マイクロソフト、障碍を持つ高校生の大学進学を支援する
「DO-IT Japan 2010」の講義を公開

マイクロソフト株式会社 業務執行役員 最高技術責任者 加治佐俊一氏

8月5日 公開



 マイクロソフトは8月5日、障碍を持つ学生の大学進学を支援する「DO-IT Japan 2010」の講義をマスコミ関係者向けに公開した。

 DO-IT Japanは障碍のある高校生を対象に、大学や企業が提供する体験プログラムを提供し、障碍者の大学進学などを支援することを目的に2007年から実施されている。すでに参加者の中から19人が大学に進学している。

 4回目の開催となるDO-IT Japan 2010では、高校生だけでなく、以前このプログラムに参加した大学生を参加者に加え、大学生活を支援することも想定した授業を行なった。

 講義を公開したマイクロソフトの業務執行役員 最高技術責任者である加治佐俊一氏は、「米国では障碍者の11%が大学に進学しているにも関わらず、日本では0.2%しか大学進学していない。障碍のある人はさまざまなデジタル機器を色々と工夫して利用しているが、その点を勉学の場、入試の際に配慮してくれるようになれば、障碍者の進学が増え、ひいては社会人として活躍する場も広がるはず。実際に社会に出て働いている障碍者の中には優秀な人が多く、メールでやり取りしているだけでは、障碍があるとはわからない人も多い。マイクロソフトとしてはWindows 7の機能に、障碍がある人に便利なものを搭載していくと共に、さらにはOSだけでは実現できないところをカバーするソフトやハードが提供できる環境を作る、プラットフォーム提供者としての責任がある」とデジタル機器やソフトの進展と、障碍者が学ぶ機会を得るきっかけとして重要であると強調した。

 さらに、電子書籍やデジタル教科書が障碍者にとって重要であるとの視点から、「日本電子出版協会の理事としてEPUBの日本語対応に協力している。HTML5などにどう対応していくのかなど、今後議論しなければならない課題は多いが、読み上げなどの機能を持つWordのアドインソフト『DAISY Translator』は視覚障害のある方には大きなプラスとなるはず。このソフトは、EPUBを整備すれば合わせて整備される仕様となっており、電子書籍進展が障碍者教育にもプラス影響をもたらす」(加治佐CTO)と説明した。

障碍のある若者の現状Windows 7の障碍者にも便利な機能
障碍がある人にもプラス影響が大きい電子書籍・デジタル教科書教材実現に向けたマイクロソフトの試み障碍がある子どもたちにも大きな影響がある教育現場の電子化への取り組み

 DO-IT JAPANの主催者である東京大学の先端科学技術研究センターの中邑賢龍教授は、「障碍がある子どもたちが学校で学ぶ際、教科書のデジタル化は大きな第一歩だが、学ぶためにはノートがうまく取れないという問題をどう支援するのかが大きな課題となる。今回、これまではビジネス用に使われて生きたOneNoteというソフトを、教育現場で利用できないかというチャレンジを行なった。ADHD(注意欠陥/多動性障碍)などの障碍を持った人は資料やノートの整理がうまくできないという課題を持つが、その問題を解決するには、デジタルツールが大きな武器となる。また、スマートフォンとの同期や、録音データの活用などによって視覚、聴覚などに障害を抱える子どもたちの学習を支援することにつながる。大学の研究者というと新しい物を生み出すのが仕事と思われがちだが、我々が研究しているのはすでにある物をどう活用するか。複数のツールを組み合わせ利用するのかといった研究を行なうことで、障碍者支援につながり、教育現場でも受け入れられやすいはず」と既存のデジタルツールを活用した障碍者支援の重要性を訴えた。

 公開された講義ではOneNote 2010を使い、PC内に蓄積された論文などの資料、手書きノートを貼り付けたり、ICレコーダで録音した音声データをドキュメントにリンクしたり、添付したりする方法が紹介された。

東京大学 先端科学技術研究センター 中邑賢龍教授公開授業では「デジタル時代のノートの取り方」を実践公開授業で利用したソフトOneNote 2010
中邑教授による公開授業授業中の手書きノートを取り込み、OneNote 2010に取り込むことで情報の整理整頓につながることをデモで紹介
協力企業であるオリンパスから提供されたICレコーダを使って、授業を音声録音し、そのデータをOneNote 2010に貼り付けて記録する方法も紹介された

 講義に参加した学生は筋ジストロフィー、アルペルガー症候群、脳性麻痺、視覚障碍などの障碍を持っている12人だが、すでに複数回参加しているメンバーが多いこともあって、笑い声も絶えない明るい講義となった。

紙で配布された資料は、今年から協賛企業となった富士通製スキャナを利用することで、画像やPDFファイルとして貼り付けておくことも可能に

 OneNote 2010を利用し、ICレコーダではなく、PCの録音機能を使ってキーボードで文字を打ちながら録音を行なうと、入力した文字がタグとして記録され、録音データを検索できる機能や、富士通製高速スキャナScanSnapを使って高速で紙のデータが取り込める機能が紹介されると、歓声が飛ぶ場面もあった。

 学生達はこの日からから8月8日まで、研修や企業が提供する体験プログラムに参加する予定となっている。


(2010年 8月 6日)

[Reported by 三浦 優子]