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Ivy BridgeとHaswellが1年置きに入れ替わるIntelのロードマップ



●1年毎にメインストリーム4コアCPUからCPUが入れ替わる

 IntelのCPUアーキテクチャ刷新の波が見えてきた。まず、メインストリームの4コアが刷新され、次に2コア、4コア以上へと波及して行く。次のIvy Bridge(アイビーブリッジ)もHaswell(ハスウェル)も、メインストリームの4コア版から始まる。そして、2コア版へと迅速に展開して行くと見られる。これは、IntelのCPU設計でのモジュラー手法が、Sandy Bridge以降、定まってきたためだ。

 Intelは、Sandy Bridge(サンディブリッジ)からメインストリーム向けの4コア版を基本として、派生CPUを設計している。そのため、Sandy Bridge以降は、4コア版からサンプルの配布が始まり、バリエーションを広げて行く傾向にある。Ivy BridgeもHaswellもこのパターンだ。ただし、Sandy Bridge以降は、初めから2コア版の派生を前提としたモジュラー設計を取っているため、2コア版への製品展開は速い。IntelのCPUロードマップからも、この傾向は明瞭に見て取ることができる。

IntelデスクトップCPUロードマップ
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 図中の赤いラインはアーキテクチャの境界線で、これを見ると、かつてはハイエンドからCPUアーキテクチャが入れ替わっていたのが、Sandy Bridgeからはメインストリーム主導に替わったことがわかる。

 その一方で、IntelはAtom系コアについては、メインのPC市場からはフェイドアウトさせようとしている。PCロードマップでは、Atomがボトムのまま、製品ラインナップも拡張されずに留まっている。Intelは、Atomコアを非PCのモバイル機器向け専用へと限定することで、PCプロセッサとの棲み分けを明確にしようとしているようだ。

 IntelのCPU製品のSKU(Stock Keeping Unit=アイテム)の複雑化も明確な傾向だ。今では、Intelは同じ価格帯で、多数の異なる特長の製品をラインナップしており、そのため、ロードマップは複雑怪奇なものになっている。SKUが増えただけでなく、SKUを差別化する要素が増えたために、わかりにくい製品構成になった。

●最初に投入されるIvy Bridgeのダイは2種類か

 Ivy Bridgeには4種類のダイ(半導体本体)がある。基本となっているのは4CPUコアに8MB LLキャッシュ、大型GPUコアのGT2という最大構成の「Ivy Bridge 4+2」ダイで、ここからユニットを削ることで、他のダイを派生させている。

Ivy Bridgeのダイ
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 これらのダイのうち、まず、4コアのIvy Bridge 4+2と、4コアだがLLキャッシュ量が6MBでGPUコアが半分のGT1であるバージョン「Ivy Bridge 4+1」が登場する。デスクトップでの区分はIvy Bridge 4+2が主にCore i7系ブランド、Ivy Bridge 4+1が主にCore i5系ブランドだと推測される。ただし、キャッシュ量が6MBでもGPUコアが最大構成のIntel HD Graphics 4000系である場合は、Ivy Bridge 4+2ダイだと見られる。チョップエリアの関係から、6MB LLキャッシュでGT2のダイを作ることはできないからだ。Intel HD Graphics 2500ブランドのGPUコアがGT1だと見られる。

 デスクトップのデュアルコアについては、当面はIntel HD Graphics 2500搭載のIvy Bridge 2+1のダイになると見られる。Ivy Bridge 2+1は、3MB LLキャッシュにGT1 GPUコアのダイだ。Ivy Bridgeは22nmプロセスであるため、ダイが小さい。Ivy Bridge 4+2でも160平方mm程度だ。そのため、Ivy Bridge 2+1のダイ面積は100平方mmを大きく下回ると推測される。ロードマップ上のIvy Bridgeデュアルコア製品は、製造コストがそれだけ安いことになる。

Ivy BridgeとSandy Bridgeのダイのレイアウト
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 現在、Ivy Bridgeの2コア版は、まだCore i3系ブランドの製品までしか見えていない。しかし、ダイが小さく製造コストが低いことを考えると、Intelが22nmプロセスへの移行を順調に進めれば、迅速にPentiumとCeleronブランドの領域にも浸透すると見られている。全ては、22nmプロセスの安定にかかっているが、ダイ面積からは、バリューCPUエリアへと浸透させやすい。

Sandy Bridgeの2コアと4コアのダイレイアウト(推定)
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●膨れ上がったIntelの製品SKU

 かつて、IntelはCPUのSKUの差別化をほぼクロック周波数だけに置き、1四半期毎に1グレードずつ高クロック製品を下の価格帯へとずらすことで製品ラインナップを組んでいた。ロードマップ図の左の端の方は、そうした製品推移となっている。

 しかし、クロックの向上の鈍化と、マルチコア化とシステム統合化によって、差別化の要素は大きく変わった。IntelはSandy Bridge世代のデスクトップCPUでは、2つの要素で差別化がされている。1つは、すでに説明したモジュラー設計によるダイの多様化。もう1つは、パフォーマンスと電力による差別化だ。

 Intelは、Sandy Bridgeでは、デスクトップでもTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)やクロックのロック解除を差別化要素として、SKUを大幅に増やした。これをIvy Bridgeでも踏襲する。型番の末尾に何もついていない製品は通常TDP版でデスクトップでは4コアで77Wとなる。末尾にSがつくSKUは低消費電力の65W TDP版で、末尾がTのSKUはさらに電力を落とした35W/45W TDP版となっている。

 Intelの型番は、数字部分が価格レンジを大まかに示しており、例えば、Core i7-3700番台なら300ドル前後。しかし、末尾のアルファベットによって、TDPと動作クロックが異なる。一般に、Kが最も高クロックで、次が無印、Sで2-3グレードクロックが下がり、Tでさらに下がる。エンドユーザーからは、同じ数字の製品は、ほぼ同じ価格なので、クロックを確認しなければ、TDPの異なる製品に割高感を感じない。マーケティング上のトリックだが、Ivy Bridgeでも継続するのは、このパターンが受け容れられやすいと判断したからだと推測される。

 また、Sandy Bridge以降は、SKUが増えた代わりに、SKUの時間変化が少なくなっている。かつての1四半期毎の製品刷新のビートは、ほぼ消えている。

●Ivy Bridge以降Atomは終息

 Intelは、このところ、PC市場でのAtomについては、ほとんど音なしの構えを取っている。製品のプロモートにも全く熱心ではなく、製品展開も意欲的ではない。現在は、Core i系ブランドのCPUによるUltrabookに注力しており、PC市場でのAtomには力が注がれていない。

 Atom系コアは、Intelにとって諸刃の剣であり、既存PC市場のCPUを食ってしまうカニバライゼーション(共食い)の危険をはらんでいる。Intelはアナリスト向けカンファレンスの度に、カニバライゼーションが起こっていないことを強調しているが、そうした姿勢こそが、Intelがカニバライゼーションを恐れていることを示している。企業としては、より単価の高い製品へとユーザーを誘いたいのは当然だ。Intelは、顧客に対しては、Ivy Bridge以降の世代では、PC市場でのAtomをフェイドアウトさせて行くと説明しているという。実際には、すでにフェイドアウトしかかっていると言ってもいい。

 Intelにとってそれでも問題がないのは、Ivy Bridge世代になると、ローエンド製品のダイサイズは、従来のAtom系製品のダイサイズに近づくからだ。コスト面で競争力があるIvy Bridgeがあれば、Atomを無理にPC市場に留める必要は薄くなる。

 こうした状況で、Intelの大枠のCPU戦略は明瞭だ。PC市場はPC向けのハイパフォーマンスコア、非PCのモバイル市場はAtom系のローパワーコアと、棲み分けようとしている。Atom系を高パフォーマンスへと大きく発展させる路線ではない。

Intel CPUのダイサイズとマイクロアーキテクチャの移行図
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 Intelの次の大きなアーキテクチャ変更であるHaswellは、2013年前半に投入が予定されている。Haswellも、メインストリームの4コア版のダイが公開されており、製品計画でもメインストリーム4コアから投入される見込みだ。Intelは、Sandy Bridgeで確立した、メインストリーム4コアを基本として、そこから派生させるという設計手法を踏襲して行くと見られる。

4コアHaswellの概要
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