笠原一輝のユビキタス情報局

Calpellaの後継としてノートPCの小型/薄型化に貢献するHuron River



 IntelのCalpella(カルペラ、開発コードネーム)プラットフォームは、2010年の春モデルPCに一斉に搭載され、すでに市場には多数の製品があふれている。ある業界関係者に言わせれば「驚くほど多数のCalpella搭載製品が今回の春モデルに登場した」というような状況で、各社とも多種多様な製品をリリースし、ユーザーにとっては“買い時”を迎えつつある現状だ。

 そうした中でも次世代に向けた動きは止まらない。先週の記事でもお伝えした通り、IntelはCalpellaプラットフォームの後継としてHuron River(ヒューロンリバー、開発コードネーム)という製品を2011年の第1四半期に投入することを計画している。

 Huron Riverの特徴は、GPUをダイレベルで統合したIntelの次世代プロセッサとなるSandy Bridge(サンディブリッジ、開発コードネーム)を採用しているのはもちろんだが、もう1つ大きな特徴として、新しいパッケージが用意されることが挙げられる。これにより、CPU+チップセットの実装面積はCalpellaプラットフォームに比べてさらに小さくなり、OEMメーカーはより薄型軽量なノートPCを製造できる可能性がでてくる。

●SATA3には対応するが、USB 3.0には対応しないCouger Point

 Huron Riverプラットフォームは、CPUがSandy Bridge、チップセットがCouger Point(クーガーポイント、開発コードネーム)、無線LANモジュールがRainbow Peak(レインボーピーク、開発コードネーム)、Taylor Peak(テイラーピーク、開発コードネーム)、さらには前世代から継続されるKilmer Peak(キルマーピーク、製品名はCentrino Advanced-N + WiMAX 6250)から構成されている。

Intelのモバイルプラットフォームの移行図(2010年以降は筆者予想)

 CPUとなるSandy Bridgeは、32nmプロセスルールで製造され、デュアルコア版(Sandy Bridge-DC)とクアッドコア版(Sandy Bridge-QC)が用意されている。GPUは、現行のArrandale(アレンデール、開発コードネーム)の基板上で統合されているIntel HD Graphicsと呼ばれるIronlake(アイロンレーク、開発コードネーム)の発展系となるGPUで、新しくDirect3D 10.1(いわゆるDirectX 10.1)に対応することが大きな特徴となる。

 チップセットとなるのはCouger Pointだ。Couger Pointは、現在Intel 5シリーズ・チップセットとして市場に投入されているIbexpeak(アイベックスピーク、開発コードネーム)の後継となる製品で、基本的な機能はIbexpeakとほとんど違いがない。強化点は1つで、6Gbpsの転送速度を実現するSATA 3.0に対応し、6つあるSATAポートのうち最大で2つまでをSATA 3.0のモードで利用できる。このほかの仕様はほぼIbexpeakと同等であり、基本的にはIbexpeak2とでも言ってよいような仕様だ。このため、USB 3.0への対応は、Couger Pointの後継でのテーマということになる。

 なお、現時点ではCouger Pointの製造プロセスルールはわかっていないが、登場時にはCPUが完全に32nmプロセスルールへ移行することを考えると、Ibexpeakの65nmから微細化されて45nmへと移行する可能性があると考えられる。その推定が当たっていれば、消費電力の削減が実現されることになり、熱設計消費電力(TDP)や平均消費電力の削減が実現される可能性がある。通常Intelは、チップセットはCPUの1世代前のプロセスルールで製造するので、その可能性は高いと言えるだろう。

Huron Riverのブロックダイアグラム(筆者予想)

●Calpellaプラットフォームの“脱いだらすごいんです”の小型パッケージの恩恵

 このように、Huron Riverはプラットフォームの観点から見ると、基本的にはCalpella2とでも言うべき、Calpellaの延長線上にあるプラットフォームのように見える。しかし、OEMメーカーにとっては、Huron Riverのメリットはそれだけではない。

 その話に入る前に、現行世代のCalpellaプラットフォーム、そしてその前世代のMontevina(モンテビーナ、開発コードネーム)プラットフォームのCPUとチップセットのパッケージに関して復習しておきたい。Montevinaプラットフォームでは、ノートPCの用途に向けて2つのパッケージが用意されていた。それが通常版とSFF(Small Form Factor、小型本体仕様)版で、SFF版では3つのチップ(CPU、ノース、サウス)が通常版に比べて小さいパッケージになることで、基板に実装する場合の実装面積が半分以下で済んでいた。実装面積が小さくできるということは、それだけ基板を小さくすることが可能になり、より小型化、薄型化、軽量化への貢献は小さくなかったのだ。

Calpellaプラットフォームの3つのモジュール、左上のCPUがBGAパッケージ

 これに対してCalpellaプラットフォームでは、OEMメーカーは3つの選択肢が用意されていた。Calpellaプラットフォームは、CPUにPGA(37.5×37.5mm)とBGA(34×28mm)という2つのパッケージが用意されており、チップセットには通常版(27×25mm)とSFF版(22×20mm)という2つのバージョンが用意されているのだ。

 それぞれ2種類用意されているのだから実際には4通りの組み合わせがあるのだが、大きなPGAパッケージ+SFF版のチップセットという組み合わせは意味がないので、PGA+通常版、BGA+通常版、BGA+SFF版という3つの組み合わせが用意されており、それぞれの実装面積はそれぞれ2,081.25平方mm、1,627平方mm、1,392平方mmとなる。最も小さい組み合わせであるBGA+SFF版という組み合わせを利用すると、実装面積は1,392平方mmとなり、従来のMontevina SFF版の1,415平方mmよりも小さくなるのだ。

MontevinaとCalpellaのチップの実装面積の比較

 だが、OEMメーカーによってはこの組み合わせにあまりメリットを見いだしていないところも少なくない。実はこのIbexpeakのSFF版パッケージは、QS57というモバイル向けIntel 5シリーズ・チップセットの最高峰SKUの製品でのみ利用可能なのだが、QS57はHM57やQM57と比較して5ドルの追加コストが乗せられており、OEMメーカーにとってはコストアップになってしまうデメリットがあるのだ。BGA+通常版という組み合わせでも1,627平方mmと十分小さくなっていると考えるメーカーは、QS57ではなくHM57やQM57を採用した方がコスト的にはよいのは言うまでもない。

 実際、OEMメーカーの製品をよく見てみると、QS57を採用していないメーカーの方が多い。薄型ノートで見ても、レノボのThinkPad T410sはQS57だが、パナソニックのLet'snote S9はQM57、ソニーのVAIO ZはHM57と選択が別れている。12型と他の2製品よりも小さな液晶を搭載しているLet'snote S9はQS57であってもおかしくないのだが、それでもQM57を採用しているということは、コストとのトレードオフを検討した結果と推察できるだろう。各メーカーがコストと基板の小型化とのトレードオフで悩んだ結果が、これだと考えるとそれぞれのエンジニアの考え方が透けて見えてきて面白い。

 例えば、ThinkPad T410sの場合、前世代のT400s(Montevina-SFFベース)とボディそのものは同じなのに、T410sはNVIDIAのNVS 3100Mという単体GPUとのスイッチャブルグラフィックスを選べるようになっている(T400sは内蔵GPUのみ)。仮にBGA+通常版を選ぶと、Montevina-SFFに比べてCPU+チップセットの実装面積が増えてしまい、単体型GPUを追加で搭載するスペースどころか、そのままではCPU+チップセットも入らないかもしれなくなる。だからこそ、ThinkPad T410sではQS57が選択されたと考えるのが自然だろう。

 CalpellaのBGA+SFF版はMontevina-SFFと比べるとほんのわずかな減少だが、チップ数が減るためマザーボードのデザインを見直せば単体GPUを搭載するスペースが確保できた、おそらくそういうことではないかと思う。もっとも実際には、筆者はT410sの基板をまだ見たことがないので、あくまで数字上での推測ではあるが……。

 このように、Calpellaのメリットは言うまでもなくプロセッサの処理能力が向上したり、内蔵GPUが45nmプロセスルールで製造されるようになったことで描画性能が向上したりと性能面に目が行きがちなのだが、実のところ、こうしたパッケージの小型化の恩恵は実は小さくないのだ。

●Huron RiverではプロセッサのBGAパッケージがさらに小型化される

 OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはHuron River世代で、この傾向をさらに推し進め、パッケージの小型化をさらに進めていく方針であるという。

 まずプロセッサのパッケージがさらに小型化される。PGAに関しては従来と同じ37.5×37.5mmだが、BGAに関しては31×24mmへと小型化される。ArrandaleではCPUとIronlakeをMCM(Multi Chip Module、1つのパッケージ上に複数のダイを搭載する技術)を利用してパッケージ上で結合されていたが、Sandy BridgeではGPUもCPUダイにネイティブで統合されるので、ダイサイズが小さくなる。このため、パッケージサイズを小さくすることが可能になると考えることができる。

 また、Calpella世代ではTDP45Wのクアッドコア版にはPGA版しか用意されていなかったのだが、Huron River世代ではBGA版も用意されるようになる。このため設計によっては薄型ノートPCにクアッドコアを内蔵したりなどもできるようになる可能性がある。なお、Huron River世代でも、プロセッサのTDPの枠は、Calpella世代と同じように55W、45W、35W、低電圧版(LV)が25W、超低電圧版(ULV)が18Wとなる。

Intelのモバイルプラットフォーム向けプロセッサのパッケージ(筆者予想)

 さらに、チップセットのCouger Pointにも、Ibexpeakと同じくSFF版パッケージが用意される。ただし、Couger PointのSFF版はIbexpeakに比べて若干大きくなり22×22mmになる。それでも通常版が25×25mmであるので、それに比べると小さくなる。

 これにより、BGA+通常版の合計は1,369平方mm、BGA+SFF版の合計は1,228平方mmと通常版でもMontevinaのSFF版よりも小さくなるほか、BGA+SFF版では1,228平方mmとさらに小さくなり、より小型のマザーボードを設計することが可能になる。こうした点がCalpellaと同じくHuron Riverの隠れたメリットなのだ。

CalpellaとHuron Riverのチップの実装面積の比較(筆者予想)

●Huron Riverは基本的にはCalpellaフォロワー、今はノートPCの買い時では?

 以上のように、Huron Riverの大枠は、基本的にはCalpellaをさらに発展させるという位置づけにあるプラットフォームだと言ってよい。Calpellaのメリットだった、Nehalem世代となった強力なプロセッサ、CPUに統合されたGPU、さらにはパッケージの小型化という点をさらに進化させたプラットフォームがHuron Riverであると考えるのが正しいだろう。

 最後にエンドユーザーの視点で、新しいプラットフォームを待つか、待たないかという点に触れておきたい。これに関する筆者の意見は非常にシンプルだ。もちろん、新しいプラットフォームを待てばよりよい製品を入手できるようになることは事実だが、Huron Riverが基本的にはCalpellaのフォロワーであると考えられる以上、わざわざHuron Riverを待つ必要はないのではないかということだ。

 そういう意味で、新世代のノートPCが欲しい、と考えているユーザーであれば、Calpellaプラットフォームを搭載した製品が出そろいつつある今こそ“買い時”と言えるのではないだろうか。

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(2010年 2月 23日)

[Text by 笠原 一輝]