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ARM、64bit対応Cortex-A50シリーズを解説

〜ノートPCとサーバーへの採用を目論むbig.LITTLE構造

キース・クラーク氏
12月5日 開催

 アーム株式会社は12月5日、64bitに対応したARMプロセッサコア「Cortex-A50」シリーズについての都内で記者会見を開催した。記者会見では、英国本社から来日したプロセッサ部門組み込みプロセッサ担当バイスプレジデントのKeith Clarke(キース・クラーク)氏が、Cortex-A50シリーズに関する概要と、今後の展望について説明した。

 Cortex-A50シリーズは、ARMとしては初めて64bitアドレッシングに対応したプロセッサコア。電力効率性を高めた「Cortex-A53」と、性能重視の「Cortex-A57」の2種類のコアが存在する。

 このうちA53は、同じ32nmプロセスルールで製造されるCortex-A9と比較して40%小さいダイサイズで同等の性能、A57は2012年現在のハイエンドスマートフォンの3倍の性能を実現できるとしており、2013年以降、さまざまな分野での採用が期待されるという。

現代におけるARMの重要性

 クラーク氏はまず、現代におけるデバイスや市場の変化に伴う半導体の需要について説明。「特にこの2〜3年間は、スマートフォンやタブレットを始めとする新しいデバイスの登場によって、ユーザーが持つデバイスそのものの変化、そしてそれに伴う使い方の変化が生まれた。特にスマートフォンによって、生成されるデータ量が大幅に増えたことや、デバイスが常にオンライン状態であるということこそ、モバイルデバイスがコンピューティングの中心になっていることを象徴するようになった」と指摘する。

 それに伴い、ユーザーの考え方や行動にも変化が生まれた。2012年の調査によると、米国の23%の若者はモバイルデバイスを使ってニュースをチェックし、41%の人々がモバイルデバイスを通してオリンピックを視聴した。また、モバイルアプリケーションに至っては2倍の速度で増えつつあるという。

 モバイルデバイスが普及するに従って、新しい使い方の提案やニーズも生まれた。具体的には、iPhoneのSiriのようなナチュラルな音声認識、セキュアコンテンツの再生やモバイルデバイスそのもののセキュリティ、カメラ機能をフルに利用した仮想現実(AR)の登場、そしてビジネスにおける生産性の向上などが挙げられる。

 そうしたデバイスは、先述の通り常にオンライン状態にあり、それらがクラウドサービスやインターネットそのものを構築することで、データを生産していると言っても過言ではない。

 こうした環境の中で、ARMの高い電力効率を誇るプロセッサコアが活躍できるという。実際モバイルデバイスでは電力消費が最も重要な課題になっているが、ARMのコアはその課題に応えられるコアを提供しており、結果として現在、世界のスマートフォンで最も使われているのは改めて言うまでもない。

 その一方で、こうしたモバイルデバイスやクラウドサービスの増加に伴うフェムトセルやデータセンターなど、インフラの増強/拡大においても、同様に消費電力に対する課題が生まれてきていると指摘する。「特にデータセンターの分野においては、今後フリーサイズのソリューションではなく、多種多様なニーズに応えられる多種多様なソリューションが必要になる」と指摘した。

モバイルコンピューティングの進化
モバイルデバイスの普及に伴うユーザーの行動の変化
モバイルデバイス利用方法の変化
オンライン上のモバイルデバイス
モバイルデバイス普及に伴うインフラの変化
多種多様なニーズに対応しなければならない半導体

多種多様なニーズに応えるbig.LITTLE構想、そしてARMv8

 そこで、ARMは2011年より新しい「big.LITTLE」プロセッサ構想を提案した。これは電力消費が少ないがその分性能に限度のあるコアと、消費電力が高いがその分性能が高いコアを1つのソリューションとして組み合わせ、両方のメリットを得られるようにするというもの。現時点で既に提供している、Cortex-A15とCortex-A7を組み合わせたソリューションでは、ピーク時でCortex-A7単体の2.5倍の性能を実現しながら、アイドル時でCortex-A15単体の約半分の低消費電力を実現しているという。

 一方新たに64bitに対応するARMv8命令セットでも、電力効率に注力して設計し、従来のARMv7との32bit完全互換性を維持しながら、より大容量のメモリをサポートする。そしてそれは半導体本体だけでなく、それによって構築されるソフトウェアにおいても優れた電力効率を実現できるとした。

 特に64bit対応に対しては、今後ネットワークインフラやサーバーでのARMの採用を見込んで導入した。その一方でモバイルコンピューティングにおいても64bit化は重要であるとし、例えば3Dグラフィックスを筆頭とするようなメモリ主役型のアプリケーションにおいても、高解像度化などにより、電力効率性の高いアーキテクチャが必要になるとした。

big.LITTLEのコンセプト
64bitに対応するARMv8命令
ARMv8の64bit対応で応用が広がる

 そしてその64bitのARMv8命令セットに対応する第1弾が、11月に発表したCortex-A50シリーズである。

 このうちCortex-A57は、現時点のハイエンドスマートフォンの3倍の性能と、現時点のタブレットやノートPCの5倍の電力効率性を両立。また、暗号を高速に行なうための命令や、浮動小数点演算性能の拡張、64bitサポート、最大16コアまでのスケーラビリティを持つ高性能コアとなる。一方Cortex-A53は、現行のCortex-A9と同等のプロセスルールであれば、約40%のダイサイズの小型化が可能。この2つをbig.LITTLEとして組み合わせることで、性能向上と低消費電力化の両立が図れるとした。

 そしてスケーラビリティにも富んでいるのが最大の特徴。スマートフォンからサーバーまでのレンジをカバーできる。クラーク氏は例として、メインストリーム向けスマートフォンではA53を4コア、ハイエンド向けスマートフォンやタブレットではA57を2コア+A53を4コア、ラップトップコンピュータではA57とA53を4コアずつ、サーバーではA57を16コアにするといった、柔軟性の高い組み合わせが可能。「先述のようなフリーサイズの半導体では全てのニーズ対応しきれないが、我々のアーキテクチャはすべてに対応できる」とアピールした。

Cortex-A57とA53のbig.LITTLE構想
Cortex-A57の特徴
Cortex-A53の特徴
Cortex-A50シリーズのbig.LITTLE構成による消費電力と性能の最適化
Cortex-A50シリーズのスケーラビリティ

エコシステムの構築と今後

 ARMを中心としたエコシステムの構築は、ARMv8においても継続していく。32bit対応については、フル互換性を持たせることで対応するとともに、開発ツールやOSのサポートは行なっている。一方64bit対応についても、ツールや対応OSのサポートを提供し、ソフトウェアパートナーと連携して最適化を図っていくとした。

 これにより、かつてx86からAMD64へ移行した時と同じような柔軟性のあるフレームワークやスケーラビリティを提供する。Cortex-A50シリーズ上では、32bit OS+32bitアプリ、64bit OS+32bitアプリ、64bit OS+64bitアプリといったような自由な組み合わせが実現できるとした。

ARMのソフトウェアエコシステム
フレキシブルのフレームワーク

 またSoCに組み込むためのサポートも提供し、市場への導入速度を加速化する。ソフトウェア面では性能分析ツールや開発スイートの提供を行なうとともに、グラフィックスでは同じくARMのMaliシリーズが64bit対応済みであるとした。また、物理IPライセンスについては28nmと20nmで提供し、FinFET(3次元トランジスタ)についても対応していく。

 実際、28nmと32nmについては提供済みで、20nmとFinFETは2013年中に提供する予定。ファウンドリのパートナーとしては、Samsung、UMC、GLOBALFOUNDRIES、IBM、TSMCを挙げた。SoCパートナーとしても、AMD、Broadcom、Calxeda、Hisilicon、Samsung、ST Microなどを挙げた。

 Cortex-A50シリーズを搭載した製品は2014年をめどに出荷される予定とし、今後はさまざまな機器に採用されていくだろうとした。そして2020年には、1,500億を超えるデバイスが市場に出回るだろうとした。

Cortex-A50のSoCへの組み込みもサポート
ファウンドリとの提携
SoCパートナーとの提携
2014年の製品投入を目指す
2020年には年間1,500億を超える採用デバイスが出荷される見込み
さまざまなデバイスに採用されるようになるARMコア

サーバーは当面ライトユースをターゲットに

ジョン・コーニッシュ氏

 続いて、システムデザイン部門上級副社長兼ジェネラル・マネージャのJohn Cornish(ジョン・コーニッシュ)氏が、サーバー分野における取り組みやエコシステムについて解説した。

 ARMのサーバーへの取り組みは歴史が比較的浅く、2009年から始まり、2011年からようやく具体的な成果を得られ始めたばかりである。具体的には、Ubuntu server Linux for ARMのリリース、HPやDellのARM採用サーバーのアナウンス、Applied MicroのARMv8ベースのプロセッサ「X-Gene」などが挙げられる。

 ARMが注目している業界は、「サーバーそのものがビジネスになっている企業」だという。具体的なFacebookやTwitter、YouTube、Tencent、Baiduのようなソーシャル・ネットワーキング、そしてAmazonやrackspace、TelecityGroupなどのようなクラウドホスティングなどである。これらの企業は最新技術を比較的積極的に取り入れており、低ランニングコストを実現するサーバーの最適化こそが、利益を最大限にするための重要な要素になっているという。

 クラーク氏の説明でもあった通り、フリーサイズですべてのニーズを満たせる半導体はないが、これらの企業は現時点ではフリーサイズの半導体を採用しているため、優れた電力効率、つまり低ランニングコストを実現するために、複雑な仮想化技術やロードバランス技術の開発や導入を行なわなければならなかった。

 コーニッシュ氏は「HPCやリアルタイム解析、従来のエンタープライズ分野においては依然として高い性能を必要としているが、オフライン解析やクラウドサービス、動的/静的Webサービス、キャッシングサービスなどにおいてはそれほど性能への需要はない。我々の製品はまずこの分野から切り込み、性能と電力効率の需要にあった製品を適正なコストで提供できるのが最大の武器」であるとアピールした。

 また、従来のサーバーは複数のアプリケーションが1つのCPU上で走っていたが、現在は1つのアプリケーションが仮想化され1つの大きなCPU上で走っている。しかし将来的には1つのアプリケーションが1つの小さなCPU上で走るようになり、さらにその先は特殊用途に最適化したハードウェアアクセラレータ搭載のヘテロジニアスプロセッシングへと進むことで、性能、電力効率、そしてコストの最適化が進んでいくだろうとした。

実際のARM採用サーバー製品
これまでのサーバーへの取り組み
ARMがターゲットとするような企業
ARMがターゲットとする市場
SoCの革命によってサーバーにも変化が生まれる

(劉 尭)