富士通、ワイヤレス給電の設計を高速化する技術を開発

ワイヤレス給電による携帯電話の試作機



 株式会社富士通研究所は13日、都内で記者会見を開き、磁界共鳴方式によるワイヤレス給電の設計を高速化する解析技術を開発したと発表した。

 ワイヤレスで電力を供給する技術としては、コイルの磁束によって電気を転送する「電磁誘導方式」と、コイルとコンデンサを共振器として使い、磁界の共鳴によって電力を転送する「磁界共鳴方式」の2種類があるが、今回開発された技術は後者向けのものとなる。

 磁界共鳴方式は、電磁誘導方式と比較して、送電コイルから多少離れたり、位置がずれたりしても給電できるといったメリットがある。反面、コイルの形状に依存する浮遊容量(線間で発生する寄生容量)や、筐体やバッテリなどの電磁気が送受電デバイス間の共鳴現象に対する複雑な影響を解析しなければならないため、設計に時間がかかっていたという。

田口雅一氏 磁界共鳴方式はやや離れた場所でも給電可能 位置ズレが生じても給電可能
電磁誘導方式と磁界共鳴方式の違い 磁界共鳴方式は周辺の環境に左右されやすい 複数デバイス間での干渉

 技術説明を行なったITS研究センター 主幹研究員の田口雅一氏によれば、従来の解析方法では、設計用に利用されている一般的なハイスペックPC(CPUのクロックは3.33GHz、メモリ48GB)を用いても、基本的な解析のみでも24時間かかっていたという。

 特に携帯電話をはじめとするモバイルデバイスは、小型で周囲の影響を受けやすく、さまざま機器を同時に給電しようとすると、その機器同士で影響を受けるため、さらに解析が難しくなり、小型で多様なデザインを受け入れる必要のあるモバイル機器における実用化でボトルネックとなっていたという。

 今回開発した技術は、コイルモデルを解析する電磁界シミュレータと、共鳴用コンデンサモデルを含めて共鳴状態を解析する専用の回路シミュレータを連成することで、異なる大きさのコイルを用いた複数の送受電デバイスを一度に正確かつ高速に解析できる。また、給電効率を最大とする評価関数と、狙った共鳴条件に対して正確な設計条件を自動的に正確に求めることができるという。

 実際この技術を利用して、3つの受電デバイスへの給電効率と電力から最適なコイルサイズを示す解析を行なった例では、従来の解析と比較して約150分の1に相当する10分で解析できたという。

今回開発された技術の概要 さまざまな条件をシミュレートして解析できる 解析時間が10分に大幅に短縮された
今回の技術を用いた試作例 複数給電に最適化された送電デバイスを新技術で解析した結果 離れた場所へも給電できる

 今後、同社はこの技術を用いて、携帯電話などのモバイル機器に置けるワイヤレス給電システムの研究開発を行ない、2012年の実用化/製品化を目指す。なお、他社へのIPライセンスなどの予定は現時点ではなく、社内での実用化に向けた研究開発を進めていく予定。

 また、半導体への組み込みも見込んでおり、「一部の半導体では、給電用のワイヤーが30%を占めるといったこともあり、(ダイサイズは小さいのに半導体自体のパッドが大きことに起因する)半導体の小型化への阻害にもなっている。半導体は基板からみれば動かないデバイスであるため、ワイヤレス給電技術が応用されれば小型化も見込める」と述べた。

LSIやプリント基板の間の給電用にも見込む 離れた場所へ給電を行なうデモ 車載向けやLSIへの実装も見込む

●法律遵守と今後の課題

 13日の記者会見では、同社 フェロー ITS研究センター センター長の松田喜一氏が、富士通研究所の概要について説明。映像処理エンジンである「Dixel」や、携帯電話向けのノイズキャンセリング技術など、製品化する前で基礎研究開発を行なっているとし、製品部とともに製品化に向けた取り組みを行なっていると紹介した。

 また、今回のワイヤレス給電においては、離れた位置から複数へ同時給電できるといった特徴などを紹介し、ワイヤレス給電技術の中でもっとも有望視されていると述べた。

松田喜一氏 富士通研究所の組織概要 さまざまな環境でワイヤレス化を実現

 質疑応答で、給電の効率について、田口氏は、「接近状態で90%前後に達しており、電磁誘導方式とそれほど変わらないレベルに達成している」とした。

 また、複数デバイスをターゲットに設計された給電システムで、1個のみを充電した場合の効率は低下するのではないか、という懸念に対して、「将来的に製品化する際に、マージンを持って設計する、アクティブに補正をかけながら給電を行なうことで効率を上げていく方法などがある」と述べた。

 実用化までの課題としては、「最も注力しているのは安全性であり、各種法律に遵守した製品化を行なわなければならない。その次はバッテリの種類との相性、有線充電との組み合わせなども考慮しなければならない」とした。

 法律遵守の観点では、現時点では車載向けには大出力を行なわなければならないため実用化は不可だが、「2015年に総務省などが電波に関する法律改正などを行なえば実現可能」と述べた。

(2010年 9月 13日)

[Reported by 劉 尭]