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ソフトバンク関連会社が制御ソフト「V-Sido」でロボット・ソフトウェア事業に本格参入
~4本腕のヒューマノイドも登場。資本金は1億6,000万円に増資
(2014/6/12 12:43)
ソフトバンク・グループのアスラテック株式会社は、6月11日、ロボット制御用ソフトウェア「V-Sido OS(ブシドー・オーエス)」の提供とロボット開発支援を通してロボット・ソフトウエア事業に本格参入すると発表し、ソフトバンク本社で記者会見を行なった。合わせて資本金を1,000万円から1億6,000万円に増資。「V-Sido」の一部機能を実装したマイコンボード「V-Sido CONNECT(ブシドー・コネクト)」、コンセプトモデルのロボットとして「ASRA C1(アスラ・シーワン)」も公開された。
「V-Sido」は、同社チーフロボットクリエイターの吉崎航(よしざき・わたる)氏によって、直感的にロボットに動きを教えることのできるインターフェイスを目指して開発されたソフトウェア。最初は個人プロジェクトとして開発された。「V-Sido」を使う事でユーザーはロボットに細かな指示をすることなく、大まかな指示を出すだけで、リアルタイムに必要な情報を自動補完してロボットの動きを生成できる。
「V-Sido」の機能を使ってさまざまなデバイスを使ってインターネット経由でロボットの遠隔操作を行なったり、Kinectなどを用いた実時間モーションキャプチャーによるロボット操縦などのほか、外乱にも強い安定性を持たせることができるようになる。ロボットの大きさや形状、用途を問わない点も特徴の1つで、同社では「『V-Sido OS』を採用することで、開発コストの削減や開発期間の大幅な短縮が可能」になるとしている。
評価用ボード「V-Sido CONNECT(ブシドー・コネクト)」
「V-Sido CONNECT(ブシドー・コネクト)」はロボット開発ユーザーに「V-Sido OS」の採用を検討してもらうための評価用ボードで、サイズは36×33mm。32bit ARM(STM32F1)を搭載。モーターやセンサー用のインターフェイスとしてRS-485、RS-232C、I2Cなどに対応している。倒れにくい姿勢制御や、リアルタイムでの2足歩行などの一部機能が実装されている。年内に企業だけではなくホビーロボットのユーザーにも発売される予定。販路も価格も未定だが「1万円以内を目指す」という。
「V-Sido OS」はロボット製品ごとにカスタマイズしてライセンス提供し、「V-Sido CONNECT」はそのための評価用ボードとしてビジネス展開する。モーターは、日本電産株式会社、双葉電子工業株式会社、近藤科学株式会社、ROBOTISといったメーカーのロボット用サーボモーターが対応している。
コンセプトモデル「ASRA C1」
「V-Sido OS」、「V-Sido CONNECT」を搭載したヒューマノイド「ASRA C1(アスラ・シーワン)」は、V-Sidoの機能を伝えるためのコンセプトモデル。アスラテックから一般販売する予定はない。今後、イベント等に登場する予定だ。
身長は1.2m、重さは13.5kg(バッテリ込み)。全身の自由度は35で、特徴は腕が余分に1組付けられていて(サブアーム)、合計4本あること。サブアームはものを持たせたり、また後ろ側に回すことでロボットの主腕を操作するためにも用いることができる。また、外力にならって動くこともできる。
モーターは双葉電子工業製。フレーム設計は株式会社アールティ。外装デザインは株式会社GKダイナミックス。サブアーム以外はアールティの「RIC90」に近いものと思われる。
孫正義氏「ソフトバンクグループは本気でロボット事業に取り組む」
会場にはロボット関連会社や若手のハードウェア・ベンチャー会社、大手企業や研究機関のメンバーなど、さまざまな関係者の顔が見られた。会見はまずソフトバンクグループ代表 孫正義氏のビデオメッセージから始まった。
孫氏は改めて5日に仏Aldebaranと発表したばかりのロボット「Pepper」、感情認識技術「cocoro SB(ココロエスビー)」、「クラウドAI」などについて改めて言及。続けて「V-Sido OS」を「人間で言えば小脳にあたる」ソフトウェアであると紹介し、「あらゆるロボットの動きを安全かつ効率よく制御する、そのためのOS」だと述べた。さらに吉崎氏を中核として「ソフトバンク・グループとして資本増強を行ない、一気に花咲かせていきたい」、「ソフトバンクグループが本気でロボット事業に取り組むのだということを違った形で公表させていただく」と続けた。
人の意図を伝えるシステム「V-Sido」
続けて、「V-Sido OS」のイメージ動画が紹介された。「V-Sido」は人とロボットを繋ぐOSであり、リアルタイムに人の意図が伝わるロボットであり、外乱に対して臨機応変な対応が必要なときに真価を発揮するという。
ポイントは、人の操作をそのまま反映するわけではなく、反映させるのはあくまで人の操作意図だという点にある。例えば右足を上げて左足を上げろ、という命令をロボットに出したとする。そのままやるとロボットは転倒してしまう。それは極端な例だが、上半身を動かしてモノを取るといった作業だけでも、下半身も上半身の動きに合わせて動かさないとロボットはバランスを失って転倒してしまう。ゲーム内のCGとは違う困難が物理的ロボットにはあるのだ。そういう状況で、実際に操作者がやらせたいのはこういう動作だろうという仮定から、逆運動学を使ってロボット全身の動き(関節パラメータ)を決めるのがV-Sidoなのである。これが「ロボットを思い通りに動かす」、そして孫氏が「小脳に相当する」とV-Sidoの機能を説明した意味だ。
吉崎氏は「V-Sido」を人やAI、クラウドAIなどの「指示を与える知能側」と、制御されるロボット側とのあいだを繋いで仲介するシステムだと述べた。V-Sidoを使うことで機械を効率的に動かすことができると語り、V-Sidoを使ったシステムとして協業各社のロボットでの利用を紹介した。アールティでの着ぐるみロボットの操作などのほか、株式会社富士建での実験では、一般的な土木用の機械をヒューマノイドで操作させることにも成功しているという。なお吉崎氏は、水道橋重工の4m油圧ロボット「クラタス」の制御システムの担当者でもある。「クラタス」にもV-Sidoが用いられている。
コンセプトモデルとして紹介された「ASRA C1」は、吉崎氏に手を引かれながら、よちよちと歩いて登場した。人に手を持ってもらって、その動きに合わせて立ち上がることもできるほか、柔らかな動きができる。「居住空間に安全に溶け込めるロボットとはどんなものなのか」というコンセプトのもとに開発されたという。
アスラテックの事業領域
吉崎氏はAmazonやGoogle、Intelなど最近の世界でのロボット関連の動向を示し、「ここ1年、半年の間に、ロボット開発競争が始まっている。ロボットの市場はまだまだだが、開発競争は世界的に激化している。メーカーがロボットを開発する上で我々がお手伝いできることがあるのではないか」と述べて、PC産業などがハードウェア、OS、アプリケーションなどそれぞれが独立しているのと同様に、「アプリのみを開発する会社というのがロボットでも成り立つべき状況がある」と語った。これまでロボットの開発が難しかった分野の人をサポートするために、「V-Sido OS」、「V-Sido CONNECT」を展開していくという。「さまざまな企業と、できるだけロボットの開発を広めたいと思っている」と述べた。
また、今後はロボットの画像認識や音声認識、言語処理、発話などはクラウド側で処理されることが多くなると考えられることから「グループ会社のYahoo! のようなクラウドサービスとも連携していきたい」と語った。5日に発表された「cocoro SB」のような感情認識技術とロボットとの連携も考えていくという。
同じくソフトバンクのグループ会社であるAldebaranの「Pepper」にも既に一部機能が搭載されているとのことだが、具体的にどの部分かは明らかにされなかった。Pepperそのものはアルデバランのシステムとしていったん完結したものに、ソフトバンクグループ内の他のプロジェクトが組み合わされているのだという。今後の売り上げ目標そのほかも、今後のロボット市場の広がりが不透明とのことで非公開だった。なお現在、アルデバランのほか、株式会社ココロ、メガハウス株式会社、ブレイブロボティクス、株式会社富士建などとも協業していると発表された。
他のロボットOS(ミドルウェア)との関連については「シェアナンバーワンを目指したい」としながらも、「V-Sido」を現在広く使われはじめているロボット用ミドルウェア「ROS」の構成単位の1つとするようなこと、すなわち「ROSからV-Sidoを使うようなこともできる」、「他のミドルウェアとの共存も可能」だと語った。
ソフトバンクグループによるロボット事業が立て続けに発表されたわけだが、これまで発表されたものだけを見ると、アルデバランによる「Pepper」がコンシューマー向けのロボット事業で、アスラテックがメーカーやホビイストなど、ロボット製作者たち向けの事業という位置付けになっているようだ。