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7nmの次々世代半導体製造技術や眼球にはめる人工虹彩などが登場
~IEDM 2016実行委員会が注目講演を説明
2016年12月7日 06:00
最先端の半導体デバイス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM 2016」が、12月5日(現地時間)に米国カリフォルニア州サンフランシスコで始まった。5日の午前9時からは、恒例の基調講演セッション(プレナリセッション)があり、同日の午後1時30分からは複数の技術講演セッションが開催された。
午前の基調講演と午後の技術講演の間は昼食休憩となっている。この時間を利用して、報道関係者向けの昼食会(プレスランチヨン)がIEDM 2016実行委員会の主催で開かれた。プレスランチヨンでは、IEDM 2016のハイライトと注目すべき講演が紹介された。
アンテナ不要のミリ波放射アレイや汗を分析するバイオセンサーなど
注目すべき講演はまず、4つのフォーカスセッション(次世代以降の技術分野をテーマとした特別セッション)から1つずつ、説明があった。最初は「パワーデバイスがシステムに与える影響」をテーマとするフォーカスセッション(セッション番号20)である。シリコン(Si)よりもバンドギャップが広い、シリコンカーバイド(SiC)とガリウムナイトライド(GaN)を材料とするパワーデバイスに関するノースカロライナ州立大学の講演(講演番号20.1)を注目講演に挙げていた。SiCベースのパワーデバイスはSiベースのパワーデバイスに比べると耐圧とスイッチング周波数が高い。半導体パワー素子の適用範囲が広がるため、パワーエレクトロニクスの世界を根底から変革しつつある。
続いて「超高速エレクトロニクス」をテーマとするフォーカスセッション(セッション番号29)である。気象レーダーや高分解能医療イメージングなどの分野では、テラヘルツ(THz: 1,000GHz)に近い超高周波で動くトランジスタがシステムを劇的に変化させる可能性がある。ここでは、外付けのアンテナなしに320GHzのミリ波帯電磁波を空中に放射する位相同期アレイ素子を試作した、マサチューセッツ工科大学などの共同研究グループによる開発成果(講演番号29.6)が、注目講演として紹介された。16個の電磁波放射素子を搭載したSiGeヘテロ接合バイポーラチップを試作している。16個の電磁波放射素子を位相同期で動作させたときの合成出力は3.3mWである。
3つ目は、「人体に装着可能なエレクトロニクスとIoT(Internet of Things)」をテーマとするフォーカスセッション(セッション番号6)である。ここでは、皮膚に装着して汗を分析するバイオセンサーを試作したカリフォルニア大学バークレー校の研究成果(講演番号6.6)を注目すべき講演に挙げていた。汗の成分を分析することで、健康状態をリアルタイムで把握できるようになる。
フォーカスセッションの最後は、「量子コンピューティング」をテーマとするセッション(セッション番号13)である。量子コンピューティングの基礎となる量子ビット(qubit)をホール(正孔)のスピンに換算して扱う技術を論じた、CEA-LETIらの共同研究グループによる成果(講演番号13.4)が、このセッションの注目講演である。完全空乏型のSOI基板にpチャンネルのデバイスを形成し、量子ビットの情報をキャリアであるホールのスピン(プラス2分の1またはマイナス2分の1)で符号化している。ホールのスピンは、マイクロ波による励起で効率的に制御できるとする。
レイトニュースの2件はいずれも7nm世代のCMOSロジック製造技術
フォーカスセッションに続いては、2件のレイトニュースが紹介された。いずれも、7nm世代のCMOSロジック製造技術に関する研究成果である。半導体製造の世界では最先端の量産技術は16nm/14nm世代で、次世代の10nm世代は初期生産が始まったところ。7nm世代は次々世代に相当する。
1件はTSMCが開発した7nm世代のモバイルSoC(System on a Chip)向けCMOSロジック技術である(講演番号2.6)。トランジスタや配線などのパターン形成にはArF液浸のマルチパターニング技術を採用した。トランジスタは第4世代のFinFET技術である。シリコン面積が0.027平方μmと小さなSRAMセルを使った256MbitのSRAMダイを試作し、動作することを確認した。
もう1件はIBMなどの共同研究グループが開発した7nm世代のCMOSロジック製造技術だ(講演番号2.7)。パターン形成の一部にEUV(Extreme Ultra-Violet)リソグラフィを採用した。トランジスタは歪みシリコンのFinFETである。歪みシリコンによってnMOSトランジスタの駆動電流を11%、pMOSトランジスタの駆動電流を20%、それぞれ増やした。
4Gbitの大容量MRAMや21種類の言語を認識する機械学習アーキテクチャなど
このほか4件の発表を、注目すべき講演としてリストアップしていた。最初の1件は、4Gbitと記憶容量が過去最大のMRAM(磁気抵抗メモリ)技術に関するSK Hynixと東芝の共同研究成果である(講演番号27.1)。垂直磁気記録方式の磁気トンネル接合(MTJ)を記憶素子に採用し、スピン注入トルクによってデータを書き込む(pSTT-MRAM)。設計ルールの2乗(F2)で換算したメモリセル面積は9F2と、極めて小さい。
2件目は、低いエネルギー消費と誤り率で言語を認識する機械学習アーキテクチャの研究成果である。スタンフォード大学らの共同研究グループが発表する(講演番号16.1)。機械学習の効率を上げるため、不揮発性メモリである抵抗変化メモリを活用してベクトル形式でデータを格納した。サンプルのテキストから、21種類のヨーロッパ言語を認識する。
3件目は、インジウム・ガリウム・ヒ素・リン(InGaAsP)の化合物半導体レーザーとシリコンの光導波路を光結合したハイブリッドなシリコンフォトニクス回路の開発成果だ。ST Microelectronicsらの共同研究グループが開発した(講演番号22.2)。
最後は、コンタクトレンズという非常に小さなフィルムに人工虹彩を埋め込んだ研究成果である。imecとルーベン・カソリック大学(KU Leuven)が共同で開発した(講演番号32.1)。液晶ディスプレイによる人工虹彩とコントローラ回路チップ、太陽電池、バッテリなどをコンタクトレンズ上に集積した。
このほかにも、興味深い講演が数多くある。順次、現地レポートでご報告していくのでご期待されたい。