 2007年に発表したコンセプト |
WPCへの参加を検討 | フリーポジショニングの実現を約束にWPC参加した |
そのフリーポジショニングというコンセプトのもとに開発されたのが、三洋電機が本日デモした無接点充電システムのコンセプトモデル。「トランシーバーが積極的にデバイス側のコイルを探し、そこに移動することで、どの向きでどのように置いたとしても充電できる機構を実現した」と述べた。
将来的には、机などのインテリアへの組み込みや、空港・ホテルなど公共場所での展開も積極的に関与していく。また、ノートPCなどの中電力デバイス向けにも積極的に開発を行なうとし、「2011年をキックオフとし、2015年には、ユーザーの充電スタイルを完全に変えられるよう、積極的に関与していきたい」と語った。
既存の充電池パックの大きさに収めることを目標とする | 既存の充電池パックで実現するための課題 | 従来は保護ICだけだったが、通信ICなどを新たに開発する必要がある。低コスト化するためにはASIC技術が必要とした |
どのような置き方でも充電できるチャージステーションの開発 | 今後の展開予定 | 5Wだけでなく、120Wの中電力デバイス向けや1kWの高電力向けも開発 |
無接点充電システムの登場による充電スタイルの変化 |
●携帯電話の採用への課題
金井康通氏 |
最後に、株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下NTTドコモ)の金井康通氏が、無接点充電システムの携帯電話への採用の課題点を紹介。NTTドコモはWPCのメンバーではないが、Qiの規格を製品に採用する姿勢を示した。
NTTドコモは、まず無接点充電システムの携帯電話への採用に際して、接点がないことによる信頼性と耐久性、利便性の向上のメリットを挙げながらも、磁場が発生することによる電波への影響があるため、さまざまな試験を行なう必要があることを紹介。具体的には、3Gの受信感度の劣化、FeliCaやワンセグ、GPSアンテナへの干渉、方位センサー/開閉センサーへの干渉などを評価した。
その結果、アンテナへの干渉に関しては、コイルの位置を考慮すれば問題のないレベルとしながらも、従来の無接点充電システムはチャージングステーションへの異物落下時の発熱を抑えるための保護回路の規格が統一されていないこと、さらに位置合わせをしなければ充電されないためメリットが活かされないことなどがあり、採用に至らなかったという。
無接点充電のメリット | 過去の評価における課題 | 過去の試作の結論 |
しかしQiでは規格が統一されているほか、フリーポジショニングでも充電できる製品が存在するため、これらの課題を解決できる。「携帯電話において無接点充電普及の下地ができたと見てよい」とした。
その一方で、WPCの仕様範囲では、まだ通信端末への干渉に対する配慮が十分にされていないとし、WPCへの改善を働きかけた。「今後は携帯電話への採用に必要な条件を評価し、クリアされれば積極的に採用していきたい」と述べた。
Qiは無接点充電普及の下地 | WPCへの働きかけ | 記者会見で展示されたQi対応の充電器と充電パック |
Qiは規格が統一されているため、同一のバッテリに対してどのチャージングステーションでも充電できる |
専用アダプタを用いたiPhoneへの充電デモ | 三洋電機が開発したバッテリ |
【動画】三洋電機のチャージングステーションのコンセプトモデル。コイルの位置を検出して、トランシーバーを移動する |
(2010年 12月 2日)
[Reported by 劉 尭]