多和田新也のニューアイテム診断室

Phenom IIに追加された新ラインナップを試す



 AMDは21日、Phenom IIシリーズやAthlon IIシリーズの新ラインナップを追加した。幅広い新製品が投入されているが、ここでは、Phenom IIは6コアの中位モデル、4コアの最上位モデルに注目して、両製品のパフォーマンスをチェックしたい。

●コアのリビジョンなどに変更はなし

 今回リリースされたAMDの新CPUは、ざっくりまとめると以下の通りだ。括弧内は定格クロックとTDPを表す。

・Phenom II X6 1075T(3.0GHz、125W TDP)
・Phenom II X4 970 BE(3.5GHz、125W TDP)
・Phenom II X2 560 BE(3.3GHz、80W TDP)
・Athlon II X4 645(3.1GHz、95W TDP)
・Athlon II X2 265(3.3GHz、65W TDP)
・Athlon II X4 615e(2.5GHz、45W TDP)
・Athlon II X2 250e(3.0GHz、45W TDP)

 基本的には従来の各シリーズに100MHzまたは200MHz増しの最上位モデルを追加した格好になっているが、Phenom II X6のみは現行2モデルの中間に位置付けられるモデルが追加されている。今回はこの新しい6コア製品と、Phenom II X4の最上位モデルとなったPhenom II X4の2製品をテストする。

 まず、Phanom II X6 1075Tの主な仕様を表1にまとめた。また製品写真とCPU-Zの結果を写真1、画面1に示す。これらの情報を見ても分かる通り、1090Tや1055Tで使われたThubanのE0リビジョンのコアを使いつつ、バリエーションを増やした格好となる。ただし、Turbo CORE有効時の引き上げ幅は500MHzとなっており、モデルナンバー末尾の数字が「5」となっているのは、これが理由だろう。

【表1】Phenom II X6 1075Tの主な仕様
 Phenom II X6 1075TPhenom II X6 1090TPhenom II X6 1055TPhenom II X6 1055T
OPNHDT75TFBK6DGRHDT90ZFBK6DGRHDT55TFBK6DGRHDT55TWFK6DGR
動作クロック
(Turbo CORE時)
3.0GHz(3.5GHz)3.2GHz(3.6GHz)2.8GHz(3.3GHz)2.8GHz(3.3GHz)
L1データキャッシュ64KB×6
L2キャッシュ512KB×6
L3キャッシュ6MB
HT Linkクロック2.0GHz
TDP(最大)125W95W

【写真1】6コアの中間モデルとなるPhenom II X6 1075T【画面1】Phenom II X6 1075TにおけるCPU-Zの結果

 一方、Phenom II X4 970 Black Edition(以下、Black EditionはBEと表記)に関する主な仕様などは、表2、写真2、画面2に示す。こちらは従来の最上位モデルであったPhenom II X4 965 BEから100MHz増して3.5GHz動作となる。コアはPhenom II X4 965 BEと同じDenebのC3リビジョンが使われており、こちらもコアに変化はないことになる。

 

【表2】Phenom II X4 970 Black Editionの主な仕様
 Phenom II X4 970 BEPhenom II X4 965 BE
OPNHDZ970FBK4DGMHDZ965FBK4DGM
動作クロック3.5GHz3.4GHz
L1データキャッシュ64KB×4
L2キャッシュ512KB×4
L3キャッシュ6MB
HT Linkクロック2.0GHz
TDP(最大)125W

【写真2】4コアの最上位モデルとして登場したPhenom II X4 970 Black Edition【画面2】Phenom II X4 970 BEにおけるCPU-Zの結果

●AMD製品間での性能比較

 それではベンチマーク結果の紹介に移りたい。テスト環境は表3に示した通りで、テスト対象製品の上下に位置付けられるCPUと比較し、今回の新製品の性能傾向を見ることにしたい。Phenom II X6 1055Tは95W TDP版、Phenom II X6 965 BEは125W TDP版である。

 なお、今回は時間の都合で、普段の本コラムで行なっている全テストは行なっておらず、一部のテストに留まることをご了承いただきたい。

【表3】テスト環境
CPUPhenom II X6 1075T
Phenom II X6 1090T
Phenom II X6 1055T
Phenom II X4 970 Black Edition
Phenom II X4 965 Black Edition
チップセットAMD 785G+SB710
マザーボードASUSTeK M4A785TD-V EVO
メモリDDR3-1333(2GB×2/9-9-9-24)
グラフィックス機能
(ドライバ)
Radeon HD 5870
(Catalyst 10.8)
ストレージSeagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)
電源KEIAN KT-1200GTS
OSWindows 7 Ultimate x64

 まずはCPUおよびメモリ周りの性能である。テストはSandra 2010 SP2のProcessor Benchmark(グラフ1)、PassMark Performance TestCPU Test(グラフ2)、Sandra 2010 SP2のCache & Memory Benchmark(グラフ3)である。

 基本的にはクロックに準じて順当な性能傾向を見せている。CPUベンチはマルチスレッド化されていることもあって、スペックに準じた素直な結果が出やすい。PassMarkの整数演算については、誤差の影響で順序が入れ替わってしまっているが、逆にいえば、シチュエーションによっては、どの製品でもあまり変わらない性能が出ることもあり得る。

【グラフ1】Sandra 2010 SP2 (Processor Arithmetic/Multi-Media Benchmark)
【グラフ2】PassMark Performance Test 7 (CPU Test)
【グラフ3】Sandra 2010 SP2(Cache & Memory Benchmark)

 続いては実際のアプリケーション、3D関連のベンチマークテストである。テストはPCMark Vantage(グラフ4)、CineBehch R11.5(グラフ5)、POV-Ray(グラフ6)、HD動画のエンコード(グラフ7)、3DMark Vantage(グラフ8、9)、Far Cry 2(グラフ10)、Lost Planet 2 Benchmark(グラフ11)である。

 PCMark Vantageのように若干誤差が大きめのテストもあるが、全体には順当な結果だ。興味深いのは、Phenom II X6 1055Tや1075TをPhenom II X4 970/965あたりが上回るシーンが散見されること。6コアのメリットが色濃いシーンはもちろんあるものの、用途によっては4コアの方が良いということになる。これはある意味では、思い通りにいっていない結果ともいえる。というのも、例えば、Phenom II X6 1075TのTurbo CORE有効時のクロックは、Phenom II X4 970 BEと同じクロックである。スレッドが少ない状態でTurbo COREがうまく働けば、目立って劣るスコアは出にくいはずなのである。もっともクアッドコア世代のベンチマークテストには4スレッド稼働を想定したものもあり、そうしたベンチマークソフトではTurbo COREの良さが出にくいという不利はある。

 もう1つ不思議な結果になったものをピックアップしておくと、Lost Planet 2 BenchmarkのPhenom II X4 965 BEが少々悪すぎる印象がある。本ベンチはCPU処理がマルチスレッド化されているので、GPUがボトルネックになりにくい低解像度の結果は、おおよそほかのマルチスレッド対応ソフトと似たような傾向が出た。ただ、解像度が上がることで、Phenom II X4 965 BEだけが一気にスコアを落としてしまっている。解像度が上がることでCPUへの負担が増すこともあり、Phenom II X4 970 BEならそれを覆せる……という可能性もあるが、たいていのケースではGPUがボトルネックになってCPU間の差は小さくなる。この結果は異常値である可能性もあると考えている。参考程度に捉えておきたい。

【グラフ4】PCMark Vantage Build 1.0.1
【グラフ5】CineBench R11.5
【グラフ6】POV-Ray v3.7 beta 39
【グラフ7】動画エンコード(HD動画)
【グラフ8】3DMark Vantage Build 1.0.2 (CPU Test)
【グラフ9】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Graphics Test)
【グラフ10】Far Cry 2(Patch 1.03)
【グラフ11】Lost Planet 2 Benchmark

 最後に消費電力の測定結果である(グラフ12)。TDPが95WのPhenom II X6 1055Tはさすがに別格の結果となっているが、それ以外はかなり似通った電力に落ち着いている。少なくとも1クラス上(または下)の電源でOKといった劇的な変化はなく、意識として同等レベルと捉えていいのではないだろうか。

【グラフ12】消費電力

●最上位クロックは意味あり、1075Tは将来の低TDP版に期待

 以上、技術的妙味がないこともあって目新しさを感じる結果はないわけだが、それだけ順当な性能傾向が出たといっていいだろう。では、この新製品にどのような価値を見出すか、についてだ。

 Phenom II X4 970 BEに関しては、最上位モデルのクロックアップで、Black Editionの機能も残された。クロックの上昇幅は小さいので、すでにPhenom II X4 965 BEからの乗り換えを促すほどの魅力は感じない。ただ、価格は18,000円前後が想定されていることが考えると、Phenom II X4 970 BEはPhenom II X4 965 BEより若干高価な設定がされており、現行製品のさらに上位のモデルという新たな選択肢が生まれたといっていいだろう。

 一方、立場が微妙なのがPhenom II X6 1075Tだ。想定価格は24,000円前後となっている。製品の仕様からするとPhenom II X6 1090Tと1055Tの間の価格設定となるだろうが、現在この両製品の価格差は4,000円前後となっている。つまり、2,000~3,000円を追加するだけで最上位のPhenom II X6 1090Tを購入できるわけだ。この2万円台の価格帯の製品では、細かい刻みのバリエーション製品も戦略的に必要であろうが、この性能差と価格差であれば、最上位の1090Tの方が有力な選択肢に感じられるのだ。

 1055Tの低消費電力性のように付加価値があれば話は別で、これまでの1090Tと1055Tには上位モデル、下位モデルというだけでなく個性があったわけだが、1075Tは選択の動機になる理由が数千円の価格差だけという点に、というインパクトの弱さを感じる。今後、1090Tより低クロックであることを活かした早期の低TDP版投入など、次の一手に期待したい。