ワコムと富士通、PC向けタブレット/タッチ技術を解説

3月17日 開催



 株式会社ワコムと富士通株式会社は、現在のタブレットPCなどに搭載されているタッチディスプレイ技術やその応用について共同で解説を行なった。

ワコムの堀江利彦氏

 センサーの詳細技術については、ワコムコンポーネント統括エンジニアリング部ジェネラルマネージャーの堀江利彦氏が説明した。タッチ対応ディスプレイは、専用のペンが必要なものもあれば、指で使えるものもあるが、同社では直近のペンタブレットである「Bamboo Touch」がそうであるように、両方に対応できるデバイスを開発している。

 その大まかな構造は、液晶パネルを、表面から指用の静電結合方式センサーのタッチパネルで、裏面(内側)からペン用の電磁誘導方式のセンサーのフィルム状の基板で挟み込んでいる。電磁誘導方式のセンサーフィルムには、アンテナコイルが縦横に張り巡らされ、これを順にスキャンする。その際、電位が発生し、ペンの中のコイルと共振することでペンにエネルギーが供給され、電池なしでも動くようになっている。

 各アンテナコイルからは、ペンとの距離に応じた強さの信号が得られ、ここから2次関数を近似し、微分して頂点を求めることで、ペンの座標が検出される。ペンの感圧については、芯が押された分だけ、ペンに内蔵された可変コンデンサの共振周波数がずれることを利用して、512段階まで検出できる。

電磁誘導方式の仕組みペンの構造座標検出の仕組み

 ワコムは古くから電磁誘導方式のペンタブレットを手がけているが、静電結合方式のタッチ技術は新しい取り組みとなるため、製品版の開発までの経緯が語られた。

 指によるタッチセンサーとしては抵抗膜式が一般的だが、液晶パネルを覆うタッチパネルが液晶の表示品位に与える影響を考慮して、同社では静電結合方式の採用を決定した。静電結合方式にも表面方式と呼ばれるものと、投影方式と呼ばれるものがあるが、開発当初は、表面方式(勾配電解方式)を選んだ。

 表面方式では、指の検出に利用するITO(Indium Thin Oxide)や回路が単純で、透過率が高い、コストが安いといった長所がある反面、ユーザーとPCがグランドされていないと動作が不安定になるというモバイルPCには決定的とも言える短所がある。また、Windows 7やiPhoneなどがマルチタッチに対応するなか、表面方式は1本指にしか対応できない。

 こういったこともあり、グランドを必要とせず、2本以上の指に対応できる投影方式へ変更した。この投影方式にもラインスキャン式とクロスポイントスキャン式の2種類がある。

 ラインスキャン式では、ITOのパターンのX軸とY軸に対して、文字通り線でスキャンを行ない、信号の強い線と線の交点が指で触れたところになる。この方式は確かに2本指の検出が可能なのだが、X軸2本、Y軸2本の交点は4つあるため、2本の指がパネルに“同時”に触れると、どの点が実際に触れた点なのかが分からないという「虚像問題」がある。同社では、この問題を回避し、製品化に至っている。

表面方式ではグランドが取れないと動作が不安定にグランドが不要な投影方式のうち、これは現行のラインスキャン式の概略原理上、同時に2点に触れると虚像が発生する

 また、堀江氏は同社にとって第6世代目となる次世代のシステムについても紹介した。同社が「G6」と呼ぶこのシステムでは、現在別々になっているペンセンサーと指センサーの回路を統合するほか、低消費電力化を図っているという。

 ちなみに、投影方式のもう1つの手法であるクロスポイントスキャン式は、ITOのパターンをブロックごとにスキャンすることで虚像が発生せず、原理的に指の検出数に限界がない。良いことずくめに聞こえるが、こちらはこちらでスキャンした結果を2次元画像として処理するため解像度や画面大きさが増すと、ハードウェアの負担が大きくなる。この点が、iPodなどの小型のデバイスにはすでに採用されていながら、PCでの採用例が少ない理由だ。

法人向けのFMV-LIFEBOOK Tシリーズその液晶部分を分解したところ。右側に見えるのがタッチパネルペン用の電磁誘導方式センサーは内部にある。ペンで差しているのが後述するフレキシブルケーブル
モジュールの図。中央にあるのがペン用の基板、その右がペン用の基板G6ではこれらのコントローラが統合され大幅に小型化する電磁誘導方式センサー表面。縦横のアンテナが見える

富士通の那須学氏

 富士通では、これらワコムの製品をPCに採用しており、パーソナルビジネス本部PC事業部モバイルノート技術部プロジェクト課長の那須学氏が具体的事例などについて語った。

 同社では'93年頃からタブレットPCを手がけ始めた。当時の製品は、スレート、ピュアタブレットと呼ばれるキーボードのないものが主流で、海外の専業市場向けのものだった。

 2004年頃からは、液晶が回転してキーボードがつく、コンバーチブル型へと移行し始めた。この頃から、ワコムの電磁誘導方式デジタイザーの採用を始めたという。

 2009年になると、Windows 7の登場により、電磁誘導ペンに加え、静電結合方式による指入力への対応も加えることとなった。

 また、現行製品のFMV-BIBLO MT/F/LOOX Uなどでは、同社独自のタッチ向けソフトを開発。基本的機能はアプリケーションランチャーだが、IEなど一部のソフトについては、お気に入り追加など補助機能のボタンとして機能する。また、文字の手書き入力機能もある。

 那須氏によると、実際にタブレットPCを使っているユーザーからのフィードバックでも、細かな文字入力ではペンが必要だが、ボタンを押していくだけのような定型業務では指によるタッチが求められているという。

 また、那須氏は、ペン/指両対応センサーの実装に関する開発エピソードも明かした。採用前の段階では、表面に来るタッチ対応ガラスの強度に懸念があったが、同社の試験で、従来の強化ガラスと同等以上の強度を確認できたという。

 ただし、静電結合方式センサーは、浮遊容量の変化に敏感であり、センサーパネルとコントローラ基板の間のフレキシブルケーブルが少し動くだけで、誤反応を起こしてしまう問題がある。これについては、フレキシブルケーブルをテープで固定するという方法で対処しているが、量産性の観点からすると、今後の改善課題として残っているというが、すでに前述のG6の採用に向けた検討を始めているという。

'93~2003年頃の富士通のタブレットPC2004年頃からコンバーチブル型に移行2009年も出るでは一部ペンと指に両対応
アメリカの大学でのタブレットPCの導入事例。ユーザーからもペンと指の両対応に対する要望があるというタッチ対応PCに搭載している独自のソフト普段はランチャーだが、IEを起動すると専用メニューに切り替わる

(2010年 3月 17日)

[Reported by 若杉 紀彦]