笠原一輝のユビキタス情報局

ラスベガスに見る米国のモバイルブロードバンドの現状



 先日、筆者は米国ネバダ州ラスベガスで開催されたInternational CESのために、ラスベガスに滞在していた。いつものことなのだが、米国(に限らず日本以外の地域)に来ると困るのが、PCのネット接続をどうするのかという問題だ。

 日本では、すでに数年前からPC向けのモバイルブロードバンドサービスが開始されており、月額の定額料金で利用することができるようになっているため安心して利用することができるのだが、日本のキャリアが提供している海外でのローミングサービスは青天井の従量制料金で、すぐにいわゆる“パケ死”と呼ばれる高額の料金請求が翌月にやってくる事態が容易に想像できるため、使えないのと同じ状況になっていたため、海外ではモバイルブロードバンドが使えない状態でPCを使うことを強いられてきた。

 しかし、最近では米国でも状況が変わりつつあるようだ。ラスベガスではClearによるWiMAXの商用サービスが開始されているほか、プリペイドの3Gモバイルブロードバンドサービスが提供されるなど、選択肢は増えつつある。

●PCでもクラウドな使い方が普通になってきている

 ネットブックが急速に普及したことで、以前に比べてPCを持ち歩く人が増えている。筆者の周りでも以前はPCなんて持ち歩いていなかった人が、PCを持ち歩いているのを見ると、PC野郎の筆者としてはちょっと嬉しくなったりする。

 ただ、以前と大分変わったなと思うのは、PCの使い方だろう。以前だったら、PCを持ち歩いている人の使い方は、オフラインでデータの処理をするために、ストレージが大きく、キーボードで入力が快適にできるPCを持ち歩いているという使い方が一般的だった。しかし、今はHSDPA、EVDOなどの3G系やWiMAXなどのモバイルブロードバンドサービスが月定額で利用できるようになっているため、それらと組み合わせて、インターネット上のサービスと組み合わせて利用することを前提に利用する人が増えている。

 筆者も例外ではなく、以前は大容量のHDDに持てるだけのデータを突っ込んで持ち歩いていたのだが、今ではSSDでストレージ容量があまり大きくないVAIO type Pをもって歩き、WiMAXやHSDPAの回線を利用してGoogleやBingなどのいわゆるクラウドサービスを組み合わせて利用している。要するに、VAIO type Pを大きな画面のスマートフォンとして利用しているというわけだ。混雑している電車の中のようなPCを出しにくい環境では携帯電話でクラウドサービスへアクセスし、PCが出せるところではPCを出すと、シーン毎に使い分けるようにしている。

●高額なローミング料金で、海外では実質的にモバイルブロードバンドが使えない

 そうした設定をしていると困るのが海外などモバイルブロードバンドが使えない環境だ。日本でモバイルPC+モバイルブロードバンド+クラウドの便利さに慣れきっていると、やはり海外でも使いたいと考えるのが人情というものだろう。特に筆者の場合、編集部や家族との連絡はほとんどがIM(インスタントメッセンジャー、SkypeやLive Messengerなど)なので、ネットがあるホテルに戻るまで連絡ができなくなってしまう。

 だとすれば、まず最初に検討してみたいのは、日本のキャリアが提供しているローミングサービスだろう。ローミングサービスを使えば、日本の携帯電話をUSBケーブルやBluetoothなどで接続してパケット通信することができる。

 しかし、実際にはこの選択肢は多くの人にとってはないのも同じだ。というのも、日本ではパケット通信の定額料金が設定されているが、ローミングの場合には青天井の従量制の料金しか設定がないからだ。その結果が“パケ死"だ。会社の回線で、費用のことは気にせず利用できるような一部の恵まれた人を除けば、この選択肢が心理的に取りたくない方法であることはもう言うまでもないだろう。

 キャリアの側もこうした事態は認識しているようで、NTTドコモは新しい料金体系の導入を進めている。詳しくはNTTドコモのWebサイトで確認して欲しいが、特定の海外のキャリアでローミングする場合に限り1日(日本時間で午前0時~午後11時59分)に120,000パケット(15,360,000バイト=約15MB)で2,000円という料金設定を設定している。ちなみに、それ以外の料金では0.2円/パケットなので、約15MB通信すると60,000円が2,000円になるのだから大きく進歩したと言っていいだろう。

 ただし、15MBを超えてしまうと、やはり青天井になるのと、1日の計算が日本時間になるので、日本と時差が大きい国などに滞在する場合には注意が必要だ。

●一日1,500円から制限無しに利用することができるレンタルサービス

 そう考えると、やはり安心して利用するには、料金が定額か、料金がある一定額に達したらそれ以上は利用できないなどの歯止めがある料金設定のモバイルブロードバンドを利用したいところだ。

レンタルで利用しているUSBドングル。1日1,500円からレンタルすることができる。今回はこのショップでレンタルしている

 今回PC Watch編集部がInternational CESの取材で利用していたのは、日本でレンタルできるUSBモデムを利用した3Gのモバイルブロードバンドだ。利用している回線はVerizon Wirelessで、EVDO Rev.Aと呼ばれる下り最大3.1Mbps、上り最大1.8Mbpsの論理速度で通信することができる。レンタルは事前予約が必要な場合が多いが、今回編集部が利用した業者では成田空港でのピックアップが可能だった。

 料金は利用できるデータ量に制限なく1,500円/1日で、本体の破損や紛失などに備える保険がオプションとして用意されており、そちらは1日300円だ。つまり、1,500円ないしは1,800円の料金が、旅行の日数分かかることになる。それでも、前述のドコモの料金(15MBまで2,000円)と同じ料金でデータ量の制限がなくなり安心して利用できるというメリットがある。

 ただ、この場合、利用しない日も利用日に計上されるので、ビジネスで利用するユーザーならありだと思うが、個人の旅行でという場合にはちょっと負担が重くなってしまうのは事実だ。


●リーズナブルな料金を用意するVirgin Mobile Broadband2Go

 今回、筆者が個人的に購入して試しているのは、Virgin Mobileが提供するBroadband2Goと呼ばれるサービスだ。Virgin MobileはSprint PCSのMVNOでサービスを提供するキャリアで、やはりEVDO Rev.Aでデータ通信をすることが可能になっている。ラスベガス市内のBestBuyという大手家電量販店で99ドルでUSBモデムを購入して利用している(購入時に特に身分証明書などは必要ない、普通の製品として購入できる)。契約はオンラインで可能で住所は米国の住所を入れる必要があるがホテルの住所などで特に問題がないようだ。料金の支払いは、“Top-Up”と呼ばれるプリペイドカードないしはクレジットカードなどを利用して料金を払うことができる。料金体系は以下のようになっている。

【表】Broadband2Goの料金体系

価格期限容量
10ドル10日100MB
20ドル30日250MB
40ドル30日600MB
60ドル30日1GB

 今回筆者は米国に1週間滞在するので、250MB/30日を利用することができる20ドルのプランで十分だと判断して契約した(というよりBestBuyでは20ドルのカードしか売っていなかった)。これまで筆者はAT&T Wirelessが提供する100MBで19.99ドルというプリペイドのサービスを利用していたのだが、PCで利用することを前提にするならBroadband2Goの方が明らかにお得な価格設定だと言える(スマートフォンなどで利用したい場合には話は別だが)。

 なお、Virgin Mobileではクレジットカードでも料金を払うことができるが、利用できるのは米国の住所に登録されているクレジットカードのみで、日本のクレジットカードは利用することができない。ただし、日本のクレジットカードが登録できるPayPal経由で支払うことも可能になっているので、必要であればPayPal経由で支払うといいだろう。

BestBuyで販売されていたBroadband2GoのUSBモデム中身はこれだけと非常にシンプル。ドライバはフラッシュメモリに入っており、ドングルをUSBポートにさすだけでインストールが開始される料金をチャージするにはこのTop-Upカードと呼ばれるプリペイドカードを利用する。日本のアドレスのクレジットカードはそのままでは使えないが、PayPalを利用可能

●ラスベガスでもモバイルWiMAXのサービスが開始

 今回予想していなかった嬉しい誤算として、米国のモバイルWiMAXのキャリアであるClearが提供するサービスがラスベガスでも始まっており、モバイルWiMAXがラスベガスのそこかしこで使えるようになっていたのだ。しかも、現在ClearはWiMAXモジュールを搭載したPC向けに、1PCにつき1回だけ30日間の無料お試しサービスを実地しているのだ。

 これは、米国で販売されているWiMAX内蔵PCだけでなく、IntelのWiMAXモジュール内蔵PCであれば他国のPCでも有効だ(UQコミュニケーションズが提供するUSBドングルでは利用することができなかった)。接続は簡単で、IntelのWiMAXのユーティリティからWiMAXの電波を探しに行くと見つかるClearのモバイルWiMAXサービスに接続し、それ以後表示されるメッセージに従ってサービス体験を申し込むだけで利用することができる。特にクレジットカードの番号などを入れる必要もないので、お試し期間が終わった後に課金されるといった心配もないのが嬉しいところだ。

 なお、Clearでは1カ月単位の契約や容量を決め手の利用など、月極の契約をしなくても利用できるプランが用意されており、30日のお試し期間が終わった後であればそうした契約も可能になるだろう。制限無しで1カ月45ドル(現在はキャンペーン中で30ドル)、2GBまでで35ドルなどのプランが用意されており、これに契約することでWiMAXのサービスを米国で利用することができる。

モバイルWiMAXでClearに接続しているIntelのWiMAXユーティリティ。接続するには最新版である必要がある

 ただし、日本住所のクレジットカードでClearと契約することができるかは現時点では確認出来ていない。というのも、現在筆者のPCの内蔵WiMAXモジュールは、Clearと(体験サービスを)契約している状態になっており、その期間が終わらないと新しい契約を結ぶことができないので確認できないのだ。ただ、日本でWiMAXを展開するUQコミュニケーションズは、Clearとローミングパートナー契約を結んでおり、準備が整えばローミングサービスが開始されると考えられるだろう。ぜひ早期の開始を期待したい。

 気になる使い勝手だが、使用感は日本にいるときと何も変わらない。サービス圏内にいればPCを起動するとネットワークを探しに行ってインターネットに接続される。ラスベガスでもサービスが始まったばかりらしく、建物の奥にいくとまだまだつながらない場所も少なくない。また、サービスも一部の大都市だけで、ロサンゼルスやサンフランシスコのような日本人がよく行く都市でもサービスが開始されていない。


●速度ではモバイルWiMAXだが、接続性では3GのEVDO/HSDPAに分がある

 それでは最後に、各回線を利用したベンチマークを行なっておきたい。利用したのは以下の回線だ。

1.Verizon Wireless(USBドングル、EVDO Rev.A)
2.Virgin Mobile(USBドングル、EVDO Rev.A)
3.AT&T Wireless(HTC TOUCH Pro-USB経由、HSDPA)
4.Clear(VAIO type P内蔵、モバイルWiMAX)

 いずれもマシンは筆者手持ちのVAIO type Pで、OSはWindows 7 Ultimateを利用している。計測場所はラスベガスの中心地にあるホテル(Imperial Palace)の客室内で、時間は午前0時頃だ。テストに利用したのは、RBBtodayのスピードテストだ。なお、結果はあくまで筆者がテストした結果であり、場所を変えたり、他のユーザーが接続している状況が変わったりすれば結果が変わることがあることをお断りしておく。

 結果は以下の通りだ。

テスト結果

 スピードで言えば、モバイルWiMAXが速かった。実際、体感でもEVDOなり、HSDPAがユーザー数が多いためか“おっそいなー”と感じるのに対して、モバイルWiMAXはすいすいと利用できる感じがある。

 もっとも、EVDOなりHSDPAがほぼどこでも利用できるのに対して、モバイルWiMAXは前述のように使えない場所もそれなりにある。従ってどこでもつながること優先なら3Gだし、PCを起動すれば使えるという使い勝手と速度を重視するならWiMAXということになる。

●日本のキャリアは間違った価格設定でチャンスを失っている

 最後になるが、こうしたわざわざ海外のキャリアのプリペイドサービスを利用しなければならない状況が生じている原因は、すでに述べたように日本のキャリアがローミングサービスで定額の料金プランを用意してくれないためだ。確かにNTTドコモの1日15MBで2,000円の料金プランはある程度解答になり得るが、それでも今回筆者が購入したVirgin MobileのBroadband2Goが20ドルで250MBまで使えることを考えると、やっぱりなんだかなぁと思ってしまう。

 日本のキャリアは、せっかくローミングを用意してもユーザーが使ってくれない状況になってしまっている。ビジネスチャンスを失っていると言える。日本のキャリアが海外でも完全定額な料金プランを用意してくれることを切に願って本記事のまとめとしたい。

バックナンバー

(2010年 1月 14日)

[Text by 笠原 一輝]