多和田新也のニューアイテム診断室

定番ベンチマークソフトがDX11世代へ「3DMark 11」



 既報の通り、FutureMarkは12月7日に「3DMark 11」を発表した。GPU(ビデオカード)のベンチマークソフトとして、とくに日本においては定番ともいえるソフトウェアが、ついにDirectX 11(DX11)世代へと進化した。すでに試された読者も多いと思う。ここでは、3DMark 11の概要と、主なビデオカードによる結果を紹介したい。

●利用可能な機能別に3種類のエディション

 まずは3DMark 11の概要をまとめておこう。3DMark 11は、従来の3DMarkシリーズと同じように、無料版と有料版が用意される。無料版はBasic Edition、有料版はAdvanced Edition、Professional Editionの2製品となる。FutureMarkから公開されている機能の違いをまとめたものが表1だ。

【表1】3DMark 11のエディションによる機能の違い

BasicAdvancedProfessional
価格無料19.95ドル995ドル
商業利用××
チェック可能な
 3DMark Score
Entry プリセット×
Performance プリセット
Extreme プリセット×
カスタムセッティング×
オフラインのテストスコア表示×
実行可能テストGraphics Test 1
Graphics Test 2
Graphics Test 3
Graphics Test 4
Physics Test
Combined Test
デモ(720p)
デモ(ユーザ指定解像度)×
機能実行回数制限
オフラインのリザルト管理×
ベンチマークのループ実行×
デモのループ実行××
イメージクオリティツール××
コマンドライン実行××
オンライン機能個人アカウント利用
リザルト表示・検索・比較
リザルト保存領域の容量制限×
広告表示消去×
プライオリティ・サポート××

 無料版のBasic Editionはかなり機能が制限されており、実行できる設定のプリセットはPerformanceプリセットのみになる(画面1、2)。つまり、解像度やクオリティなどを変更してテストすることができないわけだ。一方で旧バージョンの「3DMark Vantage」の無料版は、一度しか実行できないという制限があったが、これは撤廃されて、何度でも実行できるように変更されている。

 このほか、Basic Editionは結果表示がオンライン経由のみで、結果をファイルとして残せないほか、広告が表示される、といった制限が設けられている(画面3)。

 Advanced Editionは19.95ドルと、日本円で2,000円程度の価格であるが、ほぼフル機能に近いエディションだ。Performance以外のEntryやExtremeといったプリセットを指定可能になるほか、解像度やクオリティを自由に設定してテストを行なうこともできる。また、結果をオフラインにファイルとして残しており、後日再確認する、といったこともできるし、広告も表示されなくなる。

 Professional Editionは995ドルと、10万円コースで、商業利用やエンジニアなどに向けたエディションといっていいだろう。Advanced Editionとの大きな違いは、イメージクオリティツールと、コマンドライン実行が可能になる点だ。イメージクオリティツールはテストの特定のフレームをファイルとして保存するもの。コマンドライン実行はバッチ実行を可能にするもので、例えば複数の解像度をまとめてテストしたい場合に便利なものだ。

 Professional Editionの2つの機能は多くのユーザーにも有用ではあるが、そのために支払う金額としては少々高価ではある。多くのユーザーは、とりあえず何度でも実行可能になったBasic Editionを試し、ベンチマークが好きなユーザーはさまざまな条件でテストを実行できるAdvanced Editionで十分なのではないだろうか。

【画面1】Basic Editionのメイン画面はPerformanceプリセットのみを選択可能。下部のFull 3DMark Experienceはデモとベンチマークの両方を実行する。ベンチマークだけを行なうこともできる【画面2】Basic EditionのAdvancedタブはすべてグレーアウトしており、カスタムセッティングができない【画面3】Basic Editionの結果表示はオンラインのみとなる
【画面4】Advanced EditionならびにProfessional Editionのメイン画面は3つのプリセットから選択実行が可能【画面5】Advanced EditionならびにProfessional EditionのAdvancedタブはテスト条件の各種カスタマイズが可能
【画面6】Advanced EditionならびにProfessional Editionの結果表示。オフラインでも3DMark Scoreを確認できるほか、リザルトファイルの保存・読み出しが行なえる【画面7】Professional Editionのみで利用可能なProfessionalタブ。イメージクオリティツールは指定テストの指定フレームをビットマップファイルとして保存できる機能だ

●グラフィックステストと物理処理テストが中心に

 3DMark 11で用意される3つのプリセットであるが、その設定は画面8~10のとおりだ。画面解像度、アンチエイリアス、異方性フィルタのほか、テッセレーションファクター、シャドウマップの解像度、照明やアンビエントオクルージョン、被写界深度のクオリティなどが異なっている。

 決められたプリセットかつ指定のベンチマークテストをすべて実行した場合には、総合スコアである3DMark 11 Scoreが表示されることになるのは3DMark Vantageと同じ仕組み。Entryプリセットで実行した場合は“E0000”、Performanceプリセットでは“P0000”、Extremeプリセットでは“X0000”といったスコアが表示される。

 Advanced Edition以上でカスタムセッティングを用いた場合、個別のベンチマークテストを実行して、個別スコアやフレームレートを確認することができるが、3DMark 11 Scoreは表示されないことになる(画面11)。

 スコアはオンラインのビューワで詳細に確認できる(画面12)。後述のテストごとのスコア、各テストのフレームレートなどが表示される。

 さて、3DMark 11で実行されるテストは、グラフィックステストである「Game Test 1~4」。そして物理処理テストの「Physics Test」、両方の処理を包含する「Combined Test」である。Game Test 1~4の結果はGraphics Score、Physics Testの結果はPhysics Score、Combined Testの結果はCombined Scoreに関係し、この3つのスコアを総合したものが3DMark 11 Scoreとなる。ゆえに、1つでも実行していないと3DMark 11 Scoreが算出されないわけだ。

 ちなみに3DMark 11 Scoreの算出は、3つのスコアに一定の比重をかけたものを合算して行なわれる。この比重はEntry、Performance、Extremeの各プリセットで異なっており、EntryよりもExtremeのほうがGraphics Scoreの比重が重くなる一方で、Physics Scoreの比重はEntryのほうが重くなるように設定されている。Combined Testの比重は各プリセットで共通だ。

 つまり、EntryプリセットではGPU/ビデオカードにかかる負荷が軽いため相対的にCPUが重視される、Extremeはその逆の環境となるわけで、3DMark 11 Scoreの算出も、それに沿ったものとなっていることになる。

【画面8】Entryプリセットの設定内容【画面9】Performanceプリセットの設定内容【画面10】Extremeプリセットの設定内容
【画面11】カスタムセッティングを利用した場合、右上の実行ボタンが「Run Custom」となり、実行後は3DMark 11 Scoreは出力されない【画面12】オンラインのリザルトビューワでは、各テストの結果、実行環境、クオリティ設定などを確認できる

 DX11世代となった3DMark 11では、各テストにさまざまなDX11を活用した技法が取り入れられている。テッセレーションを用いてジオメトリレベルでオブジェクトを高精細化するほか、ジオメトリシェーダを活用したブロークン・エフェクトと呼ばれる技法で表現される被写界深度、光の経路を表現するボルメトリック・ライティングなどが取り入れられている。

 またDirect Computeによる演算を随所に取り込んでいるほか、CPUで実行される物理処理はマルチスレッド処理が可能になっている。

 各テストの概要は次のとおりとなる。

○Graphics Test 1

 「Deep Sea」と呼ばれるデモを用いたベンチマークテスト。ボルメトリック・ライティングを、ノイズの多い(濁った)水のなかで表現し、多数のシャドウキャスティングを行なったグラフィックスとなる。テッセレーションは使われていない。


○Graphics Test 2

 同じくDeep Seaデモを用いたもの。Graphics Test 1ほどのシャドウキャスティングはないが同じようにボルメトリック・ライティングの表現を行なうほか、岩や珊瑚、沈没船の表現にテッセレーションを用いている。


○Graphics Test 3

 「High Temple」と呼ばれるデモを用いたベンチマークテスト。1つの直接光と中程度のポイント光によるシャドウキャスティングが行なわれるほか、寺院や森林の表現にテッセレーションを用いている。


○Graphics Test 4

 同じくHigh Templeを用いたベンチマークテスト。こちらは夜の空間を表現したシャドウの処理が行なわれるほか、テッセレーション処理が施されている。High Templeは寺院や森林を表現するうえで、先のDeep Seaに比べると高負荷なテッセレーション処理が行なわれている。


○Physics Test

 剛体(rigid body)で組まれた神殿風のオブジェクトが崩れるシーンを物理演算で表現するテスト。物理演算のエンジンにはオープンソース物理演算ライブラリのBullet Physicsを用いている。3DMark VantageではPhysXエンジンが用いられたが、デフォルト設定ではCUDAを用いることからGeForceシリーズで利用する際にはPhysXエンジンをCPU処理するための設定を行なう必要があった。3DMark 11のBullet PhysicsはCPUベースで実行するようになっている。

○Combined Test

 剛体の物理処理、ボルトリック・ライティングの表現、テッセレーション処理、Direct Computeによるソフトボディの処理が組み合わされた複合テスト。

●ベンチマーク結果とイメージクオリティ比較

 それでは、ベンチマーク結果を紹介する。テスト環境は表2のとおり。今回は、ASUSTeK、NVIDIA、XFXの協力を得て、総計11枚のビデオカードでテストを行なっている。使用機材は写真1~11のとおりだ。

【表2】テスト環境
ビデオカードGeForce GTX 580 (1.5GB)
GeForce GTX 580 (1.28GB)
GeForce GTX 480 (1.5GB)
GeForce GTX 470 (1.28GB)
GeForce GTX 460 (768MB)
GeForce GT 430 (1GB)
Radeon HD 5870 (1GB)
Radeon HD 5770 (1GB)
Radeon HD 5670 (1GB)
Radeon HD 6870 (1GB)
Radeon HD 6850 (1GB)
グラフィックドライバGeForce Driver 263.09βCatalyst 10.11Catalyst 10.10
CPUCore i7-860(TurboBoost無効)
マザーボードASUSTeK P7P55D-E EVO(Intel P55 Express)
メモリDDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24)
ストレージSeagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)
電源KEIAN KT-1200GTS
OSWindows 7 Ultimate x64

【写真1】Radeon HD 5870を搭載する、XFXの「HD-587A-ZNF9【写真2】Radeon HD 6870を搭載する、XFXの「HD-687A-ZNFC【写真3】Radeon HD 6850を搭載する、XFXの「HD-685X-ZNFC
【写真4】Radeon HD 5770を搭載する、ASUSTeKの「EAH5770 CUCore/2DI/1GD5【写真5】Radeon HD 5770を搭載する、ASUSTeKの「EAH5670/DI/1GD5【写真6】GeForce GTX 580を搭載する、GALAXY Microsystemsの「GF PGTX 580/1536D5
【写真7】GeForce GTX 570のリファレンスボード【写真8】GeForce GTX 480のリファレンスボード【写真9】GeForce GTX 470を搭載する、玄人志向の「GF-GTX 470-E1280HD
【写真10】GeForce GTX 460を搭載する、ASUSTeKの「ENGTX460 DirectCU TOP/2DI/768MD5【写真11】GeForce GTX 460を搭載する、ASUSTeKの「ENGT430/DI/1GD3 (LP)

 結果は3DMark 11 Scoreをグラフ1、Graphics Scoreをグラフ2、Physics Scoreをグラフ3、Combined Scoreをグラフ4に掲載。また、各テストにおける全フレームレートも表3、表4に掲載している。

【グラフ1】3DMark 11 Score
【グラフ2】Graphics Score
【グラフ3】Physics Score
【グラフ4】Combined Score

【表3】各テストの結果(Radeonシリーズ)

HD 5870HD 6870HD 6850HD 5770HD 5670
EntryGraphicsTest135.531.3325.4620.9712.45
GraphicsTest233.1831.4225.6119.2411.49
GraphicsTest338.7838.13223.2114.96
GraphicsTest417.7118.8715.811.447.62
PhysicsTest20.2720.3120.2820.3420.31
CombinedTest22.0521.5518.3713.878.79
PerformanceGraphicsTest122.1619.0815.3912.287.12
GraphicsTest221.0119.5515.8511.946.96
GraphicsTest324.8124.2620.4114.358.96
GraphicsTest410.7211.59.636.834.33
PhysicsTest20.2820.320.3120.3220.36
CombinedTest18.6418.0815.4311.227.06
ExtremeGraphicsTest17.956.685.374.222.42
GraphicsTest28.087.055.624.412.46
GraphicsTest37.026.295.173.842.13
GraphicsTest43.843.542.842.211.21
PhysicsTest20.2620.3220.2420.3320.29
CombinedTest8.117.396.24.42.58

【表4】各テストの結果(GeForceシリーズ)

GTX 580GTX 570GTX 480GTX 470GTX 460GT 430
EntryGraphicsTest144.4238.9438.1730.9423.797.38
GraphicsTest244.9739.1538.7331.2722.97.19
GraphicsTest362.354.1953.7443.6629.729.64
GraphicsTest432.7428.6128.5723.115.865.44
PhysicsTest19.2119.3218.6319.219.2219.23
CombinedTest22.8823.0521.3722.9915.695.09
PerformanceGraphicsTest125.1121.8621.5117.2712.974
GraphicsTest226.4322.8722.8118.2213.364.22
GraphicsTest336.9731.6231.7625.3317.125.72
GraphicsTest418.7216.2616.0913.028.673.15
PhysicsTest19.2419.3219.2319.219.2619.17
CombinedTest22.822.4822.6118.5812.033.95
ExtremeGraphicsTest18.997.857.686.164.541.53
GraphicsTest29.187.947.966.274.61.45
GraphicsTest38.767.457.475.884.341.34
GraphicsTest45.454.734.623.662.680.94
PhysicsTest19.2419.2519.2419.2219.1219.2
CombinedTest9.968.328.566.684.781.54

 スコア自体はメーカーごとに価格帯の順に並んでいる。RadeonとGeForceの比較では、Graphics Test 1~3の差に比べると、Graphics Test 4のフレームレートでGeForce勢が良好な傾向が出ているのが特徴といえる。

 Physics Scoreについては、Radeon勢のスコアが良好だ。低解像度のグラフィックス表示でCPU処理が高まるシーンにおけるドライバの素行の良さを感じさせる結果といえる。

 ちなみにGeForce GTX 480のみ、ややPhysics Testのスコアが安定しない傾向が出た。原因は不明なのだが、Combined TestでもGraphics Scoreから見ると不調な結果に終わっている。結果として3DMark 11 Scoreにも影響は出ているわけで、ドライバなのかアプリケーション側なのかははっきりしないが、今後改善されることがあれば、このスコアはもう少し伸びることになるだろう。

 続いては、イメージクオリティツールの実行結果を紹介しておきたい。環境は上記のとおりである。

 なお、イメージクオリティツールにおいてはDirectX SDKを用いて描画するリファレンスラスタライザが備わっており、本来はこれを基準にする必要がある。しかしながら、今回テストしたところ、DirectX SDKをインストールした環境においてもリファレンスラスタライザ使用時にエラーが表示されてしまい、実行することができなかった。

 そのため、ここではあくまで参考程度ということで、Radeon HD 6870およびGeForce GTX 570を用いてレンダリングした結果のみを掲載するに留める。

【画面23】Graphics Test 1(173フレームめ)、Radeon HD 6870使用【画面24】Graphics Test 1(173フレームめ)、GeForce GTX 570使用
【画面25】Graphics Test 2(664フレームめ)、Radeon HD 6870使用【画面26】Graphics Test 2(664フレームめ)、GeForce GTX 570使用
【画面27】Graphics Test 3(629フレームめ)、Radeon HD 6870使用【画面28】Graphics Test 3(629フレームめ)、GeForce GTX 570使用
【画面29】Graphics Test 4(448フレームめ)、Radeon HD 6870使用【画面30】Graphics Test 4(448フレームめ)、GeForce GTX 570使用

●高負荷なDX11ベンチマークとしての存在感

 テスト結果はざっくりとした紹介に留めているが、PerformanceやExtremeのプリセットは非常に高負荷な描画を行なうベンチマークソフトとなっている。3DMarkシリーズは登場初期には非常に高負荷で、1~2年でGPU側の性能が追いつくといった傾向があり、今回もこれに近いものだ。

 DX11タイトルのベンチマークソフトはいくつか登場しており、本コラムでも使用しているが、現実性のある動きが求められるゲームタイトルではここまでの高負荷な処理は施せないのが現実だろう。その意味では、実際のゲームタイトルがやりたくてもできないようなグラフィックスを、ベンチマークソフトという特性を活かして盛り込んでいるともいえる。

 3DMark 11の価値は、現時点ではあくまで高負荷なDX11描画の性能評価を行なうソフト、というものに留まる。だが、将来的にGPUの性能が上がり、3DMark 11で使われている技法が実際のゲームタイトルに盛り込まれることがあれば、ますますその価値は増すことになる。そうした点にも注目して見守り、そして活用していきたい。