多和田新也のニューアイテム診断室

GF106コア採用のミドルレンジGPU「GeForce GTS 450」



 NVIDIAは13日、ミドルレンジGPUの新製品となる「GeForce GTS 450」を発表した。Fermiベースの新コアとなるGF106を採用しているが、7月に発表されたGF104採用のGeForce GTX 460に続く新コア投入ということになる。この製品のパフォーマンスを見ていきたい。

●GF104をベースにGPCを1基に縮小

 まずはGeForce GTS 450の仕様を簡単にまとめておきたい。主な仕様を表1、ブロックダイヤグラムを図に示す。大きくは192基のCUDAコア、128bitのメモリインターフェイスを特徴としている。

【表1】GeForce GTS 450の主な仕様
 GeForce GTS 450GeForce GTX 460 1GBGeForce GTX 460 768MB
プロセスルール40nm
GPUクロック783MHz675MHz
CUDA Coreクロック1,566MHz1,350MHz
CUDA Core数(SM数)192基(4基)336基(7基)
テクスチャユニット数32基56基
メモリ容量1,024MB GDDR51,024MB GDDR5768MB GDDR5
メモリクロック(データレート)3,608MHz相当3,600MHz相当
メモリインターフェイス128bit256bit192bit
メモリ帯域幅57.7GB/sec115.2GB/sec86.4GB/sec
ROPユニット数16基32基24基
ボード消費電力(ピーク)106W160W150W

【図】GeForce GTS 450が使用するGF106のブロックダイヤグラム

 CUDAコア周りの仕様を見ると、SMは4基なので1SM当たりのCUDAコアは48基。GPCは1基となる。簡単にいえば、GeForce GTX 460で採用されたGF104を半分にした格好だ。以前NVIDIAからGF100の説明を受けたときに、GPCを「Mini GPU」という単位で捉え、これを増減させることで異なるセグメントへ投入する、といった案があることを紹介されたが、このGF104→GF106の流れは、その通りになっている。当然ながらトランジスタ数も削減されており、GF104の19億5,000万個から11億7,000万へと減っている。

 GF100/GF104が最低でもSMを1基は制限して製品化されていたのに対し、GeForce GTS 450はGF106をフルスペックで使用しているのも特徴といえる。

 さて、今回テストに使用するのはMSIから借用した「N450GTS Cyclone 1GD5/OC」である(写真1)。製品の通り同社オリジナルの「Cycloneクーラー」を採用した製品で、さらにはオーバークロック仕様の製品でもある(画面1)。後半のテストでは、OC状態のほか、MSIが提供するTweakツールである「Afterburner」を用いて、定格仕様へダウンクロック状態でもテストを行なう(画面2)。

【写真1】GeForce GTS 450を搭載するMSIの「N450GTS Cyclone 1GD5/OC」【画面1】N450GTS Cyclone 1GD5/OCはオーバークロック仕様で、GPUコア850MHz、CUDAコア1,700MHz、メモリ4,000MHz相当で動作している【画面2】MSIのAfterburnerを用いて、定格クロックへダウンさせた状態でもテストを行う

 ボード裏面に目を向けてみると、こちら側には4枚のメモリチップが載っていることを確認できる(写真2)。使用しているメモリチップはSamsungの「K4G10325FE-HC05」で、1Gbitのこのチップを表面に4枚、裏面に4枚で1GBのビデオメモリとしている(写真3)。

 ブラケット部はDVI-I×2とMini-HDMIの仕様(写真4)。GeForce GTX 460などと同じ標準的な仕様だ。写真でも分かる通り、N450GTS Cyclone 1GD5/OCは2スロットを占有する仕様であるが、これはリファレンスデザインも同様となっている。

 電源端子は6ピン×1系統。ピーク消費電力が106Wとされているので1系統のみなのは妥当なところだ。ただ、Fermiベースのコアを採用したGeForceシリーズは、GeForce GTX 460も2系統を有している。先日はメーカー独自デザインで電源端子を1系統にとどめたGeForce GTX 460搭載製品がGalaxyから登場しているが、リファレンスデザインレベルで1系統のみとしたのはGeForce GTS 450が初めてとなる。

【写真2】ボード裏面。裏面側にも4枚のメモリチップを装備。さらに2枚分のパターンが空いている【写真3】使用しているメモリはSamsungの0.5ns品で、表裏合わせて1Gbit×8枚を搭載している
【写真4】ブラケット部はDVI-I×2とMini-HDMIの構成【写真5】ボード末端部には6ピン電源端子を1系統備える

●Radeon HD 5700シリーズを中心に性能比較

 それではベンチマーク結果の紹介に移りたい。テスト環境は表2に示した通りで、今回は価格帯で競合するRadeon HD 5750を中心に、その上位モデルであるRadeon HD 5770やGeForce 460番台の製品と比較し、GeForce GTS 450の性能面での位置付けを見ていきたい。比較に使用したビデオカードは写真6~7の通り。

 なお、先述の通りGeForce GTS 450はN450GTS Cyclone 1GD5/OCの仕様であるオーバークロック状態のほか、定格クロックでも測定。また、GeForce GTX 460 768MB版で使用した「N460GTX CYCLONE OC」もオーバークロック仕様なので、こちらは定格クロックへダウンさせた状態でのみテストを行なう。

 ドライバはGeForce GTS 450用にNVIDIAから提供されたベータドライバを使用。AMD製品についてはテスト時点で最新のCATALYST 10.8を使用した。

 テスト条件は、今回はミドルレンジGPUを対象としたものであることを鑑み、解像度を1,280×800ドット、1,680×1,050ドットとした。この各解像度に対して2種類の負荷をかけ、計4パターンのテストを行なう。

【表2】テスト環境
ビデオカードGeForce GTS 450 (1GB)
GeForce GTX 460 (768MB)
GeForce GTX 465 (1GB)
Radeon HD 5750 (1GB)
Radeon HD 5770 (1GB)
グラフィックドライバGeForce Driver 260.52βCatalyst 10.8
CPUCore i7-860(TurboBoost無効)
マザーボードASUSTeK P7P55D-E EVO(Intel P55 Express)
メモリDDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24)
ストレージSeagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)
電源CoolerMaster RealPower Pro 1000W
OSWindows 7 Ultimate x64

【写真6】Radeon HD 5750を搭載する、MSI「R5750-PM2D1G【写真7】Radeon HD 5770を搭載する、MSI「R5770 Storm 1G
【写真8】GeForce GTX 460を搭載する、MSI「N460GTX Cyclone OC【写真9】GeForce GTX 465を搭載する、MSIの「N465GTX-M2D1G

 では、DirectX 11対応ベンチマークから順に結果を見ていきたい。「Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmark」(グラフ1)は、AA/AFを適用しない状態であればRadeon HD 5750がGeForce GTS 450を上回るが、適用すると差が逆転するという結果になった。この傾向は、これまでのGeForce GTX 400シリーズとRadeon HD 5000シリーズでも出ていたものである。

 対Radeon HD 5770という視点では、標準クロックのGeForce GTS 450では差を付けられており、オーバークロック仕様の製品でも同等以下の性能に留まっている。このタイトルにおいては、Radeon HD 5770がGeForce GTS 450に対してわりとはっきりした優位性を持っている印象だ。

【グラフ1】Alien vs. Predator DX11 Benchmark

 「BattleForge」(グラフ2)も、GeForce GTS 450の標準仕様とRadeon HD 5750の性能傾向は、AA/AFの有無で差が逆転するという点で先述の結果と似ている。ただAA/AF適用時に生まれるGeForce GTS 450の優位性が強まっており、オーバークロック仕様の製品ではAA/AF適用時にRadeon HD 5770を上回るのが、先とは異なる点として目立っている。

【グラフ2】BattleForge

 「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ3)はGeForce勢の優位性が色濃く、GeForce GTS 450の標準仕様とRadeon HD 5770が近い性能を見せている。もっとも、解像度が増したときにRadeon HD 5770に優位性が生まれるあたりは、こちらが1つ上のクラスで製品であることを感じさせる結果ではある。

【グラフ3】Colin McRae: DiRT 2

 「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ4)もGeForce勢に優位性がある結果といっていいだろう。GeForce GTS 450の標準仕様はRadeon HD 5750に対してAA/AFなしで1~2割増し、AA/AF適用時で4割増し近くのフレームレートが出ている。Radeon HD 5770に対してもAA/AFを適用した場合は上回れている。

【グラフ4】Lost Planet 2 Benchmark

 「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」(グラフ5)、「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ6)は、GeForce GTS 450がRadeon HD 5770を上回るフレームレートを発揮。この両タイトルはここまでに挙げたタイトルと比較して、テッセレーションを多用したベンチマークソフトであるが、GF106でもジオメトリ処理の強化を図ったFermiの良さが出た格好といえる。

【グラフ5】Stone Giant DX11 Benchmark
【グラフ6】Unigine Heaven Benchmark 2.1

 さて、ここからはDirectX 9/10世代のベンチマークをチェックしていく。「3DMark Vantage」(グラフ7、8)は、GeForce GTS 450がRadeon HD 5750に対しし、AA/AF非適用時に上回るスコアを見せる。これまで同価格帯のGeForce GTX 400シリーズとRadeon HD 5000シリーズを比較すると、AA/AF非適用時にRadeon勢に優位性がある結果が多かったことを考えると、ここのクラスではGeForceが意地を見せた印象を受ける。

 この標準仕様の傾向からの流れでオーバークロック仕様の製品を見ると、Radeon HD 5770と良い勝負を見せて、AA/AF適用時には上回るスコアを出しているのも納得できる結果といえる。

【グラフ7】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Graphics Score)
【グラフ8】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Feature Test)

 「BIOHAZZARD 5 ベンチマーク」(グラフ9)はGeForce GTS 450の標準仕様とRadeon HD 5750が似たようなフレームレートとなった。ほかのタイトルとは異なり、AA/AFを適用した場合にRadeon HD 5750に優位性が出る点や、Radeon HD 5770とGeForce GTS 450のオーバークロック仕様製品との比較も、Radeon HD 5770の優位性が濃い。

【グラフ9】BIOHAZZARD 5 ベンチマーク

 「Crysis Warhead」(グラフ10)も、GeForce GTS 450とRadeon HD 5750/5770を比較した場合、大局的にはBIOHAZZARD 5と似た傾向といっていいだろう。標準仕様とGeForce GTS 450がRadeon HD 5750と同等かやや下回るスコアで、解像度が増したときに苦戦するあたりが似通った結果だ。この2つのタイトルは、ほかのテスト結果と比べてGeForce GTS 450が苦戦したタイトルといっていいかも知れない。

【グラフ10】Crysis Warhead (Patch v1.1)

 「Far Cry 2」(グラフ11)は、逆にGeForce GTS 450がRadeon HD 5700シリーズを圧倒した例となった。標準仕様のGeForce GTS 450でもフレームレートがRadeon HD 5770をも安定して上回れている。もっともRadeon HD 5770と比べた場合、解像度が上がることで差が詰まる状況も見られ、もう1つ高い解像度では、また違った結果もあり得そうである。

【グラフ11】Far Cry 2 (Patch v1.03)

 「Left 4 Dead 2」(グラフ12)は、GeForce GTS 450とRadeon HD 5750が似通った結果となった。1,680×1,050ドットではAA/AF非適用時にRadeon HD 5750、AA/AF適用時にGeForce GTS 450が若干良いという結果は両製品の特性が出たものといえそうだ。またAA/AF時にはオーバークロック版がRadeon HD 5770に対する健闘も見せている。

【グラフ12】Left 4 Dead 2

 「Tom Clancy's H.A.W.X 」(グラフ13)はAA/AF時にGeForce GTS 450がRadeon HD 5770/5750を圧倒しているのが目立つが、AA/AF非適用時もまずまずの優位性を持っている点に触れておきたい。1,280×800ドットであればAA/AF非適用時に、標準仕様でもRadeon HD 5770を上回れている。ただし、解像度が増すとRadeon HD 5770も良さが出てくる傾向にある。

【グラフ13】Tom Clancy's H.A.W.X

 「Unreal Tournament 3」(グラフ14)は、標準仕様のGeForce GTS 450がRadeon HD 5750を安定して上回っているほか、AA/AF適用時ならRadeon HD 5770に勝る結果を見せている。GeForce GTS 450にやや優位性がある、といったところだろう。

【グラフ14】Unreal Tournament 3 (Patch v2.1)

 「World in Conflict」(グラフ15)の結果も、GeForce GTS 450の標準仕様の相手はRadeon HD 5770といった雰囲気で、とくにAA/AF適用時に同等以上の結果が出ている。ただ、AA/AF非適用時の1,680×1,050ドットのテストを見るとRadeon HD 5750にも詰め寄られる結果となっており、単純に解像度を上げただけの場合にはスコア差が縮まる傾向も見せている。

【グラフ15】World in Conflict (Patch v1.011)

 最後に「消費電力」(グラフ16)の測定結果である。アイドル時の結果はGF100採用のGeForce GTX 465が飛び抜けているほかは、ハイミドル~ミドルレンジまで似たような結果となっている。差が出るのはピーク時の結果だ。

 ここではRadeon HD 5750が一段低く、Radeon HD 5770とGeForce GTS 450が似たような結果になっている。3DMark VantageではRadeon HD 5770が電力が高く、Stone GiantではGeForce GTS 450が高くなる傾向は、テッセレータにかかる負荷による差と見ていいだろう。いずれもそれほど大きな差ではないが、こうした特性は気に留めておきたい。

【グラフ16】消費電力

●価格に対する性能が選択の動機に

 以上の通りGeForce GTS 450の結果を見てきたが、正直なところ、今から出るビデオカードとして、本製品を選択する動機を見いだしにくい製品という印象が残った。

 ざっくりいうとRadeon HD 5750よりは性能が良い傾向にあるが、Radeon HD 5770を上回るほどではない、といったところだろう。もちろん個別のタイトルではRadeon HD 5770に肉薄および上回れる部分はあるが、全体的にはやや勝ちきれない印象のほうが強い。

 そう考えると、Radeon HD 5750や5770の消費電力の低さの魅力が光る。全体の性能傾向からすれば、電力効率の点でRadeon HD 5700シリーズは優位性を持っているのは確かだ。もちろん、電力よりも性能を、と考えるならRadeon HD 5750よりGeForce GTS 450が優れるが、それならRadeon HD 5770を選ぶという道もあるし、多くのタイトルではそのほうが性能が良いことになる。

 他方、GeForceの上位モデルとの比較は文中でほとんど言及しなかったが、1つ上のGeForce GTX 460との間には、かなりの壁を感じる結果となった。

 価格は日本円で15,000円を切る価格帯が予想される。7月に登場したGeForce GTX 460も2万円台前半で安価なものは2万円を切る場合がある。良い具合にこなれてきたRadeon HD 5770は1万円台半ばから後半、Radeon HD 5750が1万円前半でちょうどGeForce GTS 450と同等程度だ。

 こうした点を踏まえると、Radeon HD 5750と同価格帯(1万台前半~15,000円)のレンジで、電力効率よりも性能を重視する人に用意された選択肢がGeForce GTS 450ということになるだろうか。

 ただ、GeForce GTSシリーズの前モデルはGeForce GTS 250になるわけだが、このチップはGT200が登場した後にも関わらずG92ベースで登場したものであった。今回のGeForce GTS 450はFermiベースで登場したうえ、GF106という新コアを投入した点で、テクノロジ的には見所のある製品だ。

 また、今回テストした製品のように、OCモデルやオリジナルクーラーの製品が早期にリリースされる見込みであることは興味深い。今回のテストでもOCモデルであれば、Radeon HD 5770に対する性能のビハインドはかなり埋まる一方で、消費電力はそれほど増していない。この傾向はGeForce GTS 450の面白いところとなる可能性を持っている。それだけに、オーバークロックモデルを含む個性的な製品のラインナップも注視したいGPUだ。