笠原一輝のユビキタス情報局

Haswellが作り出す新しいデジタルデバイス市場



 Intelはまもなく次世代プロセッサとなる第3世代Coreプロセッサ・ファミリー(開発コードネームIvy Bridge)を発表するものと見られている。OEMメーカーはすでに製品の開発を終えており、Lenovoの例のようにIntelの発表に先駆けて搭載製品を発表するベンダーもある状況だ。

 それどころか、OEMメーカーは次々世代プロセッサ(Haswell、ハスウェル)ベースの製品開発も始めており、IntelからOEMメーカーへの情報開示も進んでいる。特に注目しているのは次々世代モバイルプラットフォーム「Shark Bay(シャークベイ)」。このプラットフォームではプロセッサとチップセット(Lynx Point)が1つになったシングルチップソリューションが用意されているなど、これまでのノートブックPC設計の常識を根本から覆すような製品になるからだ。

 Intelが言うところの“ノートPCの再定義”は、お題目だけでなく、実際に製品の計画も進められている。

●クアッドコア版とデュアルコア版が存在するHaswell

 OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはクライアントPC向けのHaswellには2つのダイおよび、3つのパッケージソリューションを用意しているという。

【図1】Shark Bayプラットフォームのブロック図(筆者予想)
【図2】Shark Bayプラットフォームのパッケージ構成(筆者予想)

 ダイで言えばSandy Bridge世代と同じようにクアッドコア(4コア)版、デュアルコア(2コア)版の2つのダイが用意されている。IntelがOEMメーカーに説明した情報によれば、Haswellのクアッドコア版は、各コア2MB、ダイ全体で8MBのLLC(Last Level Cache)を内蔵しており、AVX命令を拡張したAVX 2.0という拡張命令セットと、AES-NIの新命令セットが追加される。

 内蔵GPUコアはGT3と呼ばれ、プロセッサ内蔵グラフィックスとしては第3世代のエンジンを意味する。なお、SKUバリエーションとしてGT2、GT1も用意されるという説明がされている。

 チップセットのLynx Pointでは機能面での拡張も行なわれる。Panther Point(Intel 7シリーズ チップセット)で4基あったUSB 3.0ポートは6基に、2基あった6Gbps対応SATAポートは4基に増やされる。

 Shark Bayと前世代の最大の違いはパッケージ構成だ。Sandy Bridge世代では2チップ構成のみとなっていたが、Haswell世代ではクアッドコアこそ2チップ構成のみとなっているものの、デュアルコアは2チップ構成に加え、ULV版(超低電圧版)改めULT版(Ultrabook向けの意味)に関しては1チップ構成のパッケージが用意される。ただし、この1チップは、CPUとチップセットをネイティブで統合したものではなく、あくまでサブ基板上に2つのダイが載るMCMの形で提供されることになるという。

 つまり、GPUの統合がネイティブになったSandy Bridgeが登場する前に、MCMでGPUをサブ基板に統合して1チップとしたArrandaleというハイブリッド製品を間に挟んだように、今回もハイブリッドでまず統合を進め、しかる後にネイティブへと移行するという戦略がとられることになる。ネイティブに統合の場合には、統合した後にチップセット関連の機能に問題が発生した場合には、プロセッサ部分も含めてやり直しになるリスクがあるが、こうしたMCMでの統合はそうしたリスクが低く、第1段階としては妥当なやり方だと言える。

●アイドル時の消費電力が劇的に下がることになるShark Bayプラットフォーム

 Shark Bayプラットフォームのもう1つの特徴は、Panther Pointベースのプラットフォームと比較して、ピーク時の消費電力(熱設計消費電力、TDP)も、平均消費電力も減っていることだ。

 OEMメーカーから得た情報によれば、Ivy Bridge世代の標準電圧版デュアルコアのTDPは35Wとなっている。これに対して、Haswellのデュアルコアは37W、クアッドコアに関しては47W、57Wに設定されているという。これだけを見ると増えていると見えるかもしれない。しかし要注目なのはULT版だ。現在のSandy BridgeのULV版、および今後発表されるIvy BridgeのULT版に関しては、以前の記事で説明したとおり17WのTDPになっている。そしてHaswellのULT版のTDPは15Wに設定されており、従来製品よりも下がることになるのだ。

 しかも、Haswellでは平均消費電力も大きく下がる。Shark Bayプラットフォームでは、Intelとパーツサプライヤーが協力して開発している電力効率化の取り組みの成果が実装される。Intelに近い筋の情報によれば、この仕組みを採用することで、HaswellのULT版ではアイドル時の消費電力はわずか4分の1程度にまで減少するのだという。それにHaswell自体の設計による下落分も加わるので、非常に大きな平均消費電力の減少が期待できる。

 以前の記事でも触れたとおり、Ivy Bridgeの平均消費電力に関しても、22nmプロセスルールへと微細化することで現行のSandy Bridgeに比べて大きく削減されている。それに比べてもさらに下がるというのだから、PCを設計するエンジニアにとっては大きなメリットと言えるだろう。

●チップセットやメモリの消費電力も削減する

 消費電力が下がるのはプロセッサだけではない。チップセットのLynx Pointに関しても、TDPと平均消費電力が下がるという。「Lynx Pointの平均消費電力はPanther Pointの約半分になる」という説明を受けたと証言する関係者もおり、それが事実とすればプロセッサだけでなく、プラットフォーム全体でかなりの省電力が実現されることになる。

 現時点では確定情報はないのだが、おそらくLynx Pointは45nmプロセスルールで製造されるのだろう。Panther PointやCouger Pointはいずれも65nmプロセスルールで製造されており、32nmや22nmへと微細化が進んでいるプロセッサに比べてやや古めなプロセスルールで製造されてきた。このため、世代を新しくすれば平均消費電力の低下は容易に実現できるはずだ。

 このほかにも、Intelはプラットフォームレベルでの消費電力の削減に取り組む。サポートするメモリは、従来製品ではPC用として一般的に使われているDDR3やDDR3Lでのサポートに留まっていたが、HaswellではLPDDR3という、タブレットやスマートフォンなどのモバイル機器用のDRAMをサポート。DDR3は1.5V、DDR3Lは1.35Vだが、LPDDR3では1.2Vとさらに低い電圧で駆動が可能になっており、アクティブ時の電力はもちろんのこと、アイドル時の電力に関しても削減され、平均消費電力の低下を実現できるようになる。

●アイドル時の劇的な消費電力の削減でConnected Standbyの仕様をクリア

 こうしたさまざまな省電力化への取り組みにより、ULT版のShark BayはMicrosoftがWindows 8で導入するConnected Standby(コネクテッドスタンバイ)の仕様に適合することが可能だという。

 Connected Standbyとは、従来のPCのスタンバイである、S3(メモリサスペンド)、S4(ハイバネーション)、S5(ソフトオフ)というモードに加えて追加されるスタンバイモードで、システムステートはS0のままで、プロセッサや通信モジュールなどが動作しているがディスプレイがオフになっている状態のことを指している。プロセッサやモデムなどは動いているのでメールの受信などの機能は動作し続け、ディスプレイをONにすればすぐに状態を確認することができるようになる。要するに、スマートフォンなどのスタンバイモードと同じモードをPCに追加するモノだと考えればわかりやすいだろう。

 従来のPC用のプロセッサやメモリではこのConnected Standbyを実現するのはほぼ不可能に近かった。なぜかと言えば、PC用のプロセッサやメモリはアイドル時にもそれなりの消費電力を消費していたからだ。Microsoftが公開しているWindows 8のロゴ取得要件の資料によれば、Connected Standbyを実装するためには、Connected Standby状態で16時間が経過した後でもバッテリが5%しか減っていないという状態を標準で実現していなければならないとしている。

 もちろん5%というのはバッテリの容量に依存するが、一般的にUltrabookなどで利用される6セルのリチウムポリマーバッテリ容量である44Whで計算すると、16時間で2.2Whしか消費できない計算となる。つまり、Connected Standbyでの消費電力はディスプレイを除くシステム全体(モデムなども含む)で0.13W以下でなければならないことになる。ちなみに、現行のSV版のシステムでのアイドル時の消費電力はディスプレイも入れて5〜7W程度なので、ディスプレイで数Wだと考えても桁が1つ違うのは言うまでも無い。

 しかし、すでに述べたとおり、Haswellではアイドル時の消費電力が大幅に削減される。また、メモリもPC用に比べてアイドル時の消費電力が低いLPDDR3を選択することができるのだ。これにより、Shark BayのULT版ではモデムを計算に入れても前述の規定をクリアできるという。

 これが本当に実現可能であれば、PCの駆動時間のほとんどはアイドルになっているため、平均消費電力は大幅に下がることになる。つまり、今のノートPCと同じような容量で1日駆動できるPCが実現可能になる可能性は非常に高いと言えるだろう。

●ULT版Shark Bayの登場によりUltrabookは進化してポストPCの時代を切り開く

 そうしたスマートフォンやタブレットライクな機能の実装はそれだけではない。IntelはOEMメーカーに対して、GPSやジャイロセンサーといったタブレットやスマートフォンでは標準搭載されているセンサーをShark Bay世代では積極的に搭載して欲しいと呼びかけている。さらに、タッチ機能に関しても同様で、例えばIvy Bridge世代のUltrabookではタッチ機能を搭載したコンバーチブルなUltrabookを製造する場合には、13型以下は18mm以下、14型以上は21mm以下という薄さの要件を1mm緩和することも認めている。

 つまり、おそらく多くのユーザーが目にすることになる、Haswell/Shark Bay世代のUltrabookは以下のような製品になるだろう

【図3】現在のノートPCとShark Bay ULT以降のノートPCの比較(筆者予想)

 もはやこうなると、これまでタブレットと呼んできたスレート型タブレットとノートPCの間の垣根はないに等しい。OSもWOA(Winodws On Arm、ARM版Windows)が登場することにより、プロセッサの違いによる差も、x86版では既存のWin32アプリが動くぐらいの違いでしかなくなってくる。

 こうなってくると、純粋にフォームファクターの違い(クラムシェルかスレート型か)でしか区別できなくなるだろう。おそらく2014年から2015年にかけてこれまでノートPCと呼んできた製品、そしてこれまでタブレットと呼んできた製品は一度溶解し、大きな1つのデータデバイスの市場ができあがることになるだろう。それこそが明日の新しいPCの市場だ。

 最後に現時点でのShark Bayのスケジュールについて触れておこう。OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはShark Bayを3段階で発表する予定だという。まず第1弾としてSV版のクアッドコアを2013年の第2四半期に投入する。それから1四半期遅れて2013年の第3四半期にULT版のデュアルコア、つまり1チップ版のHaswellが投入される。SV版のデュアルコアはそれから1四半期後の2013年の第4四半期になる予定だ。

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(2012年 4月 12日)

[Text by 笠原 一輝]