笠原一輝のユビキタス情報局

カバンの中で熱くならない秘密兵器を内蔵した「ThinkPad T460s」

〜初代X1 Carbon並みの薄さ軽さを実現し、分解も容易に

ThinkPad T460s。14型の液晶ディスプレイ(フルHD)、第6世代Coreプロセッサ、最大24GB DDR4メモリ、最大512GB SSD(NVMeないしはPCIe)。OSはWindows 10 ProないしはWindows 7 Professional(ダウングレード権行使)

 レノボ・ジャパン株式会社(以下Lenovo)から発表された「ThinkPad T460s」は、ビジネス向けのA4サイズノートPCの「ThinkPad T」シリーズの14型モデルの最新製品となる。T4x0sの製品名(T400s/410s/420s/430s/440s/450s)を持つ製品は、「ThinkPad X1 Carbon」シリーズが登場するまでは、Lenovoの14型モデルの中では最も薄軽のモデルとして提供されてきたが、ThinkPad X1 Carbon登場後は、ディスクリートGPU(dGPU)も搭載できる薄型のノートPCとして差別化が図られてきた。

 今回登場したThinkPad T460sは、従来のThinkPad T450sに比べて軽量化、薄型化が実現されており、最小構成で重量約1.32kg/厚さ16.9〜18.8mmと、初代のThinkPad X1 Carbon(重量約1.36kg/厚さ8〜18.8mm)に匹敵する軽さ、薄さとなっている。普及価格帯の製品でそうした薄さ、軽さを実現したことが、このThinkPad T460sの最大の特徴となる。

 さらに、今回のThinkPad T460sは、ある"魔法の機能"を搭載することで、稼働状態のままカバンに入れてしまっても、あまり熱くならないように工夫されているというのだ。

 今回はこのThinkPad T460sを開発した、LenovoのThinkPadを担当している大和研究所のエンジニアにお話を伺ってきたので、ThinkPad T460sの特徴などについて紹介していきたい。

初代ThinkPad X1 Carbon並の薄さ、軽さを実現したThinkPad T460s

 LenovoのThinkPadシリーズは、概ね2年に一度新しいシャシーを開発して投入するという開発サイクルで製品開発を行なっている。新しいシャシー(LenovoではこれをCS=Clean Sheetと呼んでいる)に基づいた新製品をその年にリリースし、その翌年にはCSをベースにしたマイナーチェンジ版を投入するサイクルで開発が進んでいる。

 こうした開発サイクルになっているのは、Intelのプロセッサが2年に一度新しいマイクロアーキテクチャに進化するからだ。前回LenovoがCSとして投入したのが、CS13と呼ばれる2013年のCPUに基づくプラットフォームだ。2013年には、Intelの完全に新しいマイクロアーキテクチャになる第4世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Haswell)が投入された時期で、そのタイミングで新しいシャシーが開発、投入されたのだ。

 そして、Intelは完全に新アーキテクチャとなる、第6世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Skylake)を2015年9月にドイツで行なわれたIFAで正式に発表した。そのSkylakeに基づいたThinkPadの新シャシーがCS15と呼ばれるプラットフォームで、これに基づいた製品が「ThinkPad Yoga」シリーズとして昨年のIFA、そしてそれ以外の製品が、今月初頭に米国で行なわれたCES 2016で発表された。今回のThinkPad T460sも、そうしたCS15に基づいた製品になる。

 LenovoのThinkPadシリーズは、現在大きく2つのラインに分かれている。1つはX1の名前がつけられたプレミアムラインの製品で、ハイエンドのビジネスユーザーなどをターゲットに販売されている。CES 2016では、X1 Carbon、X1 Yoga、X1 Tabletなどの製品が発表された(これらの製品は日本では未発表)。

 これに対して、“Classic ThinkPad”と呼ばれるThinkPad Tシリーズ/Xシリーズなどの製品は、法人およびビジネスユーザー向けのスタンダードなノートPCとして販売されているシリーズとなる。Tシリーズには、15型のT5x0、14型のT4x0、14型でかつ薄型のT4x0sという3つの製品があり、このT460sはそのT4x0sシリーズの最新モデルとなる。

 レノボ・ジャパン株式会社 機構設計担当 潮田達也氏は「CS15に基づいたT460sはスクラッチからやり直した製品。弊社のフラッグシップ製品であるThinkPad X1 Carbonをベンチマークとして、X1 Carbonの薄さ、軽さをTシリーズに持ち込み、3ポンド(約1.36kg)を切り、薄さもThinkPad X1 Carbonに近づけるというターゲットを設定して設計した」と説明する。

 実際、ThinkPad T460sのスペックを確認すると、最小構成で重量約1.32kg/厚さ16.9〜18.8mmとなっており、初代ThinkPad X1 Carbon(2013)の重量約1.36kg/厚さ8〜18.8mmに匹敵する軽さ、薄さとなっている。CES 2016で発表されたThinkPad X1 Carbon(2016)の重量約1.209kg/厚さ16.45mmには敵わないものの、それにかなり近づいたスペックになっている。

天板は、いかにもClassic ThinkPadという趣
本体の右側面。スマートカードリーダー、USB 3.0、Mini DisplayPort、HDMI 1.4a、USB 3.0、Ethernet、SIMカードスロット(日本モデルでは用意されない)。
本体の左側面。左からACアダプタ端子、USB 3.0、オーディオ、SDカードスロット
レノボ・ジャパン株式会社 機構設計・熱設計&シミュレーション担当 大山敦史氏(左)、同社 機構設計担当 潮田達也氏(中央)、同社 ThinkPad 液晶&タッチ開発担当 寺田健一氏(右)

従来モデルで課題だったメンテナンス性を改善するために分解しやすく組み立てやすさを重視

 潮田氏によれば、ThinkPad T460sの特徴は、スタンダードなクラムシェルとして薄さ、軽さを実現しただけでなく、ビジネスPCとしての基本に立ち返った整備性の良さ、充実したポート類のサポートなどを実現していることにあるという。

 ビジネス向けのPCは、コンシューマ向けの製品とはかなり異なる要求がユーザーから寄せられる。例えば、内部ストレージやメモリモジュールが故障した場合、コンシューマ向けのノートPCであれば、メーカー修理行きだが、ビジネスPCの場合には、ユーザー(企業内のシステム担当者など)が自分で交換することが許されている場合がある。そうしたユーザーが交換できるパーツは、CRU(Customer Replaceable Units)と呼ばれており、メーカーにPCを送り返すことなく、ビジネスを継続できるという意味で必要とされているサービスの1つだ。

 ThinkPadの場合には、このためのメンテナンスマニュアル(言わば分解マニュアル)が公開されており、ユーザーやシステムインテグレータなどが実際にパーツを交換することが行なわれている。ところが、近年徐々にこれを実現することが難しくなりつつある。

 その最大の理由はノートPCの薄型化だ。結局のところ、ノートPCを薄くしようとすると、蓋の薄さを最小限にするために、ネジでなく接着剤やツメなどで固定しようとエンジニアが考えるため、どうしても分解しづらいノートPCができあがってしまうのだ。

 実際、T460sの前世代となるCS13ベースのT440s/T450sでもそうした傾向があり、ユーザーや保守の関係者から「分解しにくい」というフィードバックがあったと潮田氏は言う。「CS13世代では薄型化を実現したのはいいが、保守担当者から開けにくいというフィードバックが多かった。そこで、CS15のT460sではThinkPad史上最も分解しやすく、すぐにCRUのパーツにアクセスでき、かつ組み立てやすい製品を目指した」との通りで、CS13世代では8本のネジを外し、さらに堅いツメを外していかないと外せなかった裏蓋が、T460sでは5本のネジを外すと、背面側の裏蓋に隙間ができ、そこに指を入れるとすぐに外せるようになっているという。実際筆者も触ってみたが、CS13世代の大変さが嘘のようにサクッと外れた。

 また、ThinkPadシリーズと言えば、すぐに外せて交換できるキーボードというのもよく知られているが、従来の製品では、底面からネジでキーボードを固定していた。しかし最近の製品では、キーボード側から固定する形に変わっている。「キーボードを底面から固定しようとすると、基板に穴を開ける必要があり、それもキーボードを固定したい場所はCPUの周辺だったりする。その結果、信号品質が悪化したり、基板のサイズが大きくなったりという課題が出てくる。これを避けたかったので、CS13からはフレームをずらしてネジを露出させ、Cカバー(パームレスト)にキーボードを固定する形に変更している」とのことだ。

 キーボードを底面から固定しないようになったことに合わせて、ThinkPadの特徴だった、キーボードに掛かった液体を基板を貫通させて下側に流すという穴は今回の製品から搭載していないという。潮田氏によれば「いろいろな議論はあると思うが、個人的には、下に流すとは言え、中を液体が流れるということには疑問を感じていた。そこで、今回の製品ではCカバーにシールを入れて、キーボードに入ってきた液体が内部には侵入しないようにしている。それでも、穴があるのと同じ効果を得ることに成功している」との通りで、従来と同じように基板を液体の侵入から防ぐ効果はあるとした。

裏蓋をあけたところ。ネジを5つ外して底面のDカバーを外すだけでここまでアクセスできる
Wi-Fi/BTモジュール、WANモジュール、SSDなど。オプションで用意されているWiGigのモジュールとWANは排他。日本向けのモデルはWANはなく、WiGigのみが選択できる
CPU周り。第6世代CoreプロセッサではFIVRが外付けになっているので、電源回路がCPUの周りにあることが確認できる
キーボードとポインティングデバイス
タッチパッド
左側がT460sのパッド、右側がT450sのパッド。T460sがやや大型化されていることがわかる
タッチタイプの指紋センサーが選択できる
キーボード
キーボードアッシー
キーボードのフレームの下にネジがあることがわかる
キーボードが固定されるCカバー。液体の浸入を防ぐシール剤がパッドの左上あたりにあることが確認出来る
Cカバーの裏側
Dカバー、必要最小限の穴しか空いていないことがわかる

一見するとタッチ液晶には見えないインセルタッチの液晶パネルを採用

 また、今回のThinkPad T460sでは、新しいタイプのタッチ液晶、具体的にはインセルタッチと呼ばれる形状のタッチ液晶を搭載している。

 レノボ・ジャパン株式会社 ThinkPad 液晶&タッチ開発担当 寺田健一氏によれば「一般的なタッチ液晶モジュールの場合、カバーガラスが一番表面にあり、その下にタッチセンサーが入っている。しかし、インセルタッチの場合には、TFT層のプロセスに1つプロセスを増やしてタッチセンサーを作っている」とのこと。

【お詫びと訂正】初出時に「TN層」としておりましたが、正しくは「TFT層」です。お詫びして訂正させていただきます。

 簡単に言ってしまえば、通常のタッチパネル場合は、表面ガラスの下に、タッチセンサーと液晶モジュールが2つ張り付く形になっている。ガラス、タッチセンサー、液晶パネルはそれぞれ別のメーカーが製造し、最後に1つの液晶モジュールとして合体させ、PCメーカーに納品される。

 これに対し、インセルタッチの場合は"インセル"(セル内蔵の)という言葉からも分かるように、液晶メーカーが液晶パネルを製造する段階で、タッチセンサーを同時に積層するため、液晶モジュール表面のガラスも別途タッチセンサーも必要ないという優れモノなのだ。寺田氏によれば、タッチありとなしでの重量差は誤差の範囲で、制御モジュールが若干大きくなる程度でタッチセンサーが取り付けられるため、タッチありにした場合の重量ペナルティがほとんどなくタッチ機能を実装できるという。

【お詫びと訂正】初出時に、LAVIE Hybrid Zero 11型もインセルを採用、としておりましたが、LAVIEは通常のオンセル式と分かりましたので、該当箇所を削除させていただきました。

 ただ、従来のタッチとは異なり、表面にガラスを貼らないため、どうしても液晶周囲のベゼルとの段差ができてしまう。そこで、ThinkPad T460sではその段差に指があたって痛くなるということがないように、ポリカーボネートのシートにして角が尖らないようにしてあるという。実際触ってみると、滑らかになっており、端をタッチしても違和感はほとんどない。

液晶モジュール部分のAカバー
インセルタッチの液晶パネル。ベゼル部分にはポリカーボネートのシートが採用されており、指に優しいタッチに

インテリジェントクーリングの機能を実装して、稼働状態でカバンに入れても熱くなりすぎない

 レノボ・ジャパン株式会社 機構設計・熱設計&シミュレーション担当 大山敦史氏は、ThinkPad T460sの熱設計に関して「CPUのスペックとしては15WのUプロセッサを利用しているが、設計上は25Wにも耐えられるように設計しており、温度的に余裕があるときにCPUのパワーを上げる設計にしてある」と説明する。CPUの温度を常にモニタリングしており、それが表面の温度に影響を与えない温度にならない限りは、CPUがよりハイパワーで動くような設計にしてあるという。

 また、T460sはオプションでGeForce 930M(2GB VRAM)を搭載することをCTOで選択できる。このため、サーマルソリューションは2つ用意されており、CPUのiGPUだけのモデル用と、dGPU有り用がそれだ。ただ、どちらも基本構造は一緒で、dGPU用はiGPU用のそれを延長したモノとなっている。かつ、CPUとdGPUは繋がっており、1つのファンで2つの熱源を冷やすようになっている。これはGPUを使っている時はあまりCPUは使われず、CPUが使われている時にはその逆であまりdGPUは使われないためこうなっているとのことだった。

 なお、従来のT450sではdGPUを選択した場合には、ドッキングステーションのコネクタと排他選択になっていたため、ドッキングステーションを利用することができなかったが、今回のT460sではそれが改善されており、dGPUを選んだ場合でもドッキングステーションを利用することができる。

 このほか、ThinkPad T460sには熱設計の観点からユニークな機能が搭載されている。「インテリジェントクーリング」と呼ばれる機能がそれで、具体的にはノートPCがユーザーの膝の上にある時、あるいはカバンの中に入っている時を検知して、表面温度を下げる仕組みが入っている。

 大山氏によれば「ThinkPadではHDDを使っていた時代に、Gセンサーを利用して衝撃があった時にHDDを保護するアクティブプロテクションの仕組みを用意していた。このモデルでは既にHDDは使えないので必要ないのだが、それを活用してユーザーの膝の上にある時、カバンの中に入っている時を検知している」という。要するに、液晶ディスプレイが開かれている状態でGセンサーで特定の揺れを検知した場合には、それが膝の上だと判断し、液晶ディスプレイが閉じている状態で特定の揺れを検知した場合には、カバンの中に入っていると検知するなどの、独自のアルゴリズムで検知しているものと見られる。

 これにより、ユーザーが膝の上で使っている時に底面カバーが熱いと感じることがないように、若干CPUの性能を落としても快適に使えるようにすることができる。その逆に机の上に固定している時は、フルパワーで使うことができるので、性能と快適性を同居させることができる。

 また、おそらく読者も体験したことがあると思うが、ノートPCの蓋を閉めてもサスペンドしないように設定してある状態で、蓋を閉めてサスペンドしていると思い込んでカバンに入れたり、サスペンド設定していても、うまくサスペンドできておらずOS稼働状態のままカバンに入れていて、出先で使おうと思ったらものすごくPCが熱くなっていた、といったトラブルは割とあることだろう。このトラブル、PCが熱くて使い物にならないということと、バッテリを無駄に消費してしまうという2重の意味で厄介なものだ。

 しかし、今回の機能を利用すると、仮にこうした事態が発生しても、CPUやGPUを可能な限り低いクロックに下げるなどして、できるだけ温度が上がらないようにしたり(誤解無きように言っておくが、全く熱くならないということではない)、バッテリ駆動時間へのインパクトを最小限にしたりできるのだ。これは実に有り難く、かつ実用的な機能で、是非ともほかの製品でも採用して欲しい機能だ。

バッテリは2つ搭載されており、いずれも24Whの容量となっている。なおこれは開発時点の個体なので、製品では異なる場合もあるとのこと
dGPU(NVIDIA GeForce 930M)を搭載するためのパターン。dGPUを選択した場合にはここにGPUとVRAMが搭載される
CPUについているのが、iGPU用のサーマルユニットで、その下にあるのがdGPUのサーマルユニット。

ThinkPad Classicの価格帯で、X1 Carbon並の薄さ軽さを実現しているThinkPad T460s

 この記事を書いている時点ではThinkPad T460sの日本での価格は明らかになっていないが、米国では1,059ドル(1ドル=117円換算で約12万4千円)からとなっており、ThinkPad X1 Carbon(2016)の1,299ドル(同、約15万2千円)に比べ、安価な価格設定になっている。つまりX1 Carbonほどは突き詰めた軽量や薄さは必要ないけども、そこそこ薄くて軽くて、かつビジネスPCとしてCRUで簡単に各種パーツが交換できることが必須と考えるユーザーにとって、おすすめの製品と言える。

 14型液晶を搭載したノートPCを検討していて、かつビジネスPCとして必要な各種の機能やドッキングステーション、さらにはdGPUが必要と考えるのであれば、ThinkPad T460sは候補のリストに入れておいて欲しい。

(笠原 一輝)