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NEC、人間くさいAIで1万倍省電力化する「脳型コンピューティング」など最先端の研究を紹介
~金属原子移動型スイッチの「NanoBridge」もデモ
2016年12月16日 18:15
NECは16日、同社玉川事業場にて「NECの将来事業を牽引する研究開発」と題したR&D説明会を開催した。
NEC 執行役員の西原基夫氏によれば、同社は現在、「産業とICTの新結合」、「安全・安心な都市・行政基盤」、「豊かな社会を支える情報通信」……など、7個のテーマに絞って研究活動を行なっており、さらにNECの事業成長させるための基本方針として、将来技術ビジョン、No.1コア技術強化、骨太なソリューションの創出を目指しているという。現在のNECは、顔/指紋認証、光海底ケーブル敷設、映像解析、軽量暗号化などとといったいくつもの得意技術を持っており、研究を推し進めることで事業の幅を広げようとしている。
NECはグローバルでのR&D活動に適した体制を作るために「価値共創センター」を設置しており、ソリューションとコア技術の両面で強化を図っている。また、国内外問わず大学との連携研究、スタートアップ企業への投資なども積極的に働きかけており、技術的な成果を一層高めようという狙いがある。
特に大学共同研究とスタートアップに投資するオープンイノベーションにおいては、2016年から2018年にかけて投資額を3倍増で注ぎ込む予定で、将来技術の早期獲得やエコシステムの構築を目指す。実際に暗号化技術を持ったスタートアップとの共同開発では、3年かかるとされた研究開発を1年で実現しており、この研究モデルを全領域で展開し、研究成果のさらなる拡大を図る構え。
国内では、産業技術総合研究所(産総研)、大阪大学、東京大学と連携し、人工知能(AI)のやディープラーニングの研究などを行なっているが、今後は海外チャネルを活用し、連携研究の規模を3倍に拡大予定。また、AI分野での人材を強化すべく、2016年時点で約220人いる研究者を、2018年には300人に増加させる予定だったところを、前倒して進めるとのこと。
会場ではこうしたいくつかの研究の成果物を展示しており、実演も行なっていた。ここではその中でも特に興味深かった研究について取り上げている。
AIの“人間くささ”を目指す脳型コンピューティング
NECが研究開発している「脳型コンピューティング」は人間の脳を模倣したアーキテクチャをAIに取り入れ、より人間らしい判断を行なわせようという試み。活用事例としては自動運転、店舗での接客、作業支援、人とロボットの強調作業が考えられている。
昨今は人間の脳内神経細胞のモデルを取り入れた機械学習の一種として、深層学習(ディープラーニング)が脚光を浴びており、実際に世界中に大きな成果をもたらせている。しかし、産業レベルの製品などの開発のためにディープラーニングを行なうには大量の演算を行なえるスーパーコンピュータが必要であり、一定の成果を出すためにはトレーニングのための大量のデータも必要とする。
脳型コンピューティングでは、人間の判断力という部分にAIを特化させ、大規模な計算を行なわずに人間的な判断が行なえることを特徴とする。つまり、通常は解析に網羅的な計算を行なっているAIが、脳型コンピューティングでは実際に人間がそうしているように、必要とする情報以外は無視するといった人間的な判断を行なう。これまでの汎用プロセッサによる計算に特化したAIの実現に100kW級のサーバーを導入しなければならないとしたら、脳型コンピューティングの場合では電球1個分の20W程度の電力を消費するコンピュータでAIを実現できるという。また、アーキテクチャとして既に人間的な判断ができるため、ビッグデータを必要とせず、スモールデータでもさまざまな状況に対応できるとしている。
脳型コンピューティングでは、マクロとミクロの視点から実現を目指しており、脳のマクロ機能の模倣として大阪大学と協力して、脳の認識・統合・分析機能を再現し、それによる高度な状況判断を研究している。一方、ミクロな部分に関しては東京大学との協力で、ニューロン、シナプスの挙動をアナログ回路を使って実現するとしており、ここでは低電力化も果たされ、汎用プロセッサの1万倍以上の電力効率を実現するとしている。
現時点ではいくつかのニューロンの繋がりを実現できているにすぎないが、東京大学ではニューロン単体を回路で模倣することに成功している。ロードマップとしては、2022年には脳の知覚機能を模倣するセンサーを作り、2027年移行に脳の統合・分析機能を模倣する高度な状況判断を行なえるように実現を目指す。
なお、NECではシナプスの働きを電子回路で実現する例として、同社の金属原子移動型スイッチ「NanoBridge」を展示していた。トランジスタであれば、0/1の切り替えおよび維持に電力を必要とするが、NanoBrigeの場合は電圧をかけた箇所に銅原子が集積するという特徴を利用する。説明員の話によれば、2Vの電圧をかけることで銅原子が集積、-2Vの電圧で銅原子が切断されるとのことで、この原理を利用してスイッチングを行なう。銅原子の状態は通電に左右されず、電源を切った状態でも0/1が維持されるため、この点はCMOSトランジスタと比較して消費電力を100分の1にできるとしていた。また、将来的には銅原子の集積度に応じて値を取ることも考えているとのことで、これによって2進数にこだわらずに回路を実装できるようになるそうだ。
NanoBridgeは、トランジスタの電気信号と同じように電気信号をやり取りでき遅延などはないという。また、温度耐性も120℃~-55℃までと遜色ない。また、限界温度付近でも動作への影響が少ないそうだ。会場では実際にNanoBridgeを使ってHD解像度くらいのビデオカメラで撮影した映像をリアルタイム圧縮して表示するというデモを行なっていたが、汎用プロセッサと同じように動作していた。残念ながら消費電力計は設置されておらず、実際に何Wで動作しているかは不明だったが、NanoBridge自体はまったく熱くなっておらず、確かに消費電力は低いようだった。
以下、会場に展示されていたそのほかの技術について簡単に紹介している。