■笠原一輝のユビキタス情報局■
Lenovo 社長兼COO ロリー・リード氏 |
Lenovoは世界第4位のPCメーカーとして知られるが、元々は中国の国内メーカーだったLegendが2005年にIBMからPCビジネスを買収して、新しくブランドをLenovoとしてスタートしたことから始まっている。元々は中国のローカルブランドで起源が国の機関の一部であったLegendと、最も米国的な会社の1つとも言えるIBMのPC部門が1つになってスタートしたLenovoには、本当にうまくいくのかと当初から危惧する声が少なくなったのは事実だ。
しかし、そうした声を跳ね返すかのように、ここ1年Lenovoの決算は非常に好調だ。ここ5四半期にわたってプラス成長を続けており、市場シェアは数年前の6~7%から10%超へと躍進を遂げている。そうしたLenovo Groupを、CEOのヤン・ユァンチン(YANG Yuan Qing)氏と共に率いているのが社長兼COOのロリー・リード氏だ。IBM出身のリード氏は、現在のLenovoの躍進を実現したリーダーとして、大きな注目を集める経営者の一人になりつつある。
今回の記事ではそうしたリード氏に、Lenovo Groupの経営方針やThinkPadシリーズを含めた今後も製品開発の方針などについてお話を伺ってきたのでその模様をお伝えしたい。なお、本インタビューはNECとLenovoの合弁に関する話題が出る前にCES会場で行なわれており、その件に関しては何も触れていないことをあらかじめお断りしておく。
●新しいLenovoとして1つになるための5年間、ここ5四半期で急成長を実現
Q:LegendがIBMのPCビジネスを買収して、新生Lenovoとしてスタートしてから丸5年が経過しました。この5年を振り返っていかがですか?
A:非常に長い旅でした。この5年間に達成したことはたくさんありますが、まずは結果の方からお話すれば、弊社は直近の5四半期で、業界平均を3倍近く上回る30%の成長率を実現しました。数年前弊社の市場シェア(筆者注:世界市場における市場シェア)は6~7%前後でしたが、今ではそれが10.4%に達しました。これが弊社がこの5年間で成し遂げたことなのです。
Q:その急成長の大きな要因はなんなのでしょうか?
A:それが先ほどご質問いただいた、この5年間で弊社が何をしてきたか、ということの答えでもあります。
ご存じの通り、弊社は中国のLenovoと米国のIBM PC事業部という、東洋と西欧が1つになった会社の成り立ちをしています。つまりそれぞれ異なる文化を持つ人々が1つになっていく、というのが弊社の5年間だったのです。弊社の拠点は世界中にあります、日本、中国、南米、北米、欧州、ロシア……と複数の地域に従業員を抱えています。
そうした背景や言語も異なる人々が1つにまとまっていくために必要な事として、弊社では“Lenovo Way”と呼ばれるスローガンを打ち出しました。Lenovo Wayにはお客様に対してよい製品を提供したいという使命感を持って接するという顧客第一主義などを掲げていますが、これらを弊社の従業員が共有することができ同じ価値観を持って働くことができるようになったということが重要でした。
私はこのやり方をLenovoで発見し、今もそれを実践しているところです。
Q:具体的にはどのような戦略を持ち、こうした成長を実現してきたのでしょうか?
A:我々のビジネスの戦略は非常にシンプルです。それが“守るべきモノを守りながら、攻めるべき時には攻める”というものです。
具体的な例で説明しましょう。弊社にとって守るべきモノ、それはノートPCのブランドとしてはもはや“伝説”としてもいいThinkPadのブランドです。ThinkPadブランドは弊社の企業向け市場での地位を確実にすることに大いに役立ちました。弊社はこのことを非常に重視しており、この5年間でThinkPadの品質をあげるべく努力し、ある調査によれば買収以前よりも44%も改善したという評価もいただいております。弊社はThinkPadの価値を尊重しており、今後もThinkPadブランドの他社との差別化や品質改善に力を入れていきます。
もう1つ守るべきモノとしてあげたいのは、LenovoがIBMのPC事業を買収前から得ている中国市場での強い地位です。現在弊社は中国のPC市場にいて30%を超える市場シェアを得ており、2番手の10%以下というポジジョンに比べると大きな差を得ています。今後もこの立場を維持し、さらに2番手以下との差を拡大していきたいと考えています。
そして攻めの方ですが、IBMのPC事業時代には参入していなかった、コンシューマ向けのリテール市場、そして中小企業向け(SMB)市場に参入していくという方針が挙げられます。この2つの市場への参入こそが、我々がここ最近で大きな成長を遂げている理由なのです。
リテール市場向けでは、数年前にIdeaシリーズを発表し、Zシリーズ、Uシリーズと多くの製品をお客様に提供しており、非常に大きな成長を遂げています。そして、中小企業のお客様には、昨年からThinkPad Edgeシリーズを投入し、ThinkPadのクオリティをよりお求めやすい価格で中小企業のお客様に提供することができるようになりました。
●Lenovoはパーソナルコンピューティングへ投資する、将来はスマートTVなども視野にQ:現在御社は世界のPC市場で第4位ですが、この勢いだとDellやHP、Acerといったより上位にいるPCメーカーの背中が見えてきたのではありませんか。それらのメーカーを抜き去るための戦略はなんでしょう。
A:弊社の戦略はすでに述べたとおり、“守るべきモノを守りながら、攻めるべき時には攻める”です。そうした戦略を実践してきたからこそ、直近の5四半期で業界他社の成長率を大きく上回ってきました。そして我々は顧客の声に素直に耳を傾けるべきだと考えています。顧客が何を望んでいるのを知り、高品質で付加価値のある製品を提供していくことが大事です。
そして我々の究極の目標ですが、それはパーソナルコンピューティングにおける業界のリーダーとなることです。そしてそれは、新しい形の製品を提供していくことでもあります。例えば、「IdeaPad U1 Hybrid」のような製品です。この製品は、WindowsとAndroidをボタン1つで切り換えて利用することが可能という、ユニークなアイディアを形にしたものです。
ご存じの通り、このCESでは誰もがタブレットを話題にしています。確かにタブレットは素晴らしいアイディアであることに疑いの余地はありませんが、未来に訪れるであろう大きな発展から考えればまだ始まりに過ぎません。新しい技術は、コンバージェンス(融合)により、よりよく使えるようになると弊社では考えています。
今後の数年間で、我々はスマートTV、タブレットなど新しい情報処理が可能な器機を目にするでしょう。そしてそうした家電とPCはシームレスにデータをやりとりする時代が本格的に訪れることになるでしょう。
CESで展示されたIdeaPad U1 Hybrid |
Q:今後LenovoによるスマートTVやタブレット、スマートフォンなどの製品展開はあり得るのでしょうか?
A:弊社がお客様に提供していこうと考えている製品は、明確にパーソナルコンピューティング向けの製品です。現在弊社は、デスクトップPC、ノートPC、液晶一体型PC(AIO)などの製品ラインナップを持っています。例えば、液晶一体型PCですが、数年前我々はこの市場では非常に小さなプレイヤーでしたが、現在では世界市場で2位になるまでに急成長を実現しています。また、スマートフォンという意味では、中国でLePhoneを提供しています。
そしてご質問のスマートTVもこのCESでの大きな話題の1つです。今のところTVそのものの機能にはなってませんが、確実にTVの機能の1つになっていくだろうと考えています。今後情報はPC経由だけでなく、スマートフォン、スマートTV、タブレットなどいろいろなルートからやってくると考えています。そうした領域に対しても我々は投資し、開発していくつもりです。
Q:Lenovoの製品開発の哲学について教えてください
A:我々はLenovoをメジャーリーガーであるイチロー選手のような存在でありたいと考えています。私は野球観戦が大好きなのですが、イチロー選手は毎年200本安打という非常に素晴らしい結果を残しています。よく知られている通り、彼は非常に技術力に優れた選手ですが、決していつもホームランを残すようなタイプのバッターではありません。彼はシングルヒット、2塁打……というように確実に走者を進めるバッティングをしており、それを多くのファンから支持されています。
我々Lenovoも同じ考え方でビジネスを進めたい。すべての製品でホームランを狙うのではなく、イチロー選手のように、シングルヒットだったり、2塁打だったり……と、ゲームを先へと進める、そうしたイチロー選手のバッティングスタイルのようでありたいのです。
我々のコアビジネスであるThinkPadの開発には日本の横浜に設置されている開発拠点が大きな役割を果たしています。その日本の考え方が、世界中のThinkPadユーザーの皆様に受け入れられているのです。ですから、我々は製品の開発をイチロー選手のバッティングスタイルと同じ哲学でやっているのです。
Q:マイクロソフトがARM版Windowsの構想を発表しましたが、どのようにお考えですか?
A:Lenovoの考え方は非常にクリアです。確かに今は、さまざまな選択肢がでてきている。プロセッサはx86なのか、ARMなのか、OSでいえばWindowsなのかAndroidなのかとあります。我々は1つの選択肢として、その選択肢の2つを1つにした製品に取り組んで、今ここに形にしています(筆者注:と、IdeaPad U1 Hybridを見せる)。答えのカギはそれらが相互にどうやってリンクしていくのかです。これから3~5年の間はそれがカギになると考えています。我々はそれらが複数が1つになっている製品を今後は中心に据えていきたいと考えています。
この製品はWindowsとAndroidが1つのシステムで動いていますが、ファンもありませんし、非常に薄型になっています。弊社ではこうした製品で、複数のデバイスやプラットフォーム間の架け橋になりたいと考えています。
●6~9カ月の間により薄く、より処理能力を高めたThinkPadを投入するCESではLenovoのブースでThinkPad T420sというT410sの後継製品と見られる製品が参考展示されたが、サイズなどはT410sとほぼ同じなので、こうしたリフレッシュになると思われる現行製品とは違う何かが発表されるということなのだろう。期待したい |
Q:今回のCESではClassic ThinkPad(筆者注:EdgeではないTシリーズ、Xシリーズ、WシリーズなどのThinkPadのこと。Edge登場以降Lenovoでは従来のThinkPadシリーズを総称してClassic ThinkPadと呼んでいる)に関しての発表はありませんが、どうなんでしょうか?
A:今回はCESということもあり、Classic ThinkPadに関しては特に新しい発表はしていません。しかし、Classic ThinkPadに関しても、今後6~9カ月程度の間に、とても興味を持っていただける新製品を発表する予定です。その製品は従来製品に比べて、より薄く、そしてよりプロセッサパワーを持つ製品になると思いますよ。楽しみにしていてください。
Q:ThinkPadの開発拠点は今後も日本で行なわれるのでしょうか? また、ノートPCの未来はどうなるとお考えですか?
A:弊社は米国ノースカロライナ州のラーレ、中国の北京、そして日本に大和研究所を構えており、その3つが協力して開発を行なう体制になっています。大和研究所に関してはを先日より発展を期して横浜へ引っ越ししました。弊社は大和研究所を非常に重視しております、先ほど述べたとおり、イチロー選手のように毎年ヒットを出すためには大和研究所の経験が重要だからです。
このCESではタブレットに関していろいろ話題があり、ノートPCの未来に関してノイズがあることは認めますが、弊社はクラムシェル型のノートブックPCのフォームファクタが次の10年も主役の座にあることに疑いの余地はないと考えています。ThinkPadビジネスは、我々のコアビジネスであり続けるでしょう。
(2011年 1月 27日)