大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

松下電器、Let'snoteの生産設備を強化
~2010年までに年産110万台の体制に




 松下電器産業は、「Let'snote」および「TOUGHBOOK」の生産体制を、2010年までに年間110万台の体制に引き上げる。現在、Let'snoteの生産を行なっている兵庫県神戸市の神戸工場の生産能力は約65万台。今後3年間で、現在の約7割増となる生産規模に拡大する計算になる。

 Let'snoteの出荷台数は年率15~18%増で推移。大企業からの一括受注が増加しているほか、海外におけるノートPCの需要が高まっていることに対応したもので、国内および海外におけるノートPC事業拡大に弾みをつける考えだ。

 同社では、2006年度から神戸工場の生産体制の強化に取り組んでおり、今年(2007年)3月には、新たに物流棟を設置したほか、最新の基板実装装置を導入するなどの設備投資を行なっている。これにより、生産リードタイムの短縮化、フレキシブルな生産体制の実現を可能にする。

 この取り組みが、年間110万台の生産体制確立に直結することになるわけだ。

松下電器神戸工場 神戸工場に隣接した物流棟

●新たに建設した物流棟は工場に隣接

工場3階から物流棟を見た様子

 物流棟は、1フロアあたり4,000平方mの3階建て。神戸工場と隣接する形で建設され、組立ラインがある神戸工場2階と、物流棟の3階部分が、同じ高さでつながれている。

 物流棟の1階、2階部分はVMI倉庫。これまで神戸工場から約3km離れたところに置かれていたVMI倉庫をここに集約し、約10日分の在庫がVMI方式によって保管されている。Let'snoteに使われる部品の約65%がここに置かれていることになるという。

 物流棟の3階部分は、今年3月まで神戸工場3階に置かれていた部品倉庫を移動させたほか、検査や組立ラインに供給するための部品のピッキング作業も行なわれる。ここで保管されている部品は5日分となる。1階、2階のVMI倉庫に保管されている部品も、この3階フロアを通じて、組立ラインに供給。3階フロアに入った段階で、部品メーカーの資産から、松下電器の資産へと変わる。

 また、今年3月の物流棟の稼働によって、神戸工場の3階フロアに大きな空きスペースができたため、ここには、1階で行なっていた液晶モジュールの組立工程などを移行。さらに、液晶やマグネシウム筐体の組立ライン投入前の最終検査などが行なわれている。

●最新の実装装置を導入し、ラインを短縮

 一方、工場2階フロアでは、基板の実装工程および組立、検査工程を持つ。ここでは、実装ラインの強化に乗り出している。

 これまで、1つのラインで、約130点の部品を実装する装置を4台導入していたが、このうちの2台を、1台でマウントできる装置に入れ替えた。今年8月に導入したばかりのこの装置により、高速でありながら高品質の部品実装を実現。さらに、ラインそのものを12m縮小することに成功した。

 すでに、一部製品ではこの機器を使った基板生産が行なわれており、「8月中旬から試験的に稼働させており、予想通りの効果を発揮している。いまは、基板の表だけの実装だが、今後は、基板の両面をできるように装置を導入する計画。これにより、ラインの長さは24m縮小できる。また、5つある実装ラインすべてをこれに入れ替えれば、横150m方向の長さに設置している実装ラインの向きを、縦の60m方向の向きを変えることができる。有効活用できるスペースがさらに広がることになる」(松下電器パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部プロダクトセンター 白土清所長)という。

松下電器パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部プロダクトセンター 白土清所長 新たに導入された実装装置。これによって高速化とラインの短縮が図られる 現在、横方向にあるラインを新たな装置の導入によって、縦方向に向けることも検討している

 これにより、2階フロア内のできた空きスペースを利用して、セル方式による組立ラインの増強や、エージングなどの検査ラインも増やすことができるようになる。

 「だが、単に生産数量の増加に応じてセルの屋台を増やし、人員を増強するのでは意味がない。新たなセルの方式を模索しており、省人化、省スペース化、生産効率の向上を実現した組立ラインを導入したい」とする。

 神戸工場では、1フロア9,000平方mという面積を利用して、2階フロアだけで、基板の生産から、製品の組立、検査までを行なう1フロアオペレーションの実現にこだわっており、実装ラインの改革は、今後の大幅な増産体制を敷く上でのキーポイントになっているといえよう。

セル方式によるLet'snoteの生産ライン 部品は、バーコードで管理された箱ごとに入れられてラインに供給される TOUGHBOOKのマグネシウム筐体
組立完了後のエージングも2階で行なわれる

 一方、1階フロアにおいては、液晶モジュールの生産工程を3階に移したこと、さらに、物流倉庫を設置したことで、部品の受け入れのためのスペースが不要になったことで、ここにも空きスペースが生まれている。

 ここでは、抜き取り試験のための設備などを増強する考えだ。

工場3階の液晶モジュールを扱うクリーンルーム。作業中にホコリがつかないようにするもので、これだけの簡易性で十分 液晶モジュールの組立工程

 とくに、設備が大きい恒温恒湿試験機を増設するためのスペースとして活用されることになる。「生産数量が増えることで、ロットごとの検査数量も増加することになる。これにあわせて検査機を増やしていく必要がある」として、品質維持への取り組みも強化していく考えだ。

恒温恒湿試験機。マイナス40度から100度までの温度環境で検査できる。 こちらは部品を対象に行なう恒温恒湿試験機。

 こうした新たな体制によって、物流棟では、材料の集中マネジメント化を実現、一方で神戸工場は製造専門の製造棟として進化を遂げることになる。

これがラインの短縮によってできた空きスペース。1ラインあたりこの倍のスペースができることになる。 3階フロアには多くの空きスペースができた。これはその一部。ここだけでも、親子50組を招いたパソコン組立教室の開催が可能な広さ

●物流棟が生み出した新たな効果とは

 物流棟の稼働は、2010年の年産110万台体制に向けた準備だけには留まらない。

 すでに、多くの効果を導き出しているからだ。

 例えば、物流および在庫コストの大幅な削減はその最たるものだろう。

 これまで、3km離れたVMI倉庫に保管されていた部品は、一度開梱されたのちに、ラインの所要量に応じてピッキングされたのち、安全輸送できる形に再度梱包され、トラックで工場に運び込まれる。だが物流棟が神戸工場に隣接する形で稼働したことにより、部品メーカーは直接、物流棟に部品を入庫し、そこからラインに供給する形に仕分けされることになる。これにより、開梱して部品を仕分けし、再度梱包し、トラックで輸送するという手間がなくなり、物流コストの削減に直結する。

 また、タイムリーで、フレキシブルな生産体制の実現にもつながっている。

 これまで、VMI倉庫から工場への部品供給は、多いときで1日4回。少ないときでは1日2回というものだった。だが、物流棟からは1時間に1回の割合で部品の供給が可能になり、フレキシブルな生産にも対応できるようになった。

物流棟3階内部から工場2階につながっている

 また、物流棟の3階と神戸工場の2階が直結しており、感覚的には、製造ラインと同一フロア内に部品が置かれているのと一緒の感覚になる。一般的に、生産ラインの横に、部品が保管され、そこからタイムリーに部品が供給されることが、製造工程の構築では理想的といわれるなかで、このフロア構成は極めて理想的なものだといえよう。

 こうした動きは、生産リードタイムの大幅な短縮にもつながっている。部品の調達からラインへの供給時間が短縮されたのは明らかだからだ。

 また、工場内の情報システムを進化させ、法人向け製品に関しては、5日前まで生産品種、生産数量、それに対する部材を調達できる体制とした。また、生産の空いた隙間に、店頭などからの受注分に対応できるような仕組みを構築。これも生産のフレキシブル性につながっている。

 「生産余力の分を、いわば飛行機の座席予約システムのような形で埋めることができるようになった。生産量の平準化ができるというメリットもある」

 これも情報システムの強化だけでは成しえない。物流棟の新設によって、フレキシブルな生産体制が可能になったからこそ実現したものだ。

 同社では、生産リードタイムを、生産計画から調達、生産、出荷、そして次の生産計画までを含んだサイクルで捉えている。この生産リードタイムが2005年には25日だったものが、2007年には8日にまで短縮している。これにより、ユーザーへの納期日数も半減しているという。

●品質向上を伴った生産革新に挑む

 白土所長は、「生産革新は、品質向上が伴わなければ意味がない」と語る。

 「生産革新によって、さまざまなオーダーにも対応できるフレキシブルな体制や、納品までのリードタイムを短縮することができ、物流や工場の在庫も削減できる。しかし、一度品質問題がおきると、部品の在庫がなくなり、生産ができず、製品を出荷できずにお客様に迷惑をかけることになる。生産革新と同時に、品質に対して、これまで以上に厳しく取り組む必要がある。当社工場の社員が、部品メーカーに出向き、部品の品質向上に関して協業したり、当社の開発/設計チームと一緒になり、品質にこだわったモノづくりを推進していくといったことをさらに強化したい。また、生産工程においても、上流で不具合が発見できるような仕組みとし、品質向上につなげる」

 実装ラインでは、工程の途中に6カ所の検査工程を導入している。異例ともいえる検査数だ。だが、これにより、上流で不具合を発見することができ、早期に、的確な措置がとられることになる。実際、この仕組みを導入して以降、不良率が半減するという大きな成果が出ているという。

工場1階にある防滴試験機。 落下試験機も1階に設置。大阪・守口の事業部にも落下試験機はある。
実装ラインに導入されている検査機。1ラインで6箇所の検査がある。 電波暗室も隣接する形で設置。これも品質向上に大きく寄与している。

 また、空いたスペースに検査用の機器を積極的に導入するのも、生産量の増大とともに、品質維持にこだわる同社の姿勢の表れだ。

 神戸工場の増産体制へとの取り組みは、単に数量を増やすだけではない、大きな進化によって実現されるものだといえよう。

□松下電器のホームページ
http://panasonic.jp/
□関連記事
【8月27日】49組の親子が「手作りLet'snote工房」でR6の組み立てや検査を体験
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【2006年8月31日】【大河原】松下電器 大坪文雄社長インタビュー(下)
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【2006年8月30日】【大河原】松下電器 大坪文雄社長インタビュー(上)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0830/gyokai174.htm

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(2007年8月29日)

[Text by 大河原克行]


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