ニュース

エプソン、個人向けプリンタ比率が初めて半数切る

~2014年度決算を発表。大容量インクタンクモデルを加速

セイコーエプソン代表取締役社長の碓井稔氏

 セイコーエプソンは4月30日、2014年度(2014年4月~2015年3月)の連結業績および2015年度(2015年4月~2016年3月)の連結業績見通しを発表した。

 2014年度の連結業績は、売上高が前年比7.7%増の1兆863億円、営業利益は65.2%増の1,313億円、税引前利益は70.0%増の1,325億円、当期純利益は33.6%増の1,125億円となった。営業利益、税引前利益、当期純利益は過去最高となる。

 セイコーエプソンの碓井稔社長は、「2009年度から取り組んでいる長期ビジョンである『SE15』後期 新中期経営計画に基づいた施策を着実に遂行した。将来成長に向けた技術開発、新商品投入、新たなビジネスモデルの導入が進展。施策の進展に加えて、円安影響もあり、ブランド強化費用など、将来に向けた積極的な費用投入を進めながらも全てのセグメントで増収、増益を達成した」と総括した。

 新興国で展開していた大容量インクタンクモデルでは、大幅な数量成長を予定通り達成するとともに、新たに西欧地域へと展開。「PrecisionCore」プリントヘッドを搭載したオフィス向けインクジェットプリンタの投入と、スマートチャージによる新たな課金ビジネスの開始などが成果に繋がった。そのほか、立ち上げに苦労したサイネージやテキスタイルが足元の業績に寄与。業務用フォトなどの商業印刷用インクジェットプリンタの拡充やラベル印刷用インクジェットプリンタのラインアップ拡充による成果や、高付加価値プロジェクターの販売増加なども貢献したという。

 セグメント別業績は、情報関連機器事業セグメントの売上高は前年比7.9%増の9,072億円、営業利益は8.0%増の1,336億円。その内、プリンティングシステム事業の売上高は前年比7.5%増の6,997億円、ビジュアルコミュニケーション事業の売上高は前年比13.0%増の1,869億円、営業利益は15.4%増の1,100億円。PCが含まれるその他事業は、売上高が前年比15.4%減の225億円となった。

 デバイス精密機器事業セグメントでは、売上高が前年比5.1%増の1,562億円、営業利益は36.7%増の148億円。その内、マイクロデバイス事業の売上高が前年比3.9%増の965億円。時計などのプレシジョンプロダクツ事業の売上高は前年比9.0%増の665億円となった。

 センサー産業機器事業セグメントの売上高は前年比44.6%増の233億円、営業損失は前年の99億円の赤字から若干縮小して、90億円となった。

 その他セグメントの売上高は前年比4.2%増の13億円、営業損失は前年の2億円の赤字から、3億円の赤字となった。

 現在取り組んでいる個人向けインクジェットプリンタのキャッシバックキャンペーンについては、「2月から開始をしたが、否応なく始めたというものである。一定のシェアを確保することを目的としたが、少ない投資金額でトップシェアを確保できたと考えている。同じような製品では価格競争になるだけであり、続けることはしない」(碓井社長)と述べた。

 2015年度の連結業績見通しは、売上高は前年比4.0%増の1兆1,300億円、営業利益は23.9%減の1,000億円、税引前利益は24.5%減の1,000億円、当期純利益は37.9%減の700億円とした。

 2015年度は、SE15の最終年度にあたるとともに、中期経営計画の「SE15後期 新中期経営計画」の最終年度にあたる節目の年となる。セイコーエプソンの碓井稔社長は、「SE15 後期新中期経営計画の最終年度として、着実に戦略を進める」として、「中長期的な成長を見据えた戦略的費用を投入」、「過度な売上高成長によらず、既存領域転換と新規領域開拓を進め、着実に利益成長する」という2点に力を注ぐ姿勢を示した。

 「マイナス90億円の為替影響があると考えているが、その一方で、戦略商品量産に向けた研究開発の強化と、エプソンブランド強化および新規領域拡大のためのプロモーション強化に向けて、戦略的費用として150億円を計上する。また、大容量インクタンクモデル、インクジェットプリンタにおけるMIFの改善による消耗品販売を拡大を見込むほか、市場成長を上回るプロジェクターの販売拡大、ウェアラブル機器および産業プロダクツなどの新規事業領域の売上高拡大で約250億円の増益を見込んでいる。これにより事業利益は1,020億円を見込んでいる。前年度の事業利益の1,012億円に比べて見かけはそれほど変わらないが、南米での通貨下落、ロシアでの経済低迷、為替リスクといったマイナス要素を盛り込みながら、将来に向けた戦略的な投資を可能にすることができる水準にある点が昨年とは大きく違う。セイコーエプソンは正しい方向に進んでいる」とコメントした。

 戦略費用の150億円については、「新たな製品の投入に向けた開発投資、チャネル開拓やサービス体制強化に向けた取り組み、ブランドの認知度向上に向けた取り組みに投資する。特に、海外では、エプソンといえば個人向けプリンタというイメージが強い。オフィス向けプリンタや、商業向け、産業向けプリンタ、ウェアラブルなどといった製品についても認知度を高めるための投資を行ないたい。この分野においては、認知度を高めるために継続的に行なっていくことになる」(セイコーエプソン 代表取締役専務の濵典幸氏)という。

セイコーエプソン代表取締役専務の濵典幸氏

 事業成長が著しいのが、大容量インクタンクモデルである。大容量インクタンクモデルは、日本で主流となっているインクカートリッジによるビジネスモデルとは異なり、大容量のインクタンクをあらかじめ搭載。これによってランニングコストを低くすることができる製品だ。主に新興国で展開してきたが、2014年度からは、西欧を対象に先進国にも展開を開始している。

 同社の2014年度のインクジェットプリンタの総販売台数は、約1,400万台。その内、大容量インクタンクモデルは約3割を占めるという。大容量インクタンクモデルの販売数量は1年間で40%増という大きな伸びをみせている。2015年度には、インクジェットプリンタ全体で前年比5%増(約1,470万台)を見込むが、その内、大容量インクタンクモデルは3分の1強を占めるとなり、さらに拡大すると予測。同社のプリンタ事業において重要な役割を占めることになる。

 碓井社長は、「大容量インクタンクモデルは収益確保にも大きく貢献しており、MIF(インストールベースの市場占有率)の拡大にも寄与している。販売数量においては、今後も新興国が伸びると期待しており、インクジェットの中でのプレゼンスが上がってきている。大口案件が獲得できたり、モノクロレーザーとの競合との中でも案件を獲得できている。新興国における市場シェアは6~7%。まだ成長余地はある。一方、欧州においては、大容量インクタンクモデルの売上高は増加しているが、欧州における販売比率については、現時点では、それほど大きな数量は計画していない」とした。

 欧州市場向けには、2014年度下期から展開を開始したが、現在、欧州の主要国のほとんどで大容量インクタンクモデルを販売。全世界約140カ国で販売している。むしろ、日本および北米以外の地域では大容量インクタンクモデルを販売しているといった方がいいだろう。日米での展開については依然として慎重な姿勢を見せるが、中長期的な展開という点では検討を進めている模様だ。

 一方で、ビジネス分野向けのインクジェットプリンタの構成比も拡大している。2014年度実績で、インクジェットプリンタ全体の約2割を占めている。2015年度も同様に2割を占めると予測しており、全体の伸びに併せて、拡大させる考えだ。

 実は、ビジネス向けプリンタの構成比と、大容量インクジェットプリンタの構成比拡大を加えと、2015年度は過半数を突破。逆算すると、コンシューマ向けプリンタの構成比が初めて半分以下になる。

 碓井社長は、「ここ数年は、ビジネス用途や大容量インクタンクモデルの拡大に取り組んでおり、コンシューマ比率が半分以下になるという点では、SE15で目指してきた事業体質が実現できたとも言える。1つの節目である」と語る。

 既に、北米市場や新興国では、オフィス向けの構成比が日本よりも圧倒的に高い。「インクジェットという技術によって、プリンタのカテゴリを変えていくのが狙い。モノクロレーザー市場などの置き換えのも取り組みたい」とした。

 SE15では、「コンシューマ向けの画像・映像出力機器中心の企業」というこれまでのエプソンの姿から、「既存事業領域での未開拓分野進出とビジネスモデル転換」、「新規事業領域の開拓」といった新たなエプソンの姿を追求するといったことを掲げていた。

 さらに、スマートチャージについては、「販売体制の整備、認知度向上、大口案件が取れているといった動きが出ており、今後、ラインアップを増やしていく。2015年度はテクノロジーシフトが始まりつつあることを実感してもらいたい。需要に対応できるように工場の増設は今から準備している」などとし、2015年度における注力分野であることを示した。

 なお、2015年度のセグメント別の業績見通しは、プリンティングソリューションズセグメントの売上高は前年比3.6%増の7,570億円、営業利益は1.4%増の1,130億円。その内、プリンタの売上高は前年比3.7%増の5,300億円、プロフェッショナルプリンティングの売上高が4.5%増の2,080億円、PC/その他の売上高が前年比11.2%減の200億円とした。

 ビジュアルコミュニケーションセグメントでは、売上高が前年比7.8%増の1,910億円、営業利益は18.6%増の230億円。

 ウェアラブル・産業プロダクツセグメントの売上高は前年比3.8%増の1,800億円、営業利益は6.8%増の110億円。その内、ウェアラブル機器の売上高は14.0%増の650億円、ロボティクスソリューションズの売上高が2.6%増の160億円、マイクロデバイス他の売上高は2.6%減の1,050億円。

 その他セグメントの売上高は前年比23.1%減の10億円、営業損失は前年の3億円の赤字から、10億円の赤字を見込む。

(大河原 克行)