レノボ、「ThinkPad X1 Carbon」の薄型化/軽量化技術を紹介

ThinkPad X1 Carbon

8月29日 開催



 レノボ・ジャパン株式会社は29日、ThinkPadシリーズ初のUltrabook「ThinkPad X1 Carbon」に関する技術説明会を開催した。

 ThinkPad X1 Carbonは、従来の「ThinkPad X1」から大幅に薄型化、軽量化され、厚さは8~18.8mm、重量は14型ながら1.36kgになっている。そのデザインコンセプトや、採用技術が紹介された。

製品開発統括担当 田保光雄氏

 まず、製品開発統括担当の田保光雄氏が挨拶。「(2011年の)ThinkPad X1発表後から色々なご意見をいただいた」と切り出し、次期製品への課題として「(X1が)軽い機種ではなかったので、もう少し軽くして欲しいという意見や、日本からは高解像度の液晶が欲しい、バッテリ駆動時間を長くして欲しいといった意見を参考に今回の製品に取り組んだ」という。

 今回のX1 Carbonについては、「薄く軽くと言うことを重視し、横幅はX1より小さくなったが、画面サイズは大きくなった」と自信を見せた。

デザイン/ユーザーエクスペリエンス部長 高橋知之氏

 続いて、デザイン/ユーザーエクスペリエンス部長の高橋知之氏が、ThinkPadのデザインコンセプトと今回のX1 Carbonのデザインを説明した。

 まずデザインコンセプトについて、レオナルド・ダ・ヴィンチの「単純化は洗練の究極の形」という言葉の通り、いかに単純化していくかというデザインをしているという。ThinkPadの筐体は、効果的に並んでいる幕の内弁当にインスパイアされ始まったと出自を紹介。高橋氏は「シンプルな中に高機能や最新技術を盛り込むことを考えてやってきた」とし、「ユーザーに直接触れるキーボードを重要視している」と定評あるキーボードへのこだわりを強調した。そして、F.A.ポルシェの「変えることは簡単、改善するのは遙かに困難」という言葉を紹介し、流行を追うのではなく従来のものを改善し、状況に合わせて最高の使い勝手、シンプルさ求めてを開発してきたという。

 薄型のThinkPadは、2008年のX300でスタート。デザインはこれまでのコンセプトを継承しつつ、洗練させたいと考えたという。デザイン方針は、色で機能を強調することで、堅牢性を表した質実剛健なイメージを持ちながら、Enterキーが青色など色と機能を直接表現するやり方だったという。続く2011年のX1では、ThinkPadらしさを強調し、シンプルさと改善を突き詰めたとする。将来を見据えた6列キーボードで印象を一新し、薄さを強調するサイドがそぎ落とされたデザインとした。「ThinkPadの基本は弁当箱だが、そうすると厚く見えてしまうので、そぎ落とすデザインにして薄さと新鮮さを出した」と語った。

 今回のX1 Carbonは、ThinkPadの次の飛躍に向けたデザイン方針とし、ThinkPadらしさを見つめ直し、従来にこだわらず魅力的になるよう進めたという。

レオナルド・ダ・ビンチの言葉幕の内弁当がアイデアThinkPad改善の歴史
薄型ThinkPad初代のX300続くThinkPad X1今回のThinkPad X1 Carbon

 具体的には、薄く見せることを考えていくと楔形を効果的に、今まで以上に曲面を多くの部分に使ったという。フチの部分をやわらかく見せ薄さを強調し、インターフェイスのコネクタ部分はまっすぐだが、手前側はラウンドを持たせた。初めて背面が下のテーブルなどに触れるヒンジなど新要素もある。高橋氏は「印象としてはThinkPadになっていると考える。今までの要素と違うデザインを追求した」と話した。

 使い勝手の面では、13型クラスの筐体に14型の液晶を搭載し、新しいヒンジを使ったが180度開くヒンジにこだわり、トラックパッドがガラス製になり、表面がなめらかでクリック感も良いものになったという。

 6列キーボードについては、これからの20年先を考えた時に、新しいレイアウトにするタイミングになるとし、キー自体は減っているが、Fnキーとの組み合わせで対応させた。そしてX1 Carbonの6列キーボードでは、ファンクションキーの列に仕切りを設け、F4とF5、F8とF9、F12とHomeの間に隙間があり、より判別しやすくなったという。

 高橋氏は最後に、「従来のThinkPadからずいぶんと細かいデザイン変更をしているが、アイデンティティは失われていないと考える」とThinkPadらしさを維持していると強調した。

楔形で薄く見えるようにそぎ落としたデザイン新しいヒンジ機構やガラス製トラックパッドキーボードの最上段に仕切りを設けた
ノートブック製品 第一機構設計 機構設計担当マネージャー 大谷哲也氏

 最後に、ノートブック製品 第一機構設計 機構設計担当マネージャーの大谷哲也氏が、ハードウェア設計を解説した。

 まず、従来のX1との比較で重量が1.69kgから1.36kgになった軽量化を説明。重さは液晶カバーで181g、キーボードで33g、冷却ファンで21g軽量化され、この3つのパーツで全体の75%ほどを達成したという。製品トータルでは332gもの軽量化を実現した。

 軽量化や薄型化と堅牢性の両立を実現するため、カーボンを筐体に採用。ThinkPadは1992年からカーボンファイバー(炭素繊維)強化プラスチック(CFRP)に取り組み、製品化している。当時マグネシウムの薄型成形が難しかったことから、最適な素材だったという。無線機能の需要が高まっていた2005年以降は、無線を使いやすいハイブリッドCFRPを使い始めたという。

 炭素繊維はアクリル繊維を炭素化(燃焼)させて精製するが、純度の違いでヤング率(GPa、縦弾性率)はさまざま。炭素繊維は200~650GPaのグレードがあり、カーボン採用の自動車が220GPa前後、飛行機が300GPa前後だが、X1 Carbonには人工衛星や鮎釣り竿と同程度の500GPa以上のものを使っているという。また、炭素繊維の組み方でも強度や比重が変わるため、上層に縦配置、下層に横配置の炭素繊維プリプレグ層、その間に発泡樹脂層を挟み、強度と軽量さを持たせた。同一の厚みでは、マグネシウムよりも軽く堅いという。比重は0.97g/平方cmで、水よりも軽い。このThinkPad史上最強というCFRPを用いて、X1から液晶部分の重量を約3割、ベゼルなどの隙間を約5割削減した。X1はゴリラガラスを採用していたが、それと同等の強度も確保できたという。

X1 Carbonと従来のX1とのサイズ比較ThinkPadとCFRPの系譜
炭素繊維の解説。X1 Carbonでは上位グレードを採用ThinkPad史上最強というCFRP

 ユーザビリティの面では、まずキーボードを解説。従来のThinkPadはキーストローク2mmを維持していたが、それを失わないまま薄くすることに挑戦したという。今回のX1 Carbonのキーストロークは約1.8mm。解法としてまず、マグネシウム合金のロールケージと一体化させ剛性を確保。アイソレーションキーの隙間をほとんど無くして、端を押された時にも回転方向のがたつきをX1から5割削減。さらに、疲れを軽減するため、キーの底部を斜めの形状にして、キー入力を受けるメンブレンシートの下のベースプレートに穴を空け、押下時のショックを吸収させる構造とした。

 また、防滴性能も向上。従来は雨どいのように水路を作って流す方式だったが、X1 Carbonではキーボードのバスタブ部分にタッパのはめ込む部分に似たゴム製のパッキン構造を採用。筐体一体化を利用して内側から支え、水をこぼしても入り込まないようにした。

 熱設計は、冷却ファンを動作保証できる限界に近い薄さにしたという。冷却能力の維持にはファン回転数を上げる必要があるが、ここでの工夫はノイズ対策として内部の乱流を抑える整流板を開発し、耳障りな周波数帯の音を削減した。また、薄くすると排出口が小さくなるため、目詰まりが致命的になるほか、埃がたまると冷却能力も悪くなる。それを解消するため、フィンの部分にアースでグラウンドを取り、静電気を放電させ埃の付着を防止する。大谷氏は「長く快適に使っていただくことを目指して開発した」と話した。

歴代ThinkPadのキーストロークと製品の厚さがたつきを抑える隙間が少ないキーを採用疲れを軽減するスイッチ構造
タッパのような構造で内部に水が入らない防滴性能乱流を削減する整流板フィンの目詰まりを防ぐため静電気を放電

キーボード面を外した筐体と基板X1 Carbon用の冷却ファンこちらは厚めのX1用冷却ファン
オプションのUSB 3.0ドックDVI-I、DVI-D、Gigabit Ethernet、USB 3.0×3を装備
専用ACアダプタ。コネクタは長方形オプションのディスプレイ、LANのアダプタ

(2012年 8月 30日)

[Reported by 山田 幸治]