笠原一輝のユビキタス情報局

DirectX 11を武器にミニノート市場に切り込むAMD



AMD 副社長兼グラフィックス事業部 事業本部長のマット・スカイナー氏

 欧米の企業は、企業メッセージとしてのスローガンを広告などに掲げることが少なくない。例えば、Intelなら“Sponsor of Tomorrow”で、同社の広告などにそうしたメッセージを見ることできる。そのIntelのライバルであるAMDも例外ではなく、“The future is fusion”、つまり“未来はFusion(GPU、CPU統合型プロセッサ)にあり”が現在のスローガンとなっている。

 19日(台湾時間)に台北で行なわれたAMD Technical Forum and Exhibition 2010の中でAMDは、パフォーマンス向けプロセッサでCPUとGPUを統合した「APU」となる、Llano(開発コードネーム)のウェハとデモを初めて公開した。また、低消費電力向けAPUのZacate、Ontario(同)の2製品も改めて公開され大きな注目を集めた(関連記事参照)。

 副社長兼グラフィックス事業部 事業本部長のマット・スカイナー氏は「我々の競合他社はCPUだけ持っている会社と、GPUだけ持っている会社がある。しかし、我々は両方を持っている」と述べ、AMDの強みをアピールした。

●IntelもNVIDIAも持っているのは片方だけ、AMDだけが両方持っているとアピール

 このAMDのスカイナー氏の発言だが、これほどAMDのAPUの強みを示す言葉はないだろうと思う。

 AMDが競合他社と呼ぶ2社は言うまでもなく、IntelとNVIDIAだ。まず、IntelはCPU市場で80%を超えるシェアを持っているので、x86プロセッサに関しては非常に強力だ。しかし、GPUはどうだろうか? 確かにIntelは、GPUのトップシェアベンダーであり、GPU統合型チップセットの市場で揺るぎない地位を持っている(現在はそのGPUはCPU側に統合されている)。しかし、単体型GPU市場にLarrabeeで参入する計画を持っていたが、製品化を諦めるなど、性能面でのリーダーではないのはご存じの通りだ。

 もう1つの競合他社であるNVIDIAは、単体型GPU市場のシェアを、AMDと二分する強力なメーカーだ。特にGPUコンピューティングの市場では、AMDやIntelを大きく引き離しており、HPC市場で成功を収めつつある。だが、NVIDIAはx86プロセッサを持っていないし、参入する計画もない。

 こうして見ると、確かにCPUも、そしてそこに統合すべきGPUも、どちらも強力な製品を備えているのはAMDだけというAMD幹部の主張も頷けない話ではない。スカイナー氏はこのことを「これはPC業界のゲームのやり方を変えることになるだろう」と表現し、AMDが技術競争をリードしていくのだという強い意気込みを見せた。

スカイナー氏が示したスライド。IntelはCPUだけ、NVIDIAはGPUだけしか持っていないが、AMDは両方を持っているということを意味するスライド Intelの統合の仕方と、AMDの統合の仕方を比較したスカイナー氏のスライド。IntelはIGP(Integrated Graphics Processor、統合型GPU)を統合して、EPG(Embedded Processor Graphics、組み込み型CPUとGPU)としたが、AMDは単体型GPUをCPUに統合したAPUになったという意味 AMDがAPUでPC業界のルールを変えると、スカイナー氏

●Sandy Bridgeに対するアドバンテージはDirectX 11対応

 すでに述べたように、NVIDIAはx86プロセッサという“カード”を持っていないし、自ら持つことはないと宣言しているので、x86ベースのCPUとGPUを統合したプロセッサという意味で、直接のライバルになるのは、Intelが“第2世代Coreプロセッサ・ファミリー”と呼ぶSandy Bridge(開発コードネーム)だ。

 将来製品の比較で「DirectX 11をサポートしていることは競合他社との差別化という意味では大きい」(AMD 副社長兼クライアント事業部 事業本部長 クリス・コーラン氏)との通り、AMDのLlano、Zacate、OntarioはDirectX 11対応が大きなポイントとなる。というのも、Sandy Bridgeの内蔵GPUはDirectX 11に対応していないからだ。

 Intelは9月にサンフランシスコで行なわれたIDF 2010において、Sandy Bridgeについてかなり詳しく説明した。そこにはGPUの内部構造なども含まれており、ほとんどの情報が公開されたといってよい。ところが、DirectXのどの世代に対応しているのか、IntelはIDFで公開することを文字通り“拒否”した。記者会見やセッションなどでも何度も質問がでたのだが、それに関しては答えられないの一点張りで押し通したのだ。

 実はOEMメーカー筋などには、すでにSandy BridgeのGPUがDirectX 10にしか対応していないことが明らかにされている。そうした意味では、“公然の秘密”なのだが、それでもIntelは明らかにしなかったのだ。なぜかと言えば、それは集まった技術系の記者などにそのことに触れて欲しくなかったからだ。

 逆に言えば、AMDにとっては、そこがIntelとの差別化のポイントになるわけで、今回のTFEでもAMDの幹部は盛んにDirectX 11という言葉を使ってアピールに努めた。「我々のGPUは、DirectX 11に対応したGPU市場で実に90%のシェアを占めている。さらに、DirectX 11に対応したほとんどのゲームは、AMDのGPU上で開発されている」(スカイナー氏)との言葉の通り、AMDはNVIDIAに対してもDirectX 11対応で半年のアドバンテージを持っていた。NVIDIAのGPUがDirectX 11に対応したのはここ1〜2四半期の話であり、先日ようやく低価格向けの製品もリリースされたばかりであるので、DirectX 11対応GPUというくくりでAMDの市場シェアが90%というのも頷ける話だ。

AMDが強くアピールするいわゆるDirectX 11 DirectX 11がすでに多くのゲームに採用されている DirectX 11に対応したGPUでは90%のシェアを占めていると、AMDがDirectX 11市場をリードしていることをアピールしている

●GPUとCPU間のレイテンシが削減される

 もちろんAMDのAPUのメリットはそれだけではない。AMD フュージョンエクスペリエンスプログラム担当副社長 マンジュ・ヘッジ氏は「APUのメリットはいくつかあるが、GPUとメモリ、CPU間のレイテンシが短くなることで、GPGPUの開発者にとっては大きなメリットがある。また、CPU、GPU間でのデータのやりとりはCPU内部のバスで完結し、消費電力が比較的大きなPCI Express上を大量のデータが行き交うこともなくなるので、消費電力の面でも大きなメリットがある」とアピールした。

 GPUコンピューティングのようなGPUを利用した演算をアプリケーションから行なわせる場合、アプリケーションの起動やデータの読み出しはCPUを利用して行なわれる。そしてメインメモリ上にあるデータをGPUのメモリにコピーしてから演算が行なわれる。現在のように、GPUがPCI Expressバス上にあり、この時に大量のデータがPCI Expressバス上を通過し、かつGPUはそのデータが読み込まれるまでの遅延(レイテンシ)が発生することになる。これに対してAPUでは、CPUとGPUが同じチップ上にあり、かつ同じメモリを共有しているため、遅延は圧倒的に少なくなるのだ。

 ただし、同じメインメモリを共有することになるので、GPUから見れば帯域幅が十分でなくなるという弱点もある。現在の単体型GPUは、専用のビデオメモリを持っており、帯域幅はCPU用のメモリに比べて広帯域幅となっている。しかし、APUではCPU用にレイテンシを最適化されたメインメモリを利用するため、帯域幅が単体型GPUに比べて狭くなってしまう。これは今後の課題ともいえ、将来的にはGPU用のDRAMをダイスタッキング(複数のダイを接続する形)の形で搭載したりなどの解決策がとられることになるだろう。

 なお、今回のTFEでもAPUのプラットフォーム面に関しては語られなかった。プラットフォームに関してAMDのコーラン氏は「APUではPCI Expressで接続された1チップのチップセットがサポートされる」とだけ示し、それ以上の詳細を説明しなかった。ただし、コーラン氏の基調講演で示されたスライドには、Hudson(ハドソン、開発コードネーム)と書かれたチップセットがブロックダイアグラムに示されており、M2、M3というSKUと思われるコードネームも書かれているので、おそらく複数のSKUが存在しているのだろう。

AMD フュージョンエクスペリエンスプログラム担当副社長 マンジュ・ヘッジ氏 コーラン氏が示したLlanoのブロックダイグラム GLOBALFOUNDRIES の32nmプロセスルールで製造されたLlanoのウェハを示すAMD 副社長兼クライアント事業部 事業本部長 クリス・コーラン氏

●ミニノートPCやネットブック市場に切り込むZacateとOntario

 ユーザーにとって気になるリリース時期だが、以前のレポートでお伝えしたように、ZacateとOntarioが今四半期中に出荷、来年初頭に製品発表、Llanoが来年前半中に出荷を目指すというスケジュールには変更はない。

ZacateとOntarioの違いを説明するスライド。今後Intelの独壇場だったこれらの市場にAMDが本格的に参入することになる。 コーラン氏が公開したZacate(左)とLlanoの裏側(右)。残念ながらLlanoは裏側のみ…

 日本のユーザーにとって気になるのは、日本でどの程度ZacateやOntario、Llanoを搭載した製品がメーカーに採用されるかだろう。この点に関してはコーラン氏は「日本でもすでにいくつかの(a few)デザインウインがある」と、採用が決まっているものがあることを明らかにしている。a fewという表現は微妙ではあるが、少なくとも0ではないということだ。

 ZacateのTDPは18W、OntarioのTDPは9Wと明らかにされている。これを見れば、明らかにターゲットとなるのは18Wの方はいわゆるULVのCore iシリーズが搭載されている薄型軽量ノート(いわゆるミニノートPC)であり、Ontarioの方はAtom Nシリーズが搭載されているネットブックということになる。また、コーラン氏は「ノートブックやネットブックだけではない、チャネル向けのマザーボードやAIOなどのデスクトップPCも対象になる」とも語っており、Mini-ITXなどの小型マザーボードやAIO(液晶一体型デスクトップPC)などの製品もZacateやOntarioのターゲットに十分なり得る。

 これらの市場は現在のところIntelの独占市場であり、そこに風穴を開けることができただけでもAMDにとっては大きな勝利と言えるだろう。

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(2010年 10月 20日)

[Text by 笠原 一輝]