笠原一輝のユビキタス情報局
DisplayPort/Thunderbolt/ACアダプタを飲み込んだUSB Type-C
~5年後ノートPCの専用アダプタは消滅する?
(2015/6/9 06:00)
毎年6月上旬に開催されているCOMPUTEX TAIPEIは、その後のPCプラットフォームを占う上でPC業界関係者にとっては重要なイベントだと言える。かくいう筆者も、1998年から毎年参加しており今年(2015年)で18回目となるが、さまざまな話題があった。
話題の中心は、7月29日に正式リリースが発表されたWindows 10で、各PCベンダー、そしてAMDやIntelのようなプラットフォームを提供するベンダーもWindows 10に対応するソリューションを紹介して注目を集めた。
しかし、水面下で注目を集めていたのはAppleが新しいMacBookに採用したことで大きな注目を集めている「USB Type-C」だ。
USB Type-Cは、USBの規格を策定するUSB 3.0 Promoter Groupが作成したコネクタとケーブルの規格だ。一般的なUSB端子(正しくはUSB Type-A、Standard A、以下USB Type-Aに統一する)が1ペアの信号線(送信と受信と電源)のみだったのに対して、USB Type-CではUSB 3.xの信号線が2ペア流せるように変更された。
また、USB Type-Aでは上下の向きが決まっており、モバイル機器にはやや大きい端子になっていたのに対して、USB Type-Cでは上下に関係なく、コネクタも現行のMicro USBと同じ程度の大きさになっている。
さらにCOMPUTEXでは、IntelがAppleと協力して推進してきたThunderboltが、新しいバージョン(Thunderbolt 3)でUSB Type-C端子を利用することが発表された。今後のデジタルデバイスに用意されるI/Oの標準はUSB Type-Cへ流れ、時間をかけてUSB Type-Aからの移行が進みそうだ。
10Gbpsの転送速度を規定しているUSB 3.1 Specification
USB(Universal Serial Bus)は、1996年に最初の規格(USB 1.0 Specification)が登場し、PCと周辺機器(キーボードやマウス)を接続するためのI/Oの規格としてスタートした。最初のUSB 1.0は12Mbpsと非常に低速なI/Oとしてスタートしたが、2000年の4月に仕様が策定されたUSB 2.0で480Mbpsへと速度向上し、ストレージ機器を接続するI/Oとしても利用されるようになった。
2008年11月には、転送速度を5Gbpsに高めたUSB 3.0の規格が策定され、現在多くのPCでUSB 3.0の規格に対応したポートが搭載されている。
このUSB 3.0の改良版として、10Gbpsの転送速度を実現すべく策定されたのが、USB 3.1(USB 3.1 Specification)で、2013年の8月に規格が策定され、現在対応機器が徐々に登場しつつある段階にある。
USBの規格は、USB Implementers Forum(USB-IF)ないしはUSB 3.0 Promoter Groupという業界団体で策定されており、仕様書は広く公開されており、誰であっても仕様書の仕様さえ満たせば、特許料などの支払いもなく、USBに対応したデバイスを作ることができる。そして、これがUSBが普及した最大の理由だ。
当初のUSBは、PCのためのI/Oポートだったと思うが、現在ではスマートフォンやタブレット、さらに言えば家電(TVやHDDレコーダなど)にも採用されており、空港、電車、飛行機などでもモバイル機器を充電するための端子として使われるようになるなど、社会インフラにおいても普及している。
USB 3.1の仕様である、USB 3.1 Specificationには複数の仕様書が用意されており、大きく言えば、次の3つがある。
(1)Universal Serial Bus 3.1 Specification
(2)Universal Serial Bus Power Delivery Specification
(3)Universal Serial Bus Type-C Cable and Connector Specification
まず、USB 3.1準拠を名乗るには、(1)の仕様書さえ満たせば良い。(2)のUniversal Serial Bus Power Delivery(以下USB PD)と(3)のUniversal Serial Bus Type-C(以下USB Type-C)はオプションだ。
このため、USB 3.1に対応している製品だが、USB PDに対応して従来のType-A端子である製品、USB PDには対応していないが端子がTypeーCである製品などがあり得る。逆にUSB 2.0/3.0準拠の製品で、USB PD対応やUSB Type-C対応という製品を作ることも可能だ。このように、それぞれ独立した仕様であると理解しておくべきだろう。
最大100Wまで供給できるUSB PDと小型でリバーシブルのコネクタになったUSB Type-C
USB PDは、一言で言ってしまえば、USB機器への給電量を、USB 2.0で規定されていた5V/0.5A(2.5W)、USB 3.0で規定されていた5V/0.9A(4.5W)を拡張するための仕様になる。USB端子は機器への充電ソリューションとして一般的に利用されており、2.5Wや4.5Wの給電量ではもはや十分では無くなりつつある。
もちろんUSBの仕様以上の給電ができるようなACアダプタ(例えばQualcommのQuick Chargeなど)というのは存在しているし、一部ノートPCのように特定のスマートフォンにだけ給電量を上げるという仕組みを持っているものもあるが、USBの仕様外となるので、使える機種が限られるという問題があった。そこで、USBの規格としてそうした仕組みを用意しましょうというのがUSB PDになる。
USB PDの規格では、まず接続されたデバイスが、USB PDに対応した機器であるかのやりとりを行ない、対応している機器ではない場合には通常のUSBの規格内での給電を行なう。このため、USB PDに対応していない機器をUSB PDに対応したACアダプタに接続しても問題ないし、その逆も問題ない。
デバイスがUSB PDに対応している時には、USB PDの複数ある給電モードのうちどれに対応しているかを確認し、給電を行なう。5V/2A(10W)、12V/1.5A(18W)、12V/3A(36W)、30V/3A(60W)、20V/5A(100W)などのモードが用意されており、ノートPCの充電にも十分利用できるようになっている。先日Appleから販売が開始され「新しいMacBook」は、ACアダプタがUSBになっているのにノートPCが必要とすると電力を供給できているのはこのUSB PDの仕組みを利用しているためだと考えられる。
これに対してUSB Type-Cは、新しいUSBの端子とケーブルの仕様になる。USBの端子には複数の種類があるが、元々規定されていたのはType-Aで、一般的にUSB端子と言えばこのType-Aのことを指すことが多い。もう1つはStandard B(標準B)ないしはType-Bなどと呼ばれる端子で、プリンタなどデバイス側に利用されることが多い。
また、規格策定当初はなかったのだが、モバイル機器向けの小型端子として、Mini USB端子、Micro USB端子が追加策定されている(どちらにもType-A、Type-Bがあり、厳密にはMicro-A、Micro-Bなどと規定されているが、一般的にはMicro USB端子で通っている)。現在はMini USB端子はほぼ使われなくなっており、Micro USB端子が事実上の小型USB端子の標準となる。
Type-A、Type-B、Micro-A、Micro-Bなどの端子が混在しておりややこしくなっていた現状を変えるべく導入されるのが、USB Type-Cになる。USB Type-Cの特徴は3つある。
(1)コネクタがリバーシブルになっている
(2)データ信号線としてUSB 3.xが2つ、USB 2.0が2つ用意されている
(3)端子がMicro USBのように小型化されており、モバイルデバイスにも利用できる
USB Type-Cは端子の上下どちらにも同じ順番のピン配置がされており、上下どちらの方向でも挿せるように配慮されている。かつ、その端子の片面には、USB 3.xのデータ信号、USB 2.0のデータ信号、給電用のピンなどが用意されており、両面で言うと、USB 3.xの信号が2系統、USB 2.0の信号が2系統、給電が2系統となり、かつそれらは同時に通信できる。また、最初から従来のMicro USBと同程度の小型化が実現されており、モバイル機器にも利用できるというのが特徴だ。
なお、このUSB Type-Cはあくまでコネクタとケーブルの仕様なので、信号が必ずUSB 3.1に対応していなければいけないというわけではない。従って、USB Type-Cだが、USB 3.0接続の製品もあり得るし、USB 2.0のみ対応ということもあり得る。便宜的にUSB 3.1 Type-Cとか、USB 3.0 Type-Cなどと言っておく必要もあるだろう。ただ、ほとんどのPCメーカーはUSB Type-Cの導入をUSB 3.1とセットで考えており、PCの世界においてはUSB Type-C=USB 3.1 Type-Cだと考えておいて間違えではない。
一方、これから導入が進むスマートフォンやタブレットでは、USB 3.0コントローラですら内蔵しているSoCは少数なので、USB Type-CだがUSB 2.0という機器が登場する可能性が高い。
現時点で販売されているPCへの唯一の実装例は、先日Appleから販売が開始された新しいMacBookとなる。AppleはUSB-Cと呼んでいるが、それはApple独自のマーケティング的な呼び方であって、正しい呼び方はUSB Type-Cとなる。
Alt Modeを利用してDisplayPortやThunderboltを取り込むUSB Type-C
USB Type-Cでもう1つ注目しておきたいのは、Alternative Mode(通称Alt Mode)と呼ばれる、USBの信号線を別のI/O規格に開放する仕様だ。既に述べた通り、USB Type-Cには、2つのUSB 3.xと2つのUSB 2.0の信号線が流れている。このうち、USB 3.x 2つともないしは、どちらか1つを別のI/O規格に開放するのがAlt Modeだ。現在このAlt Modeが使えると明らかになっているのは、VESAが策定しているDisplayPort、Nokia/Samsung/Lattice Semiconductor/ソニー/東芝などが策定しているMHL、そして今回のCOMPUTEX TAIPEIで発表されたThunderbolt 3になる。
【お詫びと訂正】初出時に、TIなどが策定しているMHLとしておりましたが、TIはMHLのプロモーターではありませんでした。お詫びして訂正させていただきます。
技術的に言うと、USBコントローラとUSB Type-C端子の間にスイッチが入っており、このスイッチがUSBとほかのI/Oコントローラの間の切り替えを行なって通信をする仕組み。例えばUSB 3.1信号が来た時にはUSBのコントローラに切り替え、DisplayPortのディスプレイが来た場合にはDisplayPortに切り替えるといった具合だ。
Thunderbolt 3の場合は、そもそもThunderbolt 3のコントローラの中にUSB 3.1コントローラ(2ポート)、GPUからの出力を受けるDisplayPortの口、PCI Express x4(Gen3)を受ける口、Thunderbolt 3のコントローラが入っており、これらをThunderbolt 3のコントローラであるAlpine Ridgeの内部で切り替える。
なお、このAlpine Ridgeは、Thunderboltのコントローラがホストとゲストの両方に対応している。
Thunderboltでは、PC側にはホスト、デバイス側はゲストコントローラが必要になる。Thunderboltは非常に高速な通信を行なうため、コントローラのダイサイズが大きくなり、コストが高く付きがちだ。IntelはThunderbolt 2の世代の時に、ゲストのみのコントローラチップを製造し、低コスト化でデバイスの普及を目指すと説明していたのだが、Thunderbolt 3ではデバイス/ホスト両方が入ったAlpine Ridgeしか提供しないという。このため、デバイス側の製造コストは確実に上がることになる。
Thunderbolt 3のメリットは、同じ標準的なUSB Type-Cケーブルを利用しても2倍の速度の20Gbps(USB 3.1は10Gbps)を出せること、光ケーブルを利用した場合に40Gbpsで60mまで伸ばせることにあるが、コンシューマ用途ではほぼそのニーズがないエリアと言える。このため、Thunderbolt 3はThunderbolt 2よりもさらにハイエンドの、プロ専用になることはほぼ間違いない。
メインストリーム向けのWindows PCにUSB Type-Cが普及するのは2016年
今回のCOMPUTEX TAIPEIでは、USB 3.1 Type-Cに対応した機器が多数展示されていた。USBのプロモーションを行なっているUSB 3.0 Promoter Groupのブースでは、USB 3.1に対応したICを提供するシリコンベンダーによるデモや、ケーブルメーカーなどによるケーブルの展示が行なわれたほか、それ以外に設置された周辺機器メーカーのブースでも多数の製品が展示されていた。
いずれのベンダーで話を聞いても「Appleが新しいMacBookで採用したことで顧客からの問い合わせが増えている」という声が多かった。現状だとApple純正のUSB Type-Cの周辺機器がほとんどだが、今後はサードパーティ製の周辺機器がどんどん増えていくことになるだろう。
AppleのMacBook Proなどにも今後はUSB Type-C端子が搭載されていくのはほぼ間違いない状況だと言える。IntelがThunderbolt 3のコントローラをわざわざ作って発表までしたのは、やはり今後Appleの上位ラインナップになるMacBook ProなどにUSB Type-C端子、そしてそれに付随してThunderbolt 3が実装されるからと考えられる。今週からAppleはサンフランシスコで同社の開発者向けイベントとなるWWDCを開催するが、そこで何らかの発表があっても不思議ではない。
なお、Thunderbolt 3の発表会で、Intel Thunderboltマーケティング部長 ジェーソン・ジラー氏は「Thunderbolt 3に対応したデバイスは年末頃登場する」と述べると同時に、Alpine Ridgeは既に出荷済みだと発言している。実は、Thunderbolt 1と2の時にはAppleに半年間のプライオリティ(優先期間)が与えられており、ほかのベンダーがThunderboltに対応したPCを出荷できたのは半年後だった。今回もそうだとすれば、年末頃に搭載デバイスが“Apple以外から”登場するのは、ちょうど辻褄が合うことになる。
ではWindows PCでの実装はどうなるのだろうか。今回のCOMPUTEX TAIPEIではUSB 3.1 Type-Cを搭載したマザーボードやノートPCなどが展示された。しかし、それも全体というわけではなく、一部製品、かつ主にハイエンド製品に留まっている。
最大の理由は、今年販売されるIntelのプラットフォームが、いずれもUSB 3.1には未対応だからだ。第6世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Skylake)、および3月に発表されたAtom x5/x7(開発コードネーム:Cherry Trail)のどちらもUSB 3.1に対応していない。このため、OEMメーカーがUSB 3.1 Type-Cを実装する為には、別途USB 3.1の外付けコントローラを実装する必要がある。なお、IntelのSoCがUSB 3.1に対応するのは、2016年にリリースが計画されているCannonlakeからとなる。
今回のCOMPUTEX TAIPEIでは、Skylakeに対応したIntel 100シリーズ・チップセットを搭載したマザーボードのうち、ハイエンド向けとなるZ170でUSB 3.1 Type-Cを搭載した製品を多くのメーカーが展示。これらの製品ではいずれもASMediaのUSB 3.1コントローラが実装されていた。このように、外付けのコントローラを搭載できるのはコストがさほど重要視されないハイエンド製品だけで、メインストリーム向けの製品は実装が難しい。こうしたことから、大多数のノートPCやデスクトップPCなどにUSB 3.1 Type-Cが実装されるのは来年以降という可能性が高い。
USB PDに対応したUSB Type-Cの普及でノートPCのACアダプタは消滅
このように注目度が高まるばかりのUSB Type-Cだが、普及に向けた課題もある。1つ目の課題は、USB Type-Cは同じコネクタ形状でありながら、DisplayPortの出力に対応しているもの、Thunderbolt 3に対応しているもの、MHLに対応しているものなど、規格混在することになり、ややこしくなる点。ユーザーからすればどの本体でUSB以外のI/Oが使えるのかは分からないので、それを簡単にする仕組みが必要になるだろう。おそらく、我々が書く記事でも「USB Type-C(DP対応、TB3対応、MHL非対応)」みたいな表記になると思う。
もう1つは、既にType-A端子が、社会のインフラと言ってもいいところに普及しており、それがUSB Type-Cに切り替わるまでは時間がかかる点だ。こうした社会インフラは一度普及してしまえば、切り替わるまでに10年単位でかかる場合がある。例えば電車や飛行機などの場合は、耐用年数が10年以上というのは普通なので、それらが切り替わるまでには時間がかかる。ただ、コネクタの違いはケーブルや変換コネクタで吸収できるので、しばらくはそうした使い方が一般的になるだろう。
将来的には、ノートPCやタブレットがUSB PDに対応したUSB Type-Cを備え、カフェやホテルなどに設置されているUSB Type-C端子がUSB PDでの100W給電に対応するようになると、ユーザーがACアダプタを持ち歩かなくても、USB Type-Cケーブル1本で充電できるようになる。つまり、ノートPCの専用アダプタを購入する必要も無くなるし、持ち歩く必要も無くなるということだ。5年もすれば、ノートPCから専用ACアダプタが消滅している可能性が高い。このメリットは非常に大きいと言え、インフラ側(カフェやホテル、空港など)の整備も含めて早く普及が進んで欲しいと筆者は願っている。