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NECと東京大学、アナログ回路で脳の電気的活動を模倣した次世代AIの共同開発で協働
~日本の競争力強化に向けた「産学協創」を発表
2016年9月2日 18:05
日本電気株式会社(以下NEC)と国立大学法人東京大学(以下東京大学)は、戦略的パートナーシップに基づく総合的な「産学協創」を開始したと発表した。
同産学協創の特徴は、高度な基礎研究の実施からその研究成果の社会実装までのビジョン・課題の共有、社会実装の際の社会受容性の検証、人材育成を含めた、総合的な協創を推進する点であるとしており、具体的には、両者の経営層が運営に直接関与し大規模な投資を行なうほか、人材ネットワークを活用した一流研究者の集結、社会実装に向けた文理融合での倫理/法制度・社会受容性の検証、奨学金とインターンシップを活用した人材育成・輩出を目指すという。
産学協創の活動の第1弾では、社会への影響力が大きい分野としてAI(人工知能)分野に焦点を定め、「NEC・東京大学フューチャーAI研究・教育戦略パートナーシップ協定(以下フューチャーAI戦略協定)」を締結しており、具体的な活動を開始するとした。
都内で開催された記者会見に登壇した、NEC 取締役 執行役員常務兼CTOの江村克己氏は、フューチャーAI戦略協定は、「新しいAI処理プラットフォーム」を実現するとともに、「AIを活用したソリューションの社会浸透加速」を目指し、共同研究開発、倫理・法制度の設計、人材育成の3つを行なうとした。
具体的な内容については、まず大型の共同研究は「ブレインモルフィックAI」の研究開発を行なうという。
同AI技術の特徴は、多数の汎用CPU上でソフトウェア処理を行なう、既存の人工ニューラルネット(神経回路網)モデルなどとは異なり、脳の電気的活動を模倣したブレインモルフィックモデルを、専用のアナログ回路を用いてハードウェア処理する点。これによって、従来の大規模なクラウドで処理を行なうAIと比べ、1万倍以上の電力効率を実現でき、デバイスや端末レベルでの実装が可能になるとしている。
ブレインモルフィックAIの開発研究には、東京大学 生産技術研究所の合原一幸教授を筆頭に、NECを含めたトップ研究者10名以上をコロケートするという。
制度の設計については、東京大学の人文社会系の知見を活かし、制度設計や政策、ガイドライン提言、社会的コンセンサス形成など、AIを社会実装する際の諸課題の解決策の検討も行なうとした。
人材の育成、輩出には、「NEC・東京大学 フューチャーAI スカラーシップ」として、選定した博士学生に対し、月20万円の奨学金を3年間給付する。人数については、年3人程度を予定しているという。また、長期のインターンシップも予定しているとした。
NEC 代表取締役 執行役員社長兼CEOの新野隆氏は、NECでは社会価値創造のテーマとして7つのテーマを定めており、NECの持つナンバーワン、オンリーワンの技術とともに、パートナーや同社顧客と共同でそれらテーマの達成に向け取り組む「オープンイノベーション」の強化を進めていると述べた。
オープンイノベーションの具体例としては、具体的には将来を見据えた先行・基礎研究開発、強いソリューション確立のための補完技術開発、ソリューション創出を加速する先進顧客との実証などとなる。
同社では、今後3年間でオープンイノベーションに対する投資(社外連携費)を、現在の額から倍増を目指す。また、1件あたりの投資を1~2桁レベルで引き上げることで、研究開発に加え、制度設計、人材育成も含めた投資の大型化を目指す。
今回の東京大学との産学協創は、基礎研究から社会実装までのビジョンや課題を共有した、本格的な産学連携となっており、その第1弾として「フューチャーAI戦略協定」を締結したとする。
新野氏は、本産学協創で、経営層が運営に直接関与し、数億円規模の研究開発投資、同社のトップ研究者派遣、奨学金による大学院生援助、成果の事業家推進などをNECのコミットメントとして挙げ、東京大学に対しては、世界トップの研究開発力と人材のネットワーク、人文系からの参画を含めた社会実装への対応、トップ人材の育成/輩出を期待するとした。
同氏は、今回のチャレンジの実現によって、新しい大型の産学連携(産学協創)のベストプラクティスとしたいとした。
東京大学 総長の五神真氏は、東京大学を産学官民の同時改革を駆動する大学として、「知の協創の世界拠点」の役割を担い、産学協創による人材育成を推進、新産業の担い手、牽引力として人材を活用する仕組みを構築すると述べ、今回のNECとの産学協創では、NECとの理念の共有や、高度人材の交流を狙っているとした。
五神氏は、ブレインモルフィックAIの研究についての概要も掲示。ニューロンやシナプスを、より忠実に模倣する基本素子を数理モデル解析によって開発し、素子を結合してシステムを構築するためのコンピュータアーキテクチャ、プログラミング技術、アルゴリズムを研究し、大脳皮質の知的処理機能を、1ニューロンあたり10nW以下という消費電力で実現する、次世代AI専用の「脳型LSI」開発を目指すという。
また、産学協創の実現に向け、4月より「産学協創推進本部」を発足しており、同本部では、知的財産部へ専門家弁護士を配置するなど、共同研究契約・知財の協議・審査や、大学発ベンチャーの支援や起業家教育などを行なうことで、研究者が安心して産学連携に参加でき、かつ産業界も信頼の上、経営戦略の一環として産学連携を協議できる体制の整備を進めているとした。