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東大、磁気メモリに応用可能な物質の特性を発見

磁気モーメントと発見された電気分極成分の関係。磁気モーメントの向きが連続的に変化するらせん磁気秩序に対し、磁気モーメントの向きを図中のX方向に向けたときに、Y方向に対して電気分極が生じることを示した

 独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)は13日、新たな磁気メモリ材料となり得る物質の特性を発見したことを発表した。これは、東京大学物性研究所の徳永将史准教授らの研究グループが、産総研、福岡大学、上智大学、青山学院大学と協力して示したもの。

 磁性と強誘電体が共存するマルチフェロイック物質の1つであるビスマスフェライトを用いた研究成果。産総研で作成し、上智大学で整形した良質な単結晶試料に対し、東京大学物性研究所の国際超強磁場科学研究施設で、強磁場下における磁気的・電気的応答を精密に調査。結果、これまで知られていた結晶の軸とそれに平行する電気分極のほかに、垂直な電気分極が存在することと、この電気分極が磁場で制御できることを発見した。

 ビスマスフェライトは、結晶中のある方向に対して連続的に変化するらせん磁気秩序を起こしているが、これを特定の方向に向けた時に、垂直に電気分極が生じることを示した。また、福岡大学と青山学院大学の理論グループでは、電気分極の微視的な説明に成功しているという。

 さらに、ビスマスフェライトは3つの磁気構造を持ち、磁場を加えると、磁場と垂直方向を持つ状態で安定する。これは3つの状態から1つを選択的に実現でき、この磁気秩序に付随する電気分極も120度ずつ回転させ、3つの中から1つを選択できる。そして、磁場を加えて状態を変化させた状態は、磁場を取り除いたあとも継続する。これらの特性は、3値の不揮発メモリとしての物質を備えていることになる。

 ビスマスフェライトは、これまでに見つかっているマルチフェロイック物質の中で唯一室温(常温)でもマルチフェロイック状態にあるほか、発見された電気分極は最強の永久磁石による磁場程度ではほとんど変化せず、日常生活でも利用が可能。また、ビスマスフェライトという物質自身が機能を保有しているので特殊な構造を作成する必要がない上、比較的単純な構造で使用する元素の種類が少ないことも、将来的な量産化に向けた利点として挙げられている。

 将来的に省電力メモリとして実用化するには、磁場ではなく電場による状態の制御が課題となるが、これまでの研究から電場による制御は十分可能と考えられており、今後、研究を発展させるとしている。

ビスマスフェライトは3つの磁気構造(Q1~3)を持つ。例として、図中のY方向に磁場を印加すると、Q2の構造で安定し、Y方向に電気分極が生じる

(多和田 新也)