神戸工場を管轄するパナソニック AVCネットワークス社 システム事業グループ ITプロダクツ事業部 プロダクトセンター・白土清所長は、「日本の物作り」に強いこだわりを見せる。白土所長に、学生向けに行なう工場の体験教室を行なう理由と、ネットブックや国産メーカーのモバイルノートPCと、Let'snoteの違いについて聞いた。
毎年夏休みに開催されている「手づくりLet'snote工房」(2008年より) |
Q: 神戸工場では、今回の「PCカレッジ」で大学生向けの工場体験教室を開催し、さらに夏休みには小・中・高校生向けのPC組み立て教室「手づくりLet'snote工房」を開催しています。積極的に体験学習を受け入れる狙いはどこにあるのでしょう?
白土 大学生向けの体験教室のスタートは、実は大学向けの営業活動を行なっていく中で、大学側からのリクエストを受けて始めたものなんです。こちらとしても、積極的に営業活動を進めたい時に、日本で唯一、基板実装から行なう神戸工場の特質が生かせるのであればと(笑)。
ただ、大学生だけでなく、小学生、中学生向けの体験教室でも同様なんですが、根本にあるのは、「物作りの魅力を伝えたい」という気持ちなんです。
実際に工場に来て、基板が実装されるマシンや工場を見ているうちに、参加者の皆さんの目が違ってくる。「パソコンって、こうやって作られているんだ!」という興味と、興奮が伝わってきます。
Q: 東京都市大学の学生さん向けに行なわれた白土所長の挨拶でも、「日本の物作りを支える未来のエンジニアの皆さん」という呼びかけがありました。
白土 やはり、工場というのは物作りの原点です。技術系の学生さんには、我々がどれだけこだわって物作りをしているのか、現場に来て体感していただきたいです。
Q: 話題は変わりますが、2008年後半から(世界的不況によって)PC市場には大きな変化が起こっています。神戸工場としては、市場の変化にどう対応していきますか?
白土 ご存知の通り、2008年前半まではPC市場は好調に推移していました。神戸工場としても、いかに生産台数を伸ばしていくのかが課題となっていました。
しかし、ご指摘の通り、秋にリーマンショックが起こって以降、PC市場にも変化が訪れています。神戸工場としてはどうその変化に対応するのかというご質問ですが、実は基本は昨年(2008年)前半から一貫して変わらないんですよ。“いかに効率よく生産を行なっていくのか”、やはり、これがキーワードとなります。
ネットブック市場の先駆者となったASUS「Eee PC」 |
Q: 2008年は台湾ベンダーから、ネットブックが発売され話題を呼んでいます。ネットブックは神戸工場が進める垂直統合型の生産体制と対局にある、水平統合型生産体制から登場してきました。低コストを追求したネットブックと、付加価値を追求したLet'snoteは、同じノートPCといっても、コンセプトは対局にあります。しかし、消費者からは、「Let'snoteも5万円にできないの?」といったリクエストも出てくる可能性があると思うのですが。
白土 Let'snoteが目指しているのは、本格的にビジネスの中で活用できるPCです。メール、インターネットといった限定された用途を想定しているネットブックとは、商売の土俵が異なると思っています。
ただし、ご指摘のように「もう少し価格が安くなれば」というリクエストがあることは事実です。それに対応できるように、神戸工場としてはさらに効率的な生産体制を作り、現在の品質を維持しながら、どこまで価格を下げていけるのかといったことにも挑戦する必要はあると思います。
昨年の前半に行なったご説明では、工場の人員は変更することなく、2006年時点で66万台だったLet'snoteの生産台数を、2012年に113万台にするという目標を掲げていました。この数量が市場ニーズに対し適切なものなのか、検証する必要はあると思います。
Q: 66万台を113万台にするということは、同じ人員体制で倍の生産量にしなければならないということになりますね。
白土 正確に言うと、113万台という生産目標台数の中には、台湾工場で生産する10~12万台も含まれますから、倍の生産数というわけではありません。それでも実現に向けては、生産体制をどんどん効率化していく必要があります。これが水平統合型生産を行なっているメーカーさんと対抗していく、我々の原動力となると思います。
Q: 対抗という点では、ネットブックだけでなく、Let'snoteを意識したビジネスモバイルPCが日本メーカーから登場していますが。
白土 我々がアピールしてきた耐荷重量100kgf、落としても割れないといったポイントを同じようにアピールされていますね。ただ、Let'snoteのアピールポイントは、我々が考え出したものではないんです。お客様とお付き合いしていく中で、「これが必要なんだ」という声があって生まれた機能ばかりです。
Let'snoteの上に乗って耐荷重100kgfを体験した子供たち(2008年8月、手づくりLet'snote工房 2008より) |
Let'snote Y5の全面防滴。体験しているのはモデルの杏さん(2006年5月、レッツノート タッチ&トライより) |
ベースとなっているTOUGHBOOKの性能がLet'snoteに移植され、本格的にビジネスの現場で利用できるモバイルPCとして鍛え上げられました。「満員電車に乗っていて液晶が割れてしまった」というお客様の声を聞いて、実際に混んでいる電車にPCを抱えて乗ってみて、「ここまでやれば、液晶は割れない」と確証を得て、耐荷重量100kgを実現させました。スペックだけで生まれた数字ではないんですね。
防水キーボードも、「コップの飲み物をこぼしてしまったが、どうにかならないか」という声があって生まれた機能です。
しかも、それを維持できているのは、部品管理や物作りノウハウといったことを徹底したからこそ。日本のPCメーカーでも、生産を国内に戻すところが出てきていますが、我々は最初からずっと神戸工場で生産してきたんです。これまでやってきたことをブラッシュアップしているからこそ、これだけの品質を維持出来ているのだと思います。
学生さんをはじめ、神戸工場には見学に来られる方が多いのですが、「パソコンの工場というから、人間はほとんどいなくて、機械が作っているのかと思ったら、違うんですね」と驚かれる方が多いんです。実はこの人間がやっているというのが大きなポイントで、製品の品質を磨いていくのは人間の感性なんです。特にお客様の要望に応じてコンフィグレーションする少量多品種生産といったニーズにお応えするためには、やはり人の手で生産する必要があるんです。
実際に、年間不良品率も他社を大きく下回っているという自負もありますし、やはり社員の物作り教育、マネージメントをどう進めていくのかという点が、神戸工場の生産効率向上のポイントとなっているのだと思います。
Q: 国産メーカーの競合製品、さらにはネットブックといった製品との違いを示すために、そろそろLet'snoteも変革期を迎えたのかなとも感じるのですが。
白土 新しいLet'snoteを作っていくのも、やはり神戸工場で培ってきた物作りのノウハウがベースとなっていくのだと思います。これまで通り、愚直に品質を追求していく姿勢を保ちつつ、新しい製品作りに挑戦していきたいと思います。
(2009年 4月 10日)
[Reported by 三浦 優子]