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屋内ナビを実現するレノボの「PHAB2 Pro」とは
~業界初のGoogle Tango対応スマホの詳細
2016年12月27日 06:00
レノボ・ジャパン株式会社(以下Lenovo)は、12月22日に東京都内の同社オフィスで記者説明会を開催し、先日販売を開始した「Google Tango」に対応した世界初のコンシューマ向けスマートフォン「PHAB2 Pro」に関する詳細を説明した。
1,600万画素のRGBカメラ、赤外線カメラ、魚眼カメラを搭載しているPHAB2 Pro
今回の説明会では、レノボ・ジャパン株式会社 モバイル製品部シニアマネージャーの伊藤正史氏と、同社モバイル製品部マネージャーの後藤剛氏により、Google Tangoの概要および、PHAB2 Proに関する説明が行なわれた。
Google Tangoは、Googleが開発してきたARを実現するためのソフトウェア、ハードウェアのプラットフォームだ。ハードウェアとしては、物体の移動を検知するモーショントラッキングカメラ、奥行きを検知する深度カメラなどが端末に搭載される。
ソフトウェアのAPIをGoogle側で規定することで、アプリケーション開発者が容易にARのソフトウェアを開発できる環境を実現する取り組みで、その開発コードネームが”Tango”だったのが、そのままスライドしてブランドとなっている。
伊藤氏によれば、「LenovoはGoogleと協力してTangoの開発を行なってきた。Lenovoは最初のパートナーとして協力して開発している。Lenovoは他社に対して6~12カ月早く先行開発を行なってきた」とのことで、LenovoはGoogleとかなり密接にこの開発を進めてきていることが分かる。
実際、今年の年頭に行なわれたCESで発表会を行ない、6月にサンフランシスコで開催されたLenovo Tech Worldで正式に発表、日本で9月に発表、12月に発売、出荷開始となっている。
伊藤氏によれば、Tangoでは「モーショントラッキング(運動解析)」、「エリアラーニング(空間記憶)」、「デップパーセプション(奥行認識)」という、3つの主要なARの機能が実現されている。
それら機能を実現するために、PHAB2 Proには3つのハードウェアが搭載されているという。それが1,600万画素のRGBカメラ、深度カメラ、モーショントラッキングカメラとなる魚眼カメラの3つだ。
伊藤氏によれば、Google Tangoは「VSLAM(Visual Simultaneous Localization and Mapping)」をベースに、空間深測、自己測位を実現するソリューションになる。VSLAMとは、物体の特徴点(例えば角など)をリアルタイムに追跡して、位置や姿勢、さらには3Dの位置などを推定する手法だ。それにより、部屋の状況(壁や地面)や物体の検知などを行なうことができる。
従来のGPSを使った測位では、GPSが入る場所やWi-Fiのアクセスポイントがある場所であれば、二次元的に場所の測位ができるが、部屋の中に入るとそれは難しく測位ができない。しかし、Tangoを使えば、部屋の状況などから自分の居る場所を推定することも可能になる。
なお、今回Lenovoから発表されたPHAB2 Proは、実はTangoのデバイスとしては3つ目となる。というのも、スマートフォンの「Peanut(ピーナッツ)」、Tegra K1を搭載したタブレットの「YellowStone(イエローストーン)」という開発キット2つが、既にGoogleから開発者向けに販売されていたからだ。従って、PHAB2 Proは、”市販の”、あるいは”民生用”(コンシューマ用)としては初のGoogle Tangoデバイスというのが正しい表現になる。
ただし、PeanutとYellowStoneでは深度センサーとしてレーザーを利用していたが、PHAB2 Proでは赤外線センサーを採用している。このため、深度が計測できるのは「4~5m程度」(伊藤氏)となり、レーザーほどの距離は測定できない。
伊藤氏によれば、レーザーにしなかったのはコストのためとのことで、ユーザーが購入することができる価格にするために、レーザーではなく赤外線が採用されたとのことだ。
運動解析、空間記憶、奥行き認識の3つがGoogle Tangoの主要機能
続いて伊藤氏は、運動解析、空間記憶、奥行認識についてそれぞれ説明した。
伊藤氏によれば、Google Tangoでの運動解析は、9軸IMU(Inertial Measurement Unit/3軸コンパス/3軸加速度センサー/3軸ジャイロスコープというセンサーからの情報)と、6DOF(Degrees of Freedom)アルゴリズムの情報を組み合わせることで実現されているという。前出の9軸IMUによる姿勢の検出による運動解析に加え、魚眼カメラで捉えた特徴点の動きを追跡して、誤差を補正することでより正確な運動解析を実現する。
具体的に言えば、PHAB2 Proの魚眼カメラを利用して、対象となる物体の特徴点(例えば角など)を捉え、それがどの程度動いたかで端末がどの程度動いたかを推定することができるということだ。伊藤氏は「運動解析における計算負荷を低減する工夫をしているため、モバイル端末でも動作の捕捉は可能。しかし、単眼カメラをベースにしているため、特徴点があまりない環境、城壁や薄暗い環境などでは正常に動作しないケースがある」と長所と短所を説明した。
奥行認識については、既に説明したとおり、赤外線ベースの深度センサーを利用しており、開発デバイスで利用されていたレーザーではなくなっている。この赤外線による深度センサーは、Windows 10で採用されている「Windows Hello」の顔認証カメラなどでも利用されているのと同じもので、赤外線を照射することで、その反射光を読み取り、物体までの距離を測ることができる。伊藤氏によれば、Tangoでは特殊なアルゴリズムを利用して、運動解析用の魚眼カメラから抽出した特徴点を利用しながら演算するので、高速に3Dマッピング情報を作成できることが特徴とのこと。
空間記憶では、深度センサーを利用した空間の深度情報と、運動解析で検出した特徴点の情報をマッチングして、空間データとして保存していく。既に端末が一度通ったことがある場所には、そこの3Dマップが作成されているので、その場合には何らかの新しい情報があった場合に情報の更新を行なう。Tangoではひたすらこの作業を繰り返していくことで、端末自身が今いる空間と場所を把握するようになっている。
物体の大きさを把握する機能と空間記憶を利用すれば、部屋に購入する予定の家具を置いてみることも可能に
レノボジャパンの後藤氏によれば、Tangoのアプリケーションについては、ロケーション、ゲーム、ユーティリティなどの3つのジャンルが考えられるという。
例えば、ロケーションではGPSが届かない場所でも正確な位置情報を提供することが可能になる。GPSでは、GPSの電波が届く屋外では位置を取得することができるが、屋内ではそれが難しい。しかし、Tangoを利用すると、現在端末が屋内のどこにいるかを、Tangoの持つ3Dマップと照らし合わせることで、正確に把握することができる。例えば量販店などで、店舗の売り場のどこに端末がいるかを把握することができれば、その場所に合わせた情報をユーザーの端末に表示させたりできる。
ゲームであれば、「Pokemon Go」の発展系として、屋外だけでなく屋内でもモンスターを登場させたりもできるようになるし、カメラが認識した物体の大きさに合わせたモンスターを登場させたりなど、さまざまな可能性が考えられる。
ユーティリティのジャンルでは、物体の大きさを正確に把握できるという特徴を活かした、新しい形のアプリケーションが考えられる。例えば、株式会社リビングスタイルが大塚家具のために作っているアプリケーションでは、家具を部屋に置いてみて、どのようなイメージになるかなどをユーザーが把握したりできる。現在、大塚家具の外商の営業担当者やショールームの営業担当者などが、実際にこのアプリを使って顧客へのプレゼンテーションに使っているとのことだった。
なお、2017年度までに130ものTangoアプリがGoogle Playストアに登場する見通しで、今後も増えていくという。Lenovoとしても、開発者に働きかけていき、今後も対応アプリを増やしていきたい意向だという。アプリが増えれば、できることが増えていくことになるので、今後の動向にも期待だ。例えば、Pokemon Goのような人気のアプリがTangoに対応すれば、一挙に普及が進むということも考えられるだけに、今後もその動向は要注目と言えるだろう。