■瀬文茶のヒートシンクグラフィック■
今回は、8月11日に発売されたSilverStone製のハイエンドCPUクーラー「SST-HE01」を紹介する。購入金額は7,980円だった。
●TDP 300Wを謳うハイエンドサイドフロー今回紹介するSST-HE01は、PCケースや電源ユニットなどを手掛けるブランドとして知名度の高いSilverStoneブランドのCPUクーラーだ。これまでSilverStoneブランドで発売されてきた空冷CPUクーラーは、スペースに配慮したコンパクトなヒートシンクを採用した製品や、CPU付属クーラーの代替品的な廉価モデルが中心であったが、2010年発売のSST-NT07-1156以来、約2年ぶりの新製品となるSST-HE01は、TDP 300W対応を謳うハイエンドCPUクーラーである。
SST-HE01 |
SST-HE01のヒートシンクは、6本の6mm径ヒートパイプと2ブロックの放熱ユニットによって、放熱ユニットの間にファンを配置するミッドシップレイアウトのサイドフロー型を形成している。
最近、ハイエンドCPUクーラーで流行しているミッドシップレイアウトサイドフローであることや、備えているヒートパイプの本数からは目新しさを感じることはできないが、SST-HE01のヒートシンクが備える2ブロックの放熱ユニットは、各ブロックでまったく形状が異なっているという特徴を持つ。ファンの吸気側に位置する放熱ユニットが、ヒートパイプを直線状に配置することで放熱ブロックの厚みを薄く抑えているのに対し、ファンの排気側に位置する放熱ユニットはヒートパイプを分散配置し、フィン1枚当たりの放熱面積を広くとっているため、放熱ブロック自体は吸気側の1.7倍ほど厚くなっている。
異なる形状の放熱ブロックを備えている理由についてSilverStoneは特に説明をしていないが、吸気側の放熱ブロックが薄型であることにより、ソケット両サイドにメモリスロットが配置されているLGA2011プラットフォームを除き、多くの環境でメモリスロットにヒートシンクのクリアランスが確保できるというメリットがある。
また、指向性の弱いファン吸気側のエアフローを用いて冷却する放熱ブロックを薄くし、指向性の強い排気側の放熱ブロックを厚くして放熱面積を稼いでいるこの形状は、両ブロックの中心に据えたファンのエアフローをより効率的に活用しようという設計のようにも見える。似通った形状ばかりになりつつあるハイエンドCPUクーラーとしては、他にはないオリジナリティを感じるヒートシンクであることは確かである。
SST-HE01に付属するファンは、この製品のために新設計された140mm径38mm厚のSilverStoneのオリジナルファンだ。自作PC市場では馴染みのない寸法のファンであることに留まらず、本体にはPWMファンの回転数域を切り替えるスライドスイッチが取り付けられているほか、PWM制御に対応した4ピン電源コネクタから、追加ファンとPWM信号を共有するためのコネクタが用意されているなど、オリジナリティ溢れる仕様が盛り込まれたファンと言える。
ファンのスペックとしては、PWM制御により、Pモード時は500~2,000rpm、Qモード時には500~1,200rpmの範囲で回転数を制御可能となっている。ヒートシンクへは、防振用のゴムをファン本体に貼り付けてから専用の金属製ファンクリップを用いて固定する。このファンクリップはリブなし120mm角ファンのネジ穴位置に対応しており、全部で3セット同梱されているため、別途ファン用意すればSST-HE01には最大3基のファンを取り付けることが可能だ。
SST-HE01製品パッケージ |
SST-HE01本体 |
付属品一覧 |
付属ファン |
ファンのフレームに搭載されているモード切替スイッチ |
ファンの電源コネクタには追加ファン用に電源とPWM信号を共有可能なコネクタが設けられている。 |
メモリスロットとのクリアランス(MAXIMUS V GENE使用時) |
拡張スロットとのクリアランス(MAXIMUS V GENE使用時) |
ヒートシンクは細部までよく作りこまれており、ベースユニットとヒートパイプの接合部はスキマなく見事に接合されているほか、ヒートパイプと放熱フィンにもろう付けが施されている。また、ヒートシンク全体に施されたメッキ処理にも目立ったムラはなく、ハイエンドCPUクーラーらしい高級感のある仕上がりとなっている。ただし、CPUと接するベース面については加工痕の残る仕上げとなっており、この点については評価が分かれそうだ。
●冷却性能テスト結果
それでは冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、PWM制御を開放してフル回転させた際と、PWM制御を20%に設定した際の温度をQ-ModeとP-Modeでそれぞれ取得した。
結果を確認すると、定格動作に近い3.4GHz動作時はCPU付属クーラーより14~30℃低い結果を記録した。4条件中最もファンの回転数が低いPWM制御20%設定時のQ-Modeの温度は高めだが、約460rpm動作のシングルファン構成であることを考えれば悪くない結果と言える。CPUの発熱量が増すオーバークロック動作時については、P-ModeのPWM制御20%設定時(約850rpm)までは、まずまずの結果を記録しているものの、Q-ModeのPWM制御20%設定時は温度を抑えるのが厳しくなっており、最も発熱の大きい4.6GHz動作で94℃を超えてしまったためテストを中止している。
冷却性能検証でSST-HE01が示したパフォーマンスは、空冷CPUクーラーでも上級のパフォーマンスだが、動作音については少々厳しい印象を受けた。あくまで個人的な感覚での話だが、動作音がほとんど気にならない設定はファンが約460rpmで動作するQ-ModeのPWM制御20%設定時のみで、P-ModeのPWM制御20%設定時(約850rpm)は120mm角ファンの1,200rpm程度、Q-Modeのフル回転時(約1,190rpm)は120mm角ファンの1,600rpm程度の風切り音が発生しているように感じた。さらに、約2,100rpmで動作するP-Modeのフル回転時に発生する動作音は極めて大きく、常用PCでこの設定を利用するのは厳しいものがある。
●SilverStoneのこだわりを感じる逸品SST-HE01は、ヒートシンク、ファンとも独自の工夫が見て取れるユニークな製品だ。付属ファンとの組み合わせでの冷却性能も空冷CPUクーラーとしては上級のものであり、なかなか面白い製品に仕上がっていると感じた。
一方で、同じくミッドシップレイアウトを採用するハイエンドCPUクーラーの中でも、最上級のパフォーマンスを持つThermalright Silver Arrow SB-EやPhanteks PH-TC14などと比べると、SST-HE01のパフォーマンスは1段落ちる。TDP 300W対応という数字から期待される空冷最上級パフォーマンスには1歩届かないといったところだ。
ただ、比較的低速なファンで優秀なパフォーマンスを示す空冷最上級のCPUクーラーは、いずれも標準で2基のファンを搭載している。筆者の経験上、ミッドシップレイアウトのサイドフロークーラーをシングルファンで運用した場合、低速ファンとの組み合わせでパフォーマンスが著しく悪化する場合が多い。それを考慮すると、付属ファンに最適化されているように見えるSST-HE01も搭載ファンを増やすことで、これらのパフォーマンスに迫れる可能性はありそうだ。
大型ヒートシンクを搭載したメモリを利用したい場合や、ファンを追加購入することを厭わないのであれば、SST-HE01を選んでみるのも面白い。ヒートシンクが好きなのであれば、なかなか愉しめる製品だろう。
【表】SilverStone「SST-HE01」製品スペック | ||
メーカー | SilverStone | |
フロータイプ | サイドフロー型 | |
ヒートパイプ | 6mm径×6本 | |
放熱フィン | 51枚+47枚 | |
サイズ | 140×119×160mm (幅×奥行き×高さ) | |
重量 | 926g (ヒートシンクのみ) | |
付属ファン | 140mm角38mm厚ファン ×1 電源:4pin 回転数(P-Mode):500~2,000rpm 回転数(Q-Mode):500~1,200rpm 風量:42.8~171CFM ノイズ:18~41dBA サイズ:140×140×38mm | |
対応ソケット | Intel:LGA 775/1155/1156/1366/2011 AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1/FM2 |