笠原一輝のユビキタス情報局

Lenovo ThinkPad担当副社長インタビュー
〜我々は13型のThinkPadを諦めたわけではない



Lenovo ThinkPad 製品マーケティングマーケティングマネージャ兼副社長 ディリプ・バティア(Dilip Bhatia)氏

 世界をアッと言わせたLenovoのThinkPadビジネス買収から6年が経過し、多くのユーザーにとっても“Lenovo”と“ThinkPad”という2つの組み合わせにも違和感が無くなってきたのではないだろうか。

 2010年はThinkPadシリーズにとっても新しい動きがでてきた年になった。というのも、1月に発表されたThinkPad X100eやThinkPad Edgeといった、よりローコストの製品が追加され、従来の製品はよいけど価格は高いというThinkPadのイメージも徐々に変わりつつあるからだ。

 今回はそうしたThinkPadビジネスの現状やこれからの製品展開などに関して、Lenovo本社でThinkPad 製品マーケティングマーケティングマネージャ兼副社長を務めるディリプ・バティア(Dilip Bhatia)氏にお話を伺う機会を得たので、その模様をお伝えしたい。

●ThinkPad EdgeシリーズはSMB市場を取りに行くための戦略製品
ThinkPad Edgeシリーズ(写真は11")

Q:まず、2010年Lenovoは新たにサブブランドとしてEdgeをつけた“ThinkPad Edge”シリーズをThinkPadのラインナップに追加しました。Edgeシリーズの位置づけについて教えてください。

 バティア氏:弊社がクラシックThinkPadと呼ぶTシリーズやWシリーズなどの製品は、より大企業(ラージエンタープライズ)のお客様などをターゲットにした製品となっています。これらのお客様は何よりも信頼性やドッキングステーションの有無、強固なセキュリティ、容易な管理性などを求めています。クラシックなThinkPadシリーズはそうしたところに注力していて、弊社はそうしたお客様をターゲットにビジネスを展開してきたという歴史があります。

 これに対してEdgeでは、これまで弊社があまりアプローチできていなかった、SMB(Small Medium Business、日本で言えば中小企業など)市場をターゲットにした製品となっています。SMBのお客様は、グローバルに展開できるソリューションも必要としながらも容易な操作性が必要になるなど、大企業のお客様とは異なるニーズを持っているのです。

Q:具体的にはどういうことでしょうか。

バティア氏:例えば、クラシックThinkPadではドッキングステーションを用意していますが、SMBのお客様の多くはそうした機能は必要としていません。また、ThinkPad Edgeシリーズでは、伝統的なThinkPadの黒だけでなく複数の色を提供しています。さらに、クラシックThinkPadではビジネス向けの伝統的なディスプレイ出力のみを搭載していますが、EdgeシリーズではHDMIポートも用意されているなどの違いがあります。SMBのお客様はそうした一般消費者が必要とするような機能なども必要とされていることが多いからです。

 弊社にとってEdgeのラインナップは、シンプルさを追求し、クラシックThinkPadに比べると普及価格帯をターゲットにした製品なのです。

Q:それは中国や南米などの成長市場で求められるニーズということですか?

バティア氏:おっしゃるとおり、ThinkPad Edgeシリーズが成長市場で重要製品として位置づけられていることは間違いないです。弊社は成長を続けていますが、その中でThinkPad EdgeシリーズでSMB市場に浸透していっていることが大きな役割を果たしています。大企業のお客様がクラシックThinkPadを引き続きご愛顧くださり、新たに弊社の製品をご購入いただいているSMBのお客様がThinkPadのフィロソフィーを引き継いだThinkPad Edgeを選んでいただいているのです。

Q:Edgeが導入されることで、ThinkPadの持つブランドイメージが壊されてしまう心配は無いでしょうか。

バティア氏:申し上げたいのは、ThinkPad EdgeもEdgeというサブブランドはついていますが、十分ThinkPadのブランドに値する製品であるということです。ThinkPad Edgeは、クラシックThinkPadと同じ品質、そして信頼性を備えています。しかし、クラシックなThinkPadに比べるとSMBのお客様に必要ない機能、例えばTPMチップやドッキングコネクターなどを削ってある、それがEdgeの位置づけです。我々はそうしたシンプルさをEdgeで提供したいと考えているのです。

 誤解していただきたくないのは、それでもクラシックThinkPadと同じ品質、信頼性、そして同じ革新性はEdgeも備えています。お客様はEdgeシリーズでも、ベストなキーボードを手にすることができます。

 確かにクラシックThinkPadとの違いはあります。Edgeシリーズでは、ファンクションキーはFnキーとの組み合わせになっていますが、これはSMBのお客様はあまりファンクションキーを必要としていないからです。しかし、クラシックThinkPadと同じように人気のトラックポイントは用意されていますし、クラシックThinkPadと同じ打鍵感を実現しています。実際、各種のレビューでもEdgeシリーズのキーボードには高い評価が与えられています。

Q:しかし、ThinkPadの7列配列キーボードは、日本のユーザーからも高い評価を受けています。

バティア氏:確かにファンクションキーの機能を重視するお客様がいらっしゃることは我々も認識しています。ですが、SMB市場ではそれよりも、キーボードの打鍵感や簡単な操作が重視されているのです。

●13型のThinkPadの可能性に関しては“市場を注意深く見守っている”

Q:具体的な製品展開について伺っていきます。現在のクラシックThinkPadシリーズは、17/15型のWシリーズ、15/14型のTシリーズ、12.1型のXシリーズというラインナップになっています。日本のユーザーの多くはウルトラポータブルなXシリーズに興味がありますが、13型のラインナップがなくなってしまったことを残念に感じています。13型がXシリーズに戻ってくる可能性はあるのでしょうか。

バティア氏:弊社は常にフォームファクターに関して詳細に検討を続けています。市場を見ていくと、15型のニーズが最も高く、次いで14型、12.1型の成長が非常に急です。そうしたこともあり、弊社はウルトラポータブルに関しては12.1型とそれにつぐ存在として11.6型にフォーカスしています。

2008年に発売されたThinkPad X300。発売時の価格は346,500円から

 X300シリーズはお客様から高い評価をいただくなど、弊社にとっても素晴らしい製品でした。ただ、さまざまな理由から価格はやや高めになってしまっていました。現時点で私が言えることは、我々は13型の製品を諦めたわけではありませんし、今後もこの市場に関しては注意深く見守っていく必要があると考えています。また、13型の製品に関してはThinkPad Edgeシリーズで提供していることを付け加えさせてください。

Q:ThinkPadと言えば、かつてのThinkPad 701シリーズやThinkPad 760など非常にハイスペックな製品が存在していましたが、最近ではややおとなしい製品が多い気がしますが。

バティア氏:次世代のIntelプラットフォームを採用した製品は来年(2010年)の早い時期に提供していく予定ですが、その中には興奮していただけるような製品があると思っております。

 また、現行製品も十分に前向きな評価をいただいている製品があります。例えば、T410sは、米国ラップトップマガジンから“史上最速のノートPC”という称号をいただいております。このT410sは10月にはNVIDIAのOptimusをサポートしたラインナップを追加しました。これにより最大で4つのディスプレイをサポートすることが可能になっています。現在ビジネス向けのノートPCで同じことができる製品は存在していません。

 歴史を振り返ってみれば、ThinkPadはCD-ROMドライブ、無線機能、セキュリティチップ、デュアルスクリーンを初めてノートPCに内蔵してきました。ThinkPadシリーズは、今後も革新し続けていきます。なぜならそれこそがThinkPadの存在価値だからです。

 そしてもう1つ強調したいことは、よりよいユーザー体験をThinkPadシリーズでは実現してきたという事です。例えば、新しいTシリーズでは、ESCキーとDelキーのキーサイズを大きくしました。ユーザーの利用像を調べてみると、ESCとDelキーは1週間で平均600回も叩いているということがわかったからです。こうしたことを決断したのも、そうしたフィードバックを、お客様からいただいたからです。この他にも、VoIP機能を利用するお客様からのフィードバックでマイクのミュートボタンをつけることにしました。ビジネスで旅行をされるお客様にとって、VoIPの機能は非常に重要なものの1つになっているからです。このように、我々のThinkPadはお客様のフィードバックによりデザインされているのです。

 もちろんスペックが重要なことは間違いありませんが、それだけでなくユーザー体験を日々改善していくことを弊社は重視しています。

Q:8型から10型程度の液晶を搭載したよりウルトラポータブルなThinkPadの可能性はどうなんでしょうか。日本を含む東アジアではニーズがあると思うのですが。

バティア氏:現時点では、こうした市場についてお客様と議論をしておりますが、今のところは強いニーズがあるとは感じていません。ご存じの通り、弊社は11.6型のモデルを持っており、IdeaPadブランドのネットブックで、10型の製品を持っています。もし、市場で9型以下のモデルが必要とされているのであれば検討したいと思っていますが、現時点ではあまりそうしたニーズがあるとは考えておりません。

Q:17型をTシリーズで出したりという予定はありませんか。

バティア氏:現在のところ予定はありません。ご存じのように、Tシリーズは主に企業で利用されており、彼らは可搬性のあるPCを求めています。17型はワークステーション用途で利用されており、モバイルと呼ぶには少々大きすぎます。

 弊社はモバイルワークステーションと位置づけているWシリーズで15型のモデルを用意していますが、非常によい売れ行きを示しています。17型はそちらでもややニッチな製品になっており、Tシリーズには必要がないと考えています。

Q:台湾ベンダーなどは19型や21型のノートPCをラインナップしていますが、Lenovoではいかがでしょうか。

バティア氏:我々はすでに液晶一体型PCでそうした製品を持っております。仮に市場でそうした製品が主流になれば、我々も取り組むことになるでしょう。

●IBM時代に比べてThinkPadが低価格になったのは規模の追求が大きな要因である

AMD CPUを搭載したThinkPad X100e

Q:クラシックThinkPadシリーズであるX100eにおいて、AMDのプロセッサが採用されました。AMDのプロセッサがクラシックなThinkPadシリーズで採用されるのは、久々ですがそれはなぜなのでしょうか。

バティア氏:弊社が重視しているのはお客様のニーズです。お客様は、さまざまな製品価格帯を求めており、それらを実現する上で、AMDの製品は特にバリュー価格帯において競争力が高いと考えています。特に399〜499ドルという製品価格帯においてAMDはよい選択肢を提供してくれています。

Q:これまでThinkPad=Intelプロセッサというイメージが崩れてしまいましたが、Intelとの関係に影響はないのですか。

バティア氏:私はそういうことはないと思っています。繰り返しになりますが、弊社にとって重要なのはお客様のニーズです。弊社のゴールは、顧客にベストなビジネスノートブックPCを提供することです。そうした製品を作り上げる上で、IntelやAMDといったパートナーは非常に重要な存在です。もちろんその2社だけでなく、他のパートナーとも密接に協力しております。例えばマイクロソフトとはLenovo Enhanced Experienceという取り組みを共同で行なっており、Windows 7の起動時間を大幅に短縮しました。

Q:大和研究所の価値というのはThinkPadの価値とイコールだと私は考えますが、レノボにとっての重要性はどのようなものだとお考えですか。

バティア氏:おっしゃるとおり、大和研究所の価値は非常に大きい。大和研究所はThinkPadチームの屋台骨として成功に欠かせません。大和研究所には非常に優秀なエンジニアがそろっていますし、その価値は長年にわたり証明されてきました。我々は大和研究所を持っていて非常に幸運だと思います、それがThinkPadのバックボーンとしてあることで、ThinkPadの考え方やデザインなどがあるのですから。

Q:IBM時代に比べて製造やサプライチェーンなどはどう変わったのでしょうか。

バティア氏:製造に関して、私はエキスパートではありませんのでお答えできかねますが、サプライチェーンの改善に関してはお客様にとって重要なことだと我々も認識しており、日々努力を続けています。注文から出荷までどれだけ時間がかかっているかなど、さまざまな観点から点検し改善する努力を続けています。重要なのはそうした努力が反映されているかですが、我々の調査ではIBM時代に比べて40%ほど改善されているという数字がでています。

 例えば具体的な例を挙げさせてもらえば、顧客満足度の改善があげられると思います。日本ではなく米国での調査なのですが、製品の品質、納期、電話によるサポートなどさまざまな観点から顧客満足度を調査しているTBRによれば、ThinkPadの顧客満足度は第1位です。それも1四半期だけでなく、6四半期連続でそれを記録しているのです。

Q:IBM時代に比べて明らかにThinkPadの価格は下落しました。それはなぜなのでしょうか。

バティア氏:それこそが、LenovoがIBMのThinkPadビジネスを買収したすばらしい成果だと私は考えています。IBM時代にはビジネス向けのThinkPadシリーズだけでしたが、Lenovoによる買収後にはコンシューマ向けのIdeaシリーズもラインナップされていますし、以前からあったLenovoの中国でのビジネスもマージされ、Lenovo全体として市場シェアが上昇しボリュームが増えているのです。

 このように出荷数が大きくなることは、サプライヤーとの関係にも影響を与えることになります。つまり購買力が向上することで、従来よりも部材を低コストで調達することが可能になるのです。これらにより、よりよい品質、よりよい信頼性、優れた革新性、そして従来よりも改善された市場シェア、これらにより低価格が実現できるようになっているのです。

●期待される13型液晶搭載のThinkPad、“諦めていない”は新製品開発につながっているか

 ThinkPadの製品事業を統括するバティア氏は、非常に率直に現在のThinkPadが置かれる現状を語ってくれた。バティア氏が述べているように、LenovoになってPCの出荷台数が増えたことで、製品の価格は下がった。これは、ユーザーにとってもメリットのあることだろう。Lenovoになって良かったと思える点だ。

 また、筆者にとって印象的だったのは、X301以降後継製品が投入されていない13型液晶を搭載したクラシックThinkPadを“諦めたわけではない”と表現したことだろう。日本や東アジアのユーザーにとって13型液晶を搭載した製品はギリギリ持ち歩けるノートPCとして人気があるサイズになっている。VAIO ZやMacBook Airなど競合製品もあり、それを待ち望んでいるThinkPadユーザーも少なくないだろう。

 そうしたユーザーにとって、Lenovoが市場の動向を注視していて諦めたわけではないと答えたことは、そうした可能性をLenovoも探っているという点で大きな意味があると思う。ただ、バティア氏は具体的な製品の計画があると述べたわけではないので、それが正式な開発意向の表明ではないことは事実だ。しかし、製品のトップが“諦めたわけではない”と表現した以上は、何らかの具体的な動きがあると期待してもいいのではないだろうか。

 もちろんこれは筆者の願望も含んでいるので、この予想は当たるも八卦当たらぬも八卦だが、当たっていて欲しいとLenovoにお願いするとしてこの記事のまとめとしたい。

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(2010年 12月 27日)

[Text by 笠原 一輝]