笠原一輝のユビキタス情報局

VIAが発表した低消費電力クアッドコアプロセッサの正体



 VIA Technologiesは、子会社のCentaur Technologyが開発したクアッドコアプロセッサである「VIA QuadCore Processor」(以下VIA QuadCore)を発表した。従来のVIA Nano X2プロセッサ(以下Nano X2)と同じダイ(CNQ)を基板上に2つ搭載する手法でクアッドコアを実現している。

 VIA QuadCoreには2つのSKUが用意されており、上位モデルはTDP 27.5Wで定格1.2GHz、下位モデルはTDP 18Wで定格1GHzで動作するが、Intel Turbo Boost Technologyと同じような、消費電力や発熱に応じてクロックを引き上げる自動オーバークロック機能を備えており、シングルスレッド時の性能を引き上げることが可能となっている。

●Nano X2のダイをプロセッサ基板上に統合したVIA QuadCore
VIA QuadCore(左)。2つのNano X2のダイが1つの基板上で統合される形になっている

 VIA Technologiesの子会社であるCentaur Technologyは、C7、Nanoなどのx86プロセッサを開発しており、VIA Technologiesがマーケティング、販売を担当する体制になっている。VIAのx86プロセッサは、高性能方向にふるのではなく、消費電力あたりの性能だったり、コストあたりの性能といった効率を追い求めた設計になっている。

 そうしたVIAが、今年(2011年)初めにリリースしたのが、Nano X2プロセッサと呼ばれるNanoのデュアルコア版プロセッサだ。Nano X2の最大の特徴は、VIAのプロセッサとして初めてネイティブにデュアルコア設計された点で、初代Nanoプロセッサ(開発コードネーム:CN)の特徴を受け継ぎ、それをデュアルコアとした。CNコアではVIAのプロセッサとしては初めてOut Of Order実行(命令の順番を入れ替えて実行する方式。性能は上がるが設計が複雑になりダイサイズが大きくなる)を実現しており、それをデュアルコアにすることによりマルチスレッド環境で高い処理能力を発揮できるようになっていた。

 VIA QuadCoreは、このNano X2のダイ2つを基板上で接続した構造になっている。こうしたソリューションは開発が楽で、IntelやAMDなどの他のプロセッサベンダも利用している方式だが、最新CPUのように全コアが1つのダイに統合されている方式に比べると性能が落ちる。

 この点についてCentaur Technologyの社長グレン・ヘンリー氏は「確かに性能面で不利なのは事実だ。しかし、以前から述べているように我々は開発哲学として何よりも効率重視を掲げてきた。ネイティブなクアッドコアは確かに性能はいいが、開発コストもかかる。そこで、いち早く低価格に実現できるソリューションとして基板上で結合する手法を選んだ」と述べている。

 Centaur Technologyでは、Nano X2の開発コードネームを当初はCNCとしていたのだが、あるタイミングでCNQに切り換えた。これは、Nano X2を開発するにあたり、クアッドコア化(だからCNQなのだ)を前提とした設計へと切り換えたからだ。ヘンリー氏によればVIA QuadCoreに採用されているダイは、Nano X2に採用されているダイと「完全に同じ」であり、特別な調整なども行なっていない。

 だが、2つのダイを搭載するために、より多くの層が必要になったことで、プロセッサ基板には手を入れており、基板の高さが変わったため、ヒートシンクの調整が必要になる。

 ただし、パッケージサイズとピン配置は従来製品との互換性を保っており、OEMメーカーは従来製品と同じマザーボードを利用することができる。

Centaur Technology社長のグレン・ヘンリー氏VIA QuadCore(右)とNano X2(左)裏面はどちらも同じであることがわかる
2つのパッケージを比較してみると、QuadCoreの方がNano X2に比べて高さがやや高いことがわかるCNQダイをパッケージ上で接続する形でクアッドコアを実現している

●TDPの枠をいっぱいまで使い切る自動オーバークロック機能

 VIAが公表した資料によれば、VIA QuadCoreの仕様は以下のようになっている。

【表】VIA QuadCoreの仕様
開発コードネームCNQ
マイクロアーキテクチャCN
L1キャッシュ512KB(コアあたり64KB(命令)+64KB(データ))
L2キャッシュ4MB(コアあたり1MB)
追加命令セットx64、MMX、SSE4互換、VT互換
プロセッサバスV4バス/1,333MHz
ダイサイズダイあたり11x6mm
パッケージサイズ21x21mm BGA
プロセスルール40nmプロセスルール(TSMC)

 ダイの製造は、Nano X2の発表時にも明らかになっているとおり、TSMCの40nmプロセスルールを利用して行なわれる。VIA V4バス(P4バス互換)を採用し、VX900やVN1000など既存チップセットをそのまま利用できる。なお、従来のチップセットでは1,333MHzのV4バスはサポートされていなかったが、今後1,333MHzに対応したリビジョンを提供していくことになるという。

 すでに述べたとおり、ダイはNano X2と同じであるため、基本仕様はNano X2と何も変わっていないが、VIA QuadCoreは新たに自動オーバークロック機能を搭載した。

 VIA QuadCoreのSKUは2つで、1つはL4700と呼ばれる予定の1.2+GHzで、もう1つが1+GHzとなる。今回VIAがデモした1.2+GHzのSKUでは最高で1.46GHzまで引き上げられていた。そして、複数スレッドの処理をさせるとクロックが定格の1.2GHzに戻る様子が公開された。ヘンリー氏によれば、引き上げられるクロックの段階は2段階ということで、1+GHzは最高で1.2GHzで動作する。

 同社はVIA QuadCoreを世界最小電力のクアッドコアと説明しているが、現時点では製品化は決定していないものの、533MHz版も計画しており、その場合には6W程度とクアッドコアとしては圧倒的に低い消費電力が実現される可能性があるとしている。

公開されたデモシステム、1.2+GHzのSKUが搭載されていたテスト用のマザーボード何もプログラムが走っていない状態で、Windowsの電源設定をパフォーマンスモードに設定すると、自動でクロックが1.46GHzにあがった
複数スレッドを実行するアプリケーションを走らせると、プロセッサの温度があがるため、定格の1.2GHzへと自動で低下したNVIDIAのGPUを挿してPCゲームもデモした

●今回公開されたベンチマークデータによればBrazosに対抗できる性能を実現

 VIA Technologies副社長兼マーケティング部長のリチャード・ブラウン氏は、ベンチマーク結果も公開した。比較対象はAMDのBrazosプラットフォーム(AMD E-350利用)で、Brazosに比べて高い性能を発揮できると説明した。

テスト環境CPUMark 99 v1.0CPUMark 2.1
CineBench R10SYSMark 2007Sandra 2011 SP1 Processor Multi-Media
3DMark 2006Internet Explorer 8 トランスコーディングEverest セキュリティベンチマーク
TDPの比較。なぜか発表されていないAMD製品(Llano)のデータが含まれているが……VIA Technologies副社長兼マーケティング部長のリチャード・ブラウン氏

 これによると、多くの結果で、VIA QuadCoreはBrazosを上回っており、クアッドコアのメリットがでていると言える。

 ただし、ベンチマークデータの中には、Brazosの特徴の1つである、DirectX 11(Direct3D 11)に対応したベンチマークはなかった点は注意が必要だろう。現時点ではVIAは、DirectX 11に対応した内蔵GPUを持っておらず、VN1000に内蔵されているGPUがDirectX 10.1(Direct3D 10.1)に対応している程度で、多くはDirectX 9(Direct3D 9)世代の内蔵GPUになっている。

 この点に関してブラウン氏は「ロードマップにはDirect3D 11に対応した内蔵GPUも用意されており、その投入を急ぎたい」と、今後チップセットの開発を加速することで、その点をカバーしていきたいと説明した。

●実際の製品はCOMPUTEXで公開、搭載製品は第3四半期から出荷へ

 すでに半導体業界は、45/40nm世代から32/28nm世代へとプロセスルールの移行が進んでおり、低価格向けのプロセッサでもTSMCの28nmプロセスルールへと移行する例が増えている。ヘンリー氏に28nmプロセスルールでも、今回のVIA QuadCoreと同じようにMCM(Multi Chip Module)で実現するのか、それともネイティブのクアッドコアを選択するのか聞いたところ、「具体的な計画は現時点ではお話できないが、あなたの仮定にそってお話するならネイティブのクアッドコアの方が理にかなっているだろうね」(ヘンリー氏)と述べ、次世代製品ではネイティブのクアッドコアになる可能性を示唆した。

 VIAによれば、VIA QuadCoreはすでにOEMメーカーに向けて出荷を開始しており、「搭載製品は第3四半期に登場する見通しだ。それらの一部はCOMPUTEXでお見せすることができるだろう」(ブラウン氏)とのことで、今年の後半ぐらいには実際に搭載製品がVIAの主戦場である中国などの成長市場や、MiniITXマザーボードなどに搭載されて登場することになりそうだ。

 プロセッサ単体の価格は非公開で、ブラウン氏は「ノートブックPCの価格レンジで言えば399ドル以下の製品もターゲットになる」と述べている。

 現行製品(NanoやNano X2)でも日本向けのノートPCへの搭載例は今のところないので、VIA QuadCoreに関しても近い将来に投入される可能性は低いと思うが、Mini-ITXマザーボードなどでは日本市場にも年内に登場するという可能性はあるだろう。

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(2011年 5月 13日)

[Text by 笠原 一輝]