笠原一輝のユビキタス情報局

VAIO新社長に聞く、2年目のVAIOが目指すところ

〜ロボット製造請負などの新規事業や北南米でのPC販売展開など

VAIO代表取締役大田義実氏

 昨年(2014年)の7月1日にソニーからスピンアウトする形で誕生したPCメーカーVAIO株式会社が、先日設立1周年を迎えた。それに先立つ6月8日に、新しい経営体制が発表され、設立時に代表執行役社長だった関取高行氏が取締役副会長になり(後日、オペレーション担当執行役員に就任)、代表取締役兼執行役員社長には大田義実氏が就任した。

 会社立ち上げから1年での経営陣の刷新というのは、日本人的には早すぎるのではないかという見方もあると思うが、新社長の大田氏によれば、「会社が自立するための変化」だという。今回、そうした2年目を迎えたVAIOをこれから引っ張っていくことになる大田氏に、新経営体制になった経緯、今後の経営方針などについて話を伺ってきた。

会社の立ち上げ期は終わり、今後は出口戦略を見据えての会社経営期へ

 今回の人事の背景にあったものはなんなのだろうか? この点について大田氏は「VAIOの創業時は、事業を開始したばかりということで、ソニー出身者に引き続きやって欲しいということだったと聞いている。しかし、会社が発足し、無事に新商品を展開することができ、回り始めてはいるが、まだ会社としては自立ができていない。そこでこれからはVAIOが単独の会社として自立していかないといけない、そういうフェーズに入ったことでこうした人事になった」と述べる。

 VAIO株式会社は、日本の投資ファンドである日本産業パートナーズが95%、ソニーが5%を出資することで始まった会社だ。現在の株主構成はそれから若干変更され、日本産業パートナーズが出資するVJホールディングス2株式会社が94.4%、ソニー株式会社が5%、経営陣が0.6%となっているが、依然として投資ファンドが出資し、その資金で運営されている企業であることに大きな変化はない。大田氏は日本産業パートナーズ側が指名した経営者で、名実共にソニーから分離した企業から、投資ファンドの出資を受け独立した企業へと脱皮した。

 そのVAIOの新社長になった大田氏は、これまでPC業界との関わりはあまりないと本人も言う。大田氏は、元々は大手総合商社の双日株式会社で、エネルギーの投融資、機械の販売、リテール事業などに関わっており、最終的には中国の総代表を務めたという経歴の持ち主。双日を退社した後は、本人曰く「社長請負業」という仕事をしており、ミヤコ化学株式会社の社長を務め、企業価値を向上させて別の会社に買収されるという形で成功させている。

 投資ファンドがVAIOに対して出資しているのは、純粋にビジネスとしてであることは言うまでも無い。従って最終的には何らかの形で、投資ファンドが持つ株式を、投資した分よりも高い金額にして、株式市場に上場するか、どこかの会社に買ってもらうことを狙っている。それを投資の世界では「イグジット(Exit)」と呼んでおり、そのための戦略を「出口戦略」と言うのだが、VAIOもその段階に入ったということだ。

 大田氏の言う「自立していない」というのは、現在のVAIOの経営状況が、投資ファンドが出資してくれた資金を使っている状態にある、ということだろう(VAIOは非上場であるため財務状況は公表されておらず、これは筆者の推測だ)。もちろん、その状態の会社を買ってくれる企業や、投資家などがいるはずもなく、早期に適正に利益を生み出す状態へと会社を導いていく必要がある。それが大田氏の役割ということだ。

30〜35万台という目標は修正し、収益面で30万台規模を目指す

 大田氏は、今後どのような形でVAIOを導いていくのだろうか。同氏によれば、PC事業に関しては、VAIOのコアビジネスとして引き続き重視していくことには何も変わらないという。

 ただし、VAIOが創業時に打ち出していた、2015年度に年産30〜35万台という目標は変更した。大田氏は「経営陣が変わったことで方針は変わった。新経営陣は、弊社の自立と収益意識を持つことを最重要視していく方針で、収益で30万台ベースを目指す」と述べる。つまり、30万台は出荷台数ではなく、30万台販売しているPCメーカーと同じ規模の収益を目指す。

 ここからは筆者の推測だが、おそらくこれはPC事業のロードマップをある時期に変え、それまで用意していた低価格モデルを破棄したことを意味しているのだろう。VAIOの現在の主力製品は、「VAIO Z」、「VAIO Z Canvas」というウルトラプレミアムの製品と、メインストリームを狙う「VAIO Pro | mk2」、ローエンドの「VAIO Fit 15E | mk2」になる。当初予定では、VAIO Fit 15E | mk2より低価格な製品が用意されていたが、やらないと変更したようだ。その結果として、利益が確保できるウルトラプレミアム、およびメインストリームの延長線上にあるな製品を今後展開していくことになりそうだ。

 大田氏はそうしたPC事業の収益性の改善のために重要な点として、営業体制の改善を挙げる。「ソニー時代のVAIOは営業が販売会社任せだったため、営業の声が事業部に反映されていないことがあったと聞いている。そこで、営業の人員を増やし、新たに設計陣の中からも技術営業と呼ぶ人員を増やし、直接お客様の声を吸い上げる体制を作りつつある。今後は設計も全員営業だという意識を持って、原点に戻ってお客様の声を聞いていきたい」(大田氏)との通りで、主に法人営業において、安曇野の本社にいる設計エンジニアから社内で公募した何人かが技術営業として直接顧客を回ったりしているという。そしてその声を、次世代の製品に直接反映して、より魅力的なビジネスPCを目指すとしている。

 こうした新しい取り組みと、従来から代理店となっているソニーマーケティングジャパンの営業を両輪として、うまく回していく、それが大田VAIO時代の営業ということになりそうだ。

 そうした営業力の強化は、既に効果が出始めている。例えば、従来までのビックカメラなどに加えて8月7日からはヨドバシカメラでも店頭モデルの扱いを始めており、徐々にユーザーが買いやすい環境が整いつつある。こうした状況はエンドユーザーとしては歓迎してよいだろう。

ロボット製造の受託などの新規事業とPC事業のグローバル化

 創業以来のVAIOはほぼ国内のPC事業にのみ集中していた。PC産業が好調であれば問題はないが、2015年はグローバルでも、国内市場でもPC産業全体は厳しい環境が続いている。そこで大田VAIOでは新規事業への展開と、PC事業のグローバル化という2つの新しい軸を打ち出す。

 「PCだけで生き残っていけるかと言えばそうではない。そこで、弊社の強みを生かした新規事業に乗り出していく。弊社の強みは、コンピューティングを中心とした技術力。それを生かせる分野であれば、(PC以外にも)どんどんと乗り出していきたい。例えば、受託事業は大きな可能性があると考えており、弊社のエンジニア達にそうした新しい事業へのヒントを探せと発破をかけ、既にPC設計のエンジニアから20人程度を新規事業に割り当てている」(太田氏)。

 実際、既にVAIOでは長野県安曇野市にある本社工場において、DMM.comで販売されるロボット「Palmi」(パルミ)の製造を請け負っている。Palmiの設計を担当しているのは富士ソフト株式会社なのだが、VAIOは富士ソフトと協力して量産ラインの立ち上げを行ない、生産を担当する。VAIOの本社工場は、元々ソニーEMCSというソニー子会社の生産会社だった時代にペットロボット「AIBO」の生産をしていた工場で、その時代のエンジニアも残っており、そうした事業に繋がっているのだという。

 大田氏は「弊社を立ち上げた時、PCを日本で内製するのはどうかという声もあった。しかし、本社工場を初めて見たときに、この会社の強みは本社工場にあると理解した。従ってその生産ラインを維持するために、できるだけの手を打っていく」と述べる。安曇野の本社工場こそがVAIOの強みであり、それを生かすため、PCの製造だけでなく、請負事業などを積極的にやっていく。大田氏によれば、そうした事業はロボットに限った話しではなく、例えば他社のプレミアムPCの設計・生産の受託などさまざまな可能性が考えられるという。

 PC事業の海外展開という点では、新たに米国とブラジルでVAIOブランドのPC販売を開始する。海外展開には2つの方法が考えられる。代理店を獲得して日本と同じように販売していく正攻法のやり方。もう1つはブランド生かしてやるやり方で、これは具体的には、VAIOの監視下の下、ODM先が製造した製品をVAIOブランドで販売する。米国では前者を、ブラジルでは後者のやり方で展開していく。

 米国ではVAIO Z Canvasの米国仕様版(キーボードなどが米国仕様になるVJZ12AXシリーズ)を、米国の流通業者であるtranscosmos Americaと販売代理店契約を結び、販売する。transcosmos AmericaがVAIOの米国サイトも運営し、販売にあたる。また、Microsoft Storeでも店頭やオンラインで販売される。

 これに対して、ブラジルではこれまでとは全く違った手法になる。ブラジルではPOSITIVO INFORMATICAとパートナー契約を結び、別のODMメーカーが製造するPOSITIVO INFORMATICA向け仕様の製品にVAIOブランドを付けて販売する。POSITIVO INFORMATICAはブラジルで自社ブランドのPCを販売するメーカーで、2013年の時点ではブラジル市場で15.3%のシェアを持つ。このPOSITIVO INFORMATICAが、現地製のVAIOを、同社が運営するブラジルのVAIOサイトを通じて販売する。

 大田氏によれば「ブラジルで生産されるVAIO PCは、POSITIVO INFORMATICAにとってのハイエンド製品となる。ブランドビジネスは積極展開はしないが、弊社にとっての利益にもなり、パートナーが見つかるようであれば取り組んでいきたい」と言う。VAIOブランドは、特にソニーブランドが強かった欧州やアジア地域で依然として高いブランド力を持っており、米国やブラジルでの取り組みが成功すれば、他の地域へも再びVAIOブランドのPCがもたらされるという可能性は十二分にあると言えるだろう。

3年が1つの区切り。できるだけ早期にファンドの手を離れることが目標

 インタビュー中、大田氏は、筆者の多くの質問に非常に率直に答えてくれた。それらを総括して重要なことは、大田氏が将来の製品について非常に柔軟に考えている点だ。

 例えば、現在ノートPCだけの展開になっているが、デスクトップPCを再度販売する展開はないのかと聞いてみたところ「検討中だ。安定した需要があるので、検討していきたい」と答えてくれた。ここ近年では、デスクトップPCの復権というか、ある特定の用途には移動できないデスクトップPCだからこそ便利という意見も聞かれる。だが、大手PCメーカーはデスクトップPCからは遠ざかり、デスクトップPCの選択肢はどんどん狭まっている。そうした中、VAIOブランドのデスクトップPCが登場すれば、魅力的な選択肢となる可能性がある。

 また、タブレットやスマートフォンの展開についても検討しているようだ。VAIOは、3月に日本通信との協業で「VAIO Phone」というAndroidスマートフォンを発表した。しかし、良い評価を得られたとは言えない状況だ。大田氏は「通信業界に出て行くというきっかけを作ったことはよかったが、今後は弊社がもっとしっかり関与する製品をやっていきたい」と述べており、VAIO PhoneではVAIO側の関与が足りなかったことが反省材料だったと認めている。ただし、従業員240名というVAIOにとっては、通信に関与するというには会社の規模が小さく、今後も通信関連のビジネスを行なう場合にはパートナーが必要だと付け加えた。いずれにせよ、今後もVAIOのスマートフォンやタブレット製品の可能性は残っており、今回の反省を生かした製品が期待できるのではないだろうか。

 今回のインタビューを通じて、大田VAIOは、会社立ち上げ時の安全運転からアクセルを踏んだ状態へと変革を目指していると筆者は感じた。大田氏は「VAIOの社員にとって目標とすべきは、良い意味でファンドにはできるだけ早期にお引き取り願うことだ。日本のファンドは、7〜8年持っている例もあるので一概には言えないが、3年が1つの区切りになると考えており、私の使命としてはそれをできるだけ早く達成することだ」と述べる。2年目にして経営陣刷新という転換点を迎えた同社だが、3年目にもさらなる変革が待ち受けているようだ。

(笠原 一輝)