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理研、"ハエ専用"VR装置を開発し、脳信号を解読

 理化学研究所(理研)は5日、ハエ専用のVR装置を独自に開発し、飛行中の脳信号を解読。探索行動に関わる、記憶、運動、視覚といった情報を区別して伝える並列神経回路を発見したと発表した。

 視覚と記憶を使って、過去に食べ物を得た場所に戻ってくることで、餌をみつけるまでの時間を短くするなど、動物が生きていくうえで、さまざまな情報を組み合わせて効率的に環境を探索することが重要となる。そのような探索能力は哺乳類や昆虫を含む多くの動物に共通するが、哺乳類の脳は大きく複雑なので、調べることが困難だった。

 そこで理研の研究チームは、体調約3mmのキイロショウジョウバエの成虫を使い、調べることにした。まずチームは、ハエ用のVR装置を製作。この装置で、ハエはは背中をピンで固定されているが、羽ばたくことができる。この羽ばたきをもとに、ハエがどの方向に旋回しようとしているかを推定し、それに応じてハエの視野を覆うディスプレイ上に映した景色を動かすことで、ハエが空間内を旋回していると錯覚する状況を作り出した。

 この装置を使い、ハエの探索行動にともなう脳活動を調べたところ、ハエはいま見ている景色だけでなく、数秒前に見た景色の記憶を使って次にどこに飛ぶかを決めていることを発見した。

 記憶を使った探索行動をになう脳部位を特定するため、脳活動を抑制する実験では、脳中枢へつながる「バルブ」と呼ばれる部位に存在する特定の神経細胞群が、物体が数秒前にどこにあったかという記憶の情報を伝えていることがわかった。短期記憶と相関する神経活動が昆虫で記録されたのはこれが初。

 さらに調べを進め、バルブは記憶、運動、視覚という3種類の異なる情報を伝えるが、このうち記憶と運動の情報は異なる細胞群によって担われており、これらの情報が並行して走る独立した神経回路によって伝達されていることも明らかとなった。

 これらの結果から、今回発見した神経回路は、探索行動に関わるさまざまな情報を混線することなく、コンパクトに探索中枢へ運ぶ伝送路の役割を果たしていると考えられる。この知見を生かし、自由自在に動き回る小型ロボット開発などが期待される。